さよなら
美波さんが青ざめている理由が分からないが、やっぱり牛のストラップは見られたくない物だったんだ。
「そ、それ私の。返して」
美波さんは結菜さんからストラップを取ろうとしたが、結菜さんが一歩下がり、手を後ろに回したことで、ストラップを取ることができなかった。
「こんなボロボロの牛のストラップ、私の以外ありえません」
これ、どういう状況だ?
あのストラップは僕が中学生の頃、美波さんにあげたストラップなはず。
でも結菜さんは私のって言ってる‥‥‥なにがどうなってるんだ。
「二人とも、これどういう状況?」
美波さんは何も答えずに、必死にストラップを奪い返そうと手を伸ばす。
「これは私の大切なものなの! 返して結菜!」
「これは私の宝物です!」
そこにたまたま、芽衣さんが通りかかった。
「あれ? 三人で何してるの? 真菜、また結菜に酷いことしてないよね」
「私は美波!」
「えー! その髪型だと真菜そっくりだね! てか、なんか揉めてる?」
結菜さんが状況を説明すると、芽衣さんは答えに近い発言をした。
「牛のストラップって、合宿の時結菜が言ってたやつじゃん」
それはむしろ答えだった。
てことは、あの時の人は美波さんじゃなくて結菜さん?
だとしたら美波さん‥‥‥なんであんな嘘ついたんだろ‥‥‥。
美波さんは、追い込まれた表情で僕を見た。
「嘘じゃないの、本当にストラップは私の! あの時の女の子も私なんだよ!」
「いや‥‥‥でも、芽衣さんも結菜さんから聞いたって‥‥‥」
結菜さんは俯いて、髪で表情がよく見えないが、あからさまに暗い声を出した。
「輝久くんに、その話もしたんですか?」
「したよ」
「私の大切なストラップを盗んで、私の大切な過去まで自分の過去みたいに‥‥‥」
芽衣さんが眉間にシワを寄せて、美波さんを睨みつけた。
「最低じゃん、美波」
その言葉に美波さんも俯いてしまった。
「もういいや‥‥‥」
美波さんはそう言うと、結菜さんを睨み、酷い言葉を浴びせた。
「結菜さ、なに過去に浸ってんの? 両親が死んで、独りぼっちだから輝久が必要なの? 家に優しい大人がいっぱいいるじゃん! それにお金持ちじゃん! なんでも手に入るじゃん! 輝久ぐらい、私に譲ってよ!!」
「ぐらい‥‥‥」
「過去話で同情しそうになったけどさ、そんなのずるいじゃん!! 親が死んだからなんなんだよ!! お姉ちゃんが死んだからなんなんだよ!!」
「美波さん!」
僕が美波を止めようとした時、芽衣さんが美波さんの頬にビンタをして、胸ぐらを掴んだ。
「美波!! なんでそんな酷いことが言えるの!! しかも輝久の前で!! ふざけるな!!」
「芽衣だって結菜の過去知ってたんでしょ? いきなり仲良くなったから怪しいと思ってたんだ! 芽衣だって思ってるんでしょ! 私達を同情させて、輝久に近づけさせないようにしてるズルイ奴だって!!」
「私は確かに同情したよ!! でも、ずるいとか思ってない!! 結菜の過去を利用して、輝久に嘘をついた美波が一番ずるい!! 最低だ!!」
結菜さんが、落ち着いた様子で芽衣さんの手を美波さんの胸ぐらから離した。
「芽衣さん、ありがとうございます」
「結菜‥‥‥大丈夫?」
「平気です」
結菜さんは、美波さんにストラップを渡した。
「そんなに欲しいならあげます」
「え?」
「結菜? いいの?」
「もう、いいんです」
結菜さんは僕を見て、どこか切なさを感じる笑顔で言った。
「さよなら、輝久くん‥‥‥」
えっ、今なんて言った?
さよなら?どうして?
結菜さんの口から、一生出ることがないと思っていたその言葉は僕の胸に刺さり、解放、寂しい、不安、いろんな感情が湧いて、不思議な感覚に襲われた。
僕達三人は結菜さんが去っていくのを、ただただ見ていることしかできなかった。
皆んなも、結菜さんの意外な言葉に頭の整理ができていない様子だ。
美波さんは結菜さんの家に泊まってるって言ってたけど、これからどうするんだろう。
「美波さん、結菜さんにあんなこと言って、今日からどうするんですか?」
「輝久の家に泊めて」
それを聞いた芽衣さんは公園に響くぐらいの、大きな声を出した。
「ダメ!!」
すると芽衣さんは、美波さんの手を取った。
「今日から私の家に泊まりな。話したいこともあるし」
「輝久の家がいいー」
芽衣さんはまた大きな声を出した。
「ふざけるな!! いいから泊まりな!」
「わ、わかった」
美波さんはそれに怯んだのか、芽衣さんの家に泊まることになった。
とりあえず今日は解散することになり、家に帰った僕は、結菜さんが心配で電話をかけた。
「もしもし結菜さ」
『おかけになった電話番号は‥‥‥』
電源が入っていないのか、電話は繋がらなかった。
***
夜になると、芽衣はベッドに座り、床に座っている美波と、ストラップのことを話していた。
「そのストラップ、ちゃんと返しなよ?」
「でも、あげるって言ってたよ? 輝久にもさよならって言ってたし、もう輝久は私のだよ」
「美波って人の気持ち考えられないの?」
美波は表情が暗くなり、少し黙った後口を開いた。
「考えたよ‥‥‥」
「だったらなんで結菜にあんなことが言えたの? どうして輝久に嘘がつけたの?」
「正直、輝久を振り向かせるチャンスだと思った‥‥‥」
「輝久が好きで、結菜が邪魔だって気持ちは分かるよ。でも私はさ、結菜の過去を知った時、結菜には勝てないと思った。それでも輝久を好きな気持ちは変わらなかったけど、だから次は正々堂々と輝久を振り向かせる努力をしようと思ったよ? もう結菜を傷つけるやり方はやめようよ」
「‥‥‥なに綺麗事言ってるの?」
「え?」
「どんなやり方したって、輝久が結菜以外に振り向いた時点で、結菜は傷つくじゃん」
「‥‥‥そうだけどさ‥‥‥」
芽衣はなにも言い返せなかった。
(輝久は結局どうしたいんだろう。輝久が結菜を選んでも、美波を選んでも、私以外の誰を選んでも、私は輝久を諦めない。だけど、今の輝久の気持ちをハッキリ知らないと、結菜も‥‥‥私だって、どうしたらいいか分からない‥‥‥明日、輝久に会ってハッキリ聞いてみよう)
***
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