亀裂
水族館に着き、中に入ると、前に来た時にいたマンボウがいなくなっていた。
「あれー? マンボウいないね」
「死んじゃったんですかね」
「なんか悲しいね、前はいたのに」
「そうですね。他の魚見ましょ!」
「うん! 手、繋いでいい?」
「は、はい」
芽衣さんと手を繋ぎながら水族館内を見て回り始めた。。
「ねぇ輝久」
「なんですか?」
「今日は私達、恋人なんだよね」
「そ、そうみたいですね」
「ならさ、復縁ってことになるのかな?」
「た、多分」
「そっか! 私の願いが一つ叶った!」
「復縁ですか?」
「うん! 私、今日の思い出を写真に残したい」
「いいですよ! どこで撮りますか?」
「ペンギンのとこで撮ろうよ! 私、ペンギンって好きなんだ」
「なんでですか?」
「ペンギンって鳥なのに飛べないじゃん? だけどきっと、あの子達も飛びたいんだよ。気持ちよく飛んだ先の世界で幸せを掴みたい! でもそれが叶わないから、泳いで生きるっていう別の道を選んだの。別の道でも、幸せを見つけようとしてるんだよ。私みたいに」
「なんか‥‥‥深いですね」
「そうかな? 早く写真撮っちゃお!」
ちょうどペンギンコーナーが空いていて、二人で写真を撮るには最高のタイミングだった。
芽衣さんは自分の携帯を取り出し、内カメでツーショットを撮ろうと携帯を構えた。
「撮るよ!」
「‥‥‥芽衣さん!?」
「この写真は一生の宝物! 待ち受け画面にしちゃお!」
芽衣さんは写真を撮る瞬間、僕の右頰にキスをして写真を撮ってしまった。
そして、芽衣さんは待ち受けにした写真を見つめて、どこか切なそうな表情をした。
「‥‥‥どうしたんですか?」
「唇にしたら、ダメかな」
僕は二日連続で違う女性とキスをして、三日目の今日、なんかもうどうにでもなれ、そんな心境になっていた。
「芽衣さん」
芽衣さんが僕の方を向いた時、僕の方から芽衣さんの唇にキスをしてしまった‥‥‥。
芽衣さんは驚いて何も言わない。
(本当は、私のこと好きなのかな。やっぱり、輝久とやり直したいよ‥‥‥)
「ご、ごめんなさい! ダメでしたか?」
「輝久からしてくれると思わなかった」
その時、僕は思い出した。
僕の方からキスをしたのも、結菜さんが見ているんだだった。結菜さんを傷つけたかもしれない‥‥‥。
そうじゃなくても、いけないことなのに。
***
輝久から芽衣にキスをする光景を見た結菜は、静かにモニターの電源を切った。
「宮川さん、三日間お疲れ様です。私は少し仮眠をとります」
「いいんですか?輝久さん、キスしてましたよ」
「人を信じるって、なんなんでしょうね」
結菜は、そう言い残して自分の部屋へ行ってしまった。
***
僕と芽衣さんは、ペンギンの水槽をバックにして見つめ合う。
「輝久」
「なんですか?」
「私と付き合って」
「い、今付き合ってるじゃないですか」
「そうじゃなくて、ちゃんと‥‥‥付き合ってほしい‥‥‥です」
「いきなり敬語とかやめてくださいよ!」
「だって真剣だから」
「と、とにかく、ここじゃあれですから、一回レストランに行きましょう!」
僕達は水族館内にあるレストランに向かった。
どういうことだろう。
芽衣さんは結菜さんのことを考えて、いつも僕から一歩引いていた。
なのに、さっきの言葉はどういうことなんだ。
レストランに着き、ドリンクだけを頼んだ。
「あの‥‥‥芽衣さんは今、結菜さんのことどう思ってますか?」
「大切な友達。傷つけたくない」
「なら、なんであんなこと言ったんですか?」
「輝久のことが本当に好きだからだよ。結菜を一人にしちゃいけないっていう気持ちもあるの。でもね、最終的には輝久が決めることで、情に流されて結菜の心を守るのも変かなって思っちゃった」
「芽衣さんはペンギンなんじゃないんですか? 他の道で幸せを探すんじゃ‥‥‥」
「いろんな道を歩いたよ。輝久を忘れようとして一樹と付き合ったり、でも、私の幸せは輝久と結ばれることだった」
これは、ハッキリ言わなきゃな‥‥‥。
「それでも僕は、結菜さんが好きなんです」
すると芽衣さんは急に立ち上がり、大きな声をだした。
「じゃあなんで!? なんでさっきキスしたの!?」
「それは‥‥‥」
周りのお客さんの視線が痛い。
「私はもう諦めない!! 嘘とかついて、輝久を奪ったりはしない。 だけど、もう一回‥‥‥もう一回だけ、輝久を振り向かせる努力をさせて。それもダメ?」
「それは‥‥‥いいですけど」
芽衣さんは静かに座り直し、ドリンクを一口だけ飲んで口を開いた。
「ありがとう。でも、結菜の前ではなるべく普通にする」
「そうしてくれると助かります」
「うん、今日は‥‥‥帰ろうか」
僕達は気まずい雰囲気の中で帰宅した。
芽衣さんとの一日は、すごい微妙な感じて終わってしまったな。
※
ゴールデンウィークも終わり、学校に向かっている途中、僕の頭の中は結菜さんでいっぱいだった。
あー、結菜さんにどんな顔して会えばいいんだろう。絶対怒ってるしな‥‥‥。
※
学校に着くと、【M組の生徒はあちらへ→】の看板が立っていて、矢印の方に向かうと、M組の校舎が建て直されていた。
全体的に前より綺麗で、窓もしっかりあるし、教室も全学年に対応して三クラスになっている。
教室に入ると既に皆んな居て、綺麗になった教室に感動していた。
そんな中、結菜さんはいつもの様に本を読んでいる。特に今のところ何事もないみたいだ。
「ゆ‥‥‥結菜さん! おはよう!」
「‥‥‥」
無視された‥‥‥。
結菜さんが僕を無視したことにより、芽衣さんと一樹君、そして美波さんと真菜さんは驚いて僕達の方を見つめてくる。
「はーい! 皆んな席について!」
結菜さんと会話する前に、莉子先生が来てしまった。
「愛梨さんが頼んでくれて、ゴールデンウィーク中にM組を建ててくれたの! 早すぎてビックリしたけど、皆んなよかったわね!」
すると、結菜が静かに本を閉じて口を開いた。
「先生、席を変えてもいいですか?」
「え? いいけど‥‥‥いいの?」
「はい」
そして、結菜さんはすぐに一番後ろの席に行ってしまった。
やっぱり怒ってるんだ。後でちゃんと謝ろう。
莉子先生が僕をムッとした表情で見てきて、僕は思わず目を逸らしてしまった。
(まったく輝久君、結菜さんに何酷いことしたのかしら)
※
休憩時間になると僕は、本を読む結菜さんの席の前に立ち、頭を下げた。
「ごめんなさい!」
「話しかけないでもらえますか?」
「ど、どうしてそんなに冷たいの? こうして謝ってるのに」
「浮気者と話したくないんです」
「あれは、結菜さんが勝負に負けたからしょうがなく‥‥‥」
「しょうがなく、ですか? 自分からキスをしたのがですか?」
「あれは‥‥‥」
結菜さんは、まるで僕に無関心かのような冷たい表情で僕と目を合わせた。
「二度と、私に話しかけないでください」




