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6.救世主、此処に5

 ぼくは今からどうすればいい、ぼくには何が出きる。

 必死に思考を凝らしてみるが、なにも浮かばない。

 その魔術は天使を殺すことが出来ると言われたが、天使に近づく前に攻撃されて死ぬと言われているため、天使には近づけない。

 

「どうにかして近付けないか……!?」


 ぼくが触れられさえすれば、街の被害も少なくて済む。

 ただ、あの天使は空を飛んでいるのだ。

 ファンタジーゲームに出てくる、全身に鎧をまとった騎士のような姿に、背中には機械で出来た人工的な翼。

 天使と名付けられた理由はそういうことかと、今なら理解できる。

 天使をどうにかしたい気持ちはやまやまだけど、今のところぼくに残された選択肢は一つだけだ。


___今は逃げるしかない!


 ぼくは天使から死角になるように、街の中へと走った。

 幸いなことに、天使との距離は遠い。

 どうやらカランの家へ行ったのは正解だったらしい。

 ぼくは適当に足を止め、その場に座り込んだ。

 店と店に挟まれた丁度いい幅の道、ここなら見つかりっこないし建物が盾になってくれるだろう。

 もし攻撃されて、瓦礫の下敷きにならなければの話だが。


「死ぬなんてごめんだ。ここにいれば……いずれ誰かが……」


 倒してくれる。

 他力本願だが仕方ない。

 今の自分には倒せないのだから。


「ここにいれば……ここに……」


 自己暗示のように自分に繰り返し言い聞かせる。

 苦しいときこそ希望を持たなければならない。

 前を向かなければならない。


「つまり、絶望してはならない……絶望は……そこで全ての選択肢を閉ざすから……」


 誰の、言葉だったか。

 全く思い出せないし、何故今この単語だけ思い出したのかも全く分からない。

 必死に頭をひねらせる、が、それを遮る音がした。



___カチャ



「なに……!?」


 直ぐに嫌な予感がした。

 ぼくはその場から立ち上がる。


「……■■■■■■!!」


 左方向、約30メートル先、聞き取れない言語を発する四足歩行ロボット。

 これがあれか。

 天使が現れるとその付近のロボットが暴走するというやつは。

 こんなロボットどこからやって来たんだろうかと思ったが、そんなこと考えている暇はない。

 ただ推測できることは、天使の殺戮が行き届かない場所の殺戮をこのロボットで行っているのかもしれないということのみ。


「どうする、どうする……!」


 瞬間、ロボットは唸り声を上げ、一直線に突進してきた。

 ぼくは全身に力を込め、全力で横へ飛び避ける。



___見える。


 ロボットの動きがハイスピードカメラで撮ったかのようにゆっくりに見えた。

 何故だかは分からないが、間違いなく目は覚醒している。


「どうする、この前みたいに触れれば倒せるか………?」


 あの時は魔獣だった。 

 だが今回はロボットだ。

 触れて倒せなかったら死が待っている。



____いや、まて。


 天使がぼくの魔術で倒せる、ということはこいつも倒せるんじゃないか?

 分からないが、とにかくやってみるしかない。

 ここで逃げ切れる保証もないのなら、立ち向かうほうがいい。


 突進してきたロボットを避けながら触れる。

 方法はこれしかない。

 自分から触れにいっても、犬のようにすばしっこいこのロボット相手じゃ相討ちが良いところだ。


「……来い!」


 その言葉を理解したかのように、ロボットは再度突っ込んできた。

 なるほど、どうやら近づいて咬みつくしか出来ないらしい。

 集中、よく見れば、出来るはずだ。

 

「動いてくれよ、俺の足__」


 ロボットが飛び上がった瞬間、ぼくは瞬時に左へ身体の軸を動かした。

 飛び上がってからの軌道修正は不可能。

 ロボットが身体の横スレスレで宙を舞う。


「くっ!」


 そして、そのままロボットの足に手を触れる。

 ロボットは着地に失敗し、何度か転がって壁にぶつかり停止した。


「今の……また」

 

 さっきと同じで、ロボットの動きがハイスピードカメラで撮ったかのようにゆっくりに見えたのだ。

 ここまでくると怖いくらいだ。

 死ぬ直前に見ているものがスローモーションになる現象があるというのは知っているが、ここまでハッキリとスローになるものなのだろうか。

 そもそも今起こっている目の覚醒は、その現象なのだろうか。

 不可解な現象に思わず、右手をぼくの右目へ持っていこうとしたが、その時は訪れなかった。



「その()、触ると失明するわよ」



 ぼくは声のした方向、斜め上の方へ顔を向けた。

 右腕に人外の腕を携える彼女が、腰に手を当て少しニヤけた顔をしながら店の屋根に立っていた。


「……!」


「貴方の右眼は義眼。魔力で脳を繋げて見えるようにしているから、貴方のまだ未完成な魔術で触れると、最悪脳に支障が出るかもしれないわよ」


 彼女は屋根から飛び降り、ぼくの方へと歩きながら話を続けた。


「今は眼の話をしてる時間がないわ。とにかくこれを」


 そうって彼女が取り出したのは、注射針だった。


「は?」


「魔力増強剤。今の貴方には魔力がないから、それをこれで無理矢理引き上げるの」


 そう言ってぼくの前に座り、流れるように躊躇なく腕に注射した。


「っ……!」

 

「どう?身体、少しは軽くなったんじゃない?」


「そんな気が……するようなしないような……?」


 腕を回したり、ジャンプしたりしたが特に何も変化はない。

 そうしている間に、彼女はぼくに背を向けて歩き出していた。


「まぁいいわ。時間がない、行くわよ」


「行くって……まさか」


「えぇ、私と天使を止めるわよ。私だけじゃ仕留めるのに時間が掛かるから」


 いや、ぼくには無理だって。

 心の中で突っ込んだ。


「ぼくが魔術を発動する前にぼくが死にますって!」


 

「……じゃあ、貴方の元まで持っていけばいいのね?」



「いやまぁ……それはそうです__」


 刹那、言葉を言い切る前に、鼓膜が破れそうなほど大きな爆発音と共に数十メートル先の建物が崩壊した。

 煙が舞い、崩壊した場所が見えなくなる。

 

「なっ……!?」


 絶句。

 それ以外に言える言葉はなかった。

 

「じゃあ取り敢えず貴方はそこで気を抜かずに見ていてくれる?もう弱らせてあるから、直ぐにさっき言ってたことを現実にしてあげる」


 彼女はその場で右手を地面に付き、何か呟いたと思った瞬間、地面が揺れた。

 そしてみるみるうちに視界が変化する。


「これは……!」


___木の檻?


 木の幹のようなものがボクの周囲を囲み、鳥籠とりかごのような檻に閉じ込められた。

 何をするんだと言おうと思ったが、彼女のこちらを見る横顔が、目が、その言葉を言わせなかった。



___そこで待ってなさい



 その言葉が込められた視線だった。


「出てきなさい、天使」

 

 崩壊した建物から、段々と影が浮かび上がってくる。

 全身に鎧を着た、機械の翼が生えた機械兵器。

 だが、翼は片翼しか生えていなかった。

 弱らせたと言っていたが、まさか飛べなくしたとは。


「■■■■■■……■■」


 やはり、あのロボット同様聞き取れる言語ではない。

  

「あら、さっきみたいに空を飛ばないの?」


「■■■■■■■」


「そう……ならいいわ」


 会話が成り立っている?言葉が分かるのか?

 そう思っていた瞬間、彼女が動き出した。

 さっきと同じように右手を地面に付けた。


「手加減なしで、あなたを調理してあげる」


 ゴゴゴ……と、地鳴りと共に地面が揺れる。

 さっきの檻の時の比ではない。

 立っているのがやっとな程の地震。

 さらに、彼女の斜め前に、地面のタイルを押しのけ太い木の根のようなものが地面から這い上がってきたのだ。

 それも二本。

 地震はこの木の根が地面を動いていたからだったのか。

 そして、まるでタコの足のように動く木の根が、同時に天使に叩き下ろされた。

 爆発音に似た巨大な音が、街中に響き渡る。

 

「すごい……」


 ぼくは無意識に呟いていた。

 魔術を使った戦いがこれほど迫力があるなんて。

 天使も叩き潰されてはいなかった。

 木の根を手だけで受け止めていたのだ。

 だが、次の瞬間、その木の根が千切れて地面に落ちた。

 どうやって斬ったのかと、ぼくは眼を凝らす。

 

「あれは……刃?」


 両手が手ではなく、刃へと変化していたのだ。

 あの身体はどうやら自由に変形可能らしい。

 

「まぁそうでしょうね」


 彼女が呟く。

 

「ハハッ……後ろにも気を付けろっての……!」  

  

 天使の後ろに伸びる影が、ぼくにはハッキリと見えた。

 そしてその瞬間、()()()()()()が天使の背中を押し出すように突き飛ばした。

 同時に、彼女の作戦が分かった。



「後は頼んだわよ……救世主」



 彼女はこちらに飛ばされる天使を綺麗に避けると同時に、ぼくの檻も、地面に崩れ落ちていった。

 まさか「貴方の元まで持っていけばいいのね?」と言った通りに、本当にぼくの方に天使を持ってくるとは。

 ならば、ぼくもより一層気合いを入れなければならない。

 彼女の有言実行を失敗させてはならない。


「終わりだ!!」


 右手を突きだし、左手は右手を支えるように手首を持ち、天使を真っ正面から受け止める。

 魔術がどうやって発動しているのかは分かっていない。

 だが、とにかく、右手に魔力が集まるようにと思い、右手の筋肉にありったけの力を込めた。

 重い、痛い、熱い、そんなものは一つもない。

 


 崩壊の音。

 ピキ……ピキ……と、割れた音が徐々に大きくなっていく。


「■■■……!??!?」


「街を、人を破壊した罪を償え……天使!!」


 眼を開けられなく程のまばゆい光に、ぼくは眼を閉じた。

  

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