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本音の暴走

今日は夏休み初日、朝から結菜さんに呼ばれて、結菜さんの家に向かっているところだ。


太陽を熱を鬱陶しく思いながら向かっている途中、芽衣さんから電話がかかってきた。


「もしもし輝久?」

「はい」

「今日遊ぼうよ!」

「今から結菜さんの家に遊びに行くんですよ」

「わかった!」


いきなり電話を切られてしまった。


あまり気にせずに結菜さんの家の玄関前に着くと、後ろから芽衣さんの声が聞こえてきた。


「輝久! 私も来ちゃった!」


いや、早過ぎだろ!


「芽衣さんの家も、この辺なんですか?」

「まぁね! それより、何その首輪」


ヤバ!僕は芽衣さんを連れて、急いで玄関前を離れた。


「芽衣さん、相談があります!」


芽衣さんは僕からの相談と聞いて、目を輝かせている。

僕は真菜さんとの約束を破り、昨日あった出来事、そして今首輪を着けている理由を全て話した。


「は? それじゃその首輪、真菜のペットの証ってこと?」

「そうなりますね‥‥‥」

「私さ、結菜が輝久と付き合ってるのは百歩譲って許してるけどさ、他の女が輝久に手を出すのは許せないんだよね。まぁ、私もいつか輝久を振り向かせる予定だけどね!」

「なんか、芽衣さん変わりましたよね。肝試しの後ぐらいからかな、なんかあったんですか?」


芽衣さんはなにかを隠すように一瞬僕から顔を逸らした。


「な、なんにもないよ! それより、その首輪外しなよ」

「外したら結菜さんに動画を見られちゃいます!」

「別に外してもバレないよ、それに動画見せられても、私が結菜に説明してあげるからさ!」

「ありがとうございます! それなら‥‥‥」


確かに、ずっと真菜さんに見られでるわけじゃないし、大丈夫か。


僕は首輪を外して、明るい気持ちでチャイムを鳴らした。

すると、デートの時に買った白いワンピースを着た結菜さんが、嬉しそうに玄関を開けてくれた。


「おはようございます! 見てください! 着てみました!」


結菜さんは芽衣さんの存在に気づいて、可愛らしい笑顔から一気に無表情になってしまった。


「なんで芽衣さんがいるのかしら」

「輝久が結菜の家に行くって言うから、私も来た!」

「邪魔です」


芽衣さんはニヤニヤしながら、結菜の頬をツンツンしだした。


「結菜〜、輝久と二人っきりだと、あんな顔するんだ〜、可愛いでちゅね〜」


結菜さんは無表情のまま、頬を突っついてくる芽衣さんの指を、曲がってはいけない方向に力強く曲げてしまった。


「痛い痛い痛い痛い!!」

「まぁ、来てしまったならしょうがないですね、二人とも家に上がってください」

「お邪魔しまーす」


結菜さんの部屋に入ると、誰もが大好きそうなお菓子がたくさん置いてあった。

それ以外は変わらず、殺風景な部屋だ。


「結菜さん、このお菓子どうしたんですか?」

「輝久くん、お菓子とか好きかなって。二人で食べましょう」

「私は!?」

「あら、芽衣さん居たんですか」

「自分で招き入れたよね!!」

「忘れました」


仲悪そうには見えないけど、やっぱり芽衣さんの扱いは雑だな。

そして結菜さんは、僕の手元を見て悲しそうな表情をしてしまった。


「せめて夏休み中は指輪着けませんか?」

「あっ、そうだね! 明日から着けるよ」

「嬉しいです」


その後、結局三人でお菓子を食べながら、世間話しに花を咲かせはじめた。


「ずっと気になってたんですけど、二人ってなんでM組に移動したんですか?」

「やっぱり輝久くんは覚えてないんですね」

「え?」

「なんでもないです」


芽衣さんは、何故か焦りながら話し始めた。


「私はね、前のクラスで付き合ってた彼氏が浮気してさ、浮気相手の女に学校辞めさせたのがバレたんだよね」


そういえば、いきなり学校辞めた子がいたな‥‥‥


「なんでその彼氏さんと別れたんですか?」

「私の愛から逃げて、学校やめちゃった! 今は輝久一筋だよ!」

「あ、ありがとうございます」

「輝久くんに変なこと言わないでください」

「気持ち伝えるぐらいいいじゃん!」

「ダメです、輝久くんの耳が汚れます」


あ、なんか思い出したぞ。

いきなり学校を辞めた男子生徒‥‥‥元同じクラスのしょう君じゃないよね‥‥‥。


「あの、もしかして翔君のことですか?」

「そう! 友達だったの!?」

「友達っていうか‥‥‥たまに話すぐらいでしたけど」

「へー、私のことなんか言ってた?」

「彼女がヤンデレすぎて疲れたって」

「はぁ!? 他にも浮気相手がいたってこと!? 私ヤンデレじゃないし!」


いや、絶対ヤンデレです。

僕がハッキリ言えないでいると、結菜さんが言ってくれた。


「芽衣さんは絶対ヤンデレですよ。本物のヤンデレって、自分がヤンデレってことに気づかないものなんですね、惨めです」

「絶対違うし!」


結菜さん、まさかの特大ブーメラン!!


そして結菜さんは、急にいきなり早口になって語り始めた。


「まぁ、自分で私はヤンデレだからーとか、メンヘラだからーとか言ってる女よりマシですね。ああいう女は見てて痛々しいですし、裏ではめちゃくちゃ性格が悪い人が多いです。なのに『大丈夫?』とか言って馬鹿な男が寄ってくるんです。それで自分は正しいとかモテるとか勘違いしてしまうんでしょうね。惨め惨め、あー、惨め」

「結菜さん、過去にそういう女に何かされたんですか? 落ち着いてください」


僕が宥めても、結菜さんは止まらなかった。


「そういう女って、なにかあっても全部男が悪いみたいに、私男運なさすぎとか言いだして、人の悪口ばっかり言ってるんです。人を貶す前に自分を見つめ直すべきです。まぁ、ああいう女は見つめ直すも何も、全て自分が正しいと思ってるから、自分の愚かさに気づくことすらできないんですよ」


芽衣さんが気まずそうに顔を引きつらせて言った。


「なんか、私が言われてるような」

「芽衣さんは人の心を理解して、自分の間違いを認めて謝れる人です。邪魔ですが」

「最後の余計だよね!!」


少しだけど、結菜さんが芽衣さんを褒めた!?

芽衣さんは結菜さんをどう思ってるんだろう。


「芽衣さんから見て、結菜さんってどんな人なんですか?」

「結菜かー、独占欲の塊」

「失礼ですね、芽衣さんはお菓子没収です」

「やだー! ごめんー!」


その後も、お菓子を食べながら沢山話して、明日は三人で水族館に行くことになった。

もちろん、芽衣さんは強引に参加した感じだ。





それから時間も時間ということで、僕と芽衣さんは明日を楽しみにしながら結菜さんの家をあとにした。


鞄から首輪を出して、首輪を眺めながら一人で自分の家まで帰っている途中、たまたま美波さんに会ってしまった。


「あれ? 輝久じゃん!」


ヤバ!真菜さんも一緒だったらどうしよう!


「ま、真菜さんは一緒じゃないんですか?」

「うん、消しゴム無くしちゃってさ、文房具屋に行ってたの、その帰り!」


命拾いした‥‥‥。


美波さんは僕が持っている首輪を不思議そうに見つめ、首輪を指差して言った。


「輝久って犬飼ってるの?」

「え! 飼ってないです」

「それじゃその首輪どうするの?」

「なんて言うか‥‥‥人が着けるやつ? みたいな‥‥‥」

「んじゃ私が着けちゃお!」

「はい!?」


美波さんは、僕から首輪を奪って自分の首に着けてしまった。


「どう? 似合う?」

「いや、あの‥‥‥」


美波さんは顔を赤くして、モジモジしながら腰をうねらせ始めた。


「これじゃ私、輝久のペットみたいだね」

「ペット!?」

「輝久のペットなら‥‥‥なってあげてもいいよ♡」

「なに言ってるんですか! とにかく返してください!」

「やだ! 今日から輝久は、私のご主人様だから、なんでも命令していいよ! 輝久のためならなんでもするよ♡」


まさか美波さん‥‥‥ドM ‥‥‥なのか?

真菜さんがドSで、美波さんがドM ‥‥‥見た目的に絶対逆な感じするのに、人間分からないもんだ。

そんなこと考えてる場合じゃない!


「首輪返してください!」

「あ、私そろそろ帰らなきゃ! いつでも呼んでね♡ ご主人様♡」


美波さんは首輪を着けたまま、走って帰ってしまった。


僕は顔が呆然として、ただただ走り去る美波さんの後ろ姿を見つめることしかできなかった。

とにかく、明日は水族館だし、明後日美波さんを呼んで返してもらおう。

それまで真菜さんにバレないことに賭けるしかない。



***



美波が家に帰ると、真菜はすぐに首輪に気付いた。


「お姉ちゃん、その首輪どうしたの?」

「輝久に貰ったの! 羨ましいでしょ!」

「へー、そうなんだ」



***



その日の夜、真菜さんからの着信が鳴り止まなかった。

多分バレたんだ。

電話に出るのも怖いし、今は無視して、明日芽衣さんにこっそり相談しよう。


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