新居
結菜さんと婚姻届を出しに行き、二人で暮らす家を探すことになった。
二人で、いろんな家が載っている雑誌を広げながらワクワクしているこの時間がとても幸せだ。
「結菜さんはどんな家がいい?」
「普通の二階建てのお家がいいですね。お庭にはブランコを置きたいです!」
「ブランコ?」
「子供ができたら、お庭でも楽しめるお家がいいです!」
子供というワードで、僕は昨日の夜を思い出し、顔を赤くして目を逸らしてしまった。
「あ、あと、お部屋は三つあればいいです」
「三つだけ?」
「私と輝久君が一緒に寝るお部屋が一つ、もし子供ができたら、将来子供部屋にする部屋が一つ、沙里さんのお部屋が一つで三つです!」
「沙里さんも一緒に暮らすの!?」
「やっぱりダメですか?」
「違う違う! 沙里さんは知ってるの?」
「まだ知りません。サプライズにしようと思いまして!」
「絶対喜ぶよ!」
沙里さんは高校生の頃『私のことは気にしないで』って言っていたけど、実はずっと気にしていたんだ。
沙里さんも寂しい思いしなそうでよかった。
※
家を選んで連絡を入れ、早速下見に行き、下見一軒目で家が決定してしまった。
いろんな契約を済ませ、今日から住んでいいと聞き、早速結菜さんは沙里さんを呼んだ。
「見てください! これが私と輝久君のお家です!」
「豪邸とかにしなかったんだ」
「はい! 普通のお家も素敵です! 中も見てください!」
まだ何もない部屋を一つ一つ案内し、最後の寝室を開けた時、結菜さんは笑顔で言った。
「そしてここが、沙里さんのお部屋です!」
「え!? どういうこと!?」
「結菜さんが、沙里さんも一緒に暮らすって」
「輝久は!? 輝久はいいの?」
「もちろんです! でも、ゴミ屋敷にはしないでくださいね!」
「わーい!」
沙里さんは嬉しそうに自分の部屋に寝そべり、いきなり転がり始めた。
「まだなにも無いから広い!」
ノリノリな沙里さんを見て嬉しくなり、僕と結菜さんが笑顔で見つめ合った瞬間、ドンッと鈍い音がして、視線を沙里さんに戻した。
「‥‥‥さーて、結菜の家から私物を持って来なきゃ‥‥‥」
沙里さんは、はしゃぎすぎて買ったばかりの家の壁に穴を開けたのだ。
そしてそのまま部屋を出ようとした沙里さんの肩を、僕と結菜さんは無言で掴んだ。
「ご、ごめんなさい!!」
「ま、まぁ、これも思い出になるよ。ね? 結菜さん」
「そうですね。ですが、沙里さんには一週間お菓子禁止を命じます」
「一週間ぐらい余裕!」
「さて、輝久君♡ 今日は新居祝いに二人でお菓子パーティーをしましょ♡」
「そ、そうだね」
結菜さんはやっぱり鬼だ。
※
宮川さん達の協力で、必要最低限の家具を運び入れ、家の中はまだ殺風景だが、新居で暮らすには問題ないレベルにすることができた。
「さて! お菓子を沢山用意しました! いっぱい食べましょう!」
「食べるぞー!」
「沙里さんは一週間食べれないんですよ?」
「まぁまぁ、今日ぐらいは許してあげようよ」
「沙里さんの味方をするんですか? 沙里さんが好きなんですか? そうだとしたら、浮気どころか不倫になりますが。覚悟はできていますか?」
「不倫になるのね‥‥‥なんか、本当に結婚したんだなって実感しますね」
「そ、そうですね」
結菜さんが照れているうちに、僕は沙里さんにアイコンタクトを送った。
すると沙里さんは、急いで上着やズボンの中にまで沢山のお菓子を詰め込んだ。
「そ、それじゃ、私はお菓子禁止だから、部屋で大人しくしてるね!」
落ちてる! 歩く度にズボンの袖から一個ずつ落ちてるよ!
結菜さんは、そんなドジな沙里さんを見て言った。
「大丈夫ですよ沙里さん、一緒に食べましょ!」
「本当!?」
「はい!」
沙里さんは服からお菓子を全部出し、三人でお菓子を食べ始めた。
やっぱり結菜さんは優しくなったな。
お菓子を食べている時、僕は袋から出た飴を見つけて言った。
「一個だけ出ちゃってますね。新居だから汚れてない気がするし、勿体無いので舐めちゃいますね」
「輝久君、沢山あるので新しいのを舐めてください」
「大丈夫大丈夫!」
そして、その飴を口に入れた時、沙里さんが爆弾発言をした。
「さっきね、急いでお菓子を隠す時、袋から出ちゃった飴があってね、急いでたから、その飴、パンツの中に入っちゃって、ばっちーから避けて置いといたのに」
焦って口から出そうとした時、結菜さんが僕の首を締めてきて、その拍子に飲み込んでしまった。
「出してください!! 早く!!」
「飲み込んじゃった‥‥‥」
僕がそう言うと、結菜さんは静かに立ち上がり、キッチンに向かった。
数秒後、結菜さんがリビングから恐ろしい表情で顔を覗かせて言った。
「私、輝久君と暮らしたら料理頑張ろうと思って、切れ味抜群の包丁を買っておいたんです。よかったです‥‥‥この包丁なら、輝久君があまり苦しまずに胃袋を開けることができます」
「沙里さんのせいですよ!?」
「な、なんで私のせいなの!?」
「見てください。ケチャップだってこの通り、容器ごと切れちゃいます」
結菜さんはケチャップを容器ごと切り、飛び散ったケチャップが血のように見える。
「血みたいになってるから! 怖いから!」
「大人しくしてくださいね‥‥‥」
僕と沙里さんは、咄嗟に沙里さんの部屋に逃げ込んだ。
「沙里さん、ドアから手を離さないでくださいね!」
「分かってる分かってる!」
結菜さんが階段を上がって来る音が聞こえ、僕達は脚を震わせた。
「開けてくださいよ」
ドン!ドン!とドアを叩く音が何度も聞こえ、もう、沙里さんの脚は見て分かるレベルで震えている。
「このままじゃドア壊されちゃいますよ! 沙里さん、囮になってください!」
「嫌だよ! なんで私だけ!」
「元はと言えば、沙里さんのツルツルが悪いんですよ!」
「ちょ!! なんで輝久が知ってるの!!」
「美波さんが言ってました!」
「美波許さん!!」
「僕は窓から逃げるので、沙里さんはドア押さえといてください」
「ちょっと!?」
僕は二階の窓から外に出て、隣の家との間にあるコンクリートに足をかけて、慎重に地面に降りた。
そしてすげ、一階にあるお風呂に身を潜めることに成功した。
せっかくだし、お風呂沸かして入っちゃおうかな。
そう思ってお風呂の蓋を開けると‥‥‥
「みーつけた♡」
結菜さんは先読みして、お湯が張られる前の浴槽に身を潜めていたのだ。
僕は一瞬で蓋を閉め、蓋の上に座った。
「あれ? 開きません、輝久君?何 をしたんですか?」
そして僕は、無言でお風呂のスイッチを押した。
「ちょっと輝久君!? 濡れちゃいます! もうビシャビシャになってます! 輝久君!! 早く出してください!」
結菜さんの声を聞いた沙里さんが急いでお風呂に駆けつけた。
「輝久! 私がいること忘れてない!? なにエッチなっ‥‥‥あれ? 結菜は?」
「この中です」
「早く出してください! もうビシャビシャです!」
「あ‥‥‥あぁ、そういうことね。変なことしてるのかと思った」
「さすがにそんな堂々としませんよ!」
「そうだよね、出してあげたら?」
「結菜さん、出しても暴れませんか?」
「暴れません!」
信じて蓋を開けると、身体中についたケチャップが取れ、お湯が赤く染まり、すごい怖い光景になっていた。
「まったく、出すのが遅いですよ。夜は早いのに」
「沙里さんの前で変なこと言わないでよ!!」
「輝久、結菜を満足させられるように頑張ってね」
「は、はい‥‥‥」
新居暮らし初日は、こんな調子で騒がしい日になった。
***
輝久達がお風呂で騒いでいる頃、宮川は家の皆んなを茶の間に集めて、お酒を飲みながら話をしていた。
「皆んな、本当に長い間ご苦労様でした。これからは自由です。この家は、これまでと変わらずに私が管理していこうと思う」
一人の男性が言った。
「なに言ってるんですか宮川さん! 俺も残りますよ。ここは結菜お嬢様のご実家です。これからも居させてください」
全員が宮川を見て頷いた。
「皆んな‥‥‥結菜お嬢様が家を出て寂しくなるけど、これからも結菜お嬢様を見守りましょう!」
「おー!」
「それと、もし皆んなが良ければなんだが、この家で莉子と子供も住まわせてあげたいんだ。結菜お嬢様には許可を貰ってある」
「もちろん! なにも問題ない!」
「そうか、ありがとう! よし‥‥‥今日は飲むぞー!!」
***




