14.横浜家系ラーメンと、夕焼け
「あー………たまんねぇんだよ。白米とのハーモニー、麺を米の上。米にスープがしみるー」
流石つい数週間前まで女子中学生、いや4月1日まではまだ中学生だっけ。容赦なく横浜家系ラーメン、ぷらす白米のコンボを喰らい尽くす。
今私は、桐谷と交代してる。あの儀式の後すぐ、一度解散になった。明日から一宮飛鳥が貸し出す寮に、住むことになる。その支度の前に、桐谷に一方的に宣言した通り横浜家系ラーメンの店にきている。桐谷の行きつけだ、チャーシューごつめで美味しい。表に出てなくても味覚共有できるおかげで、私も楽しんでる。
「嬢ちゃんいつも美味そうに食ってくれんのが嬉しいよ、今日は友達と一緒じゃないのが珍しいけどな!みんな忙しいのかい?」
ちょ、おっちゃん言っちゃ駄目だ!不味い、地雷をピンポイントで踏むな!桐谷に喧嘩売られーーーあれ。落ち着いてる、そうだ桐谷はそーゆー奴ではない。悪意がなければ、余程の事がない限り喧嘩の売り買いはしないんだ。
「……大将、替え玉、4つ頼むわ」
ちょ、桐谷やめて。味覚共有してるってことは満腹感も共有してんですよ。胃が死んじゃう!死んじゃう!
「みんな、訳あってもう来れなくなってさ。でも、ずっと一緒だから。ーーーだから、4人分アタシが食べる」
あの、そんなこと言うと止められない。いや店主目潤ませないで、桐谷の中にいる第三者の私がいたたまれない。感動的シーンで注文やめますとか、言えない!
「………餃子、おまけだ。いつも一人前5人でシェアしてたからな……!」
私は、胃が死ぬのを覚悟した。
「……あー、食い過ぎた……」
当たり前だよ大馬鹿野郎。普通あんな量、育ち盛りとは言え食べるもんじゃない。
私も胃がパンパンだよ、流石に公園で一休みするしかないわ。ベンチでぐだーっ、と座って夕焼けを見てた。
普通に太るよ、てかこれで食い過ぎただけで済むとか。流石頑丈ダンピール、いや元々桐谷が大食いなのか。身長は女子にしては高いけど、別にごつい訳じゃない。まぁ締まるとこは締まってて、出るとこもまぁまぁだし。体型維持できる原因は、恐らく喧嘩三昧。
「大丈夫、どーせ毎日化物退治で動くなら問題ねぇよ」
異形ね。でも、正論だった。むしろこれから体力はいくらあっても、いいからね。
「……で、アタシのレベルってのはどうやったらわかるんだよ?」
この端末だよ。さっき儀式でもらったスマホみたいなやつ。
これは、狩人の力を普段使わないようにしてくれる封印の楔でもある。日常生活で、一般人に使ったり普段からその力に頼りすぎない為の措置だ。
異形探知機でもあり、異形を1km圏内に発見したら魂の誓いを唱え、狩人として活動が出来る。
この端末で自分のステータスを確認できる、私は少し桐谷と切り替わりステータス画面を表示させた。
キリヤ ヨウ レベル1
体力150 霊力50 魔力0 知力30
剛力100 速力80 技術力50
ダンピールの桐谷のステータスは、体力に特化している。後筋力を表す剛力や、スピードを表す速力も優秀だ。霊力は始祖が影響してるから、訓練してない人間より高め。この霊力は状態異常回復技や、必殺技を使う時に必要なステータスだ。魔力は魔術師特有ステータス、私には関係ない。
……あれ、でも知力ゲームより高い。私が中にいる影響?でも覚える技に魔術はない、この知力って魔術詠唱のターン短縮ぐらいしか影響ないからなー。後普段の学校、ゲームではテストイベントあるし。
後技術力は、高い程特別な技を使用する時に霊力や魔力消費が少なくなる。桐谷の喧嘩慣れという意味で、技術力ステはそこそこになる。
「……なんで、まともな思考できんのに井吹関連はあんなにぶっ壊れんだろうな。大人ってわかんねぇ」
推しへの愛だ、仕方ない。
「愛が偏りすぎだろまじで、もっと普通に愛でろ」
……桐谷、お前さん双子の兄妹の大と月子が両親いないって学校でクラスメートにからかわれた、ってのおばあちゃんが先生の電話謝罪受けたの聞き耳して。
ーーーそのクラスメートの家に木刀持って、その子の両親にどういう教育してるんだって乗り込みに行こうとしておばあちゃんにどつかれて止められた。これは、普通かっ!?
「……や、いじめの原因は潰すべきだろ。普通だ、別に実際に使わなきゃ犯罪じゃねぇ。話し合いだ」
待て、恐喝罪って知ってる?今までよく犯罪やんなかったね!?
「だいたい、何で親がいなくて後ろ指さされなきゃいけねーんだよ?ーーー悪いのは、あいつらだ」
桐谷の両親は、仕事人間で。桐谷は小さい頃から、おばあちゃんに預けられてた。双子が産まれて3年ぐらいで離婚した、まではよかった。
「あいつら、アタシはまだしも大と月子の親権まで放棄して。ばぁちゃんに引き取らせやがった!そんな親なら、いなくていい!ばぁちゃんが親父でおふくろ!それでいいだろ、だから大人は嫌いなんだ!」
ーーーおばあちゃんも私も、大人だよ?
「ばぁちゃんは例外。オレンジさんは、大人としてカウントできねぇよ」
何気に酷いなまじで!これでも社会人二年生、世間一般的には働いて食べれるようになったら、大人だよ!
「誕生日来ずに死んだから19、多めに見て20だとしてもアタシ夏で16だし。4歳差で大人ぶんなよチビ」
この、金髪ヤンキーふざけんな。
「……信用はしてる、じゃなきゃトキワの事をあんたに頼んだりしない」
桐谷は、ベンチから立ち上がる。口元が上がる感覚、笑ってるのがよくわかる。
「……ぜってー、トキワなんとかすんぞ!で、レベル上げってどーすんだよ?」
目標はレベル30だよ、トキワと20差。これが絶対条件だよ、後他にも必要なものg「待て待て待てぇ!」
桐谷に遮られた、到って真面目なのに。
「トキワのレベル50なんだろ!?勝てねぇじゃん、50まで上げるぞ!アタシの身体心配する必要ねぇ!」
単独でレベル上げするんだから、30が限界。
「……は?パートナー候補、紹介されたのに単独で喧嘩すんの?」
間の抜けた声ありがとーございますー、色々な説明はまた後で。その前にやること、あるから。
私に無理矢理、行動権を切り替えた。
「さ、帰るよ。おばあちゃんに進路変更と入寮手続き報告しなきゃ」
『は?………やめろおおおおお!?ばぁちゃんに説明はいらねーだろ!私の進路だ!』
黙れ未成年。入学予定の高校の取り消し処理や無断外泊、新しい高校の進路説明しなきゃ。
ーーーじゃなきゃ、寮におばあちゃん乗り込んできてお説教イベント開幕だからね?桐谷の土下座見たくないの、イベント回避するよ。
『……やっぱオレンジ、お前も嫌いな大人だ……』
誉めてくれてありがとう、おばあちゃんの前になったら切り替わるからね。
家に着くまでの桐谷の絶叫が脳内で煩く、おばあちゃんの前で行動権を切り替えるのが、本気で大変だったのは、言うまでもない。