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大慌てで失敗

三人での暮らしも落ち着き始め、数ヶ月が経った。

結菜さんは部屋でパソコン作業の仕事をしている。

そして沙里さんは、ファミレスでバイトをしながら、お菓子作りの教室に通っている。

それで僕はというと、掛け持ちしていたバイトもやめて、晴れて無職だ。

でも結菜さん的には、バイトで忙しくしている僕はより、ずっと同じ部屋にいる僕の方が好きみたいだ。

だけど、そろそろ仕事見つけないとな。


「輝久君、今日の夜は何を食べたいですか?」

「なんでもいいよ」

「なんでもいいが一番困るんですよ?」

「んじゃ、ハンバーグ!」

「分かりました! 中にチーズを入れてみようと思います!」

「唾液入れないでね」

「え‥‥‥もう入れちゃダメなんですか?」

「もうってなに!?」

「毎日、輝久君のにだけ入れてました♡」

「ま、まぁ‥‥‥なんかもういいや」

「毎日、美味しい美味しいって食べてくれるの嬉しいです♡」

「それは良かったです‥‥‥それより、沙里さんって、なんでお菓子作りの教室に行ってるの?」

「作ったやつを食べれるからって言ってましたよ?」

「なるほど、すごい納得できる」

「それじゃ、私は食材買ってきますね!」

「いってらっしゃい」

「いってきます♡」


結菜さんが仕事の休憩がてらに食材を買いに行き、僕は携帯でバイトを探し始めた。





結局、前にバイトをしていたコンビニで働くことになり、買い物から帰ってきた結菜さんに伝えた。


「前にバイトしてたコンビニで働くことになった」

「なんでですか!? 輝久君は働かなくていいって言ったじゃないですか!」

「旦那が嫁にお小遣い貰って生活って、なんか変だなって」

「普通のことじゃないですか? 世の旦那さんは、一日中働いたお金を奥さんに管理されて、そこからお小遣いを貰って生活しています」

「でも結菜さん、働いてない僕にサラリーマンの月収の何倍もの額をくれるじゃん。なんか申し訳なくて」


本当は、結菜さんとの結婚式代を貯めるためだけど。

結菜さんに言えば一瞬で払ってくれそうだけど、こういうのは男が払わなくちゃ!


だが、結菜さんはムスッとした表情で言った。


「だったら、今まで渡した分返してください!」

「分かった。待ってて」


僕は部屋からカバンを持ってきて、カバンの中に入ってたお金を渡した。


「全然使ってないじゃないですか!」

「買いたいものとかなくてさ」

「これじゃ、返せない輝久君をお金で支配する作戦失敗です!」

「昔の愛梨さんみたいなことしないでください」

「しょうがないですね。その代わり、仕事が終わったら真っ直ぐ帰ってくること! いいですね?」

「了解でありんす! そういえばさ、猫とか魚とかハムスターとかタランチュラって連れてこないの?」

「宮川さんが、子供に命の大切さを学ばせて、生き物が好きな優しい子になってほしいから預かりたいと言ったので、でも、沙里さんのブサ丸は今度連れてくるみたいですよ」

「ブサ丸ねー。ハムスター気に入ってたのに、ハムスターは連れてこないんだ」

「ハムスターは寿命が短くて、移動でストレスを与えたくないらしいです」

「へー、僕もペット飼いたいなー」


すると結菜さんは、目を輝かせながら言った。


「輝久君の為なら、犬にでも猫にでもなります!」

「おすわり」

「ワン♡」


本当に正座した‥‥‥。


「お手」

「ワン♡」

「ちんちん」

「今ご奉仕しますね♡」

「そんな不健全な犬嫌だ!」

「へー、二人とも、私がいない時に犬プレイとかしてるんだ」

「あ‥‥‥沙里さんお帰り」


沙里さんは冷めた目でリビングのドアを閉めて、自分の部屋に行ってしまった。


「そうです! やることがないなら、今からブサ丸を連れてきませんか?」

「いいよ!」





結菜さんと結菜さんの実家に行き、ブサ丸をバケツに入れ、空の水槽を持ち帰ってきた。


「玄関よりリビングの方が暖かいし、リビングに置いてあげようよ」

「そうですね!」


二人でリビングに水槽をセットし終え、結菜さんが沙里さんを呼んだ。


「沙里さーん」

「なにー? って、ブサ丸!!」


沙里さんは嬉しそうに水槽の前に立ち、ブサ丸を見つめ始めた。


「久しぶりー! 元気だった? そうかそうか!」

「まさか沙里さん‥‥‥金魚の言葉が分かるんですか!?」

「バレちゃしょうがない‥‥‥私は金魚星からやってきた、金魚の王なのだ」

「貴方が金魚の王だったんですね! ずっとお会いしたかったです!」

「サインいる?」

「是非!」


沙里さんは結菜さんの手の甲に、マジックペンで汚物の絵を描いた。


「素敵なサインですね! 今日は晩御飯抜きです!」

「王に飯を出さないのか! 貴様! 許さんぞ!」


この二人‥‥‥いきなりなにしてんの?


「ところでこの金魚って、よくお祭りにいる金魚の形じゃないですよね」

「そうそう、なんだっけ結菜」

「オランダ獅子頭って種類だと、宮川さんが言ってました」

「本当ブサカワだね」

「えー、カワカワだよ」


家に三人が揃うと会話も絶えず、いきなり始まる謎の演劇もあり、三人での生活は本当に飽きないし楽しい。





それから何日か経ち、バイトに行って帰ってきて、三人で騒いで、結菜さんと寝る。

そんな平凡な日常を送っていたある日の夜食の時間。


「結菜さん、食べないの?」

「なんだか体調が悪いんです‥‥‥」


沙里さんは不思議そうな顔をして結菜さんの鼻に、白米を近づけた。


「うっ‥‥‥」

「もしかして妊娠してる?」

「え!? そうなの!?」

「してないですよ」

「なんだ、してないのか」


だが、沙里さんは心配そうに言った。


「明日、一応病院に行ってみなよ」

「そうですね‥‥‥(してたら嬉しいな)」



***



次の日、結菜は一人で病院に来て検査を受けた。


「おめでとうございます! 妊娠してますよ!」

「本当ですか!? 男の子ですか!? 女の子ですか!?」

「今の段階ではまだ分からないね。次に受診してもらう日はあとで教えるから、その時にまた見てみようか」

「はい!」


結菜は、病院を出てすぐに沙里に電話をかけた。


「もしもし沙里さん?」

「あ、今ブサ丸に餌あげるとこだから待って」

「私、妊娠してました」


その時、電話越しに輝久の声が聞こえてきた。


「うわ! なにやってるんですか! 餌入れすぎですよ!」

「輝久君にはまだ内緒でお願いします」

「りょ、了解!」


その後、結菜はいろんな人に電話をかけて、妊娠報告を済ませた。


その頃、沙里と輝久は、沙里が動揺して餌を入れすぎ、水が汚れてしまった水槽を掃除していた。

そして結菜が帰ってくると、沙里は慌てて椅子を引いた。


「結菜! 座って座って! 私買い物行ってくるから!」


沙里はそのまま家を出て行った。



***



「沙里さんどうしたの? あんなに慌てて」

「わ、分かりません」

「病院どうだった?」

「なんともありませんでした! 疲れが溜まっているだけみたいです!」

「それじゃ、今日はゆっくり休んでね」

「ありがとうございます!」





僕と結菜さんが、リビングでまったり過ごしていると、沙里さんが大慌てで帰ってきた。


「オムツとミルク買ってきた! 今ミルク作るからね!」

「さ、沙里さん! 気が早いです! 妊娠してるだけですよ!?」

「え!? そ、そうだった。焦っちゃったよ」

「まったく、沙里さんったら」

「今なんて? ‥‥‥妊娠!?」

「あ‥‥‥沙里さんのせいでサプライズ失敗です‥‥‥」

「ごめんちゃい」

「待って待って! 本当に!?」

「はい! お医者さんに言われました!」

「誰の!?」

「輝久くんしかいないじゃないですか!!」


僕が思わず嬉し涙を流すと、結菜さんも涙ぐんでしまった。


「お母さんに報告しに行こう」

「はい、私から言います」


沙里さんは結菜さんの隣に座って言った。


「まさかこんな早く妊娠するとは、輝久頑張りすぎじゃない?」

「いやー‥‥‥あはは‥‥‥」

「でもすごい! 三人家族じゃん!」


沙里さんがそう言うと、結菜さんは沙里さんの頭を撫でながら優しい声で言った。


「四人家族ですよ」


すると沙里さんは嬉しそうにニコニコして、少し照れたように顔を下げた。



その日の夜、僕と結菜さんは、二人僕の実家にやってきた。


「あら! 今日はどうしたの?」

「お母さんに報告がありまして」

「なになに!? まさか離婚とか言わないわよね」

「えっと‥‥‥赤ちゃんができました!」

「えー!? おめでとう!」

「ありがとうございます!」

「輝久もよかったわね。結菜ちゃんのこと、大切にしなさいよ」

「もちろん!」



***



その頃、沙里は一人でワクワクしながら、ミルクの作り方やオムツの変え方を勉強していた。

(赤ちゃん楽しみだな)



***

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