初めての夏祭り
翌朝、結菜は目を覚ましたが、隣で眠る沙里を抱き枕のように抱き寄せて二度寝を始めた。
沙里は体が小さく、抱き枕にするにはちょうどいいサイズだったのだ。
それから一時間ほど二度寝をしてから目を覚ますと、沙里はベッドの横に座り、まだ寝ぼけていた。
「ん、結菜おはよう」
「おはようございます‥‥‥誰ですか!?」
「なに寝ぼけてるの? 沙里だよ」
「どうしたんですか!?」
「声大きい。どうしたの」
「髪の毛が真っ黒になってますよ!」
「そんなわけないじゃん」
沙里は寝ぼけながら自分の髪を目の前に持ってきた。
「にょ!?」
「にょってなんですか」
「え!? 全部黒!? 綺麗に!?」
「はい! 鏡見て来てく‥‥‥」
沙里は全力で部屋を飛び出して、鏡の前に立った。
「黒い‥‥‥」
沙里は夢かと思い、勢いよく冷水で顔を洗った。
「やっぱり黒い!! やったー!!」
沙里の喜ぶ声が家中に響き渡り、結菜は嬉しそうに笑みを浮かべた。
「結菜ー!!」
猛ダッシュで結菜の部屋に戻り、沙里は飛び跳ねながら喜んだ。
「本当に黒くなってた!」
「よかったですね!」
「うん! 愛梨にビデオ通話しよ!」
沙里はルンルン気分で愛梨に電話をかけた。
「愛梨!」
「どうしたんですか?」
「ちょっと携帯の画面見て!」
「見てますよ?」
「ばっ!」
「沙里!? その髪どうしたんですか!」
「起きたら黒くなってた!」
「可愛い‥‥‥」
「なに?」
「可愛いです」
「なに?」
「可愛いです!」
「なんだって!?」
「もう言いません!!」
「それじゃ、皆んなにも見せるから電話切るね!」
電話を切り、沙里は自分に携帯を向けた。
「結菜も写って!」
「こうですか?」
「はい! チーズ! あ、結菜半目だ」
「と、撮り直してください!」
「皆んなに一斉送信完了!」
「沙里さん? どんなお仕置きがお望みですか?」
「に‥‥‥逃げろ!」
「待ちなさい!」
「宮川! 助けろ!」
「呼び捨て!? ‥‥‥って、今の沙里さんだよな?」
その頃、二人の写真を見た皆んなは驚いたが、それよりなにより黒髪の沙里の可愛さにビックリしていた。
そして芽衣は、結菜の顔を見て爆笑していた。
「なにこの結菜の顔! あ、そういえば今日って夏祭りじゃん。結菜に電話しよ」
「もしもし結菜?」
「なんですか!!」
「えっ‥‥‥」
「離してー!」
「沙里となんかしてるの?」
「さっきの写真です! 半目の写真を送られました!」
「気にしすぎだよ、全然変じゃなかったよ? (本当はめちゃくちゃ笑ったけど)」
「本当ですか?」
「うん。それよりさ、今日夏祭りあるじゃん? 一緒に行かない?」
「ちょっと待ってください、沙里さんにも聞いてみます」
「わかった」
結菜は沙里の服を掴んだまま聞いた。
「沙里さん、今日夏祭りがあるみたいなんですが、行きます?」
「夏祭り!? 行く行く行く行く行く行く行く行く!」
「だそうです」
「わかった! それじゃ皆んなにも連絡しとくから、十八時時に結菜の家集合でいい?」
「了解です。輝久君には私から連絡します」
「はーい、それじゃまた十八時にね!」
「はい」
沙里は夏祭りと聞いて目を輝かせている。
「夏祭りの準備の前に、アサガオの種植えましょうか」
「うん!」
二人は庭にアサガオの種を植え終わり、ショッピングモールに浴衣を買いに来た。
「浴衣ってたくさんあるんですね」
「そうだね。私、髪が黒くなったら着てみたい色があったんだ!」
「なんですか?」
「白!」
「白は汚れたら大変ですよ?」
「これ! これがいい!」
「沙里さん? ちゃんと話しを聞いてください‥‥‥って、それ黒ですよ?」
「柄が白いアサガオ! 結菜とお揃いがいい!」
すると、店員さんが声をかけてきた。
「ご試着されますか?」
「それじゃ、お願いします」
結菜と沙里、二人のサイズにピッタリの浴衣があり、二人は浴衣を着て試着室から出てきた。
そして二人はお互いを見て同時に言った。
「可愛い」
二人が頬を赤らめると、店員さんも二人を褒め始めた。
「お似合いですね! どうですか? ご購入なされますか?」
「はい、それじゃ、着たまま購入とかできますか?」
「大丈夫ですよ! それではレジまでご案内します!」
沙里は嬉しそうにレジに向かったが、沙里はまだ浴衣の値段を知らなかったのだ。
「一点で二万八千円になりますので、二点お買い上げて五万六千円になります」
「ゆ‥‥‥結菜、私お金ない‥‥‥」
「愛梨さんからお小遣い貰ってますよね?」
「えっと‥‥‥」
「もしかして全部使ったんですか!?」
「だって、お菓子の付録をコンプリートしたくて‥‥‥」
「それじゃカードでお願いします」
「買ってくれるの?」
「家族になったお祝いです」
「結菜大好きー!」
「抱きつかないでください! 浴衣が崩れます!」
店員さんが、そんな二人の足元を見て言った。
「下駄とか大丈夫ですか? 下駄や髪飾りも当店にございますが、いかがなさいましょう」
「そうですね、せっかくですから買っていきます」
二人はお揃いの浴衣に下駄、そして髪飾りを購入して、完全なるペアルックが完成した。
「沙里さん、次は美容室に行きましょう」
「なんで?」
「せっかく髪飾りも買ったんですから、似合うようにセットしてもらいましょう」
「分かった!」
ショッピングモール内の美容室に行き、二人同時にセットが始まった。
美容師の人は、沙里の髪を見て笑顔で言った。
「綺麗な黒髪ですね。ケアとかしてるんですか?」
「なにもしてないです! 昨日まで白髪でした!」
「白くなるほどブリーチしてたんですか!? それでこの髪質は凄いですよ!」
「ま、まぁね!」
結菜は沙里の顔を見て思った。
(沙里さんは嘘をつくと鼻の穴が膨らむんですね。なるほど)
髪もセットしてもらい、綺麗になった二人は一度家に帰って、時間までゆっくりすることにした。
※
そして十八時、輝久と芽衣と柚木が結菜の家にやってきた。
「綺麗!」
芽衣は驚いた様子で沙里の周りをグルグルと回り始めた。
「凄い! 本当に真っ黒!」
「美容師さんに綺麗な髪って褒められた!」
「よかったね!」
「うん!」
柚木が今いるメンバーを見て言った。
「他の皆んなは?」
「なんか、お盆帰り? 親の実家に帰るんだって。皆んな明後日には帰ってくるらしいけど」
「そうなんだ、残念だけど今年はこのメンバーで行こうか!」
そんなこんなで五人で祭り行くと、すでに人で溢れかえっていて、とても賑やかな雰囲気に一瞬で飲まれてしまった。
***
「あれなに!?」
沙里さんが水ヨーヨーを指差して興味を示した。
「水ヨーヨー知らないんですか?」
「水ヨーヨー? ヨーヨーは知ってるけど」
「一回百円だし、やってみたらどうですか?」
僕がそう言うと、沙里さんが結菜さんを、捨てられた子犬のような瞳で見つめた。
「そんな目で見てもダメです。やりたいならちゃんとお願いしてください」
「お願いします!」
「はい、百円です」
「ありがとう!」
すると、柚木さんが財布を開きながら言った。
「せっかくだし全員でやってみようよ!」
柚木さんの一言で、結局全員やることになった。
そしてふと芽衣さんを見ると、既に四個もゲットしていた。
「芽衣さん凄い!」
「こういうの得意なの!」
「僕なんて一個で終わっちゃたよ」
その点、沙里さんと結菜さんは一個も取れずに柚木さをを応援していた。
「柚木! それそれ! その水色のやつ!」
「えっ、あ、こ、これ?」
「柚木さん! 今です!」
「う、うん! あ、取れなかった」
「柚木の下手くそ!」
「二人に言われたらやりづらいって!」
「まぁまぁ、私四個も取れたからさ、三人に一個ずつあげるよ!」
沙里さんは水色の水ヨーヨーを芽衣さんに貰い、子供のように喜んで遊んでいる。
「沙里さん? そんなに激しくしたら割れちゃいますよ?」
「結菜もやってみなって! これ面白いよ!」
「あ‥‥‥」
案の定、沙里さんの水ヨーヨーは割れてしまい、水は芽衣さんの服にかかってしまった。
「沙里! 結菜に注意された時にやめないから!」
「ごめんごめん、それよりブラ透けてるよ」
「え!?」
なに!?ピ、ピ、ピンク!!
あ、やばい、思わず見ちゃった。
「輝久君、こっち見てください」
「あぶっ! 結菜さん! なにするの!」
結菜さんは僕の顔の前で水ヨーヨーを割り、僕の顔が水浸しになってしまった。
「輝久君が悪いんです」
「お嬢ちゃん達、店の前で困るよ」
「す、すみません!」
店の人に怒られた結菜さんを見て、芽衣さんと柚木さん、そして沙里さんと僕がクスクスと笑うと、結菜さんは反省したように顔を赤らめた。
その後、皆んなで写真を撮り合ったり、唐揚げや焼きそばを食べたりしていると、沙里さんが金魚掬いの旗を見て言った。
「ねぇ結菜、金魚も売ってるの? 食べるの?」
「もしかしてですけど、お祭りに来るの初めてですか?」
「‥‥‥やっぱり変だよね」
「変じゃないですよ? 金魚掬いやってみますか?」
「やってみたい!」
金魚掬いの前に行くと、沙里さんのテンションが露骨に上がった。
「金魚が沢山泳いでる!! すごい!!」
「僕も一匹掬っていこうかな」
芽衣さんと柚木さんと結菜さんは、沙里さんと僕が金魚掬いをするのを眺めている。
「沙里さん、それじゃ袖が濡れちゃいますよ?」
「袖上げて!」
「分かりました」
「私がやります」
こーわい。結菜さんの笑顔こーわい。
「ありがとう結菜!」
「どういたしまして、身の回りのことを輝久君に頼まないでください。輝久君は私以外に触れちゃいけないんです」
「分かった分かった。そんなに嫉妬しないの!」
「嫉妬じゃないです。法律です」
「怖いよ結菜」
***
柚木は三人の微笑ましい光景を見て芽衣に言った。
「なんか三人を見てるとさ、親子みたいじゃない?」
「確かにね、結菜は子供ができても子供に嫉妬してそう」
「いいな‥‥‥」
「え?」
「輝久と結婚とか羨ましいなって」
「そうだね。でも、私はもう輝久を諦めたんだ」
「それが正しいかもね」
「うん‥‥‥」
その時、沙里が嬉しそうに声を上げた。
「取れたー! 結菜! この子飼っていい?」
「いいですよ。宮川さんに水槽の準備をお願いしておきます」
「僕も一匹ゲット!」
「さすが輝久君です! 天才です!」
「結菜? 私の時と反応違くない?」
「わっ! 沙里さんも凄い! 白菜です!」
「は? まぁいいや、芽衣と柚木も見て! 金魚!」
柚木は笑顔で言った。
「すごいね!」
だが芽衣は、その金魚を見て顔をしかめた。
「なんかこいつブサイクじゃない?」
「え? 可愛いよ?」
「いや、ブサイクだよ」
「んじゃ、名前ブサ丸にしよ」
「可哀想‥‥‥」
それから全員で輪投げや射的で遊び、イチゴ飴を舐めながら座ってゆっくりしていた。
その時、空一面に大きな花火が上がり、全員の視線は花火に向けられた。
「綺麗‥‥‥」
「沙里さん、花火を見るのも初めてですか?」
「うん!」
輝久達全員、花火そっちのけで、花火を見る沙里の表情に見とれていた。
その表情は、夢を叶えた少女のように明るく、オモチャを買ってもらった子供のように目を輝かせていた。
***
そして祭りの帰り、皆んなと解散して、僕と芽衣さんの二人っきりになった。
「祭り楽しかったですね!」
「そうだね! 皆んなも楽しそうだったし!」
「うん! そういえば、今は待ち受けなににしてるんですか?」
「あー、ネットから拾ってきた月の画像」
「ちょっと携帯貸してください」
「え? いいけど‥‥‥」
僕は芽衣さんの携帯でカメラを開き、内カメで自分にカメラを向けた。
「隣に来てください!」
「う、うん」
「撮れました! 流石にキスの写真は無理ですけど、これぐらいなら!」
「‥‥‥なんで?」
「僕との写真を消された時の芽衣さん、凄い辛そうだったから。これであの日の鈴さんを完全に許してあげられるかなと思ったんです! それじゃ、僕は帰りますね!」
***
走っていく輝久を見て、芽衣は心が締め付けられた。
「行かないで‥‥‥」
その小さな声は届くことはなかった。
「(どうして諦めがついた頃に、こんなことするかな‥‥‥)バカひさ」
***




