投げたカバン
朝か‥‥‥結局、今日のファッションコンテストで着る服を決めてなかったな。
いつも通りの私服でいいや。
そう、適当に私服を選んで学校にやってくると、今日も文化祭が始まる前から、学校は明るい雰囲気に包まれていた。
学園祭の間は、M組は休憩室として使われるため、ファッションコンテストの服が入ったカバンはM組前の廊下に並べた。
※
文化祭二日目が始まり、今日はまず、全員でお化け屋敷に行くことになった。
「最初私が行くね!」
柚木さんが一人でお化け屋敷に入り、中からは柚木さんの笑い声が聞こえて、怖いのか面白いのかよく分からない反応だ。
「ただいま!」
「なんで笑ってたんですか?」
「笑ったら怖くないかなって!」
「なるほど、次は誰が行きますか?」
「俺行くよ!」
次に一樹君がお化け屋敷に入ったが、中からは何も聞こえてこない。
「ただいま」
「平気だった?」
「余裕」
凄い汗だけど‥‥‥。
「ねぇ芽衣、一緒に行こ」
鈴さんが怯えて芽衣さんと一緒に行こうとするが、芽衣さんが看板を指差して言った。
「一人でしか入っちゃ駄目らしいよ」
「んじゃ私入らない!」
「せっかくだから行ってきな!」
「うわ!」
鈴さんは芽衣さんに背中を押されてお化け屋敷に入ってしまった。
入った瞬間に、芽衣さんは教室のドアを閉め、鈴さんは割と早くお化け屋敷を出てきた。
「おかえり、大丈夫だった?」
「大丈夫なわけないでしょ!!」
「情けないなー、私は余裕だから! 行ってくる!」
余裕そうに、ニコニコしながら入っていった直後、お化け屋敷から芽衣さんの叫び声が聞こえてきて、お化け屋敷から出てきた芽衣さんは涙目で鈴さんに抱きついた。
「芽衣は情けないなー」
「うぅ‥‥‥」
その後、美波さんと真菜さん、結菜さんも怖がりながらもお化け屋敷を無事に終え、次は僕の番だ。
「じゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
正直、高校生の作るお化け屋敷なんて余裕だと思う‥‥‥。そうであってほしい。
「キャ〜!!!!」
***
「ねぇ結菜、今女みたいな叫び声聞こえなかった?」
「沙里さん? 輝久君が可哀想なので、聞こえなかったことにしましょうね」
「そうだね」
「た、ただいま! 余裕だったよ!」
「またまたー、女みたいな叫び声出しちゃって!」
結菜と沙里は、柚木を見て思った。
(空気読め!!)
***
「最後は私か! すぐ戻ってくる!」
沙里さんが教室に入った二秒後には、出口から沙里さんが出てきた。
「早っ!!」
「怖いから急いだ」
皆んな怖がりだな。確かに想像以上に怖かったけど。
それから皆んなで食べ歩きしたり、体育館で吹奏楽部の演奏を聞いたりしていると、知らない生徒が慌てて結菜さんに話しかけてきた。
「先輩! なにしてるんですか! 準備してください!」
「もうニ時ですか!? 皆さん急いでください! 輝久君はここで待っていてください!」
「え? う、うん」
皆んなは僕と一樹君を置いて、ステージ裏の部屋に入っていった。
「どうしたんだろう。一樹君はなんか知ってる?」
「何も知らないよ?」
不思議に思っていると、体育館にさっき結菜さんを呼びにきた女子生徒の声が響いた。
「次は、M組によるバンド演奏です!」
「え!? 一樹君! 今の聞いた!?」
「バンドってどういうこと!?」
するとステージの幕が上がり、美波さんと真菜さんがマイクの前に立ち、芽衣さんがギター、鈴さんがキーボード、柚木さんがドラム、結菜さんがベース、沙里さんは‥‥‥カスタネット?を持っていた。
そして、すぐに皆んなの演奏が始まった。
「凄い‥‥‥」
いつの間に練習してたんだろう。
カスタネットの音は聞こえないし、真顔でカスタネット叩いてるけど‥‥‥。
「結菜お嬢様ー!!」
「宮川さん!?」
体育館の一番後ろでは、スーツ姿の宮川さん達が、ペンライトを持ってオタ芸をしている。
他の生徒も盛り上がり、物凄い歓声が上がった。
※
一曲目が終わり、美波さんのMCが始まった。
「皆んな! どうだった?」
「最高ー!!」
「カッコいいよー!!」
「ありがとう! 実は今日の為に、ずっと前から練習してきました! 輝久ー! 見てるー?」
な、名指し!?
「輝久君、返事しないと」
「み、見てまーす!」
「実は、同じクラスの輝久にも内緒で練習してきたんです! 凄いでしょ!」
「すごーい!!」
「それじゃここでメンバー紹介! ボーカル! まずは私! 生徒会選挙にも参加した美波です!」
「貧乳せんぱーい!」
「うぉーい!!!! 誰だ!! 今貧乳って言ったの!! シバき回すぞ!! ‥‥‥ってのは冗談で、ボーカル! 真菜!」
「ま、真菜です!」
「歌上手だったよー!」
「ありがとうございます!」
「ギター! 芽衣!!」
芽衣さんは短くてカッコいいフレーズを弾いてマイクを握った。
「芽衣でーす!」
「おー!!」
「ベース! 結菜!!」
「結菜です」
「結菜お嬢様ー!!」
「キーボード! 鈴!!」
「おー!!」
「ドラム! 柚木!!」
「みーんなのアイドル♡ 柚木ちゃんだぞ♡」
「‥‥‥」
「カスタネット! 沙里!!」
「ささっ、猿でっしゅ!」
「噛んだ?」
「猿?」
絶対噛んだな。
「それじゃラスト一曲!! ラストは私達のオリジナル曲【涙が止まるまでに】」
なんか切ない曲名だな。
※
二曲目は一曲目と違い、切ないラブソングだったが、かなり引き込まれる物があった。
演奏が終わると、大きな拍手と共に幕が下り、全員僕達の元に戻ってきた。
「輝久君、どうでした?」
「ビックリしたよ!」
「サプライズ成功ですね!」
皆んな嬉しそうにニコニコしている。
バンドなんて、ただでさえ団結力が必要そうなのに、まさかみんなが‥‥‥。考え深いな。
それからファッションコンテストの時間まで遊びまくっていると、時間ギリギリになってしまい、全員で服を取りにM組に走った。
「輝久! はい!」
「ありがとうございます!」
美波さんがカバンを投げてくれて、僕はカバンを持って更衣室に走った。
だが、カバンを開けると‥‥‥
「これ誰のカバン!?」
「どうしたの? 早く着替えないと」
「美波さんに受け取ったカバン、僕のじゃないんだ! 女性用の服が入ってる!」
「どれ?」
「これだよ!」
服を見せると、一樹君は何か知っているような顔をした。
「芽衣さんの服だ!」
「芽衣さんはこんなヒラヒラな服着ないよ」
「いや、休みの日に尾行したんだけど、その時着てた!」
一樹君は後で通報するとして。
「どうしよう‥‥‥」
「時間ないし、着るしかないよ!」
「嫌だよ!」
一樹くんは僕の両肩に手を置き、真剣な眼差しで僕を見つめた。
「よく考えるんだ輝久君、芽衣さんの肌に触れた服を着れる。これはご褒美だ」
「一樹君、いつか捕まるよ」
「今はそんなこと、どうでもいいんだ」
「いや、よくないよね」
「いいかい? 今頃芽衣さんも輝久君の服を着ている。ここは芽衣さんの服を着るのが男ってものだろ」
「そうだね、芽衣さんにだけ恥ずかしい思いはさせられないよね」
なんかめんどくさいし、もういいや。
ヤケクソだ!!
僕は、芽衣さんのヒラヒラスカートの私服を着て更衣室を出た。
大丈夫だ、堂々としてれば僕だってバレないはずだ。
そのままステージ裏の待機室に行くと、僕の服を着た芽衣さんがいた。
完璧に着こなしてますやん‥‥‥胸のせいで服が引っ張られて、ヘソ出しになってるけど。
「一樹の服いいじゃん! 私、輝久のカバン持って行っちゃったみたいで、時間ないから着ちゃったけど、輝久どこ?」
やばっ!
僕は人の後ろに身を潜めた。
「輝久君ならあそこだよ」
なんでバラすの!?
「輝久!? なんで私の服着てるの!?」
「ご、ごめん! 嫌だよね」
「い、いや、いいけど(絶対洗濯しない!!)」
「あの、あくまでこれは僕がネタで買った服ってことにしてくれませんか?」
「なんで?」
「結菜さんに殺されるからですよ!!」
「輝久君? どこですか? 今呼びましたか?」
結菜さんの声が聞こえて僕は焦って、声を小さくした。
「今言ったことお願いしますよ! ゆ、結菜さん、ここです」
結菜さんは僕が選んだ白いワンピースを着ていて、やっぱりいつ見ても綺麗だ。
そして、僕を見た結菜さんは、露骨に目を細めた。
「なぜ女装なんですか?」
「僕、センスないからネタでいこうと思って‥‥‥」
「そういう姿は、私以外に見せてはいけないと言ったはずです」
「ゆ、結菜さんが最近見てくれないから、我慢できなくなったんです‥‥‥」
「そんな!」
結菜さんは僕に抱きつき、優しく頭を撫でてきた。
「ごめんなさい! 輝久君がそういう姿を見てほしかったなんて‥‥‥これからは輝久君の気持ちを満たす努力をします」
「あ‥‥‥ありがとう‥‥‥」
「でも‥‥‥おかしいですね」
「な、なにが?」
「何故だか、この服からは芽衣さんの匂いがします。それに芽衣さんの着ている服、どこかで見覚えがありますね」
「き、気のせいだよ!」
「皆さん! そろそろ始まりますので、スタンバイよろしくお願いします!」
結菜さんとは逆のステージ袖に分かれることになっていて、危機的状況から逃れることができた。
***
ステージ袖に歩いていく輝久を、結菜は目元がピクピクするほどの怒りの形相で睨んでいることを、輝久は知らなかった。
***
そして遂に、コンテストが始まった。
音楽に合わせて、両サイドから一組ずつ出ていき、ステージ上で待機することになっている。
そして、よりによって結菜さんの隣になってしまった‥‥‥。
皆んな私服だけど、沙里さんもネタに走ったのか、完全に昔のスケバンのコスプレをしているが、ロリスケバン、ちょっと可愛い。
それにしても皆んなの視線が痛い‥‥‥莉子先生はどんな服着てるんだろう‥‥‥メイド服!?
「皆さんオシャレですねー! 莉子先生はまさかのメイド服! 似合ってますよー! 女装してる生徒もいますね!」
頼む、僕には触れないでくれ。
「さて! 一人一人にアピールポイントを聞いてみましょう!」
アピールポイント!? そんなの聞いてないよ!
それぞれの生徒がアピールポイントを言っていき、遂にM組の番だ。
「十八番、一樹です! 今回は落ち着いた大人の男性をイメージしてみました!」
「十九番、鈴です!ダークで可愛い感じにしてみました!」
「二十番、美波です! 海を散歩してる、爽やかな人をイメージしてみました!」
「二十一番、真菜です! 休日にカフェにいそうな人をイメージしてみました!」
「二十二番、芽衣です! ぼ、ボーイッシュな感じにしてみました!」
よし、僕の服だとは言わなくてよかった。
「二十三番、柚木です! 明るく元気なイメージにしてみました!」
「二十四番、輝久です‥‥‥ネタに走りました‥‥‥」
体育館中に笑い声が響き、猛烈に死にたくなった。
「二十五番、結菜です。好きな人に選んでもらった、大切な服を着てきました」
「二十六番、沙里です! 漫画で見た服を着てみました! 夜露死苦!!」
「二十七番、瑠奈です! 日頃着ないような、清楚な感じにしてみました!」
「二十八番、菜々子です! 時代はギャルしょ! ジャラジャラ系で攻めてみました!」
「二十九番、莉子です。えっと‥‥‥メイド服です」
莉子先生を見た男性教師は、生徒以上に盛り上がっていた。
宮川さんは鼻血を出して、近くにいた生徒に心配されてるし、大丈夫かな‥‥‥。
「さて、全員の紹介が終わりました! これより投票に移ります! お手元にある紙に、一番良かったと思う人の番号を書いて、投票箱に入れてください!」
※
しばらくして集計が終わり、選ばれて呼ばれた一名だけがステージに上がることになっている。
「結果発表でーす!! 結果は〜、二十九番! 莉子先生でーす! どうぞステージへ!」
莉子先生は、恥ずかしがりながらステージに出て行った。
「先生! 今のお気持ちを!」
「あ、ありがとうございます!!」
「ということで学園祭はこれにて終了しますが、これから一枚百円で、優勝者の莉子先生と写真が撮れるので、是非皆さん撮ってくださいねー!」
コンテストと学園祭が終わり、僕は急いで制服に着替えてM組の廊下にカバンを戻し、莉子先生との写真撮影に向かった。
僕は撮らなくても良かったんだけど、宮川さんが恥ずかしいという理由で一緒に行きたがったんだ。
そして宮川さんの番が来ると、宮川さんはカバンから一万円札の束を取り出した
「百万円あります !一万回分です!」
「宮川さん! 恥ずかしいからやめてください!」
「こんなに可愛い莉子先生と写真が撮れるんですよ!? プラス百万払ってもいいぐらいです!」
「写真ならいつでも撮ってあげますから!」
「い、いつでもですか!?」
なんか二人を見てると恥ずかしいや。M組に戻ろう。
一人でM組に戻ってくると、しっかり僕のカバンも置かれてあった。
一樹君はどこにいるか分からないけど、まだ食べ物の出店とかはやっていて、皆んなは甘いものを食べに行っている。今のうちに帰ろう。
※
何事もなく家に着き、その日の夜‥‥‥結菜さんからの着信が止まらなかった。
今鳴っているので百二回目の着信だ。
僕は恐怖から電話に出ることができずに、電話を無視してお風呂へ向かった。
※
お風呂から上がると、芽衣さんから着信が入っていた。
「もしもし芽衣さん?」
「やばい、結菜からの着信が止まらない」
「僕もです。怖くて出れないんですよ」
「服のことだよね、正直に言うべきかな」
「できれば言いたくないんですけど‥‥‥」
「そうだよね、それにわざとじゃないもんね」
「はい、結菜さんには明日の朝にかけ直して、なんとか誤魔化します」
「分かった、それじゃ私もそうするよ。ねぇ輝久」
「なんですか?」
「今、幸せ?」
「幸せですよ?」
「そっか! よかった! おやすみ!」
そして電話を切ると、結菜さんからメッセージが沢山届いていた。
***
一通目
(輝久君と芽衣さん、同じタイミングで通話中でした。私は無視して芽衣さんと通話ですか?)
二通目
(なんで無視するんですか?)
三通目
(私のこと嫌いになったんですか?)
四通目
(なにを隠しているんですか? 正直に教えてください)
五通目
(返事してください。やっぱり嫌いになったんですか? 私の片思いですか?)
六通目
(好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き)
***
完全に情緒不安になってる‥‥‥あっ、沙里さんからだ。
(輝久! 結菜が情緒不安なんだけど、さっきから輝久に会いたい話したいって泣きそうになったり、いきなりイライラしたりしてる)
(なんとか落ち着かせてください)
(なんで無視してるか知らないけど、私に返事したのバレちゃった)
(結菜さん大好き)
(結菜はもう見てないよ、輝久君の家行きます!! って飛び出して行った)
(ヘルプ)
(今日は無理、疲れた)
(そこをなんとか)
(んじゃ結菜と別れたら私と付き合う?)
(こんな時に何言ってるんですか)
(別れたらの話だよ)
(今は考えられないです)
(おやすみ)
(ちゃんと考えておきます)
‥‥‥本当に寝やがったー!!
それからしばらくして、眠気が襲ってきた時
「輝久君!! なんで無視するんですか!!」
ちょっ!? こんな時間に外で大声はまずい!
「私は輝久君が大好きなんです!! ちゃんと話をしてください!!」
外から結菜さんの大きな声が聞こえてきて、僕は慌てて外に出た。
「結菜さん! 静かに!」
「輝久君!」
結菜さんは、僕を見た瞬間に抱きついて泣きだしてしまった。
「な、泣かないでよ」
「輝久君は、私を嫌いになったんですか?」
「ちゃんと好きだよ」
「ならなんで無視してたんですか? 沙里さんには返事して‥‥‥私だけ‥‥‥」
「なんか怖かったんだよ‥‥‥また酷いことされそうで、でも本当に結菜さんが大好きだよ」
「安心しました」
「‥‥‥結菜さん?」
結菜さんの涙は止まり、鋭い目つきで僕を見つめた。
人ってこんな一瞬で涙止まるの!?
「次は、コンテストで着ていた服の話です」
「は‥‥‥はい」
「あれが本当に輝久君の服なら、今お部屋にあるはずですよね」
おわ‥‥‥った‥‥‥いやまだだ!!
「今洗濯中なんだよね」
「それでは、洗濯が終わるまで待ちます」
「今日は遅いし、帰って寝たほうがいいかと‥‥‥沙里さんも寂しがってるはずです!」
「先に寝るとメッセージが来ていました」
沙里さーん!!!!
「上がらせてもらいますね」
「はい‥‥‥」
結菜さんは洗濯中だと思っていて、なにも喋らずにベッドに座りながら、洗濯が終わるのを待っている。
これより!作戦Cを実行する!
作戦はシンプル!無理矢理寝る!!
「うっ‥‥‥」
「どうしました?」
「寝不足で頭が‥‥‥」
「た、大変です! 早く横になってください!」
僕はベッドに横になり、そのまま眠りについた。
起きてからのことは、起きてから考えるとする。




