莉子の報告
十二月に入ると、学校では一年生とニ年生でクリスマスパーティーの準備が始まっていた。
三年生は受験とかで忙しく、準備の手伝いはしなくていいことになっていて、同じ三年生が勉強に励む中、僕達は教室でボケーっとしていた。
「結菜さんって、大学とか行くの?」
「就職します」
「どんな仕事するの?」
「宮川さんの会社に勤める予定です。最初のうちはパソコンで、資料を作るぐらいですが」
「すごいね、僕なんて大学行かないのに、とりあえずコンビニバイトでいいやって感じだよ」
「輝久君は働かなくていいです」
「ダメだよ、世間体もあるし」
そんな話をしていると、棒付きキャンディーを咥えた沙里さんが話に入ってきた。
「世間体とかどうでもいいじゃん」
「沙里さんは働いてもらいますからね」
「えー、養ってよ」
「愛梨さんからのお小遣いを、すぐに使い果たす人にお金をあげるなんて怖いです」
「ケツだなー」
「沙里さん、それを言うならケチです」
僕がそう言うと、僕と沙里さんは顔を見合わせて笑い出した。
すると結菜さんは、僕、沙里さん、一樹くんの順番に鋭い目つきで凄まじい圧をかけてきた。
「なんで俺も!?」
「近くにいたので」
「近くにいたら睨まれるんですか!?」
「うるさいです」
「理不尽!!」
「一樹君は? 卒業したらどうするの?」
「俺は親の仕事を継ぐよ」
「えっとー、農家だっけ?」
「そう! 芽衣さんとか、皆んなはどうするんですか?」
「私も就職かなー。鈴は?」
「とりあえずバイト探す予定かなー。柚木ちゃんは?」
「私はね、アルバイトしながら介護の勉強して、将来お爺ちゃんとお婆ちゃんの面倒見れるように頑張る!」
それを聞いて、結菜さんは優しい表情で言った。
「素敵ですね。美波さんはどうするんですか?」
「私はお嫁さん♡」
「へー」
「もっと興味持ってよ!! 真菜はペットショップで働きたいんだよね?」
「うん! ペットショップで猫のお世話がしたい!」
「なになに? 将来の夢?」
莉子先生が教室に入ってきて、興味津々な様子で話に混ざってきた。
「貴方達も三月には卒業だもんね。なんだか寂しくなるなーって話はいいとして、私‥‥‥結婚します!!」
「‥‥‥えー!?」
教室に全員の驚いた声が響き、M組の後輩達も教室を覗きにきた。
それに本当だ、ちゃんと指輪してる!
「結菜さん知ってた!?」
「い、いえ、知りませんでした!」
「宮川さんと?」
芽衣さんが聞くと、莉子先生はニヤニヤしながら口を開いた。
「そうです! 私も宮川さんも忙しいから、結婚式の予定はないんだけどね!」
全員立ち上がって拍手をし、心から莉子先生の結婚を喜ぶ。
「おめでとうございます!」
「ありがとう! なんか照れちゃうな〜」
すると結菜さんは、嬉しいそうに提案した。
「そうです! 十二月二十五日のクリスマスパーティーで結婚式をしたらどうですか?」
「私は嬉しいけど、宮川さんがなんて言うか‥‥‥」
結菜さんは、すぐに宮川さんに電話をかけ始めた。
「大変です!! 莉子先生が!!」
結菜さんはそれだけ言い残して電話を切ると、莉子先生が慌てて結菜さんの目の前までやってきて、机に両手を置いた。
「結菜さん!! 今のはなに!?」
「宮川さんを呼びました」
「どういうこと!?」
「結婚式の話ですから、直接の方が良いと思いまして。三、ニ、一」
「なんのカウントダウン!?」
「莉子〜!!!!」
結菜さんのカウントダウン通り、M組の校舎に宮川さんの声が響いた。
「宮川さん!?」
「莉子!! 大丈夫か!! ‥‥‥え?」
「わ、私は大丈夫です! 結菜さんのドッキリです!」
「結菜お嬢様〜、心臓止まるかと思いましたよ〜」
「ごめんなさい。莉子先生が話したいことがあるみたいですよ」
「なんですか?」
「えっ、えっと、クリスマスの日、この学校でクリスマスパーティーがあるんですけど‥‥‥学校で式を挙げませんか?」
「学校で!? いいんですか!?」
「愛梨さんに聞いてみないと分からないけど、多分大丈夫だと思います」
すると沙里さんは、あり得ないぐらいの大声で、本校舎に居る愛梨さんを呼んだ。
「愛梨ー!!!! 早くこないとアロエ食わすぞー!!!!」
「来ました!!」
「早すぎだろ!!」
愛梨さんは額に汗をかき、乱れた呼吸のまま言った。
「なんですか?」
「先生と宮川が結婚式をしたいんだって、クリスマスパーティーの日に」
「学校でですか?」
「うん。いいよね?」
「もちろんいいですよ! ご結婚おめでとうございます!」
「ありがとう!」
二人はもちろん、M組の全員が喜んだ。
「話は変わりますが、沙里さん! 私のこと呼び捨てにしすぎです!」
「ごめんごめん宮川」
「ほら、また!」
「いいじゃん宮川!」
「今日の夜ご飯、おかず一品減らしますよ」
「やだ。あ、そういえば、結婚して二人で暮らすの?」
「それは宮川さんとも話したんだけど、一緒に暮らすのはまだ先でいいかなってことになったの」
莉子先生がそう言うと、沙里さんと結菜さんが、心なしか安心したように見えた。
きっと、宮川さんは二人にも好かれてるんだろうな。
「それでは、私は帰りますので! クリスマスパーティーの日を楽しみにしてます!」
莉子先生は、嬉しそうに帰っていく宮川さんを見ながらニヤニヤしている。
よっぽど嬉しかったんだろうな。
※
その日の帰り、今年最初の雪が降り、肌寒さと冬の匂いで、もう少しで卒業ということを実感し始め胸が切なくなった。
きっと、美波さんは切なすぎて大変だろうな。
胸が‥‥‥だもんな。




