最終奥義
結菜さんの家に泊まった翌朝、僕達は三人で朝ごはんを食べている。
「あんまり食べないね」
「寝てないんですよ‥‥‥食欲が‥‥‥」
「結菜は機嫌がいいみたいだけど」
「輝久君にたっぷりお仕置きした後、たっぷり輝久君の愛を確かめました♡」
「ふーん、朝から惚気られてムカついたから教えてあげる。さっきね、寝起きでシャワー浴びてたらね」
「あー!! 沙里さん!!」
「シャワー浴びてたら‥‥‥なんですか?」
ほらほらほら!!
結菜さん、完全にお怒りモード一歩手前の顔になってますよ!?
「いきなり輝久が」
「沙里さん!! お、お菓子奢ります!! 五百円分!!」
「千円分」
「分かりました!!」
「沙里さん、話してくれたらご褒美です」
沙里さんは顔を赤くして息遣いが荒くなり、下半身をモジモジし始めた。
「愛梨さんを好きにさせてあげます」
「あ‥‥‥愛梨を‥‥‥ ♡」
愛梨さんが一番の被害者だろそれ。
「沙里さん? お菓子ですよ? 二千円分でもいいです!!」
「えっとね、シャワー浴びてたら輝久が入ってきて、私の裸を見たの。目が合ったのに目を逸らさなくて、恥ずかしかったから抱きついて裸を隠した。そしたら慌てて逃げて行った。私は覗きの被害者、だから抱きついたのはしょうがない」
言っちゃったよ‥‥‥。
すると次の瞬間、結菜さんは持っていたマイ箸を片手でへし折ってしまった。
「わ、忘れてた! ブサ丸に餌あげなきゃ!」
「沙里さん!? お願いです! 今、結菜さんと二人っきりにしないでください!」
「ブサ丸〜、いま行くよ〜」
逃げやがった!!!!
結菜さんは折った箸を握りしめて、勢いよく僕を押し倒し、折れた箸の断面、ギザギザした方を僕の片目に振り下ろしてきたが、僕はギリギリで結菜さんの腕を掴むことができた。
「結菜さん!?」
「輝久君の目は汚れてしまいました。一度くり抜いて、消毒したら戻してあげるので安心してください」
「死んじゃうよ!」
「輝久君は私にかまってほしんですよね? だからそうやって私を怒らせるんですよね? それとも、今までのお仕置きでは満足できなくなってしまいましたか?」
「どっちでもないです!」
「嘘をつかなくても大丈夫です。私は輝久君のことならなんでも知っています。手を離してください」
「それはできません!!」
「ダメですよ輝久君、ご主人様の命令は絶対ですよ?」
力が強すぎる!
「沙里さんの裸を見て興奮したんですか? 場合によっては、もぎ取る必要があります」
「なにを!?」
「ナニをです」
うっ‥‥‥下半身がヒュンとする‥‥‥こ、こうなったら!最終奥義!沙里さんのせい!!
「沙里さんに呼ばれて行っただけです!」
「それでもお風呂ですよ? 行ったらどうなるかぐらい分かりますよね」
「服着てるからって言われました!」
それを聞いた結菜さんは、手の力を抜いた。
「私は輝久君に酷いことをしてしまいました‥‥‥嫌いにならないでください!!」
結菜さんは涙目になってしまい、思いっきり力強く僕を抱き寄せてきた。
「本当にすみませんでした」
ボ‥‥‥ボインボインだ。
「わ、分かってくれればいいんですよ。僕は帰って寝ようと思います」
「分かりました、私は輝久君が大好きですからね? 大好きだから、あんな行動をしてしまったんです!」
「分かってるよ、僕も結菜さんが大好きです」
「輝久君♡」
「結菜さん♡」
そんなこんなで僕は助かった。
そして玄関に向かうと、沙里さんは静かに金魚のブサ丸を眺めていた。
「あ、輝久無事だったんだ。帰るの?」
「はい」
「なんで敬礼してるの?」
「なんでもありません。それではまた生きて会いましょう」
沙里さん‥‥‥僕は最低なことをした。
沙里さんは死ぬかもしれない。
だけど‥‥‥僕の命の方が大切なんだ。
さよなら‥‥‥沙里さん。
***
輝久を見送った沙里は、ブサ丸に話しかけた。
「輝久どうしたんだろうね。いきなり敬礼なんてしちゃって」
その時、水槽に反射して、沙里の真後ろに写る、結菜の笑顔が見えた。
「ゆ、結菜? なんかその笑顔怖い」
「沙里さん♡ ご褒美ですよ♡ ついてきてください」
「ご褒美!? やったー!」
なにもしらない沙里は、輝久専用のお仕置き部屋に連れてこられてしまった。
「な‥‥‥なにこれ」
「この椅子に座ってください。今から愛梨さんを連れてきます」
「でも、この椅子変だよ? 手が沢山生えてるし」
「大丈夫です。ただの飾りですから」
「分かった」
沙里が座った瞬間、椅子は自動で沙里の手足を固定した。
「なっ!?」
「沙里さん、ご褒美はなしです」
「ど、どういうこと!?」
「今から二十四時間、気が狂うほど‥‥‥その手に可愛がってもらってください♡」
「ま、待って結菜!」
結菜が部屋から出た瞬間、椅子についていた無数の手が沙里を襲った。
「お、おい! 脱がすな!! やめて!く、くすぐるなー!!」
※
次の日の朝、結菜は沙里の元へ向かった。
「ゆ‥‥‥結菜‥‥‥」
「ご苦労様です♡ んー、少しやりすぎましたか?」
「少しじゃないよ!! 早く外して! トイレに行きたいの!」
「慌てないでください。今外します」
「早く早く!」
「すみません、間違えて一時間追加のボタンに触れてしまいました」
「なにやってんの!? 早く解除して!!」
「この機械には解除機能がないんです。また一時間後に来ますね。一応、一つの手にペットボトルを持たせておきます」
「結菜ー!! 覚えてろよー!!!!」
輝久は、沙里がそんな目にあっていたとは知らずに、平和な夏休みを過ごした。
そして九月に入り、新学期が始まった。
***
学校に着くと、珍しく結菜さんより早く教室に着いた。
沙里さんとの登校になるから、結菜さんだけ早起きしても意味がないのか。
ただ、問題はそんなことではない‥‥‥。
「なにこれ‥‥‥」
全員の机の上に、花のささった花瓶が置かれている。まさに僕達が死んだかのように。
「おっはよー!」
「おはようございます!」
「二人とも、おはようございます」
美波さんと真菜さんが登校してきて、花瓶に気づいた二人は顔をしかめた。
「なにこれ」
「嫌がらせですかね。僕が来た時には置かれてました」
「お姉ちゃんお姉ちゃん、動物園で会った二人じゃない?」
「あー、あり得る。あいつら凄い生意気だったし、沙里に脅されて嫌がらせしに来たのかも」
「そんなに生意気なんですか‥‥‥」
しばらくして、結菜さんと沙里さん以外の全員が登校してきて、花瓶を見た芽衣さんは、新学期早々苛立っていた。
「一年の教室行ってくる」
「なにかあったら大変ですから、結菜さん達が来てからの方がいいですよ」
「そ、それもそうだね」
それからすぐに二人は登校してきた。
「このお花はなんですか?」
「なんか、一年の嫌がらせ? らしい」
柚木さんが説明すると、結菜さんはなぜか喜んで花瓶に触れた。
「嫌がらせなんてとんでもないです! こんな素敵なお花なんですよ? きっとプレゼントです! ですが‥‥‥花瓶に一本ずつだと寂しいですね。一つの花瓶にお花をまとめて飾りましょう!」
結菜さんはポジティブシンキング症候群だ。
「あの日‥‥‥」
真後ろから沙里さんの声がして振り向くと、沙里さんは凄いやつれた顔をしていた。
「あの日‥‥‥輝久は無事に帰った。なんで?」
「な、なんでですかね。結菜さんの気まぐれとか‥‥‥」
「輝久は‥‥‥あのお仕置き部屋入ったことある?」
「二回入りました‥‥‥」
「そうなんだ‥‥‥三度目があるかもね」
「ど、どうしてですか?」
「私のせいにした恨み‥‥‥いつか絶対に晴らすからね。今日から毎日‥‥‥毎日‥‥‥毎日、震えて眠ってね」
すでに震えが止まらないんですが‥‥‥。
***
その頃、結菜が楽しそうに花を飾っている光景を、瑠奈と菜々子はイライラしながら見ていた。
***




