16.実戦という名の説明会
ダンピール、とはぶっちゃけ人ではない。
でも吸血鬼カテゴリーの、異形ではない。
心は人間だし吸血しなくても生きていける、普通に老いて死ぬ。ただ、身体はすごく頑丈で自己修復機能を持っている。状態異常にも、強い。トキワの幻覚喰らったのは、レベル差が高すぎるからだね。
高レベル異形からの状態異常は普通に受けるよ、治りは早いけど。
「だから狼にこんな風に噛まれても、レベル1でもちょっと痛い程度で済むんだよね」
私の右腕をがぶがぶ噛みちぎろうと、必死で頑張ってる邪気で狂った狼(眷属扱い)を見ながら桐谷に説明する。
『いやいやいや!?人の身体を実験体みたいに使うな、確かに犬にあまがみされた程度だけどよぉ!?』
ごめんごめん、今振り払う。ーーー右手を軽く振って、狼を木にぶつけるように投げた。木に頭直撃しちゃって、動かなくなった。すまん狼、あの程度で絶命するとは流石レベル1だ。
『……おい、アタシの筋力上がってねぇか?』
ダンピールの身体能力は人間の倍、だけど桐谷は始祖の血でダンピールになったから10倍には膨れ上がってるよ。
「ただ、いいこと尽くめのダンピールにもデメリットはある。人間だから、実態のない異形は触れないから倒せない。一応手段はあるけどね」
今回は実態のある異形だから、説明はしないけど。
『で、何で目標レベル30なんだよ?』
ダンピールは、長時間力を使い続けると異形になるからでーす。
『……まじか』
まじ。公式設定、ゲームではレベル上げしても時間概念なかったけどね。ボス戦終わったら、一度強制的に端末が桐谷の力封じてた。異形落ち回避の大事なリミッターでもある、この端末は大事にしないとね。
「リアルでは二時間が力使い続ける、限度時間だと思うよ。で、この狼の経験値は5。……今日の目標は10体だよ」
桐谷のレベル2には経験値10必要。その後の必要な経験値は5ずつ増えていく。
レベル5にするなら累計経験値100必要だね。
『なるほど。……レベル30まで、ここでひたすら狼狩るのか?』
いや、効率悪いから。レベル5になると、桐谷が高レベルになっても重宝する技を使えるようになるんだよ。だからここでのノルマは、今日と明日で20体ね。
「状態異常完全無効、今の桐谷だとまだ受ける時は受けるんだよ」
確か50%だったっけ、細かい確率は忘れた。
レベル5になれば効率のいい狩り場で戦える、レベル10になれば自己回復も覚える。そしたら回復支援無しで、レベル上げができる。
「……学校さぼって狩りはなし、学園の上の人達に不穏分子扱いはされたくない。放課後二時間、寮の門限18時は守るべき。子供なんだから」
ぱん、と掌と拳を合わせる。もう一匹来た、こっちにまっしぐらしてきたのを、ローキックで一撃。瞬殺。
『……容赦ねぇなぁ』
命賭かってるからね、当然でしょ。
こんな感じで今日は最初の一匹以外はローキックだけで、狼狩りました。最初投げた1体含んで5体私、5体桐谷で。技の反復練習は大事だからね。
「……すっごいお腹空いた、そうだ忘れてたよぉ……」
ダンピールになったら、その分消費カロリーも高い。これは封印状態でも同じで、普段の食事量が増えます。若干ふらふらしながら、繁華街を散策。目的は少し遅くなった昼食、もう15時だけど。
『朝の寝坊が命取りだったな、ビスケットやらなきゃよかったのに』
だってつぐみたんにお礼したかったんだもん。
空腹だとしても、これは全く後悔してない。
『こないだアタシの好物だったから、今日はオレンジに選択肢譲るわ。どこでも好きな店入っていいぜ、アタシ好き嫌いねーから』
好きなものか、好きなもの。
ふと、目についたのは回転寿司に入っていく親子連れ。みんな、楽しそうに笑ってて。眼が、牽かれた。
『寿司にするか?』
首を振った。好きなものの一つだけど、気分ではない。
「……適当な定食かなー」
安いし、なんて呟いて適当な店に入ろうとした瞬間。
「あれ、桐谷ちゃん。用事終わったの?」
振り返れば八島だった、何人かクラスメートもいる。
「……おう、そっちは親睦会終わったのかよ?」
桐谷の口調も、少しずつ慣れてきた。つぐみたんの前だけボロが出るのは、もう諦めた。
「終わった、カラオケしすぎてまじでお腹空いてさー。二次会は空いてる奴らで焼肉食べ放題行こうぜ、って。桐谷ちゃんもいく?」
焼肉、という単語に腹の虫が鳴く。思わず恥ずかしくて、少し頬が熱くなる感覚がした。
「……乗ってやるよ」
小さく頷いた後、八島と顔を見合わせけらけらと笑い合った。クラスメートも追従して大爆笑、私の腹の虫もクラスに浸透する役には立ってくれるはず。
私の中の桐谷も、少し温かくなった気がした。
クラスのみんなで食べた焼肉食べ放題は最高に美味しくて、私がダンピールの効果で大量に食べた結果。
その焼肉屋に清浄学園生徒は出禁になったのは、また別の話。