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4 捜査(2)

「それだけですか?」

「ん?」

「いや、狗竜さんが犯人じゃないって検討してるんでしょう?どうして俺に犬飼君が斬られた夕方頃のアリバイも聞かないんです? まあないんですけど」


ないんかい。

思わずツッコめば、野兎君はにこっと笑い返した。薄々気づいてはいたが、この青年は本当に物怖じしないというか、肝が太い。嘘をつかれると厄介だが、意味のない嘘をつきそうなタイプではないと感じた。

実際は、少し考えるところがあって聞き忘れたというだけの話だった。こちらも笑って誤魔化す。


「野兎君は単独行動が好きなのかい?そうは見えないけど」

「普段は友達とつるむことが多いけど、誰か探したりとかそういう時には1人で動いちゃいますね。」

「ああ、それは分かる気がするね。…そうだな、君にはさっき誰が犯人だと思うか聞いたけど、逆にこいつは絶対犯人じゃないって思ってる子がいたら教えてもらえますか」

「・・・うーん、…。…布津ふつさんですかね」

「ふむ、その理由は?」

「彼女、朝食に竜茉が来なかったときも、その後大鏡さんが戻ってこないときも、『バカらしい』と言って捜索に参加しなかったんです。ごはん食べた後も、ずっと食堂で本を読んでたと思います。・・・だから彼女だけには大鏡茉白さんを殺すことは不可能かなと」


少し引っかかる物言いだった。皐は事件当初の調書も読み直していたが、29日朝はアリバイが成立する生徒がほとんどだった(忠山・野兎除く)中、布津結衣ふつゆいは単独で引きこもっていたせいで曖昧な部分が多かったはずだ。


「あの時は雨がいきなり酷くなったりしたので、皆1回は雨具取ったり着替えに戻ったんですよ。それで、玄関から荷物置いてた部屋に行くためには必ず食堂を通るんですが、彼女はずっと目撃されてます。」


「なるほど。大鏡茉白さんがいなくなってから死体で発見されるまでの間、複数人から偶発的なタイミングで目撃されていて、かつ証言にズレがない、と。大鏡さんが発見された湖と南棟コテージはある程度距離があるし、確かに布津さんには難しそうだ。

 ────逆に言うと野兎君は、布津さん以外のアリバイには疑う余地があると考えているのかな?」


「・・・俺たちは子供だったので。決して悪意ばかりとは思いませんが、怖くなって嘘をついてしまった奴がいてもおかしくはないかな、って」


俺個人の考えですが、と付け加えて野兎は目を伏せた。




「わーーー遅くなっちゃってごめーん!」


シリアスな雰囲気をぶち壊して騒々しくやってきたのは五十嵐美里(警部補・32歳・皐の友人・というか全ての元凶)だった。


「いや本当に遅い。なんかもう大分話聞き終えちゃったよ」

「えー、待っててくれたら良かったのにぃ。あ、この子が野兎君?」

「会うのは初めまして五十嵐刑事。野兎望です」

「やだもー実際に会ってみたらイケメンじゃない。私も面倒くさい上司にゴマ擦ってないで君とお話したかったわぁ」

「お仕事お疲れ様です」

にこにこ。野兎君はまったく通常運転に戻っていた。


総括してみると、(皐みたいなコミュ弱には推し量りづらい部分もあるが)野兎望という青年には全く犯罪者臭がしなかった。

正しいかどうかは横に置くとして、自分の意見を持って言える人間は案外貴重だ。自力で容疑者から外れる強さを感じたのは皐だけではなく、当時の事件を捜査した者もそうだったろう。


「今日は急な話にも関わらず、時間を作ってくれてありがとう。お陰で大分状況が掴めたよ」

「いえ、俺も色々話せて少しすっきりしました。」

「また聞きたいことが出来たら協力してもらえるかな」

「勿論です。…あ、そうだ華蔵閣さん。狗竜さん無罪の線を追ってるなら、間木現郎まぎうつろうさんとはもう会いましたか?  ずっと狗竜さんの冤罪訴えて再審請求してる方なんですが」

「いや、・・・」美里に目をやると、美里も知らないようで目をぱちぱちさせていた。

「…知らないな。そんな人いるのか。弁護士の方?」


「狗竜さんや竜茉の従兄弟いとこにあたる方です。多分唯一 狗竜さんと面会できてる人じゃないかな。俺のところにも何度も話を聞きに来られました。会うべきだと思いますよ」




「なあ美里。・・・・・・・・ど~~~~して捜査資料に忠山狗竜と面会してる人間がいるって情報がないんだ・・・」

野兎望が帰った後、喫茶店では反省会が勃発していた。


「あーははごめん、知らなかった…」

「不利なのに黙秘続けるってのは、ヤクザ絡みが顕著だけど脅されてる場合が十分に考えられるんだから。気を付けてもらわないと困る。」

「それはないと思うよ。この資料、裁判やってた2年前までのものなんだよね。その時までは誰も…、弁護士すらまともに面会できなかったし、そもそも一言も喋らなかったっていうのは確かだから。今は違うんだね」

じゅーー、オレンジジュースを啜りながら美里は呑気に言う。

「ま、良かったじゃん。今親しく話せる人がいるっていうなら、ぜんぶオハナシしてもらって問題解決!やったね!」

「そんな簡単にいくと思うか・・・?」

「あはは…言ってみただけ」


(心境の変化があったのか…? それとも自分が犯人として確定することに意味があった…?考えすぎか?いや…いずれにせよ早く間木という男には会わないと)

テーブルには焼きたてでいい香りのするワッフルとオレンジジュース。それからほとんど手つかずのまま冷たくなったブラックコーヒーが残っていた。

考え込む皐をよそに、昼飯を食べ逃したという美里はいかにも美味しそうにワッフルを頬張っていく。


「さっちゃんさぁ、ほんとこういうとこでは何も食べないよね」

「席料として頼んでるだけだから」

「ここのサンドイッチ美味しいのにー。協力してもらってるお礼に奢ったげるよ?」

「外だと気が散って味がしない」

「あはは何それ」

きれいに最後のひとかけらを食べてしまってから、美里は刑事の顔になって向き直った。


「実際のところ、さっちゃんはこの事件どう思ってる?」

「現時点だと、犬飼正の証言はせん妄や記憶の混乱による誤解で、やはり犯人は忠山狗竜でしたっていうのが一番あり得ると思う。ただ、いくらか別に考えている事もあるから結論を急ぎたくない」

「ふむふむ、やっぱネックはそこだよねー。じゃあこれから一緒に犬飼少年に会いに行こっ」

「え…」


そろそろ帰りたいんだけど。

そう零す皐の声は、美里の笑顔によって黙殺された。


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