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柚木の過去

朝になり、目を覚ました僕は唇に違和感を感じながら朝ごはんを食べることになった。


「美波さんも泊まったんですね」

「う、うん、輝久‥‥‥なんで唇腫れてるの?」

「起きたら腫れてました」

「そ、そうなんだ」

「そういえば、輝久君が気を失っている間、何回か携帯鳴ってましたよ」


結菜さんに言われ携帯を確認すると、柚木さんからメッセージが一通、着信が三件きていた。

どうしたんだろう、とりあえず返事しておこう。


『返事遅れました、どうしたんですか?』


メッセージを送ると、返事はすぐに返ってきた。


『会って話せない?』

『結菜さんも一緒でいいですか?』

『うん、できれば二人だけで来てほしい』

『どこに行けばいいですか?』

『M組来れる?』

『冬休み中開いてますかね』

『開いてなかったら移動しよ。十時集合でいい?』

『十時了解です』


ナイスタイミングで美波さんと沙里さんが、朝ごはんを食べ終えて立ち上がった。


「美波! ハムちゃんに餌あげよ!」

「あげる!」

「その前に、ぶさ丸にあげてからだ!」


二人は茶の間を出て行った。


「結菜さん、柚木さんが会って話したいみたいなんだけど、結菜さんも来ていいって言ってました」

「どうしたんですかね」

「なんか深刻そうな感じでしたよ」

「心配ですね、話を聞きましょう」


それから僕達は、美波さんと沙里さんを置いて、十時に間に合うようにM組に向かった。





M組に着くと鍵は開いていて、教室では柚木さんが自分の席に座っていた。


「開いてたんですね!」

「本校舎に莉子先生がいたから、鍵借りたの」


柚木さんは表情も声も、なんだか元気がなかった。


「柚木さん、悩み事ですか? 私達になんでも話してください」

「うん‥‥‥私のお父さんとお母さんが亡くなってるのは知ってるよね」

「はい」

「二人はね‥‥‥殺されたの」


僕と結菜さんは言葉を失った。

すると、柚木さんは過去のことを教えてくれた。



***



中学一年生の時、お父さんとお母さんと私の三人で暮らしていた。


とある日の夜、私が二階の自分の部屋で寝ていると、一階からいきなり窓ガラスが割れるような音が聞こえて目を覚ました。

最初はお父さんとお母さんのどっちかが、寝ぼけて窓にぶつかったりしたのかと思った。

でもその時、お父さんの声が聞こえてきた。


「誰だお前!!」


その後、激しい物置が聞こえて、お母さんの叫び声も聞こえた。

それで私は怖くなり、体を丸めて布団の中に身を隠した。


しばらくすると、階段を上がってくる誰かの足音が聞こえて、私の体の震えが激しくなっていった。

その時、部屋のドアが開き、掛け布団を取られてしまった。


「みつけた」


そこに立っていたのは、服に血がついていて、ナイフを持った小太りの男だった。


「そんなに怯えなくていいよ? 子供には手を出さないから」


私は恐怖で声が出なかった。


「ところで、お金になりそうな物はどこにあるかな? 君の宝物は?」


私は勉強机に飾っていた家族写真を指差した。


「家族が宝物かー、いい子だねー、でもね、君の宝物壊しちゃった」


服についた血、ナイフ、男の言葉で全てを理解して、恐怖が怒りに変わる瞬間があり、枕元にあった目覚まし時計を投げつけた。

すると男性はニタニタと笑い出し、私の髪を引っ張って一階まで私を引きずり下ろした。

リビングに広がっている光景は地獄だった。

血を流して倒れる二人‥‥‥。


「ほら、しっかり見ろ、これがお前の宝物だ」


その時、お父さんはまだ生きていた。


「柚木には手を出すな‥‥‥」

「お父さん!!」

「柚木‥‥‥逃げなさい‥‥‥」

「まだ生きてたのか」


男は、私の目の前で二人にとどめを刺した後、なにも盗まずに家を出て行った。



***



「これが私の過去‥‥‥それで、その犯人が昨日捕まったの」

「‥‥‥捕まってよかったですね‥‥‥」


そう僕が言うと、柚木さんは泣きながら言った。


「犯行の動機はなんだったと思う? 誰でもよかっただよ? なんで私の家族が殺されなきゃいけないの!!」


結菜さんは何も言わずに俯いている。


「輝久はどう思う? 誰でも良かったって理由で家族が殺されたら‥‥‥」

「僕なら‥‥‥犯人を殺したいって思うと思います」

「そう、私も殺したかった。自分の手で殺したかった。なのになんで捕まってんだよ!!」

「死刑とかにならないんですか?」

「死刑で死んでも、私の恨みは消えない‥‥‥自分で殺さないと意味がない!!」



***



結菜は思った。


お爺さんお婆さんの前では笑顔を絶やさない柚木さん、私達の前でも元気な姿を見せ続けた柚木さん‥‥‥。

きっと、無理矢理元気を出す度に心は涙と憎しみで溢れかえっていたんですね‥‥‥。



***



黙っていた結菜さんが喋り出した。


「自分の手を汚しても、柚木さんのお父様とお母様は喜ばないと思います」

「そうかもしれないけど‥‥‥憎いんだよ‥‥‥」

「柚木さんの笑顔には、どこか暗い影があるように見えていたんです。柚木さんは、どうすれば心からの笑顔を見せてくれますか?」

「私が殺せないのは分かってる‥‥‥だけど一生犯人を許せないし、犯人の家族を殺してやりたい‥‥‥そうすれば!」


次の瞬間、結菜さんは柚木さんの左頬に本気でビンタをした。


「‥‥‥結菜?」

「悪いのは犯人ただ一人です。犯人の家族を殺せば、犯人は悲しむかもしれませんが、他にも悲しむ人がいます。なんの罪もない人の命を奪い、なんの罪もない人が悲しむ。その悲しみと辛さ、運命を憎む気持ち‥‥‥柚木さんが一番分かっているはずです」

「そ、そうだよ柚木さん! 犯人の家族を殺したら、柚木さんが憎んでる犯人と同レベルですよ」

「んじゃどうしたらいいの!! どうしたら私の心は救われるの!!」

「きっと救われません」

「ゆ、結菜さん?」

「私は最近まで家族のお墓まいりに行ったことがなく、最近やっと行けたんです。いろんな罪悪感は消えましたし、家族の死を受け入れることができました。ですが‥‥‥寂しいし辛いんです。きっと死ぬまで辛いです」

「それじゃ、結菜はどうして明るく笑えるの?」

「家族が見ていてくれている。そう考えるからです」

「家族が見てる‥‥‥」

「そうです。私が柚木さんに酷いことをした時、柚木さんのご両親はきっと私を怒っていました。柚木さんと仲良くなれた時、ご両親はきっと安心して笑っていました。柚木さんが事故にあった時、ご両親は心配して泣いていました。そして今、ご両親はきっと‥‥‥柚木さんの手を握っています」

「お父さんとお母さんが、手を‥‥‥?」


柚木さんは自分の両手を見つめながら、大粒の涙を流した。

その様子を見て、結菜さんは安心したように僕を見つめた。


結菜さんも連れてきてよかった。

きっと僕だけだったら、柚木さんの悲しみに同情することしかできなかった。

その時、M組の廊下を走ってくる足音が聞こえてきた。


「結菜お嬢様!! 大変です!! 沙里さんが!!」


走ってきたのは宮川さんだった。

そして教室に、とてつもない緊張感が走った。


「落ち着いて聞いてください。沙里さんが‥‥‥亡くなられました‥‥‥」

「な‥‥‥なにを言っているんですか?」

「というのは冗談なんですが」


その瞬間、結菜さんと僕は宮川さんを突き飛ばし、背中を強く踏みまくった。


「おい! お前殺すぞ! 莉子先生に言いつけるぞ!」

「宮川さん! 冗談にしては酷すぎます! 絶対殺します!」

「緊張感あったので、ドッキリのつもりだったんですー! すみませーん!」

「あ、あの二人とも? さっきまで殺しちゃダメみたいな話ししてなかった? お、おーい‥‥‥」


僕達は落ち着きを取り戻して、宮川さんの話を聞いた。


「それで、沙里さんがどうしたんですか? また悪さでもしました?」

「猫を拾ってきたんです! さすがにペットが増えすぎです!」

「猫ですか!? いいじゃないですか!」

「お嬢様! 喜ぶにはまだ早いです! 四匹ですよ!? 四匹拾ってきたんですよ!?」

「素敵です! 早く皆さんで見に行きましょう!」

「なんで嬉しそうなんですか! 私は猫アレルギーなんですよ!?」

「宮川さんは酷い嘘をついたので知りません。輝久君! 柚木さん! 行きましょう!」

「う、うん」


全員で結菜さんの家に向かうと、沙里さんと美波さんが、タオルで子猫を暖めていた。


「あ! 結菜見て!」

「可愛いですね!」

「この子達飼っていい?」

「もちろんです!」


結菜さんがあっさり許可を出すと、宮川さんが焦って言った。


「せめて一匹にしてください!」

「んじゃ三匹はどうするの! 宮川は猫嫌いすぎ!」

「輝久さんと柚木さんと美波さんが連れて帰ってください!」

「私は大丈夫だよ? 家族も許してくれそうだし、真菜は喜ぶと思うし!」

「さすが美波さんです! いや、美波様と呼ばせてください!」

「う、うん」

「僕は無理ですよ!?」

「輝久さん、見損ないました。輝久と呼ばせてもらいます」

「嘘つきに言われたくないです。柚木さんは?」

「私は飼いたいけど、お爺ちゃんとお婆ちゃんに聞いてみないと」

「今すぐ聞いてください!」


宮川さん必死だな。


柚木さんは自宅に電話をかけ、無事に飼う許可がおりて、一匹連れて帰ることになった。


「あと一匹、誰かいないんですか!?」

「愛梨に聞いてみようか?」

「聞いてください!」


沙里さんは愛梨さんに電話をかけはじめた。


「ねぇ愛梨、猫拾ったんだけど飼わない?」

「猫ですか? 飼えますけど、寒くて外に出たくないです」

「結菜の家だよ? おいでよ」

「んー、どうしましょう」


沙里さんはギリギリ僕に聞こえる小さな声で言った。


「輝久もいるよ」

「なっ(なんでそんなこと言うの⁉︎まさか、沙里にはバレてる!?)い、行きます」

「待ってるね」





しばらくして愛梨さんがやってきた。


「どの子ですか?」

「真っ黒な子と真っ白な子、どっちがいい? 私はどっちも可愛いから、連れて帰る子選んでいいよ」

「白い子‥‥‥可愛い‥‥‥」

「んじゃ白い子ね! 宮川!! これで満足か!!」

「はい! 皆さんありがとうございます!」


結菜さんは、飼うことになった黒猫を優しく抱き抱えた。


「可愛いですね、クロ〜」

「えー! 名前は私がつける!」

「クロでいいじゃないですか」

「ヤダ! 私がつける!」

「んじゃ名前言ってみてください」

「クロっち!」

「っちが付いただけじゃないですか。さすがあのハムスターにありきたりな名前をつけるだけのことはありますね」

「あのハムスターだ? ハムちゃんのことか‥‥‥ハムちゃんのことかー!!」


なんだろう、ハムハムハ撃ちそう。


「沙里さんのネーミングセンスを馬鹿にしただけです」

「許さんぞ! 結菜〜!!」

「アハハハ! 二人とも、争いがくだらないよ!」


さっきまで少し元気のなかった柚木さんが、結菜さん達のやり取りを見て笑うと、美波さんは不思議そうに柚木さんを見つめた。


「柚木? なんか変わった?」

「え? なにが?」


結菜さんは優しい表情で柚木さんを見て言った。


「分かる人には分かるのよ」


沙里さんも不思議そうな表情で柚木さんを見つめる。


「なにが変わったの? 分かった少し太った!」

「は? 今なんて言った?」

「少し痩せた!」

「なんか沙里は憎めないよね」

「そうなの?」

「うん、それより皆んな、愛梨のこと見てよ」


愛梨さんは、堂々と床に寝そべり、子猫と同じ目線の高さで何かを言っていた。


「にゃんにゃん♡ 可愛いでちゅねー♡」

「あ、愛梨?」


沙里さんが声をかけると、愛梨さんは一瞬で正座して無表情で僕達の方を見た。


「どうしました?」

「猫好きなんだね」

「別に」

「んじゃ、その子も私が飼うよ」

「ダメです」


愛梨さんの意外な一面を見れて、柚木さんも元気になって、沙里さんが死んだかとヒヤヒヤしたり、今日は濃い一日だった。



***



その日の夜。


「にゃんにゃん♡ ゴロゴロ〜♡」

「ゆ、結菜? なにしてるの?」

「別に」

「いや、今クロっちの前で転がってたよね」

「私はそんなことしません。早く寝ましょう」

「結菜と愛梨って、似た者同士だね」

「別に」



***

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