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折り紙

沙里は、掛け持ちのバイトを頑張り続け、夜は芽衣の家で、芽衣が帰ってくるまで、いろんな施設に片っ端から電話をかけていた。


「もしもし、そちらに林咲花という子はいませんか?」

「ごめんなさい、知らないですね」

「分かりました、失礼します(どこにいるの‥‥‥きっと寂しくて泣いてる。私と同じ思いは絶対にさせないからね)」

「ただいまー」

「おかえり、芽衣‥‥‥足臭いよ」

「え!? 本当に!?」

「うん、洗ってきて」


芽衣が慌ててお風呂に行くと、沙里は別の施設に電話をかけ始めた。


「もしもし、そちらに林咲花という子はいませんか?」

「いますよ!」

「本当ですか!?」

「はい、ご家族の方ですか?」

「はい」

「沙里〜、匂いなくなった?」

「すみません、すぐかけなおします」


芽衣が戻ってきて、沙里はすぐに電話を切った。


「どれどれ、足上げで」

「ほれ」

「くっさ! ちゃんと洗ってきて!」

「なんで!? もう一回洗ってくる‥‥‥」

(まぁ、最初から臭くないんだけどね)


芽衣が部屋を出て行き、沙里はすぐに施設へかけなおした。


「もしもし、先程電話した者です」

「はい、どんな用件ですか?」

「面会とかできますか?」

「できますよ!」

「さっそく明日行ってもいいですか?」

「もちろんです!」

「ありがとうございます!」


電話を切ると、芽衣が落ち込んだ様子で戻ってきた。


「洗ったんだけど、どう?」

「臭い」

「本当に? わざと言ってない?」

「わざと言ってないる」

「そんな日本語は存在しないよ」

「んじゃ、わざと言った」

「沙里〜!!」

「やめっ! やめてー!」

「おりゃおりゃ!」

「やめてやめてー! くすぐらないで〜! やめ‥‥‥て」

「なんで泣いてるの!?」

「なんでもない‥‥‥」


沙里は、よく結菜に体をくすぐられながら二人で笑い合った日々を思い出していた。





翌日、沙里はバイトを休んで施設へやってきた。


「林咲花との面会をお願いした者です」

「お待ちしてました! 今連れてきますね!」

「はい!」


咲花は、施設で働く女性に手を引かれてやってきた。

そして咲花は沙里を見つけると、嬉しそうに走り出した。


「咲花ちゃん!」

「ママ!」

「え?」

「ママ!」

「ママじゃなくて、お姉ちゃんでしょ?」

「ママはママ!」

「‥‥‥(輝久と私はママなんて言葉教えてないし、施設で覚えたのかな‥‥‥)」

「咲花ちゃん、元気にしてた?」

「ママと会えたから元気! 今日帰る?」


沙里は女性に聞いた。


「さすがに連れて帰れないですよね‥‥‥」

「そうですね‥‥‥この施設は、他と比べて面会も気楽にできますし、家庭で暴力があって施設に来たとかでない限り、預ける時にサインしてくださった本人の意思であれば帰るための手続きを進められるのですが‥‥‥」

「そうですか‥‥‥咲花ちゃんごめんね? 今日は帰れないの」

「やだ‥‥‥パパと会いたい‥‥‥」

「また明日会いに来るから、ね?」


咲花は帰れないと分かると、声を上げて泣き出してしまった。


「(やっぱり寂しいよね‥‥‥)そうだ! 明日お菓子持ってきてあげようか!」

「おかか?」

「そう! おかか!」

「ごめんなさい、お菓子とかの持ち込みは禁止されているんです‥‥‥」

「一口だけでもダメですか? 少しだけ!」

「ごめんなさい‥‥‥」

「んじゃ、折り紙とか、簡単に遊べる物は‥‥‥」

「それなら大丈夫です!」


沙里は咲花の手を握って優しく言った。


「ごめんね、おかかはダメだって。代わりに、明日はお姉ちゃんが折り紙教えてあげる!」

「折り紙?」


女性が咲花の目線になるようにしゃがんで言った。


「ほら、この前皆んなで遊んだでしょ? 飛行機とか作ったやつだよ?」

「ママも作れるの?」

「なーんでも作ってあげる!」

「んー‥‥‥」

「咲花ちゃん?」

「んじゃいい子にしてる‥‥‥」

「咲花ちゃんは良い子だね!(喋るのも上手になったな‥‥‥子供の成長って、本当に早い)それじゃお姉ちゃんは帰るから、明日まで良い子にね?」

「うん‥‥‥」


沙里が帰っていくのを見て、施設の女性は不思議に思った。


(お姉ちゃんって言ってたけど、咲花ちゃんはママって言ってるし、何者なんだろう。それにしても、綺麗な白髪‥‥‥)


今にも泣きそうな咲花に、女性は優しく微笑んで言った。


「咲花ちゃん、今日もあれ見に行く?」

「うん‥‥‥」


沙里は帰り道で、折り紙の本と、折り紙を沢山買い、芽衣の部屋で折り紙の練習を始めた。


「なんで折り紙?」

「咲花ちゃんと遊ぶの!」

「おっ! 帰る気になったのか!」

「えっ‥‥‥ちょっとだけね!」


沙里は、輝久が悪く思われないように、誰にも真実を話すつもりはなかった。





翌日、沙里は大量の折り紙を持って、約束通り咲花に会いにやってきた。

二日連続バイトを休んで怒られたが、今の沙里にはどうでもいいことだった。


「咲花ちゃん、何作ってほしい?」

「ひとーち!」

「飛行機?」

「うん!」


沙里が紙飛行機を作ってあげると、咲花は投げて遊んだりせずに、テーブルに置いて見て楽しみ始めた。

それを見て、沙里は紙飛行機を投げて見せた。


「こうやって飛ばして遊ぶんだよ」


落ちた紙飛行機を見て、咲花はちょっと不満そうな顔をした。


「楽しくない?」

「んー」

「飛行機嫌い?」


咲花は飛行機がなんなのか分からず、首を傾げた。


「おちゃったら可哀想」

「おちゃ?」


施設の女性は言った。


「多分、落ちちゃったらって言いたいんだと思いますよ」

「咲花は優しい子だね(なんか、結菜の気持ちが移ってるみたいな考え‥‥‥)」

「んじゃ、次はキツネさんの顔を作ってあげる!」


そうやって沢山折り紙で遊び、帰り際、咲花は沙里のズボンを掴んで言った。


「帰る?」

「ごめんね、また明日来るからね」


泣きだす咲花に胸を痛めながら、沙里は施設の女性に言った。


「余った折り紙は、施設の子供達で遊んでください」

「ありがとうございます」


そして、沙里が芽衣の家に帰ると、芽衣は大胆に下着姿で寝ていた。


「芽衣、起きて」

「んー? 沙里か、おかえり」

「お腹すいた」

「なんか食べ行く?」

「私お金ないよ?」

「ご飯ぐらい奢るって」

「んじゃ行こう!」


芽衣は、愛車のバイクに沙里を乗せて、ラーメン屋に向かった。





ラーメンを食べた後、芽衣は沙里の頬を両手で潰して言った。


「最近頑張りすぎ!」

「いきなりなに!?」

「目の下にクマできてるよ? 休めてる?」

「まぁ‥‥‥程々に」

「気分転換とかできてる?」

「それはしてないけど」

「よし! ゲーセンで遊ぶぞ!」

「いいって、お金ないし、芽衣も疲れてるでしょ。さっきあんな格好で寝てたし」


芽衣は、さらに強く沙里の頬を潰した。


「いいから行くよ」

「う、うぬ」


ゲームセンターのメダルコーナーにやって来ると、沙里はいきなり芽衣の手を引っ張って、嬉しそうにゲーム機を指差した。


「見て見て! 昔はあれなかった! 早くメダル買って!」

「いきなり遠慮しなくなるんだから。本当にメダルゲーム好きなんだね」

「早く早く!」

「分かった分かった、席に座って待ってて」


沙里は、最新のメダルゲームの椅子に座り、ワクワクしながら芽衣を待った。


「お待たせ!」

「早く一緒にやろ!」

「沙里? 芽衣先輩?」

「愛梨!」

「久しぶりー!!」


沙里は、久しぶりの愛梨との再会に、思わず愛梨に抱きつくと、愛梨は沙里の顔を見て心配そうな顔をした。


「ちゃんと寝てますか?」

「そんなこといいからさ! 愛梨も一緒に遊ぼ!」

「いいですけど、このゲーム機、あまりメダル貯まりませんよ?」

「そうなの?」

「沙里もやりたがってることだし、一回三人でやってみようよ!」

「分かりました」


三人は最新のゲーム機で見事に大負けして、UFOキャッチャーコーナーに移動した。


「芽衣! あれ取って!」

「どれ?」

「あれ!」

「牛のストラップ‥‥‥」

「結菜とお揃いにしたい!」


芽衣は、一瞬目がウルっとしたが、気合いを入れて言った。


「よっしゃ! 任せろ!」


芽衣がUFOキャッチャーに必死になっている時、愛梨は沙里に聞いた。


「お小遣い要らないって言われてから、ずっと心配だったんですけど、大丈夫ですか? 困ってませんか?」

「う‥‥‥うん! 全然問題ない!」

「財布出しなさい」

「は、はい」

「空っぽじゃないですか」

「ちょっとね、いろいろあって」

「なにがあったんですか?」

「借金みたいなのしちゃって‥‥‥」

「私が返します。幾らですか?」

「いや、いいよ」

「幾らですか」

「二千二百五十八万ぐらいかな‥‥‥」

「はい?」  

「いいの! 聞かなかったことにして!」

「それは、沙里の顔が疲れてることに関係してるんですか?」

「いいってば、私は大丈夫だから」

「また自分を犠牲にして、誰かを救おうとしているんですね」


沙里は何も言わずに俯いた後、芽衣の隣に行った。


「早く取ってよ!」

「意外と難しいの!」

「そうそう! そこ! 取れたー!!」


沙里は嬉しそうに牛のストラップを見つめた。

牛のストラップは、結菜が持っていた物とは紐の長さも、牛のデザインも違ったが、鈴が付いていて、沙里にとってはお揃いのストラップなのだ。


「芽衣先輩にお礼言いなさい」

「ありがとう!」

「いいよ!」

「私はそろそろ帰ります」

「もう帰っちゃうの? 久しぶりに会ったのに」

「私も沙里と久しぶりに会えて嬉しかったです。次に会う時は、もっと元気な顔で笑ってくださいね」

「う、うん」


その日の夜、掛け持ちしていたバイト先、二件から休みすぎだとクビを言い渡されてしまった。


次の日、とりあえず今あるお金を下ろして、返せる分だけ返そうと銀行にやってきた。


「なにこれ‥‥‥」


沙里の通帳の残高が、三千七万円になっていた。


(愛梨が振り込んでくれたんだ‥‥‥)


沙里はその場で愛梨に電話をかけた。


「もしもし愛梨? 大丈夫って言ったのに」

「私は沙里の笑顔が大好きです。早く問題を解決して、次は最高の笑顔を見せてください」

「でも、こんな大金‥‥‥」

「私を誰だと思っているんですか? 一度はお金で全てを支配しようとした人ですよ? 甘く見ないでください」


沙里はクスクス笑って言った。


「懐かしいね!」

「はい、あの頃は私も沙里も‥‥‥未熟でしたね」

「でも、皆んながいたから、結菜がいたから変われた」

「そうです。沙里は変わったんです! 今の沙里なら、自分を犠牲にしない方法が思いつくはずです。頑張りましょう」

「うん! この三千万は三千万回の笑顔で返すよ!」

「言ったじゃないですか。私を甘く見ないでください。利息は高いですよ? 一億回の笑顔で返しなさい」

「了解! ありがとう! 大好きだよ!」

「私も大好きですよ!」


沙里はお金を下ろし、携帯に付けた牛のストラップの鈴の音を響かせて走り出した。

そして皆んなにお金を返していき、芽衣の家に戻って、部屋のテーブルに芽衣に返す分のお金を置いて、咲花の元へ向かてまた走り出した。





「咲花ちゃん、お姉ちゃんね、咲花ちゃんがお家に帰れるように頑張るからね」

「本当?」

「うん! 本当!」

「パパに会える?」

「会えるよ! 今すぐには会えないけど、必ず会えるように頑張るからね!」

「ママだいしゅき!」


咲花は沙里に抱きつき、嬉しそうにクスクス笑い出した。


「だからお姉ちゃんでしょ? お姉ちゃんって呼んでごらん?」

「ママ!」


施設の女性が沙里に聞いた。


「貴方は、咲花ちゃんとどういう関係なんですか?」


沙里は咲花の頭を撫でて立ち上がった。


「すぐ戻ってくるから、いい子に遊んでてね」

「うん!」


沙里と女性は面会室を出て、沙里は全てを話した。


「そういうことだったんですか‥‥‥」

「はい‥‥‥だから、咲花ちゃんの父親と、私がちゃんと話をします」

「よろしくお願いします」

「咲花ちゃんは、施設ではどう過ごしてるんですか?」

「やっぱり、寂しくてよく泣いています」

「そうですよね‥‥‥もしかしたら、決着をつけるまで来れなくなるかもしれないので、咲花ちゃんのこと、よろしくお願いします」

「任せてください!」


沙里は咲花と別れ、芽衣の家に戻り、二人でベッドの上でゴロゴロしながら話しを始めた。


「芽衣ってさ、まだ輝久のこと好き?」

「まぁね。でも、結菜がいないからって奪う気とか全くないよ? 片想いって楽しいし」

「芽衣って、一応元カノなんだよね」

「そうだよ?」

「幸せだった?」

「その時はね。でも、今になって考えたら、元カノって名乗っちゃダメな気がするけどね」

「へー」

「ねぇ沙里、実は興味ないでしょ」

「うん」

「正直だなー」

「なんか面白い話してよ」

「一番困るやつじゃん」

「美波なら話してくれるよ?」

「んじゃ美波に電話しなよ」

「わかった」


沙里は素直に美波に電話をかけた。


「もしもし美波?」

「うん、どうした?」

「なんか面白い話して」

「いいよ! この前ね! 私が」


沙里は電話を切ってしまった。


「えっ、なんで切ったの?」

「飽きた」

「情緒不安定?」

「普通」

「でも、いつもみたいな落ち着きないよ? ずっと足バタバタさせてるし」

「いろいろ考え事だよ」

「なんでも話してみ」

「芽衣は足臭いから嫌だ」

「今日も臭い!?」

「うん」

「ちょっと洗ってくる!」


部屋から芽衣が出ていくと、沙里はため息をついて、枕に顔を埋めた。


(輝久になんて言えばいいんだろう‥‥‥ちゃんとご飯とか食べてるかな‥‥‥)


沙里が悩んでいると、芽衣は忍足で部屋に入り、いきなり沙里のお尻を叩いた。


「おりゃ!」

「いった!! なに!?」

「マジでバカじゃない? 一人で抱え込みやがって」

「別に抱えんでなんか‥‥‥」


暗い顔をする沙里に、芽衣は笑顔で言った。


「誰にも言わないから話してみ」

「(そうだ、私は変わったんだ。芽衣を頼ろう‥‥‥)実は‥‥‥」


沙里は起きた出来事の全てを芽衣に話した。


「そんな大事なこと、なんで早く言わなかったんだか」

「輝久を悪く思ってほしくなかった」

「沙里は本当に優しすぎ」

「そんなことないよ」

「まぁ、簡単なことだよ。結菜が私達にしてくれたように、輝久の気持ちを受け入れて、真剣に向き合えばいいんだよ! 殴るだけ殴って出てきたのはダメだったね」

「うん‥‥‥反省してる‥‥‥」

「あとは沙里の優しさでなんとかなるよ。沙里なりに、真っ直ぐぶつかってみな!」

「わかった。明日、輝久に会いにいってくる」

「うん! 頑張りなね! 今の輝久を救えるのは、きっと沙里だけだから」

「なんで私だけ?」

「結菜と輝久を一番長く見てきた、輝久の家族だから」

「芽衣‥‥‥ありがとうね」

「沙里って本当に変わったよね‥‥‥なんかキモいわ」

「は?」

「チビだし」

「チビは関係ないだろ!」

「んじゃ貧乳」

「お前言っちゃいけないこと言ったな! 夜中に私が寝たと思って、隣でモゾモゾしてたの輝久に言うぞ!」

「はっ、はー!? わ、忘れろー!!」

「やーだねー!」

「べ、別にいいし! 今日はもう寝る!!」

「おやすみ変態」

「うるさい!!」


(芽衣は優しいな‥‥‥空気変えようとしてくれたのバレバレだよ)

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