11.街だったところ
ぼくは彼女に質問した。
「それで、何でこの家に?」
「三日に一回は……ここに。12号さん、掃除とかしないので……」
人間が嫌いという割には自分の家を自分で掃除せずに人間に掃除させているのか。
もしやかなりのクズ人間なのでは?
「じゃあ、どうやってこの家に入ってきたの?」
「この家に生体登録しているので……玄関に行けばセンサーで鍵は自動解除されます」
「それはすごい」
何でだろう、何でここに住んでるぼくがそれを知らないんだ?
あのアンドロイドめ、人間嫌いなのはいいとしても同居人に最低限のことは教えるべきではないのだろうか。
「それでは……自分はこれで」
ロメリアは一礼してその場を去った。
まだ仕事が残っているのだろう、引き止める理由はない。
ぼくは最後に一言彼女に投げかけた。
「何で前髪そんなに伸ばしてるの?無い方がいいと思うけど」
彼女は一旦立ち止まって、ぼくの方を振り返る。
「…………目つきが悪いので」
そう言って、ロメリアは足早に立ち去った。
もしかして地雷を踏んだ?
でもあの前髪はどう考えても邪魔だろうと思ってしまう。
そこまでして目つきを気にする人もいるのか、勉強になった。
「……さて、と」
もうこの家でやることはない。
ぼくは街へ向かうことにした。
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「これは……酷いな」
それがぼくが街に来て口から放たれた第一声だった。
戦争があった街もこのようなことになるのだろうかと、ふと頭に思い浮かぶ。
瓦礫の山はもう整備されたのか少なくなっているが、まだ所々に瓦礫は残っているし、どの建物もどこかはダメージを負っていて今にも崩れそうな建物もある。
遺体は既に地面にないことから、一番に処理されたのだろう。
何人死んだ?何人生き残った?
ぼくが初めて見た街の姿はもう見る影もない。
この街は、復興できるのだろうか。
「来ると思った」
もう聞き慣れた声になった。
ぼくはその方向、斜め上を向いた。
急斜面の屋根の上で腰に手を当てて立っている姿が見える。
その真横にはかなり大きい穴が空いていた。
天使による被害だということは一目瞭然だ。
彼女はその場にしゃがみ、屋根に右手を触れた。
その時、ぼくの口から化け物を見たときと同じ声……とは少し違うが、それなりに気持ち悪いものを見た時の声が出た。
「うわ……」
右手が触手のようにうねうねと動きながら穴を覆うように伸び、円上に形を変えて修理するのに最低でも一日二日はかかりそうな穴をそのまま塞いだ。
そして最後に、左手のカッターナイフのようなもので自分の右手を切断して屋根と手を切り離した。
穴は綺麗に、彼女の伸縮自在に動く木のようなもので塞がれた。
切断された彼女の手も、綺麗に元通りに戻る。
これがリマロズが言っていた木を操る魔術、『植物操作』の力か。
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「彼女は触れた種を瞬きの間に花に成長させたり、大きさを自由に変えたり、要は植物を自由自在に操る能力を持っています」
「じゃああの右腕は何ですか?木のようで木じゃない、あの右腕は」
「彼女には完成した時から右手が無いんです」
「……え」
「あったのは右肩に植え付けた木の種だけ。それを彼女は魔術で自由自在に動かしているのです」
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「……人間が嫌いなら、人間が住む街を修復する意味あるんですか?」
「街を修復してるだけよ。ここは家から一番近い街だもの、放ってはおけないわ」
完璧な返答にぼくは返答に困った。
「私はこのまま修復できそうなところを修復していくわ。貴方は周りを見て自分で判断して。いいこと?」
どうせ街の修復にでも来たんでしょう?と思っているらしい。
確かに間違ってはいないが。
周りを見て判断しろと言われたからには、周りを見て自分が出来ることを探すとするか。
……と言いたいところなのだが、すぐには行動に移せなかった。
言われていることはわかる。
だがそれ以前に気になるものが存在するのだ。
「ロボットと同じことをしろって?」
瓦礫をどこかへ運ぶロボット、街の修復を行うロボット、他にもよく分からないことをしているロボット。
人形のものから、筒型のものまで形は様々のロボットとしか言いようがない機械の動く物がそこらで溢れていた。
一つの疑問を彼女に聞いた。
「街の人たちはどこですか?」
「大体は避難してるわ。立ち入り禁止にはしてないから何人かはいるかもしれないけど、出来る限り来ないでって言ってある。来たところで危ないだけだし、見ての通りロボットがやってくれるから」
「……それで周りを見て判断しろと」
「言いたいことが分かった?」
つまりお前に出来ることはないし危ないから帰れと言いたかったのか。
「優しいですね」
「なんのつもり?殴るわよそれ以上言うと」
彼女は人間離れした跳躍で屋根から向かいの屋根へと飛び移り、さっきと同じ方法で屋根を修復した。
キレそうな感じなのに同時に作業が出来るとは。
器用なアンドロイドだ。
「じゃあぼくは言われた通り、自分で見て判断しますので頑張ってください」
捨て台詞気味に言葉を残し、ぼくは別のエリアに行くために身体の向きを変えた。
「お前すげぇな」
さっき彼女が突然声をかけてきた時と同じように、また別の方向から声が聞こえた。
今度は男声。
この街で男に声をかけられるような人物は一人しかいない。
ぼくは声のする方へと視線を向けた。