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「で、言われた通り用意してきたけど」
気まずそうにする七緒にお礼を言って衣織は紙袋を受け取った。
昨晩あれ以上話をするにも夜遅い、さらには守衛さんに見つかりそうだったために一回日を改めることとした。
そうして衣織は一つだけお願いした。その贈られた服を見せて欲しいと。見てみない事には彼女の依頼デートに相応しい格好はさせれそうになかったからだ。
そこでデートの日程を聞いてみるとなんと明日、つまり今日と言われたから慌てて彼女が暮らしていると言う家へと朝一乗り込んできたのだ。流石はお嬢様。一人で乗り込んできたにしては立派な一軒家にメイドが居たが。
「デートって……違うからな」
「えー夏樹はデートだと思ってるでしょ。わざわざ洋服まで送って来るんだから」
「そうだよ。その洋服を着てデートに来て欲しいって思ってるよ」
「でもムッツリっぽくないですか?洋服って」
言いたい放題言う先輩を尻目に箱から衣装を取り出す。あ、七緒先輩その先輩たちはある程度無視した方がいいですよ。言いたい放題言う自由人しか居ないので。
箱から取り出した服を見るとオフショル袖なしな真っ白なワンピースだった。裾から見えるフリルが可愛らしい。
しかし、うん。ムッツリわからないでもないげっふんげっふん。
衣織は言い止まったのだが先輩たちはムッツリムッツリだと言い合っている。
仕方ない。今度からあのプライド高い生徒会長のことはムッツリとお呼びしよう。
「ワンピースは可愛いですね。これなら先輩に似合いそうです」
胸の下辺りに切り替えが入っているから足長効果も狙えそうなワンピースは健康的は彼女の魅力を存分に引き出しそうだった。
「そうか? 俺こんなんんだぞ?」
肩に着くか付かないかのショートカット。男らしく振る舞うために大きめなパーカーを着ているから確かに男らしく見えるが、彼女の身体の線は細いはずだから似合わないわけないだろう。彼女はただ自分の魅力が分かってないだけだ。
「どうする? 衣織。どの路線で行くの?」
「予定では藤堂先輩の健康的なところを発揮する為にオレンジ系で行こうかと思ってたんですが、服がこれなのでブルー系で爽やかに行こうかと思います」
衣織はそう言うと持ってきていたライトブルーのカーディガンを取り出した。そこに合わせるはブルーのローヒールのミュールだ。
今日は大人っぽく仕上げる予定だ。
「髪はハーフアップでいいかな?」
「はい」
「ネイルは?」
「マリンテイストでお願いできますか」
「了解」
さぁ、ミッション開始だ。
30分後ーー。
そこには大人なお姉さんがいた。
メイクは水色で涼しげな目元に。髪の毛はウイッグを使って髪の毛を伸ばして大人っぽくした。髪の毛の長さが変われば印象はだいぶ変わるのでこれはいい案だろう。
爪は貝などの飾りをつけてマリンスタイルに仕上げた。
「凄い……」
七緒の口から感嘆の声が漏れる。
「これで先輩がカラコン外せば多分バレないと思いますよ」
「そこまでバレていたのか」
驚いたと言う七緒に笑い掛ける。
「なんとなくですよ」
発色がいい目の色は自然だったが何処となく違和感があって。だからもしかしてと思ったのだ。
目の色が変われば長年気付かれにくいのではと。
七緒がカラコンを外すとその下は甘やかな蜂蜜色の宝石が煌めいており、何処からどうみても藤堂琥太郎の影は見当たらなかった。
「これならバレないよ! 琥太郎! ってか可愛い! 大人っぽい!」
いつもは冷静沈着な澪の興奮した様子に七緒は恥ずかしそうに俯く。こういったところは女性らしいと言えよう。
「ありがとう。これなら胸張って会えそう」
「そろそろ時間大丈夫?」
悠斗の言葉に時計を見ると待ち合わせ時刻の20分前であり、結構ぎりぎりの時間帯で慌てて七緒は家を飛び出した。
「そしたら私達も行くわよ」
まさかの澪の発言にポカンと彼女の顔を見てしまう。
「え、行くって何処に?」
「デートを尾行するに決まってるじゃない。琥太郎が心配だわ」
あんな可愛い子襲われたらどうするの?とやけに真剣に言うところを見ると実は女の子と知って友情が変な方向に拗れてしまったらしい。
「それに夏樹がデートなんて、こんな面白そうなこと逃すわけいかないわ」
その言葉を聞くにそっちが本音ですね、よく分かりました。
こうして衣織たち四人は尾行することに決定したのだ。