金の力
翌朝学校に着くと、校門のところに人集りができていた。
近づいてみると、結菜さんと愛梨さんが話しているのを見て、また何か起こるんじゃないかと、皆んなが注目しているようだった。
「朝から何の用でしょうか、結菜先輩」
「私と全てを賭けた勝負をしましょう」
「なにを言っているんですか? それに、結菜先輩には退学を言い渡したはずですが」
「退学について何も手続きをしていませんので。それで、もちろん勝負には乗りますよね?」
「全てを賭けるというのは、具体的に何を賭けるのでしょうか」
「私が負けたら全てを、命すらも。愛梨さんが負けたら、全生徒の退学取り消し、莉子先生のクビを取り消し、生徒会長をやめて、また悠人先輩を生徒会長にしてください」
「それでは私の負けた時の条件が多すぎませんか?」
結菜さんは愛梨さんの頬に触れて、挑発するように言った。
「怖いですよね、今の地位が崩れるのは。でも貴方は、両親やお爺様の権力を利用して調子に乗っている。ただのお子ちゃまなの」
そして、結菜さんは愛梨さんの耳元で囁く。
「あなた自身には、なんの力もないのよ」
「勝負に乗りましょう。ただし私が勝ったら、私の家で一生奴隷として働いてもらいます。勿論、結菜先輩の家の財産も全て私の物です。そして、一生輝久先輩と会うことを許しません」
「いいでしょう。それでは今日の放課後、ここで待ち合わせです」
「了解しました」
その瞬間、周りの野次馬達が異様な盛り上がりを見せた。
「敗者復活戦か!?」
「お前どっちに賭ける!?」
弁当のおかずを賭ける者、現金を賭ける者までいた。
盛り上がってる横を通り、僕はM組に行き、結菜さんに話しかけた。
「あんな賭けしてよかったんですか? 負けたら大変なことになりますよ?」
「輝久君は私が負けると思っているのですか?」
「そうじゃないけど‥‥‥」
「大丈夫ですよ、勝ち筋は見えています」
「信じてます」
※
その日、柚木さんは学校に来なかった。
莉子先生も来なくて、新しい先生すらM組にやってくることはなかった。
一樹君と芽衣さん、美波さんと真菜さんの四人に、勝負のことを伝えて、四人は結果を明日の学校で聞くことになり、放課後になると、僕と結菜さんは校門に向かい、愛梨さんと合流した。
「何故、輝久先輩がいるのですか?」
「見届け人です」
「そうですか。それで、勝負内容はなんでしょう」
「今からゲームセンターのメダルコーナーで、制限時間を設け、最終的にメダルをより多く持っていた方の勝ちです」
「ああいう場所、うるさくて苦手なんですが」
「音なんてすぐに慣れます。行きましょう」
少し不満そうな愛梨さんを連れてゲームセンターにやって来て、勝負は平等にメダル百枚から始まった。
制限時間は十五分分だ。
そしてついに勝負がスタートした瞬間、二人はメダルコーナーのカウンターに向かった。
「あら? 何故愛梨さんもカウンターに?」
「結菜先輩こそ、何故ここに?」
二人とも思考が同じなんだ‥‥‥。
ゲームが苦手ならメダルを買えばいい‥‥‥二人とも、なかなか捻くれている。
二人は同時に財布からお金を出して言った。
「メダルを百万円分購入します」
店員さんは一瞬フリーズした後、慌てた様子で何処かへ行ってしまった。
よく分からないまま待っていると、しばらくして、店長らしき人を連れて戻ってきた。
怒られるのかと思ったが、店長は大はしゃぎで社員を集めて、すぐにメダルを用意し始めた。
しばらくするとメダルコーナーの一角に、メダルの山ができて、結菜さんと愛梨さんの手持ちは、四十五万百枚になった。
だが二人は止まらない。
「もう百万円分お願いします」
この勝負、最初にお金が尽きた方が負ける‥‥‥。
家だけを見ると、明らかに愛梨さんの方がお金持ちっぽいけど大丈夫かな。
二人の手持ちは九十万百枚になり、他のお客さんがゲームそっちのけで二人を見ている。
次から次へとお金を注ぎ込む二人に、さすがの大はしゃぎ店長も、焦った様子で言った。
「これ以上は他のお客様の分のメダルが無くなってしまいますので、一度購入なされたメダルで遊んでいただき、無くなりましたらまた是非ご購入ください!」
※
制限時間が残り五分となった時、二人はお金の力を使えなくなった。
愛梨さんは最初の百枚枚だけを持ってビンゴゲームに一気に百枚ベットした。
結菜さんも同じく、同じゲーム機に百枚ベット。
この一回で勝敗が決まる‥‥‥ 。
二人とも最後のボールを残してリーチ状態だ。
八番にボールが入れば結菜さんの勝ち。
二十四番にボールが入れば愛梨さんの勝ちだ。
結果は‥‥‥
「結菜先輩、私の勝ちです」
結菜さんのメダルは九十万枚。
愛梨さんのメダルは九十万二百枚。
嘘だ‥‥‥結菜さんが負けた‥‥‥。
絶望している僕に、結菜さんは残り時間を聞いてきた。
「残り時間はあとどれくらいですか?」
「あと二分しかありません‥‥‥」
僕がそう言うと、結菜さんは立ち上がり、カウンターに向かった。
それを見た愛梨さんは、僕に淑やかな表情で言った。
「もうメダルは買えないんですけどね。ごめんなさいね、輝久先輩。結菜先輩とは会えなくなりますが、寂しさは私が埋めてあげてもいいですよ?」
「いや、愛梨さん、結菜さんの勝ちです」
「え‥‥‥?」
結菜さんは、真菜さんと勝負した時に預けた四万五千百枚を、カウンターの横にある機械からおろしていたのだ。
これで結菜さんのメダルは九十四万五千百枚だ!
結菜さんが戻って来て、唖然とする愛梨さんに言った。
「私の勝ちです」
「‥‥‥やられましたね。まさか元からメダルを持っていたなんて、考えもしませんでした」
「約束は守っていただけますね?」
「いいでしょう。お爺様にも私から説明いたします。それにしても、このビンゴゲームは面白いですね。ボール一つで失うか得るかが決まる。スリルがあって私好みです。どうでしょうか、せっかく沢山のメダルがあるので、勝負関係なしで少し遊んでいきませんか?」
「そうですね。メダルを無駄するのは勿体ないですから、少し遊びましょうか」
それから何故か、嫌いだった人とビンゴゲームに没頭してしまった。
愛梨さんも結菜さんも、それなりに楽しんでいる。
二人とも大人びてるけど、結局は高校生なんだ。
遊ぶのが楽しいのは当たり前か。
最終的に、メダルを使い切ることはできず、残ったメダルは全て預けて帰ることになった。
※
翌日、M組に行くと、一樹君と芽衣さん、美波さんと真菜さんが、そわそわした様子で僕を待っていた。
そして、芽衣さんが不安そうに席から立ち上がって聞いてきた。
「勝負は!? どうなったの!?」
その時、結菜さんと柚木さんが一緒にM組に入ってきて、結菜さんは言った。
「勝敗は見ての通りです」
皆んなは小さな子供みたいに、飛び跳ねながら喜んだ。
「柚木さん、輝久君のことを諦める気は無いのですか?」
「ないよ、でもこれで終わり」
柚木さんはいきなり僕に抱きついて、皆んなが見てる前でキスをしてきた。
そして僕の腰に手を置き、僕を見つめながら言った。
「きっと、ずっと好き。結菜と幸せになってね! いや‥‥‥きっといつか奪うよ! きっと!」
急にキスされて動揺していると、真菜さんが大きな声を上げた。
「そんなのずるい!!」
真菜さんは柚木さんを押し退けて僕にキスをした。
「んっ!?」
「私もずっと好きだから。だから輝久君は幸せにならなきゃダメです」
更に、僕が言葉を発する間も与えず、美波さんが真菜さんを押し退けて僕にキスをした。
「辛くても、ずっと輝久を好きでいるから」
「ちょっ、ちょっと皆んな!? 僕最低野郎みたいになってません!?」
さすがにヤバいと思ったその時、芽衣さんが美波さんを押し退けて、僕を押し倒してキスをしてきた。
「ごめんね、我慢できなかった」
「あ、あの‥‥‥後ろ」
結菜さんは怒りすぎてか、逆に無表情のままカッターを手に持ち、僕達を見つめていた。
そんな結菜さんを見た美波さんは足を震わせて、ゆっくりドアに向かって歩きだす。
「みんな‥‥‥逃げろ!!」
美波さんと真菜さん、そして柚木さんは教室から飛び出していった。
その時、一樹君が口を開いた。
「輝久君ひどいよ! 俺が芽衣さんのこと好きって知ってるくせに!」
芽衣さんは驚いて僕から離れ、立ち上がる。
「は、はぁ!? いきなり告白!? きも」
一樹君はその場にうなだれた。
可哀想だけど、とにかく結菜さんを落ち着かせなきゃ!
「結菜さん、とりあえずそのカッターしまってください」
結菜さんはカッターをしまわずに、表情すら変えずに言った。
「なんで大人しくキスされたのかしら」
「い、いきなりでビックリして!」
結菜さんがどんどん僕に近づいてくる。
そして結菜さんが目の前で立ち止まり、僕の首にカッターを当てた。
「四人の女性との浮気現場を、この目でしっかり見ました。どう償います? もちろん四人には後からしっかり償いを受けさせます」
それを聞いて、芽衣さんも逃げるように教室を飛び出し、それを追いかけるように、一樹君も教室を出てしまった。
「ねぇ、輝久君? どう償いますか? 答えてくださいよ。ねぇ早く、どうして何も言わないんですか? 私が怖いですか? 仕方ないですよ、怒らせたのは輝久君なんですから」
このままだと殺される!
こうなったら、結菜さんが喜びそうなことを言うしかない!
「一生かけて、結菜さんを幸せにして償います!!」
その言葉を聞いた結菜さんは、いきなり照れた表情に変わり、モジモジしながら後ずさりをした。
「い、いきなりなんですか!? それは当たり前のことで、そ、それで許すとか無理です」
「でも、僕はしたくてキスしたんじゃ‥‥‥僕は本当に結菜さんが好きで、キスも結菜さんとしかしたくないです!」
「それなら今してください」
「い、今!?」
「誰もいないですから、大丈夫です」
「そ、それじゃ」
僕と結菜さんは、恥ずかしがりながら、誰もいない教室でキスをした。
ディープキスではなく、唇だけでお互いの唇を軽く噛むようなキスだった。
その時、また莉子先生がムードを崩すように入ってきた
「結菜さん! 私やめなくて済んだよ! ‥‥‥あっ、お邪魔でしたね」
「いえ、私は皆んなを殺してきますので」
結菜さんはキスをやめ、無表情のまま教室を出て行った。
「輝久君、今結菜さんなんて言ったの?」
「えっ‥‥‥は、早く結菜さんを追いかけなくちゃ!!」
結局皆んなは結菜さんに捕まり、土下座しながら命乞いをして、命は奪われなかったが、それなりの恐怖は植え付けられたみたいだ。
その後、十月にある体育祭と学園祭は無事開かれたが、昔からM組の生徒はそれに参加することは許されていなく、僕達にはあまり関係のない行事だった。
※
そして十一月に入り、少し肌寒くなった頃、皆んなはすっかり仲良しになり、今度M組のみんなでショッピングモールに行くことになった。
ショッピングモールにいい思い出がない僕は、何も起きませんようにと神に祈る。




