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2.消える私

注意:軽いですが、刺殺描写があります。

スマホの時間を確認したら、時刻は9:50になっている。とりあえず池袋駅には無事到着し、みずきちちゃんに連絡する為通話アプリを起動した。


「おはよ。みずきちちゃん、池袋ついたよー。待ち合わせふくろうさんでいいー?」


「おはようございます、丁度今ふくろうの前いますよ。オレンジさんの目印、黒いパーカーですよね?……こないだ行った飯田みかさんの、バースデーライブパーカー」


くっ、みずきっちゃんよくわかってる。そうですつぐみたんの声優さんのバースデーライブチケット手に入ったから、ついコラボカフェいくならと。

でもみずきちちゃんも、今日の服装白いロングワンピに黒いカーディガンだよね。鳴神先輩とのデートイベで主人公の桐谷陽(きりやよう)がおめかしで着てたのに、よく似てる。推しを意識してるのはそっちも同じでしょうに。言わぬが花、というやつではあるが。

そして通話しながらいけふくろうの前に、メッセージで教えてもらった服装の子……いた。黒髪ゆるふわ、そして身長私よりたっかい。

「……オレンジさん?結構小柄だったんですね」

「……155センチ、だからねぇ。みずきっちゃんの身長10センチぐらい頂戴」


お互い初対面、ではあるが遠慮無く喋る。そして、互いに吹き出した。ああ、やっぱりみずきちちゃんだ。外見はお姉さんだけど、中身は礼儀正しい女の子でツッコミキャラのみずきちちゃんだ。

「オレンジさん、ネットとのギャップ強すぎません?普通に高校生でも通用しますよ?グループでは破天荒な姉御ポジションなのに」

やめてくれー痛いとこつかないでー。思わずむーっと、むくれてみせた。

「や、化粧とかわかんなくて。来月で20になるのに、未だに出勤の時ファンデ塗るぐらいだもん。ちなみに今はすっぴん、休日は寝たい」

みずきちちゃんの目が、光った気がした。

「……いじらせてください、初回行ったら時間ありますよね?ドラッグストアいきましょう、後服いじりたいです」

いやいやいや、怖いよノリ!思わず後ずさるわ!

「とりま行こうよ、カフェ行く前に推し語りしながら散歩で」

にーっと笑いながら、駅を出ようとみずきちちゃんを急かした。せっかくだし、桐谷風の服装をしてるなら彼女の手をぎゅっと握ってリードしてみる。……つぐみたんは、最初は主人公の桐谷に好意的だった。しかしとあるイベントを境に彼女は桐谷の、否。


人間の敵になるんだ。


つぐみたんは難儀な性格だったから。ーーー好きな人や、幸せになって欲しい人程遠ざけたい。つぐみたんは、私が知ってるラスボスキャラの中で一番繊細で。だから推しなのだ。彼女の救いが、見たい。今のところどのルートでも高笑いしながら倒され、死ぬ所しか見てないし。

そんなつぐみたんのノリで、みずきちちゃんの手を繋いでみたらみずきちちゃんもにっこり笑って歩き出す。……金髪ポニテで、龍の刺繍のスカジャンにショートパンツ履いたら通常桐谷コスもいけるんじゃ……?

てか、なんか騒がしい。なんかダッシュで駅に走ってく人多くない?

「何か、あったんでしょうか?」

「……あったんじゃなくて、起きてるんだよこれ」



ーーー小柄な男が、横断歩道のど真ん中で刃物振り回してる。今のところみんな逃げてるみたいだけど。怪我人もいないみたい、だけど。

小さい女の子が腰抜かして、座り込んでる。男は気付いたみたいだ。まずい、あの子が危ない。



「ごめん、あの子ほっとけない」



みずきちちゃんの手を放して、背中に背負ったリュックを前に背負い直して走り出す。みずきちちゃんが、私を呼ぶ声がする。そんなに叫んだら、喉潰れちゃうじゃん。駄目だよ、通話する時のみずきっちゃんの声、心地よいんだから。

全力で走った状態で、お気に入りのリュックを正面のままーーー私は男に体当たりした。

男は倒れた、倒れた男は駆けつけた警官に確保されてる。大泣きしてるけど女の子は無事だ。お母さんが走ってくる、大泣きしてる。似たもの親子だ、よかった。私は、安心して背中から倒れた。


てか、あれ。

お腹、熱いね。痛いし、熱い。生理痛とは違う痛みだ。

お腹を見た、ナイフが刺さってる。けっこう深く刺さってる。抜いたらまずいかなぁ。

なるほど、一本はリュックに上手く刺さってるけど二本持ちだったのか。てか、意外に自分が怪我してる時って冷静なんだ。

足音が聞こえる、目の前に顔がある。

みずきちちゃんだ、泣いたら化粧崩れるよ。

「……っ、なにやってんですかばかぁ……!」

怒られた。そりゃそーだ、助けに行って自分から刺されに行ってるし。

「……だってー、家族は守らなきゃだめだよー……あ、お母さん。娘さんの教育に悪いからはなれたはなれた、お嬢ちゃん、悪いゆめはおしまいだよ」

痛いけど、息混じりだけど、全力で喋って笑顔を作る。接客業舐めんな。

「お母さんと、美味しいものたべといで」

お母さんは、女の子を抱っこして深々とお辞儀した。いや、あっちいきなよ。女の子に今の私を見せないようにしたのはいいことだけど。

「オレンジさんは自分を大事にしなさすぎですよ!推しに影響されてんじゃないよ大馬鹿ぁ……!グループで喧嘩した時も、徹夜でゲームで決着つけておしまいじゃあ!とか言って明日仕事なのに徹夜で付き合うし!その喧嘩でグループ解散とかやだぁ!どうしよう!とか裏で私に泣きついて、本当は誰よりも繊細なのに!」

涙が、私の頬に落ちた。私のじゃない。みずきちちゃんのだ。

「……私が受験の前日も、ずーっとゲーム関係ないのに愚痴聞いたりとか。みんなの不安聞いたりとか、お姉さんぶって」

聞くしかできなかったけどね、基本。

「ーーー私、オレンジさんの愚痴もっと聞きたいよ。オレンジさん、自分の不安や不満喋ったのグループ解散危機の時だけじゃん!どーしてよ!」

みずきちちゃんが、タメ口だ。嬉しいな。


「あのさ」


「ーーーありがとう、ネットの海が私の家で、家族だったよ。それだけで、充分だったんだ」


段々眠くなる。もう喋るの疲れた、寝落ち案件だわ。

みずきちちゃん、泣かないでよ。いや、これは心残り。友人泣かして死ぬとか、アホじゃね?



ーーーあ、鳴神先輩のトゥルーエンド攻略してない。したらみずきちちゃんに感想よろ、って言われてたのに。


これが、さいごの私の思考だった。

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