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金の力

翌朝学校に着くと、校門のところに人集りができていた。

近づいてみると、結菜さんと愛梨さんが話しているのを見て、また何か起こるんじゃないかと、皆んなが注目しているようだった。


「朝から何の用でしょうか、結菜先輩」

「私と全てを賭けた勝負をしましょう」

「なにを言っているんですか? それに、結菜先輩には退学を言い渡したはずですが」

「退学について何も手続きをしていませんので。それで、もちろん勝負には乗りますよね?」

「全てを賭けるというのは、具体的に何を賭けるのでしょうか」

「私が負けたら全てを、命すらも。愛梨さんが負けたら、全生徒の退学取り消し、莉子先生のクビを取り消し、生徒会長をやめて、また悠人先輩を生徒会長にしてください」

「それでは私の負けた時の条件が多すぎませんか?」


結菜さんは愛梨さんの頬に触れて、挑発するように言った。


「怖いですよね、今の地位が崩れるのは。でも貴方は、両親やお爺様の権力を利用して調子に乗っている。ただのお子ちゃまなの」


そして、結菜さんは愛梨さんの耳元で囁く。


「あなた自身には、なんの力もないのよ」

「勝負に乗りましょう。ただし私が勝ったら、私の家で一生奴隷として働いてもらいます。勿論、結菜先輩の家の財産も全て私の物です。そして、一生輝久先輩と会うことを許しません」

「いいでしょう。それでは今日の放課後、ここで待ち合わせです」

「了解しました」


その瞬間、周りの野次馬達が異様な盛り上がりを見せた。


「敗者復活戦か!?」

「お前どっちに賭ける!?」


弁当のおかずを賭ける者、現金を賭ける者までいた。


盛り上がってる横を通り、僕はM組に行き、結菜さんに話しかけた。


「あんな賭けしてよかったんですか? 負けたら大変なことになりますよ?」

「輝久君は私が負けると思っているのですか?」

「そうじゃないけど‥‥‥」

「大丈夫ですよ、勝ち筋は見えています」

「信じてます」





その日、柚木さんは学校に来なかった。

莉子先生も来なくて、新しい先生すらM組にやってくることはなかった。

一樹君と芽衣さん、美波さんと真菜さんの四人に、勝負のことを伝えて、四人は結果を明日の学校で聞くことになり、放課後になると、僕と結菜さんは校門に向かい、愛梨さんと合流した。


「何故、輝久先輩がいるのですか?」

「見届け人です」

「そうですか。それで、勝負内容はなんでしょう」

「今からゲームセンターのメダルコーナーで、制限時間を設け、最終的にメダルをより多く持っていた方の勝ちです」

「ああいう場所、うるさくて苦手なんですが」

「音なんてすぐに慣れます。行きましょう」


少し不満そうな愛梨さんを連れてゲームセンターにやって来て、勝負は平等にメダル百枚から始まった。

制限時間は十五分分だ。


そしてついに勝負がスタートした瞬間、二人はメダルコーナーのカウンターに向かった。


「あら? 何故愛梨さんもカウンターに?」

「結菜先輩こそ、何故ここに?」


二人とも思考が同じなんだ‥‥‥。

ゲームが苦手ならメダルを買えばいい‥‥‥二人とも、なかなか捻くれている。


二人は同時に財布からお金を出して言った。


「メダルを百万円分購入します」


店員さんは一瞬フリーズした後、慌てた様子で何処かへ行ってしまった。

よく分からないまま待っていると、しばらくして、店長らしき人を連れて戻ってきた。


怒られるのかと思ったが、店長は大はしゃぎで社員を集めて、すぐにメダルを用意し始めた。


しばらくするとメダルコーナーの一角に、メダルの山ができて、結菜さんと愛梨さんの手持ちは、四十五万百枚になった。

だが二人は止まらない。


「もう百万円分お願いします」


この勝負、最初にお金が尽きた方が負ける‥‥‥。

家だけを見ると、明らかに愛梨さんの方がお金持ちっぽいけど大丈夫かな。


二人の手持ちは九十万百枚になり、他のお客さんがゲームそっちのけで二人を見ている。


次から次へとお金を注ぎ込む二人に、さすがの大はしゃぎ店長も、焦った様子で言った。


「これ以上は他のお客様の分のメダルが無くなってしまいますので、一度購入なされたメダルで遊んでいただき、無くなりましたらまた是非ご購入ください!」





制限時間が残り五分となった時、二人はお金の力を使えなくなった。

愛梨さんは最初の百枚枚だけを持ってビンゴゲームに一気に百枚ベットした。

結菜さんも同じく、同じゲーム機に百枚ベット。


この一回で勝敗が決まる‥‥‥ 。

二人とも最後のボールを残してリーチ状態だ。

八番にボールが入れば結菜さんの勝ち。

二十四番にボールが入れば愛梨さんの勝ちだ。


結果は‥‥‥


「結菜先輩、私の勝ちです」


結菜さんのメダルは九十万枚。

愛梨さんのメダルは九十万二百枚。


嘘だ‥‥‥結菜さんが負けた‥‥‥。


絶望している僕に、結菜さんは残り時間を聞いてきた。


「残り時間はあとどれくらいですか?」

「あと二分しかありません‥‥‥」


僕がそう言うと、結菜さんは立ち上がり、カウンターに向かった。

それを見た愛梨さんは、僕に淑やかな表情で言った。


「もうメダルは買えないんですけどね。ごめんなさいね、輝久先輩。結菜先輩とは会えなくなりますが、寂しさは私が埋めてあげてもいいですよ?」

「いや、愛梨さん、結菜さんの勝ちです」

「え‥‥‥?」


結菜さんは、真菜さんと勝負した時に預けた四万五千百枚を、カウンターの横にある機械からおろしていたのだ。

これで結菜さんのメダルは九十四万五千百枚だ!


結菜さんが戻って来て、唖然とする愛梨さんに言った。


「私の勝ちです」

「‥‥‥やられましたね。まさか元からメダルを持っていたなんて、考えもしませんでした」

「約束は守っていただけますね?」

「いいでしょう。お爺様にも私から説明いたします。それにしても、このビンゴゲームは面白いですね。ボール一つで失うか得るかが決まる。スリルがあって私好みです。どうでしょうか、せっかく沢山のメダルがあるので、勝負関係なしで少し遊んでいきませんか?」

「そうですね。メダルを無駄するのは勿体ないですから、少し遊びましょうか」


それから何故か、嫌いだった人とビンゴゲームに没頭してしまった。


愛梨さんも結菜さんも、それなりに楽しんでいる。

二人とも大人びてるけど、結局は高校生なんだ。

遊ぶのが楽しいのは当たり前か。


最終的に、メダルを使い切ることはできず、残ったメダルは全て預けて帰ることになった。





翌日、M組に行くと、一樹君と芽衣さん、美波さんと真菜さんが、そわそわした様子で僕を待っていた。


そして、芽衣さんが不安そうに席から立ち上がって聞いてきた。


「勝負は!? どうなったの!?」


その時、結菜さんと柚木さんが一緒にM組に入ってきて、結菜さんは言った。


「勝敗は見ての通りです」


皆んなは小さな子供みたいに、飛び跳ねながら喜んだ。


「柚木さん、輝久君のことを諦める気は無いのですか?」

「ないよ、でもこれで終わり」


柚木さんはいきなり僕に抱きついて、皆んなが見てる前でキスをしてきた。

そして僕の腰に手を置き、僕を見つめながら言った。


「きっと、ずっと好き。結菜と幸せになってね! いや‥‥‥きっといつか奪うよ! きっと!」


急にキスされて動揺していると、真菜さんが大きな声を上げた。


「そんなのずるい!!」


真菜さんは柚木さんを押し退けて僕にキスをした。


「んっ!?」

「私もずっと好きだから。だから輝久君は幸せにならなきゃダメです」


更に、僕が言葉を発する間も与えず、美波さんが真菜さんを押し退けて僕にキスをした。


「辛くても、ずっと輝久を好きでいるから」

「ちょっ、ちょっと皆んな!? 僕最低野郎みたいになってません!?」


さすがにヤバいと思ったその時、芽衣さんが美波さんを押し退けて、僕を押し倒してキスをしてきた。


「ごめんね、我慢できなかった」

「あ、あの‥‥‥後ろ」


結菜さんは怒りすぎてか、逆に無表情のままカッターを手に持ち、僕達を見つめていた。

そんな結菜さんを見た美波さんは足を震わせて、ゆっくりドアに向かって歩きだす。


「みんな‥‥‥逃げろ!!」


美波さんと真菜さん、そして柚木さんは教室から飛び出していった。

その時、一樹君が口を開いた。


「輝久君ひどいよ! 俺が芽衣さんのこと好きって知ってるくせに!」


芽衣さんは驚いて僕から離れ、立ち上がる。


「は、はぁ!? いきなり告白!? きも」


一樹君はその場にうなだれた。

可哀想だけど、とにかく結菜さんを落ち着かせなきゃ!


「結菜さん、とりあえずそのカッターしまってください」


結菜さんはカッターをしまわずに、表情すら変えずに言った。


「なんで大人しくキスされたのかしら」

「い、いきなりでビックリして!」


結菜さんがどんどん僕に近づいてくる。

そして結菜さんが目の前で立ち止まり、僕の首にカッターを当てた。


「四人の女性との浮気現場を、この目でしっかり見ました。どう償います? もちろん四人には後からしっかり償いを受けさせます」


それを聞いて、芽衣さんも逃げるように教室を飛び出し、それを追いかけるように、一樹君も教室を出てしまった。


「ねぇ、輝久君? どう償いますか? 答えてくださいよ。ねぇ早く、どうして何も言わないんですか? 私が怖いですか? 仕方ないですよ、怒らせたのは輝久君なんですから」


このままだと殺される!

こうなったら、結菜さんが喜びそうなことを言うしかない!


「一生かけて、結菜さんを幸せにして償います!!」


その言葉を聞いた結菜さんは、いきなり照れた表情に変わり、モジモジしながら後ずさりをした。


「い、いきなりなんですか!? それは当たり前のことで、そ、それで許すとか無理です」

「でも、僕はしたくてキスしたんじゃ‥‥‥僕は本当に結菜さんが好きで、キスも結菜さんとしかしたくないです!」

「それなら今してください」

「い、今!?」

「誰もいないですから、大丈夫です」

「そ、それじゃ」


僕と結菜さんは、恥ずかしがりながら、誰もいない教室でキスをした。

ディープキスではなく、唇だけでお互いの唇を軽く噛むようなキスだった。

その時、また莉子先生がムードを崩すように入ってきた


「結菜さん! 私やめなくて済んだよ! ‥‥‥あっ、お邪魔でしたね」

「いえ、私は皆んなを殺してきますので」


結菜さんはキスをやめ、無表情のまま教室を出て行った。


「輝久君、今結菜さんなんて言ったの?」

「えっ‥‥‥は、早く結菜さんを追いかけなくちゃ!!」


結局皆んなは結菜さんに捕まり、土下座しながら命乞いをして、命は奪われなかったが、それなりの恐怖は植え付けられたみたいだ。


その後、十月にある体育祭と学園祭は無事開かれたが、昔からM組の生徒はそれに参加することは許されていなく、僕達にはあまり関係のない行事だった。





そして十一月に入り、少し肌寒くなった頃、皆んなはすっかり仲良しになり、今度M組のみんなでショッピングモールに行くことになった。

ショッピングモールにいい思い出がない僕は、何も起きませんようにと神に祈る。

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