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それは青春でした!2  作者: 雨森晴
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 ぴんぽーんと涼やかな音を立てて玄関のインターホンが鳴る。

 なんだろうか。今日は来客の予定がないはずなのに。

 不思議に思いながらもメイドが対応してくれるのを待っていたらなんと環奈が来ていると言われた。

「環奈?」

 おかしい。

 今日は夏樹の誕生日会で、環奈は招待されているはずなのに。

 七緒も招待されていたが、行けずにここにいたわけだ。

 玄関まで降りると可愛らしいパーティードレスに身を包んだ環奈がそこにいた。

「ヤッホー! そうやって見ると可愛いよね。琥太郎」

 しまった。急の対応で忘れていたが今の七緒の格好はTシャツにホットパンツだった。

 慌てて身体を隠すようにしたが無意味だ。

「ねぇ、琥太郎」

環奈が優しく呼ぶ。

「なんで行かないの?」

「なんでって……俺にいく資格はないよ」

 裏切り者の自分がどんな顔して祝えばいいと言うのか。会えるわけない。どんな顔をして会えばいいというのか。会えば糾弾されるのがオチだというのに。

 それに何より、会うのが怖かった。会って何を言われるのか想像しただけで怖かった。

「会えないよ」

 琥太郎は言った。

 けれど、環奈は笑うばかりだ。

 会えるよ、彼女は言った。

「大丈夫会える」

 何を根拠にそんなことを言うのか七緒にはわからなかった。でも彼女はゆっくりと言う。

「好きなんでしょ、今だって会いたくてたまんないでしょう、どうして会いに行かないの。ねぇ、いつから琥太郎はそんな臆病になったの」

 がっと環奈が七緒の胸ぐらを掴んだ。

「私の知っている琥太郎は無鉄砲で好きな人の為なら後先考えずに突っ込んで行くはずでしょ? その勇気は何処言ったの?」

「ついえたよ、そんな勇気。あいつとのデートで全部消えた……」

「そんだけの愛だったの? そんだけで消えちゃうほどのちっぽけな愛だったの?!」

「環奈に俺の気持ちなんか分かんないよ」

「分かるよ! 私にだって好きな人居るんだもん! その人の為ならどんなこともしたいし怖い気持ちだってあるよ! 私も嫌われたら怖いよ! それでも好きだもん。いくしかないんだもん」

 環奈の言葉にハッとした。

 そうだ。結局いくしかないのだ。

 だって好きなんだ。その気持ちに変わりはない。

「いいの? 今日、あいつお見合いパーティーだよ」

 知らなかった真実に七緒はぐっと涙を拭う。

「良くない」

 誰にも渡したくない。

 夏樹の為にずっと生きて来た。夏樹が好きで大事で。夏樹のいない人生なんて考えたこと無かった。

「ごめん、行くね」

 親友に告げるといってらっしゃいと見送られる。行かなきゃ。行かなきゃ。

 七緒は夏樹の家まで駆け出した。





 


 バンと勢いよく扉が開かれて夏樹のおばあさまとなんと七緒が現れた。

 何がなんだか分からないという表情を見せる七緒とにこやかな表情を見せるおばあさまに捕まってここに連れられたのだと察する。

「澪」

「いらっしゃい。琥太郎」

「なんでここに居るの」

「お願いされたの。もう一回琥太郎に魔法を掛けてあげて欲しいって」

「あいつそんなこと一言も」

 きっとなにか言ったのだろう。魔法を掛けて欲しいと言ったあの人が。きっと勇気が出る一言を言ったのだ。

 何が何も出来ないだ。出来過ぎでやはり自分たちは必要ないと思えた。

 けど、約束だ。


 今度こそとびっきりの魔法を掛けてあげよう。

 何たって私たちは魔法使いなのだから。


 櫛を持った悠斗が口を開く。

「今回は何色にしようか?」

「オレンジで。前回のブルーも間違えじゃないけどやはり暖色系がいいです」

「ポップな感じ?」

 澪に聞かれる。

「いえ。大人ぽい感じで」

「ネイルは?」

 拓海に聞かれニヤリと笑った。

「大人のオレンジ」

「分かるか」

 頭をガシガシとしながらも自分の中でイメージが出来上がってるのだろう。迷いなく暗いトーンのオレンジを取り出した。

 拓海が持って来た爽やかで甘やかな香水を取り出して

 さて、始めましょうか。


 ーー放課後の魔術師が彩る魔法の時間を。




「終わったよ」

 悠斗の言葉に澪も終わったと返す。

 どうしても作業に時間のかかってしまう拓海はまだ何やらしていたが、しばらくしてようやく終わったらしい。満足そうなよしが聞こえて来た。

 さて、仕上げはこれからだ。

 衣織は今日のために用意したドレスを七緒に差し出した。

「綺麗」

「ありがとうございます。でもその言葉はまだ早い」

それは最高に可愛くなった自分に言ってもらいたい。

隣の寝室で着替えてもらった後すぐさま彼女は出て来た。

オレンジ色のドレスを身に纏った彼女はとても綺麗だった。

「どうしよう。自分じゃないみたい」

「大丈夫ですよ。あなたです。ハンナも七緒も琥太郎を全部ひっくるめて貴女ですよ」

だから髪の毛はウイッグを使わなかった。ありのままの長さでありのままの姿で臨んでほしくて。

衣織は一粒ダイヤのネックレスとグルリと一周ダイヤで覆われたブレスレットを彼女に取り付けた。

「似合ってますよ」

オレンジのドレスの存在も彼女の綺麗さも際立てるダイヤは少しだけ背伸びだったけど、これでいいのだ。磨けば光る宝石の原石のように光り輝いて欲しかったから。

それに彼女には内緒だがこれはデートの日に夏樹がプロポーズに渡すつもりだったものだ。それをつけてあげてとおばあさまに言われた。

ほんの少しでも勇気になるように。二人が仲直りするきっかけになるように。

「ありがとう。勇気出た。なんだかなんでも出来そうな気がする」

「そういう魔法を掛けましたから」

私たちが、澪が。そして、環奈が。

たくさんの魔法がかかっているのだ。勇気が出るに決まっている。

「いってらっしゃい」

シンデレラ。

約束の鐘は鳴らないから。ガラスの靴を履いて行っておいで。





こつんこつん。

パンプスを鳴らしてパーティー会場となっている大広間へと向かう。

まだ怖いけれど、もうなんと言われてもいい。

裏切り者と言われてもいい。罵られてもいい。どう言われたってこの恋はきっと諦められないから。

ゆっくりと大広間の扉を開くと会場中の目線が一斉にこっちに集まる。

ほんのちょっとのざわめきと視線が七緒を取り巻く。

怖い。けど、少しの快感があった。

その奥に驚いたような顔をする夏樹がいて。なんだかその表情も可愛い気がした。

「夏樹、ごめん。騙すつもりはなかった。でもこれだけ知って。好きだった。好きだったから貴女の側に居たかった」

ゴメンねと言うとギュと抱き締められる。

「馬鹿。謝るのは俺のほうだ。全部両親に聞いた。すまない。俺が弱いせいで。迷惑掛けた」

ごめんと言う夏樹にぼろぼろとぼろぼろと涙が溢れる。

これは最高ハッピーエンドだ。

七緒も望んでなかった幸せの瞬間だった。








結論から言うと。

無事に夏樹の日に二人は婚約した。

しかし、結婚は卒業してから。

そして彼女は高校卒業までは男装をして過ごすことにしたのだ。後一年半だ。きっと隠し通せるだろう。

しかしそれを不満に思う人もいるわけで。


「お前……やはり女の格好をしないか……」

「なんでだよ?」

きょとんと見上げてくる彼女にいややはりやめろと、夏樹はつぶやく。

女だけなら同性だからまだ許せる(やきもきはする)が、それが男に言い寄られてるかと思うと嫉妬でとち狂いそうだ。

この際男色家趣味と他の奴らに思われてもいい、周りにこいつは私のだと知ら占める必要があるだろう。

「なな」

「んあー?」

見上げてくる姿はやはり綺麗だがやはりどこかかっこよさがある。全く持って女らしさを感じない。

それでも、そんなところも愛しく感じてしまうのだから仕方ない。漏れてしまう苦笑をそのままに目の前の唇をそっとおのれのものを重ねる。

周りから阿鼻叫喚が聞こえるが聴こえるが、一切合切無視をする。

口を外すと首まで紅く染めてあわあわしてるはち。

うむ、こうやってみるとやはり女の子らしいな。


「……な、夏樹の馬鹿やろぉぉ!!!!!」


今は生徒会と放課後の魔術師と一部のものしか知らない恋。

それでもいいと思う。

夏樹はくつりと笑うと、再度、己の為だけのシンデレラへと口づけを落とした。





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