心変わりも生きてる証
僕が目を覚ましたのはお昼の十一時だった。
夏休みは、どうしても寝すぎてしまう。
ぼやけた目で携帯を確認すると、芽衣さんから不在着信が二件来ていて、とりあえず掛け直してみることにした。
「もしもし、輝久です、電話どうしたんですか?」
「私、輝久の本当の気持ちが知りたい。会って話そう」
「えーっと、明日、結菜さんの誕生日なんですよ、これからそのプレゼントを買いに行こうと思ってて」
「明日なの!? それじゃ私も行く! 美波も一緒だけど、いいよね?」
「はい! みんなでプレゼント渡して、結菜さんを元気付けましょう! って、美波さんですか?」
「うん! 私もいるから大丈夫! それじゃ、どこ待ち合わせ?」
「学校から1番近いショッピングモールでプレゼント買おうと思うので、現地集合しましょう」
「わかった! 私達はもう向かうね!」
「分かりました」
急いで準備をして、僕もショッピングモールに向かった。
※
ショッピングモールに着くと、二人は入り口の外で暑そうにして僕を待っていた。
「おまたせです。こんな暑い中、外で待ってたんですか?」
美波さんがハンカチで汗を拭きながら答えた。
「中に入ったら広すぎて、合流するの大変でしょ? 早く中に入ろ」
「そうだね、私も暑くて限界」
さっそくショッピングモールの店内に入り、最初に向かったのは、結菜さんとのペアリングを買ったアクセサリーショップだ。
僕と芽衣さんはプレゼントを選んでいるが、美波さんは退屈そうにしていた。
「美波さんはプレゼント買わないんですか?」
「買わないよ。どんな顔して渡せばいいか分からないし」
「そうですよね‥‥‥」
確かに、結菜さんにあんなこと言ったのに、普通にプレゼント渡せるはずないな。
それより、結菜さんはどんなものだと嬉しいのかな。
お金持ちだから欲しい物は自分で買ってそうだし、かなり難しいな。
「芽衣さんは何をプレゼントするんですか?」
「んー、どうしよっかなー、結菜が自分じゃ絶対買わないような物がいいよね」
「ですねー、僕はお揃いのなにかにしようかなって思ってます」
「へ、へぇー、い、いいんじゃない?」
「ですよね! そうします!」
「うん! (輝久、やっぱり結菜がいいのかな‥‥‥いや、まだ分からない!)」
「輝久! 私ともなにかお揃いにしよ!」
芽衣さんの言葉を聞いて、退屈そうにしていた美波さんも食いついてきた。
「私とも!」
「えっ、いや‥‥‥結菜さんに見つかったら大変なので‥‥‥」
美波さん僕と腕を組み、上目遣いで可愛らしくおねだりのようなことを始めた。
「ねぇ輝久? こっち見て」
う、上目遣い!可愛すぎる!!
やばいぞ、平然を装うんだ。
すると、まさかの芽衣さんも腕を組んで上目遣いしてきた。
「美波なんか見ないで、私を見て」
やばいやばいやばいやばい!
二人とも可愛すぎるよ!!
その時、美波さんは僕の耳元で囁いた。
「輝久は結菜に振られたの。これからは私だけ見てればいいんだよ。好きだよ輝久」
僕は結菜さんに振られた‥‥‥確かに、昨日から電話の折り返しがないけど、さよならって、もう関わらないってことなのかな‥‥‥。
露骨にテンションが下がった僕を見た芽衣さんは、美波さんを僕の腕から離した。
「輝久になに言ったの!」
「結菜に振られたって事実を教えてあげた」
「そんなのまだ分かんないじゃん!」
「なんなの!? 芽衣だって輝久のこと好きなくせに、なんで結菜と輝久をくっつけようとするの!」
「私だって分かんないよ!」
大声で口喧嘩を始めてしまった二人を、周りのお客さんや店員さんが見ている。
このままだと店を追い出されかねないと思い、二人を止めに入った。
「二人とも落ち着いてください!」
すると落ち着くどころか、美波さんは怒った表情のまま僕を見た。
「輝久! ハッキリしてよ! 輝久は誰がいいの? 私だよね? 私とあんなこともしたもんね。輝久は絶対私が好きだ。私以外いらないよね? 輝久、ちゃんとそう言ってよ!」
「はぁ? あんなことってなにしたの! とにかく、私も今日聞こうと思ってた。輝久は誰がいいの? ハッキリしてよ!」
「僕は‥‥‥」
僕はきっと、結菜さんが好きだ。
いや、絶対好きだ。
結菜さんにさよならって言われた時、解放された安心感があった。
だけどすぐに寂しいっていう感情が僕を襲ったんだ。
それは時間が経つたびに増していった。
「僕は結菜さんが好きです」
ハッキリ言い切ると、芽衣さんは涙ぐんで俯いてしまった。
「私、ちょっとトイレ」
芽衣さんは俯いたままトイレに行ってしまい、美波さんは僕を睨みつけた。
「じゃあなんで私のキスを受け入れたの」
「あ、あれはほぼ無理矢理だったじゃないですか‥‥‥」
「無理矢理‥‥‥なにそれ、結菜を選ぶってことは、輝久は私がいなくなってもいいってこと?」
「いなくなっていいなんて思ってないですよ」
「でも輝久は結菜を選んだ!! 死んでやる‥‥‥」
「え?」
「輝久が悪いんだよ? 私を捨てたから、だから私は死ぬの」
「そんなこと言わないでください」
「あの〜、お客様? 他のお客様のご迷惑になりますので」
「あ、すいません‥‥‥」
さすがにアクセサリーショップの店員さんに怒られてしまい、芽衣さんが戻って来ていないけど、僕と美波さんは一旦外に出ることにした。
***
その頃芽衣は、トイレではなく、ショッピングモール内の休憩所のソファーに一人で座り、考えごとをしていた。
(ハッキリ言ってって言ったけど、あんなハッキリ言われると、やっぱりキツイな‥‥‥輝久が誰を選んでも、諦めないって決めたのにな‥‥‥私って、こんなに弱かったんだ)
芽衣は静かに涙を流す。
***
僕と美波さんは、炎天下の中、ショッピングモールの外にあるベンチに座っている。
しばらく沈黙が続いた後、美波さんが口を開いた。
「私が死んだら、輝久は悲しんでくれる?」
「当たり前じゃないですか」
「よかった。死んだら、輝久は私を想ってくれるってことだもんね‥‥‥」
「考え直してください。な、なにか冷たいものでも飲みましょうか! なにか適当に買って来ますね」
僕は立ち上がり、美波さんに背を向けた瞬間、美波さんが走り出す気配を感じて振り向くと、美波さん は道路に向かって走っていった。
「美波さん!!」
僕は必死に追いかけたが、美波さんはどんどん僕から距離を離していく。
ダメだ、間に合わない。
遂に美波さんが道路に出て、道路の真ん中でうずくまった時、車の急ブレーキの音が響いた。
幸いにも、車は美波さんスレスレで止まった。
すると、そこに主婦のような人が駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!? すいません、私が目を離したばっかりに」
「大丈夫です、この子も怪我とかしてないみたいです」
「本当にありがとうございます! 貴方の名前と学校は?」
「谷舎坂高校二年の美波です」
「わかりました! 今度お礼しますね!」
なにを話してるんだ?
美波さんのとこに駆け寄ると、美波さんは小さな男の子を抱っこしていた。
そのまま美波さんは急ブレーキをかけた運転手に頭を下げてから歩道に戻り、男の子はお母さんに手を引かれ、ショッピングモールの中に入っていった。
「美波さん、ビックリしましたよ」
「うん‥‥‥ごめん」
「それにしても、美波さんは凄いですね」
「え?」
「死のうとしてたのに、一人の命を助けて、死のうとしてたのに、もう十分以上生きてます! 生きることって難しいですよね。思い通りにならないことが大半で、辛い思いをしたり、その中で死にたいって感情が芽生えてしまって、それなのに、美波さんはまだ生きてます。凄いことです! 美波さん‥‥‥店内に戻りませんか? 生きてるご褒美です! なにか安いものでよければプレゼントしますよ!」
僕がそう言うと、美波さんは大粒の涙を流し、子供のように泣き出してしまった。
「ずるいよ! どうして優しくするの! どうしてまた希望を持たせるの! 輝久のバカ!!」
「バ、バカって‥‥‥」
「馬鹿じゃん!! 女心も分からないで‥‥‥」
だって、女の子とまともに話すようになったのって、M組に来てからだもん。
それまでまともに話せる女性はお母さんだけでした、はい、親心すら理解してないけど。
「ま、まぁ‥‥‥分かるように努力します」
美波さんは照れ臭そうに小さな声で言った。
「ますます好きになっちゃったじゃん‥‥‥」
「でも‥‥‥さっきも言ったように、僕は結菜さんが」
最後まで言い切る前に、美波さんの大きな声で、それは遮られてしまった。
「うるさい!! バカ!! ドジ!! マヌケ!! ノミ!! ウジ!! ゴミ!!」
えー‥‥‥そんな言いますー?
美波さんって本当に僕のこと好きなのかなー、なんかめっちゃ嫌われてないですかー?
「あっ、ごめんね輝久、そんな顔しないで」
「僕、今どんな顔してます?」
「コケシみたいになってる(こんな優しい人がいるんだ。こんな優しくて純粋な人を、私は騙したんだ‥‥‥私‥‥‥最低だ)」
それから二人で店内に戻り、芽衣さんとも無事に合流することができた。
芽衣さんは目の周りが赤くなっていて、泣いていたのが分かる。
僕は最初に、結菜さんへのプレゼントの前に、約束通り美波さんへのプレゼントを選ぶことにした。
美波さんの髪の長さ的に、前よりかなり短くなっちゃうけど、ツインテールにできるよな。
よし、これにしよう。
黄色い花が付いた、二個セットのヘアゴムをプレゼントすることにした。
次は結菜さんへのプレゼントだ。
プレゼントを探していると、牛柄のマグカップが視界に入った。
結菜さん牛好きだし、このマグカップを二つ買ってお揃いにしよう!
すると、芽衣さんもプレゼントを決めたのか、僕の隣のレジに並んでいた。
僕もお会計を済ませて、さっそく美波さんにヘアゴムをプレゼントすることにした。
「はい、これプレゼントです」
「本当にいいの?」
「もちろんです!」
美波さんは、とっても嬉しそうにヘアゴムを眺めている。
「ツインテールにしてみてください!」
美波さんは言われた通り、ツインテールにすると、携帯の内カメで自分を確認した。
すると、とても満足そうな表情をしたあと、満面の笑みで僕を見つめた。
「ありがとう! 一生大切にする!」
「凄い似合ってます!」
「へへ♡」
そこに芽衣さんが戻ってきて、美波さんを不思議そうに見ている。
「あれ? ツインテールじゃん、ヘアゴム買ったの?」
「輝久にプレゼントしてもらっちゃった!」
「なんで!?」
「私って凄いんだって! だからプレゼント!」
「ちょっと意味わからない」
そう言うと、芽衣さんは物欲しそうな表情で僕に視線をズラした。
「ねぇ輝久、私も輝久からプレゼント欲しい」
「えぇ〜‥‥‥」
まぁ、さっき僕のせいで、少し元気なさげだったしな‥‥‥予算的に六百円ぐらいまでならいいかな。
「それじゃ、僕が勝手に選んでいいですか?」
「やったー! 選んで選んで!」
すると美波さんが不満そうに頬を膨らませた。
なかなかにめんどくさい状況になってしまった。
「私以外にも買うんだ」
「ま、まぁ‥‥‥みんな平等に、仲良くしましょう」
「いやだ! いいけど、いやだ!」
なんだこの子、情緒不安定なのか。
とにかく芽衣さんにはヘアピンにしよう。
髪が金だからな、シンプルな黒一色とかでもいいかな。
商品を探していると、黒一色のヘアピンが四個入り四百円で売られているのを見つけ、それを買い、ニ人の元へ戻ってすぐに、芽衣さんにヘアピンを渡した。
芽衣さんは嬉しそうにヘアピン四個を全部つけてしまった。
「どう? 似合う?」
「せめて着けるのは二個までにしましょう」
「えー、せっかく四個もあるのに‥‥‥んじゃ残りニ個は大事にしまっておこう」
そのヘアピンを見た美波さんは、ドヤ顔で芽衣さんを煽り始めた。
「見て、私のヘアゴムには花がついてるの! 芽衣のにはついてないね!」
「そんな飾りなくても、私は可愛いってことだし!」
エスカレートする前に止めておかないと、また店員さんに怒られてちゃうな。
「ふ、二人とも可愛いですよ!」
すると二人は頬を膨らせて、無言で僕を見つめ始めた。
えぇー、なんで‥‥‥。
やっぱり僕は、女心をこれっぽっちも理解していないのかもしれない。
結局美波さんは、結菜さんにプレゼントを買わなかった。
そして明日の夕方六時に、みんなで結菜さんの家に集合の約束をして、買い物の後、みんなでアイスを食べて解散した。




