涙の散髪
結菜さんが帰ってから二時間が経った。
電話も通じないし、メッセージも返ってこない。
携帯の電源が切れてるみたいだ。
僕と芽衣さんは、水族館で時間を潰しながら、どうやって帰るか考えていた。
「芽衣さん、結菜さんの家の電話番号とか知らないんですか?」
「さすがに分からないなー。莉子先生に聞いてみる?」
「莉子先生の番号知ってるんですか?」
「知ってるよ! 今電話してみるね!」
芽衣さんは、莉子先生の自宅に電話をして事情を説明すると、莉子先生は結菜さんの家の電話番号を教えてくれた。
家の番号って言っても、携帯番号みたいだけど、とりあえず電話してみた。
「はい、宮川です」
電話に出たのは、まさかの宮川さんだった。
「輝久です! 酷いですよ宮川さん! なんで置いていったんですか!」
宮川さんは申し訳なさそうに答えた。
「結菜お嬢様が、どうしても車を出せと言うもので‥‥‥」
「僕達どうやって帰ればいいんですか?」
「ごめんなさい! 今すぐ迎えに行きます!」
そして電話が切れて、宮川さんを待つことになった。
待ってる間に、宮川さんが欲しがってたスーパーボールのガチャポンを回しに、ガチャポンコーナーにやってきた。
「あ、ヒトデだ」
それを見た芽衣さんも、宮川さんのためにガチャポンを回し始めた。
「ヒトデだ」
ヒトデリーチがかかったが、一回五百円のガチャポンを二回回す気にはなれず、駐車場で宮川さんを待っていると、宮川さんの車が入ってくるのが見え。すぐに駆け寄って車に乗り、宮川さんにスーパーボールを渡した。
「宮川さん、欲しがってたスーパーボールです」
「ヒトデ‥‥‥」
芽衣さんもニコニコしながら宮川さんにスーパーボールを渡した。
「安心してください! まだありますよ!」
「おー、ウミガメかな! イルカかな? ヒトデ‥‥‥」
宮川さんのテンションが下がってる中、結菜さんが帰った理由を聞いてみた。
「結菜さん、なんでいきなり帰ったんですか?」
「それが分からないんですよねー、真菜さんの自宅に連れて行けって言われて、真菜さんの自宅前で結菜お嬢様を下ろしましたけど」
それを聞いて、僕と芽衣さんはお互いに目を合わせて青ざめた。
僕達は結菜が危ないと、すぐに感じ、焦って宮川さんに急ぐようにお願いした。
「宮川さん! 僕達も真菜さんの家に連れていってください! 早く!!」
宮川さんは僕の慌てっぷりに驚いて、スーパーボールを車のどこかに落としてしまった。
「どうしたんですかいきなり!」
「結菜さんが危ないかもしれないんです!」
「なんですって!? 急ぎます!!」
***
その頃結菜は、動けないまま何度も真菜に暴力を振るわれ衰弱していた。
弱っていく結菜を、真菜は笑いながら写真や動画を撮って楽しんでいる。
「ねぇ、もう私に逆らう気もなくなったんじゃない? 今日は親もいないし、帰れると思わないでね?」
その時、美波が真菜の部屋のドアを開けようとした。
「真菜、今日のご飯どうする?」
真菜は、結菜が部屋にいることがバレないように、必死にドアを押さえた。
「あれ、開かないよ?」
「ちょっと今忙しいから! ご飯なら適当に食べるよ!」
「分かったー。私も今日はカップ麺とかでいいやー」
美波が一階に降りていくのを確認して、結菜の髪を掴んで顔を上げさせた。
「お姉ちゃんにバレるようなことしたら、口も目も全部縫ってあげる」
その時、家のチャイムが三回連続で鳴り響いた。
美波と真菜の家に着いた輝久は、芽衣を車に乗せたまま、家のチャイムを押していた。
***
チャイムを押すと、出てきたのは美波さんだった。
「あれ? 輝久! 会いに来てくれたの!?」
「いや、あの、結菜さん来てませんか?」
「結菜? 来てないよ? とにかく上がって上がって!」
「ちょっと!」
美波さんは、僕を引っ張って、強引に自分の部屋に連れて行った。
美波さんの部屋は、洋服が沢山地面に散らばっていて、美波さんは恥ずかしそうに焦りながら服を拾い始めた。
「今すぐ片付けるから待って!」
美波さんはタンスに雑に服を仕舞い、床に座っている僕の膝に頭を置いてきた。
まさに膝枕状態で、いきなり甘えてきたのだ。
「ちょっと美波さん!?」
「ご主人様から会いにきてくれるなんて♡」
「ゆ、結菜さんを迎えに来たんですよ」
美波さんは、膝枕しながら僕を見上げた。
「ご主人様? ご主人様が私以外を求めないように、沢山ご奉仕してあげますね」
美波さんは起き上がり、急に僕を押し倒した。
「ご主人様は楽にしていてください♡」
「何するんですか!」
美波さんは僕の上に乗っかり、僕の耳を優しい舌使いで舐め始めた。
「美波さん! 困ります!」
やめてほしいのに、ずっと耳や首を舐め続けてくる。
体がソワソワして変な気分になりそうだ。
真菜さんは?真菜さんはいないのか?
このままだと、いけないことをされてしまいそうだ。
一か八か真菜さんを呼ぶしかない。
「真菜さーん!!」
美波さんはビックリして、舐めるのをやめてくれた。
「ご主人様!? なにしてるの!?」
その時、美波さんの部屋に慌てた様子の真菜さんが入ってきた。
「輝久くん!?」
僕にまたがる美波さんを見て、真菜さんの表情が暗くなった。
「なにやってるの、お姉ちゃん」
「ご主人様が私に会いにきてくれたの」
「ご主人様? どういうこと?」
真菜さんは、怒りに満ちた表情で僕を睨んだ後、美波さんのツインテールを引っ張って、僕から美波さんを遠ざけた。
「痛い!!」
「その首輪は私が輝久くんにプレゼントした物なの! 外して!!」
「これは輝久が私にくれたの!!」
美波も真菜の髪を引っ張って、二人の髪はぐちゃぐちゃになってしまっている。
「二人ともやめてください!」
二人を止めようと声をかけるが、二人は聞く耳を持たなかった。
そして美波さんは真菜さんを硬い床に押し倒し、跨って真菜さんが逃げないようにした。
「輝久は私に会いにきてくれたの!! 私は輝久に必要とされてる!!」
「私は輝久くんの彼女になったの。輝久くんが必要としてるのは私! 私は輝久くんのご主人様なの!!」
真菜さんは美波さんの鼻を殴って、美波さんが怯んだ隙に部屋を出て行ってしまった。
「大丈夫ですか!? 血とか出てませんか!?」
「血は大丈夫みたい」
「何か冷やすものありますか? 持ってきますよ」
その時、真菜さんは自分の部屋からスタンガンを持って戻って来た。
素早く美波さんの背中にスタンガンを当てて、美波さんはしばらく苦しんだ後、気を失ってしまった。
「真菜さん!! なにしてるんですか!!」
真菜さんはスタンガンを持って、僕に近づいてくる。
「輝久くん? 首輪を外して、それをお姉ちゃんにプレゼント? 躾けが足りてないみたいだね。そうか! 輝久くんは私にお仕置きしてほしくて、わざとやったんだね♡ いいよ♡ いっぱい可愛がってあげる♡」
真菜さんは笑みを浮かべながら僕の首にスタンガンを当てて、僕は気を失ってしまった。
目を覚ますと、椅子に縛られ動けなくなっていて、左には、椅子に縛られた美波さん、右には、椅子に縛られた結菜さんがいた。
結菜さんは髪がぐちゃぐちゃになっていて、ぐったりしている。
部屋は薄暗く、真菜さんがニヤニヤしながら僕達を見ていた。
「輝久くん、おはよう」
「なんでこんなことするんですか! これ外してください!」
「なんで? 全部輝久くんのためだよ? 輝久くんに近づくゴミを懲らしめてあげたの。結菜ちゃんはもう私のペットだけど♡」
真菜さんは結菜さんの髪を上に引っ張り、顔を僕に見せてきた。
「ほら、もう輝久くんに近づかないように、ちゃんと躾けしてあげたの♡」
結菜さんの左目は腫れていて、口のガムテープは剥がれかけていたけど、喋る気力がないみたいだ。
それを見た僕は珍しく、本気で怒りが込み上げてきた。
「こんなになるまで‥‥‥ふざけんなよ!!」
「どうして? どうして褒めてくれないの? なんで怒るの? 輝久くんのためにしたんだよ?」
「僕はそんなこと望んでない!!」
その時、美波さんが目を覚ました。
美波さんは口にガムテープが貼られ、喋ることができないが、相当怯えている。
すると真菜さんは、ハサミを持ちながら美波さんの前に立って、美波さんのツインテールを持ち上げた。
「お姉ちゃん、その自慢の長いツインテール、私がもっと可愛くしてあげるね」
そう言われた美波さんは体を震わせて泣き始めてしまった。
「真菜さん!! そんなの酷すぎます!!」
「だって、これ可愛いと思う? 女子高生にもなって、正直痛くない? 輝久くんはどう思う?」
「すごい似合ってるし、可愛いじゃないですか!! だからやめてください!! 切るなら僕の髪を! 男なら坊主でもなれたら平気ですし!」
真菜さんは、ハサミをツインテールに当てがって言った。
「そっか、可愛いんだ」
美波さんのツインテールがパラパラと床に落ちていくのを見ることしかできない自分に、さらに怒りが込み上げてくる。
美波さんは髪を切られ、俯いて泣くことしかできなかった。
「酷すぎる‥‥‥」
僕がそう言うと、少し痛いぐらいの強さで、ハサミをグリグリと僕の胸に当ててきた。
「だって、輝久くんが可愛いって思うものは、私だけで充分でしょ? これも輝久くんがご主人様以外に興味を持たないようにするためなの」
恐怖と罪悪感で、言葉が出なかった。
芽衣さん、宮川さん‥‥‥お願いだから気づいて‥‥‥。




