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「んでー?今日の二宮はだいぶ人使い荒かったけど、何だったんだよ?」
頭をガシガシ掻きながらめんどかったんだけど?と呟く弥永に謝り倒す。
夕方。人通りの少ない化学準備室前に弥永を呼び出した。
藍に言われてすぐ、弥永にメッセージを送り付け早急に調べて欲しいことと報酬を記載したそれに、弥永はこちらが想定してた時間よりも早い時間で結果を持ってきてくれたのだ。
「あなたの嫁にどーしてもって言われてねぇ」
助けてあげてって言われたのよ?
と言うと、弥永は詰まった後、あーだのうーだの唸り始める。ほんと嫁に弱いなこいつ。
「んで? クラスメイトの女子とか調べてどうしたかったんだよ?」
「ちょっとねー」
出された分厚い資料を捲るが、めぼしい情報は何処にも書かれてない。
「ねぇ、弥永は実尋がハーフだとか異国の血が入ってるとか聞いたことある?」
「友達であるお前が聞いたことないなら知らねぇよ」
ですよねー。生まれも育ちも純日本人。むしろ、天皇一家にも通ずる有名な寺院の生まれてある前園実尋がハーフとかクォーターとか有り得るわけ無いですよねー。
「つか、お前ほんと何調べてんの? クラスの女子以外にうちの学園に在籍する外人、ハーフ、クォーターの生徒も調べろとか言うし」
「まぁ、ちょっとね。気になる事がありまして」
ほらこっちと出された追加資料。
初等部から大学院まで全ての生徒が乗っているのだが、そこにハーフと聞いてたのに、名前が見つからない人物がいてふと気になった。
「弥永弥永。高等部の藤堂先輩は?」
確か実尋の話では「藤堂先輩ハーフなんだってーかっこいいよねー!」との事だったのだが。
耳に蛸が出来るぐらい自慢されたから認識間違えでは無いはずだし、あの日に透けて煌めく銀糸と、清らかな湖底を連想させる様な鮮やかなエメラルドグリーンの双眸は明らかに日本人離れしている。
しかし、何度めくってもその名前も資料も見つけきらない。
「あー……それな」
罰が悪そうに眉をしかめる弥永。
「俺もあんなに有名なハーフが検索に引っかかんねぇのはおかしいと思って、検索し直したんだよ。そしたら、検索不能って」
「は?」
いやいや待て待て。そんな訳ない。
しかし弥永の話しをまとめると、明らかに検索画面にその名前が無い。
おかしいと思い、『藤堂琥太郎』の名前で検索をかけ直したらしいのだが、ヒットしなかったとの事。
焦りながらも『藤堂』で検索するととある気になる名前が浮上したという事。
「その名前って?」
「『東堂七緒』。」
それはなんとまぁ、琥太郎に似た感じで古風な名前である。
「藤堂琥太郎先輩にどことなく雰囲気が似てるってのも気になって、詳細ページを押したんだが…」
『学園長以外閲覧禁止』
そのページが出て、強制的にトップページへと戻されたとの事であった。
弥永の言葉に自然と眉が顰められる。
「閲覧禁止?いくらなんでも学年とクラスと所属委員会ぐらいは普通閲覧出来るよね?」
「普通はな」
初等部から大学院までの生徒が在籍するこの大川篠ノ日学園はマンモス校なのと、一応のお金持ち校である事と特殊な教育体制な為、特殊な生徒が集まりやすい。
その為、先生や他学年の生徒を探すのに困らない様に必要最低限の情報公開はしてあるはずなのだが、その一切の情報が出なかったという。
それは担任や学年主任、果ては学園長までに申請を出して、その出せない理由を認められているということ。確か高等部の三年立花先輩等は屈指の名家のお嬢様の為に非公開であるが(あれだけ存在感があれば非公開は無意味だと思うが)、まさかこの『藤堂七緒』さんもそれが許された存在とは。
一体何処のお嬢様と言うのか。
「なぁんか裏がありそうだよねぇ」
「まぁなぁ」
閲覧禁止である謎の少女、藤堂七緒さん。
それからハーフだと有名なのに一切情報が出ない藤堂琥太郎先輩。
どうもこの二人に接点がないとは思えない。
脳裏に浮かぶカラリとした笑顔を浮かべる藤堂先輩に以前から気になっていた違和感がその接点を繋げていく。
まさかねぇ。
けれど自分の目はこれでも信用しているのだ。
その目で何人のも人間を見て、数多のも願いを聞き届けてきた。
数多のも仕事をこなしてきた。
ならば、この違和感を確実にするしかない。
「調べても分からないなら本人に聞くまで」
決意がてらに呟き携帯を取り出すと、とある所へと電話を掛けた。