地雷女
「輝久くーん!」
「鈴さん?」
校門をくぐったとこで、鈴さんに声をかけられ、警戒心マックスで振り返る。
「おはよう!」
「お、おはようございます」
「私ね、昨日のこと反省したんだ」
「そうなんですか! それなら皆んなも仲良くしてくれますよ!」
「そうだといいな。それでね、芽衣に謝りたくて、学校が終わったら芽衣を呼び出そうと思うんだけど、多分私が言っても来てくれないからさ、芽衣と一緒に来てくれない?」
「謝るだけならいいですけど」
「だから周りの人にバレないように、芽衣を呼び出してほしいの」
「どこにですか?」
「お詫びのお菓子とかも出したいから、私の家で!」
「僕、鈴さんの家分かりませんけど」
「芽衣は知ってるからさ! 学校が終わったら一緒に来て!」
「わ、分かりました」
周りにバレないようにって言われたけど、一応結菜さんには許可をもらっておこう。
「それじゃ、一緒に登校するといろいろ大変なので、僕は先に行きますね」
僕はM組の校舎に走って向かい、男子トイレに結菜さんを呼び出した。
「輝久君の方から呼び出すなんて♡ 写真撮られるのが癖になってしまったんですね♡」
「そ、そうじゃなくてね、今日なんだけど、芽衣さんと二人で鈴さんの家に行っていいかな」
そう聞くと、結菜さんは急に目を細めだした。
「どうしてですか?」
僕は登校中に鈴さんから言われたことを全て教えた。
「仲直りのきっかけになるなら仕方ありませんね」
「え、いいの!?」
「はい。ですが、私はまだ鈴さんを信用していません。家に入ったら、私とこっそり電話を繋いで、会話が聞こえるようにしてください」
「わかった!」
「さて♡ 輝久君の要件は済みましたね♡ 早く脱いでください♡」
「は、はい‥‥‥」
いつも通り結菜さんに写真を撮られて、頭を抱えながら教室に戻った。
※
なんとなく、直接伝えない方がいいと思い、休憩時間に芽衣さんへメッセージを送って、学校が終わったら一緒に鈴さんの家に行くことになった。
そして学校にいる間、芽衣さんと鈴さんは一度も喋ることはなかった。
※
学校が終わると、鈴さんは足早に帰っていき、僕と芽衣さんは一緒に鈴さんの家に向かった。
「ここが鈴の家だよ」
「なんか普通の家で安心です」
「どういうこと?」
「結菜さんの家とか、愛梨さんの家とか、豪邸ばっかりだったからさ、鈴さんもお金持ちだったらどうしようと思って」
「なるほどね! とりあえずチャイム押すね」
芽衣さんがチャイムを押すと、鈴さんは笑顔で僕達を招き入れてくれた。
そして僕は二人にバレないように、結菜さんと通話を繋げた。
「ここが私の部屋! 今日は親がいないから気遣わないでね!」
鈴さんの部屋はピンクピンクしていて、ウサギとクマのぬいぐるみが沢山置かれている。
床に置かれたクッションに座り、部屋を見渡していると、芽衣さんが口を開いた。
「それで? 話って?」
鈴さんは申し訳なさそうに俯いた。
「昨日のこともそうだけど、昔のことも、本当にごめんなさい‥‥‥これからは皆んなと仲良くしていきたいなって」
「謝ってくれたから、もういいよ」
「それじゃ仲良くしてくれる?」
「うん! 明日結菜とかにも謝りなね?」
へー、意外と芽衣さんってあさっりしてるな。単純に優しいだけかな。
「わかった! 輝久君も友達になってくれる?」
「もちろんです! クラスメイトとして仲良くしましょう!」
「やったー! それじゃ、皆んなでお菓子食べよ! 私、お菓子とジュース持ってくるね!」
鈴さんは嬉しそうに明るい笑顔で部屋を出て行った。
なんか不安だったけど、結局はいい人だったんだな。
「芽衣さん、よかったですね!」
「うん! また仲良しに戻るのは時間かかるかもしれないけど、これからは楽しくやっていきたいな」
「きっと大丈夫ですよ!」
「うん!」
それからすぐに、鈴さんはジュースとお菓子を持って部屋に戻ってきた。
「おまたせ! オレンジジュースでよかった?」
「うん! ありがとう!」
「輝久君もオレンジ大丈夫?」
「はい!」
「それじゃ、仲直りした記念と、友達になった記念で乾杯しよ!」
「カンパーイ!」
いい雰囲気で乾杯して、僕と芽衣さんはオレンジジュースを飲み、芽衣さんは嬉しそうに話しだした。
「まさか、また鈴とこうやって話せると思わなかった!」
「私も! 本当によかった!」
「じゃあさ、今度こそは皆んなで遊園地行こうよ!」
「行きたい行きたい!」
二人が仲良くなれて本当によかったな。
結菜さんも会話聞いて安心してるのかな‥‥‥あれ‥‥‥なんか、急に眠く‥‥‥芽衣さん‥‥‥?
気づけば芽衣さんは机に顔を伏せていて、ボヤける視界で鈴さんに視線を移すと、ニヤニヤと僕を見つめていた‥‥‥。
「残念だね。友達になんかなれるわけないじゃん。バーカ」
なんで‥‥‥。
***
その頃結菜は、鈴の家の外で電話の音声を聞いていた。
「沙里さん、いるかしら」
結菜が呼びかけると、コンクリートの壁から沙里が顔を覗かせた。
「ちゃんと監視していてくれたのね」
「うん」
「なんか様子が変なんです。輝久君と電話が繋がっているのですが、いきなり声が聞こえなくなってしまって、さっきから物音だけが聞こえてくるんです」
「なにしてるんだろ。トイレでも行ったんじゃない?」
「だといいのですが」
***
それからしばらくして僕が目を覚ますと、パンツ一丁で、声を出せないように口にはガムテープを貼られて、手は後ろに回され、足もガムテープでぐるぐる巻きにされていた。
芽衣さんはまだ起きていないけど、制服は着たまま、僕と同じように手足と口にはガムテープが貼られていた。
部屋に鈴さんはいないようだ。
これ、どうゆう状況なんだ‥‥‥それより、こんなパンツ履いてるの見られたら!
その時僕は、眠ってしまう直前に見た、鈴さんの表情と言葉を思い出し、焦ってガムテープを取ろうともがいた。
だが、ガムテープが外れるわけもなく、鈴さんが部屋に入ってきてしまった。
「輝久君、やっと起きたんだ。芽衣はまだ寝てるんだね」
「んー! んー!」
「うるせーよ、それとも早く芽衣にその格好を見て欲しいの? ビックリしたよ、輝久君がそんな変態な趣味してたなんてね。芽衣が知ったらどうなるかな? あははは!」
その時、芽衣さんも目を覚まし、自分が縛られていることに気づいてもがき始めた。
「やっと芽衣も起きた! どうしたの? そんな暴れちゃって、手足動かせなくて芋虫みたいだね! きもーい」
芽衣さんは動けないにも関わらず、鈴さんを睨みつけた。
「なに? そんな睨んでも全然怖くないよ? それよりさ、輝久君見てみなよ」
芽衣さんは僕の姿を見て、驚いたように大きく目を開く。
終わった‥‥‥死にたい。
「あはは! 傑作だよね! 芽衣の彼氏に女性物下着を履く趣味があったなんて!」
見ないでくれー!って‥‥‥彼氏?
「私が二人の人生めちゃくちゃにしてあげるよ」
鈴さんは芽衣の制服を引っ張って、芽衣さんを僕の横に並べると、僕達に携帯を向けた。
「はーい! 写真撮影しまーす!」
鈴さんは僕達を不気味な笑顔で見つめながら、写真を撮り始める。
「ほらほら、二人ともこっち向いて? 芽衣? もっと楽しそうな顔しなよ。せっかくのツーショットなんだからさ! あー、そっか、芽衣も制服着たままじゃ嫌か!」
鈴さんは抵抗できない芽衣さんの制服を脱がし始めてしまった。
「んー!!」
「何言ってるか全然わかんなーい」
「んー!! んん!!」
「なにー? あー! わかった! 彼氏とお揃いの格好になれて嬉しんだ! はい、これでお揃いだね!」
鈴さんは芽衣さんを下着姿にして、下着姿の僕達をまた携帯で撮り始める。
「これネットに流したらどうなるかな! 楽しみだね! あ! 芽衣の携帯でも撮ってあげるよ!」
鈴さんは芽衣さんの携帯を取り、僕達の写真を撮った。
「わー! お似合いの二人だね! 今の待ち受けの画像は全然お似合いじゃないから消してあげるね! そして、今撮ったのを待ち受けにしてあげる!」
「んー!!!!」
「ごっめーん、もう消しちゃった!」
すると芽衣さんは鈴さんを睨みながら涙を流した。
(輝久との大切な思い出が‥‥‥)
「なに泣いてんの? 泣きたいのは私の方だよ。仲間外れにされて悲しかったなー。そうだ! 輝久君の携帯でも撮ってあげる!」
やばい、電話してるのがバレる!
「なにこれ、なんで電話繋がってるの?」
その時、鈴さんの家のドアノブが激しく動く音が聞こえ、僕の携帯から結菜さんの声が聞こえてきた。
「開けなさい!!」
鈴さんは舌打ちをして電話を切ってしまった。
「そういうことか。輝久君は最初から私を疑ってたんだね。まぁいいや、どうせ入ってこれないし。ねぇ、芽衣の彼氏奪っちゃってもいいよね」
な、なにする気なんだ‥‥‥。
鈴さんは僕の口に貼られたガムテープを外し、その瞬間、僕は大きな声を出した。
「なんでこんなことするんですか!!」
鈴さんは僕の髪を掴み、恐ろし表情で僕を見下ろした。
「でかい声出したら、その度に芽衣を殴る」
「それは‥‥‥やめてください」
「それじゃ静かにして? ねぇ、芽衣? 今から芽衣の彼氏とキスするからさ、よーく見ててね」
「‥‥‥」
「キ、キス!?」
鈴さんは僕の髪を掴んだままキスをしようとしたが、キスするスレスレで止まった。
「なんで泣かないの? そんなに睨んで、怒りの方が勝っちゃった? そっか、キスぐらいじゃ泣かないか。だったらこれは?」
「うっ‥‥‥」
「んー!! んーん!!」
鈴さんは急に思いっきり僕の首を絞め始め、僕は苦しくてもがくことしかできない。
「あー! 泣いた! ほら、もっと泣きなよ。早く助けないと、輝久君死んじゃうよ? ほら、頑張れ頑張れ」
芽衣さんは手足を縛られながらも、床に倒れて鈴さんに近づこうとした。
「んー!! (やめて‥‥‥輝久は関係ないのに‥‥‥)
「いい顔だよ芽衣。嫌いな奴のこんな顔見れるなんて最高の気分!」
その時、鈴さんの部屋の窓ガラスが割れた。
「なに!?」
驚いた鈴さんは手を離し、割れた窓を見て唖然としている。
すると、割れた窓から沙里さんがひょこっと顔を出した。
「誰だよお前! てか、身長何センチだよ!」
「うるせーよ地雷女、ちなみに身長は百四十ニ。次身長の話したら殺す」
「だったらどうやってそこまで上がってきたんだよ! てか、窓弁償しろよ!」
「工事現場からハシゴ借りてきた。弁償はするよ? 結菜が。んじゃ、お邪魔します」
「靴脱げよ!」
「ガラスの破片刺さったらどうするの? バカなの? あー、よく見たらバカっぽい顔してるわ」
「警察呼ぶぞ!」
「呼んだらいいじゃないですか。一緒に捕まりましょう」
そう言って、結菜さんもハシゴを登って部屋に入ってきた。
「沙里さんは二人のガムテープを取ってあげてください」
「はーい」
沙里さんは最初に僕のガムテープを取ってくれた。
「ありがとう、助かりました」
「輝久ってこういう趣味あったんだね」
「ち、違います! これには深い訳が!」
「うん、誰にも言わないから」
あれ?沙里さんって意外と優しい?
それより、こんな時も眠そうなの逆にすごいな。
芽衣さんも無事にガムテープを取ってもらい、僕達はすぐに制服を着た。
「鈴さん、貴方はどこまでもクズですね」
「だからなに? 結菜ちゃんにクズって思われてもどうでもいいし」
「貴方はもう、少なくともM組の生徒とは仲良くなれないわよ」
「仲良くするつもりないから別にいい。私はずっと一人だったし、誰も私のことなんて愛してくれないもん」
「当然じゃないですか。ずっと一人なのも、誰も愛してくれないのも、全部人のせいで自分は悪くないと考えているのですから」
「だって悪くないし!」
「貴方と話していても時間の無駄ですね」
「へー、そうやって逃げるんだ。ダッサ」
「逃げではありません。貴方の様な人間から早く離れたいだけです。関わるのすら苦です」
「なに言ってんの? 意味わかんない」
「貴方の周りに人がいないのは、皆んな私の様な考えをもったからではないですか? それと気になっていたのですが、三年生のこの時期に、なぜ転校してきたんですか?」
すると、鈴さんは急に顔をしかめて俯いてしまった。
「ごめんなさい。言いづらいことを聞いてしまったみたいですね」
「私知ってる」
芽衣さんが鈴さんを睨みながら話し出した。
「SNSでたまたま鈴のアカウントの呟きが回ってきたから、鈴のアカウント見たの。鈴が裏垢で元彼の悪口を言いまくってるのが表に出て、鈴が広めた嘘の悪い噂で元彼を退学に追い込んだってことが周りにバレたの。それでネットの人がいろいろ特定しだして、元彼は悪くなかったってことがどんどん広まって、居場所がなくなったんだよね? まさか私達の高校に来るとは思わなかったけど」
「それは反省したから!」
「反省してないじゃん。私達の写真をネットに呟いて、人生めちゃくちゃにするんじゃないの?」
「当然じゃん。あんな写真晒されたら二人とも終わりだね」
次の瞬間、沙里さんが床に置かれた鈴の携帯をハンマーで叩き割った。
「お前なにやってんだよ!! てか、なんでハンマー持ってるの!?」
「写真消すのめんどくさいから携帯壊しておいた。ハンマーはね、自分の身を守るために持ち歩いてる。私のカバンの中、武器だらけ」
「ふざけんなよチビ!!」
「女の子は小さい方がモテるらしいよ? あとさっき言ったよね。身長の話したら」
今にもブチギレそうな沙里さんの頭を、結菜さんがニコッと笑って撫で始めた。
「よくできましたね、沙里さん」
「本当!? ご褒美は?」
「最上級のご褒美を期待していてください」
「うへへ♡」
鈴さんが沙里さんを殴ろうと襲いかかろうとしたが、沙里さんに素早い動きでカッターを向けられて動きが止まった。
「私に手を出したら痛いよ? でも、さっきチラッと見えたけど、腕の包帯を見る限りカッターの痛みには慣れてるか。それともあれ? 龍でも封印してるの?」
「馬鹿にするな!!」
「だって馬鹿じゃん。あ、腕を切ってることじゃないよ? それは別になんとも思わない。私が言いたいのはあんたの頭のことだから」
「‥‥‥全員帰って」
「はい、そうさせてもらいます。これは窓の弁償代です」
結菜さんは鈴さんに十万円を渡し、鈴さんはそれを無言で受け取った。
僕は鈴の家を出て、やっと嫌な汗が全身から引くのが分かった。
「二人ともありがとう。助かりました」
「無事でなによりです」
すると、沙里さんが携帯で時間を確認して言った。
「ねぇ、好きなアニメ始まる。帰りたい」
「いいですよ。今日はありがとうございました」
「うん、ご褒美期待してる。輝久と芽衣もバイバイ」
沙里さんは眠そうな雰囲気に似合わず、全力疾走で帰っていった。
そしてすごいマイペースだ。
「よかったら、今日は三人で柚木さんに会いに行きませんか?」
「行く。嫌な目にあったから、柚木に元気貰わなきゃ」
「柚木さんに元気あげる側でいてください」
「だってー」
「帰りにケーキ奢ってあげますから」
「わかった」
芽衣さんは露骨にテンションが下がっている。
少し怒っている様にも感じたけど、特に僕達にキツくあたるとかはない。
※
三人で柚木さんに会いに行き、柚木さんとお話をして、鈴さんとのこともスッキリしないまま土曜日を迎えることになった。




