表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/132

口のピアス

「みんな! 体育館集合! ‥‥‥沙里さん!? あんた誰!?」


莉子先生‥‥‥沙里さんって言っちゃってます。


「髪の色が戻ったの!」

「すごい可愛いわね! とにかく時間ギリギリだから、体育館に急いで!」

「はーい」


全員で体育館へ移動して、一番後ろに並ぶと、真横に一年生の二人も並んだ。


あー、見た目がやんちゃだ。怖いな‥‥‥。


「おはようございます」

「おはようございます!!」


愛梨さんの話が始まった。


「全生徒と新学期を迎えることができて、本当によかったです。今月は全学年がクラスごとにチームになり戦うイベントがあります。今から、その詳細について説明します。ルールはシンプル、バトンを繋ぐマラソン大会です。M組の生徒は人数が少ないので、全学年を合わせて一クラスにします。それでもハンデはありますが、それはM組に通うことになった時点でしかたありません」

「先輩と協力とか嫌なんだけど」

「マジそれね」


普通にそういうこと言うんだ‥‥‥怖い。


「一位になったクラスには約束通り、一つだけ欲しいものを与えます。本番は一週間後です。もちろん私も参加します。皆さんで協力して頑張りましょう。マラソンのルートは、各担任の先生に地図を渡してありますので、全員確認するようにお願いします」


愛梨さんの話が終わり、僕達は教室に戻り頭を抱えた。


この人数でマラソン大会!?

ハンデがありすぎる!


僕達が絶望する中、莉子先生は一年生のクラスの先生と廊下で話している。


「松坂先生! 今からマラソンの練習しませんか? 一年生とも、今のうちに仲良くなった方がいいと思うんです」

「そうですね! 二人を連れて外に向かいます!」

「分かりました!」


莉子先生が教室に入り、全員に指示を出した。


「みんなジャージに着替えて外に集合! マラソンの練習するわよ!」


だが、結菜さんが珍しく本気で嫌そうに言った。


「先生、この人数でマラソンなんて無理ですよ。辞退してもいいと思うのですが」

「愛梨さんが頑張って考えたイベントよ?」


それを聞いた沙里さんは、いきなりやる気を出してしまった。


「やろう! 皆んなで頑張ればなんとかなるよ!」

「頑張っても無理ですよ」


僕がそう言うと、沙里さんは目を大きく見開き、僕を睨みつけてきた。


「私に逆らうの?」

「や、やろう! 結菜さんも頑張ろうよ!」

「輝久君が言うなら‥‥‥」

「えー、めんどくさいよー」

「一樹君!! やるよね!! ね!?」

「あ‥‥‥う、うん」


それから全員で外に集合すると、一年生の二人組が気だるそうにやってきた。


なんだろ‥‥‥あの二人、ジャージが似合わなすぎる。


「走る順番は先生が勝手に決めちゃいます! 美波さん、芽衣さん、輝久君、真菜さん、鈴さん、結菜さん、一樹君、柚木さん、菜々子さん、沙里さん、瑠奈さんの順番ね! さぁ! 実際に走ってみましょ!」

「こんなのやる意味あるわけ?」


菜々子さんは地面に座り込んで走る気ゼロだ。


「こら! 先輩達を困らせないの!」

「莉子先生は自分の生徒だから庇うんでしょ? そういうのウザいから」

「目上の人への態度をわきまえなさい」


あっ、結菜さんにスイッチ入っちゃった。


「お前が結菜だろ。学校でも有名だよね、年齢で目上かどうかが決まること自体おかしいだろ」

「確かに、年齢で目上かどうかが決まるとは思いません。成人していても子供のような大人は沢山います。だからって年上を甘く見ると痛い目にあいますよ」

「痛い目ってなに? 暴力? やれるもんならやってみろよ。あんたには負ける気がしねぇ」

「ふふふっ」

「あ? 何笑ってんだよ!」


次の瞬間、菜々子さんは結菜さんの胸ぐらを掴んだ。


「菜々子さん! 離しなさい!」

「そうだ菜々子! 離せ!」


莉子先生と松坂先生が注意したが、結菜さんは余裕を見せた。


「先生方、これくらい問題ありません。菜々子さん? 貴方はよほど自分が上の人間だと思っているようですが、貴方は暴力でしか物事を解決できない子供です。そもそも、今の貴方より下の人間なんているのかしら」

「はぁ? たくさんいるだろ」

「それは貴方が暴力で黙らせてきた人のことですか?」

「それの何が悪いんだよ」

「悪いに決まっているじゃないですか。それすら分からない程度の脳みそしかないんですか?」

「クソが。瑠奈もなんか言ってやれよ! このまま舐められたままでいいのかよ!」


瑠奈さんは一瞬戸惑って口を開いた。


「えっ‥‥‥と」

「いいからさ、早く走っちゃって教室戻ろうよ」

「鈴に賛成。暑くてジッとしてるのもしんどいよ」


そう鈴さんと芽衣さんが言うと、松坂先生は菜々子さんと瑠奈さんを納得させようとした。


「そうだぞ? 走り終わらないと教室に戻れないからな」


すると、菜々子さんは結菜さんから手を離した。


「今日は許してやるよ」


それから莉子先生が決めた順番で、僕達は必死に走った。





走り終わると、全員地面に寝そべって死にかけだ。


「五十二分もかかったわよ? これじゃビリ確定ね」

「そうだぞ、お前らもっと頑張らないと」


柚木さんは息を切らせて言った。


「そんなこと言われても無理! これ以上速く走れない!」

「それもそうよね。個人で見れば皆んな足は速いんだけどね」

「やっぱり人数的に無理があるよ」

「美波さんの言うことも分かるけど、頑張るしかないのよ?」

「あーダルい。瑠奈! 教室戻るよ!」

「うん」


教室に戻ろうとする瑠奈さんに、沙里さんは寝そべったまま声をかけた。


「瑠奈」

「な、なんだよ」

「さっき、助かったって思っただろ。なにも言わなくてすんだって」

「な、何言ってんだよチビ!」


瑠奈さんは、そう言い残して教室に走って行った。



***



その日の放課後、沙里は一年生の教室に向かった。

それを見た柚木は、心配して沙里の後ろをこっそりついて行った。


「瑠奈」

「な‥‥‥なんだよ、わざわざ教室まで来て」

「菜々子は?」

「先生に呼ばれて本校舎に行ってる」

「それじゃ都合がいいや」

「なにが?」

「瑠奈さ、何に怯えてるの?」

「はっ、は?」

「菜々子といる時、無理してるでしょ」

「お前になにが分かるんだよ」

「私は自分を守るために武器を持った。だから、なんとなく弱い人間が分かる」

「意味わかんない」

「自分を守るために、そんな派手な見た目して、わざと悪い態度取ってるんでしょ」

「な、何も知らないくせに‥‥‥」

「うん、知らない。でも辛そうなのは見てて分かるよ。なんでも話してごらん」


瑠奈は表情が柔らかくなり、少し黙り込んだ後に口を開いた。


「せ‥‥‥先輩」

「なに?」

「私の話‥‥‥聞いてくれますか?」

「いいよ」

「私も聞くよ!」

「あ、柚木」

「や、やっぱりいい!」

「大丈夫、柚木はいい人だよ」

「わ、分かりました‥‥‥」


それから瑠奈は全てを話してくれた。


「菜々子とは、この高校に入ってから知り合ったんです。最初は菜々子も私も、こんな派手な見た目じゃなかった。とある一年のグループが原因です」


沙里が無言で聞く中、柚木は優しく聞いた。


「なにがあったの?」

「ただ、二人で仲良く話してただけだったのに、いきなり‥‥‥『うるさい』っていちゃもんつけられて、それから何故か虐められるようになりました。そのグループのストレスのはけ口にされて、それでとある日、菜々子は髪を金髪にしてきたんです。そして菜々子は、いじめっ子に反抗しました。それはもうボコボコに‥‥‥それから菜々子と話して、私も髪を派手に染めました。そうしたら、自分が強くなった気になれた。だけど‥‥‥本質的なところは変わらない。菜々子みたいに、強い自分には変われなかった」

「菜々子がM組に来た理由は分かるけど、瑠奈は? 髪染めたぐらいじゃM組通いにならないよ」

「その時は自分が強くなった気になって、私もいじめっ子メンバーにやり返しました。本当は皆んなと仲良くしたいのに‥‥‥先輩達とも‥‥‥」

「なるほどね、沙里はこの子の話を聞いて、どうしようと思ったの?」

「同じM組なんだし、救ってあげるよ」

「いじめっ子から?」

「それもあるけど、本当の自分で生きていけるように」

「そんなこと‥‥‥無理ですよ‥‥‥」

「無理じゃない」

「瑠奈、あんたなにやってんの?」

「な、菜々子」


先生と話し終えた菜々子が戻ってきてしまった。


「ねぇ菜々子、先輩達なんだけど、悪い人じゃないよ」

「何言ってんの‥‥‥いい人ぶって近づいて、ちょっと嫌なことがあればすぐに裏切る。どうせ先輩達もそうなんだ!! なぁ瑠奈、仲良しごっこなんかしてんじゃねーよ」

「仲良しごっこは貴方達じゃないかしら」

「結菜〜」


結菜の登場に、沙里は結菜にピタリと引っ付いた。


「迎えに来ましたよ。柚木さんも一緒に帰りましょ」

「うん! パンケーキ食べて帰ろうよ!」

「ちょっと待てよ、私達が仲良しごっこってなんだよ」


瑠奈は菜々子の手を握った。


「菜々子、やめて」

「菜々子さんは、瑠奈さんの気持ちを知っているんですか?」

「友達なんだから当たり前でしょ!」

「本当の気持ちを言い合える、言えないなら行動で示す。それが本当の友達です」


そう言って結菜達は一年生の教室を後にした。


「結菜、パンケーキって美味しい?」

「美味しいですよ」

「アイスが乗ってるんだよ!」

「アイス!? 早く食べに行こ!」

「沙里さん、お金はあるんですか?」

「結菜ちゃん♡ だいしゅき〜♡」


沙里は甘えるように結菜に抱きついた。


「ないんですね」

「お願いします!! 奢ってください!!」

「よろしい。柚木さんにも奢ってあげますからね!」

「本当!? ありがとう!」

「柚木はお願いしてないのにズルい!」

「柚木さんはいいんです」

「変なの!」


そして三人でパンケーキを食べていた時、店の外を一人で歩く瑠奈を見つけた。

瑠奈は三人と目が合い、三人に手招きされるままに店内に入った。


「あ、あの、なんですか?」


動揺しながら聞く瑠奈を見ながら、沙里は結菜を指差した。


「結菜が奢ってくれるって。座りな」

「私は何も言ってません」


柚木はニヤニヤしながら言った。


「奢るつもりで手招きしたくせに〜」

「ち、違います!」

「悪いですよ、私帰ります」

「待ちなさい。好きな物を注文していいですよ」

「‥‥‥そ、それじゃ‥‥‥先輩達と同じ物を‥‥‥」


瑠奈の元へパンケーキが運ばれてくると、瑠奈はおもむろに口元に手を持っていった。


「ちょっと失礼します‥‥‥」


瑠奈が口のピアスを外したのを見て、柚木が疑問に思ったことを素直に聞いた。


「ピアスって、針みたいなの付いてるんじゃないの? こんな丸み帯びてるもん?」


「あ‥‥‥磁石なので‥‥‥穴開けるのとか怖いし‥‥‥」


柚木は思った。

(怖いの?)


沙里は思った。

(この見た目で?)


結菜は思った。

(ちょっと可愛いです)


「先輩、そんなに見られたら食べづらいです。あと‥‥‥すごい見られてます」


瑠奈の指差す方を見ると、芽衣と鈴、美波と真菜の四人がガラスに顔をくっつけてパンケーキを見ていた。

結局四人も一緒に食べることになり、話も弾み、瑠奈は完全にM組の先輩達と打ち解けてしまった。





次の日、瑠奈が学校に行くと、瑠奈は後から教室に入ってきた菜々子に話しかけられた。


「昨日楽しそうだったね」

「え?」

「全部見てたから」

「ごめん‥‥‥」

「別にいいんじゃない? 私だけ仲間外れにして楽しんだって」

「そんなつもりじゃ‥‥‥」

「だったらさ、マラソン本番の日は走らないでよ。先輩達の頑張りを踏みにじってみせてよ」

「な、なんで?」

「じゃないと友達やめるから」

「そんな‥‥‥」


その会話を、柚木と沙里は聞いていた。


「沙里、どうするの?」

「なにもしない」

「え!? 助けてあげるんじゃないの!?」

「昨日、結菜が言ってくれたから。本当の気持ちを言い合える、言えないなら行動で示す。それが本当の友達だって、きっと瑠奈の心には響いてる」

「なるほどね、また結菜は人をいい方向に変えちゃうのかね」

「そうかもね、結菜って本当にすごい」

「今回に関しては、最初に行動した沙里が一番凄いんだよ?」

「すごくないよ」

「すごいの!」

「すごくない」

「素直じゃないなー」


内心喜ぶ沙里であった。



***

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ