混浴
さっそく結菜さんと芽衣さんは、焼きそばを作り始めた。
二人とも、すごい手際が良い。
美波さんと柚木さんは、仲良さげに唐揚げを揚げている。
そして僕と真菜さんはというと‥‥‥
「暇ですね」
お客さんが来なくて暇していた。
「意外と、かき氷って売れないんですね。ジュースも自販機の方が安いし」
「待ってても誰も買いに来ないし、呼び込みみたいなのします?」
「そうだね! 行きましょう!」
僕達が店を出ようとした瞬間、背後から結菜さんの鋭い視線を感じて結菜さんの方に振り向くと、予想通り、すごい形相で真菜さんを睨んでいた。
やっぱりやめようって言おう、そう思った時には遅かった。
「輝久くん! 早く!」
「ちょ! ちょっと!」
真菜さんは僕のジャージを引っ張りながら店を出た。
とにかく、かき氷を宣伝して早く戻ろう。
「かき氷はいかがですかー、ビールもありますよー」
すると、二十代ぐらいの茶髪ロングの美人なお姉さんが、前かがみになりながら声をかけてきた。
「君、高校生? 可愛い顔してるね!」
「あ、ありがとうございます!」
うっ、うわ〜、谷間!近い!それになんだか良い匂いがする!
そんなことを考えてる場合じゃない、かき氷を宣伝しなくちゃ。
「あ、あの! 海の家で、かき氷とか売ってるので、よかったら買いに来てください!」
「そんなことよりさー、日焼け止め塗ってよ。背中に手が届かなくてさー」
「い、今、仕事中なので‥‥‥」
「そうだ! 塗ってくれたら、かき氷買いに行くよ!」
「本当ですか!?」
「うん! 約束!」
その会話を横で聞いていた真菜さんが、目を大きく見開きながら、威嚇するように女性を見つめた。
「あの、逆ナンですか? しかも高校生相手に、よりによって輝久くんに。汚い大人ですねー、貴方本当に気持ち悪いです。それになんですか? その、谷間を強調することしか能が無いような水着。胸のサイズなら私の方が大きいと思います。輝久くんも、私の胸の方が絶対好きですよ」
やばいやばいやばい!真菜さん、何言ってるの!?
僕はどっちも好きだよ!?
「はぁ? なにこの女。大人しそうな顔して言ってくれんじゃん。どうせお前みたいな女、胸にしか価値がないんでしょ?」
「なんですか? 私より胸が小さいからって負け惜しみですか?」
このままだと、どっちかが手を出しかねない。
問題になる前に、なんとかしなきゃ。
この状態だと言いづらいけど、言うしかない!
「あ、あの! 僕、日焼け止め塗ります!」
その言葉を聞いた真菜さんは、涙目になりながら僕を見てきた。
こうなるだろうとは思っていたけど、この場を収めて、さらに、かき氷を買ってもらうには‥‥‥こうするしかなかったんだ!!
もう一度言おう!
こうするすなかったんだ!!
女性は僕と腕を掴み、勝ち誇ったように真菜さんを見下ろした。
「それじゃ、この男の子借りるねー」
そして真菜さんは、泣きながら海の家へ走って帰ってしまった。
「お姉ちゃーん!!」
僕は女性に腕を引かれて、ブルーシートがある場所に連れてこられた。
女性はブルーシートに寝そべり、胸の水着を外してしまった。
「あ、あの! 別に外さなくても!」
「高校生には刺激が強いかな?」
「つ、強すぎます!」
「外さないと、ちゃんと塗れないでしょ? ほら、早く塗って!」
「は、はい!」
結菜さんが焼きそば作ってくれてて良かった。
こんなとこ見られたら、この女性の命が危ない。
いや、多分僕の命も‥‥‥。
***
真菜海の家に戻り、唐揚げを揚げている美波に泣きついていた。
「お姉ちゃ〜ん」
「ちょっと! 危ないでしょ! いったいどうしたの?」
「輝久くんが変な女に取られた〜」
「はぁ!? なにしてるの!」
それを聞いた結菜は、輝久を探しに行こうと持ち場を離れようとした。
「芽衣さん、ちょっと輝久くんを探してきます」
すると芽衣は、振り返るようにわざと、熱くなったヘラを結菜の手に当てた。
「あっつ!」
「あー、ごめんごめん、冷やした方がいいんじゃない?」
「大丈夫です」
結菜は火傷で痛む手を押さえながら、我慢して輝久を探しに海岸に出た。
それからしばらくして、女性の背中に日焼け止めを塗っている輝久を見つけた。
(あの女誰? 真菜さんは、連れていかれたって言ってたし、輝久くんは嫌々やってるのよね)
***
「輝久くん、助けに来ましたよ。仕事に戻りましょう」
日焼け止めを塗っていると、まさかの結菜の声に焦り、言葉が出ない。
「た、助け?」
「はい、その女に無理矢理やらされてるんですよね」
女性は腕で胸を貸しながら起き上がり、結菜さんを睨みつけた。
「なに? 無理矢理って、この男の子が塗ってくれるって言ったんだよ。それに後で、かき氷買いに行くんだから、私は客よ! 失礼じゃない!!」
「いますよね、客は金を払うんだから偉い、お客様は神様だとか言う人。それは、お客様が言う言葉ではなく、店員さんがお客様に、心から感謝した時に抱く感情です。店員さんも思うだけで、直接お客様に言ったりしませんけどね。言ってたら、媚び売りが見え見えで気持ち悪いですし」
「はぁ? お前の店にクレーム入れてもいいの? 嫌なら今すぐ消えてくれる?」
「クレームでもなんでもどうぞ。さぁ、輝久くん? 行きますよ?」
結菜さんは僕を引っ張って、海の家に向かった。
「輝久くん」
「はい‥‥‥」
「お仕事が終わったら、しっかり話しましょうね」
結菜さんの顔は見えないけど、明らかに怒っている。
でも、無事に戻れそうでよかった。
仕事に戻り、しばらくすると、明らかに怒りながらさっきの女性がやってきた。
「い、いらっしゃいませ。かき氷買いに来てくれたんですか?」
女性は、焼きそばを作ってる結菜さんを睨んで言った。
「あの女が作ってる焼きそば買うわ」
「は、はい‥‥‥」
女性は焼きそばを注文して、店内のテーブルに座った。
結菜さんが作った焼きそばを女性に渡すと、周りをキョロキョロしながら、自分の髪の毛を一本抜き、その髪を握りながら、すぐに焼きそばを食べはじめた。
なにか怪しい。
「まっず! なにこの焼きそば、これで金取るの?完全に詐欺じゃん!」
大声でそう言ったあと、焼きそばにこっそり髪の毛を入れたのを僕は見逃さなかった。
ただ、僕にはなにかを言う度胸はない。
「しかも髪の毛入ってんだけどー、みんなも食べる時気をつけなー」
結菜さんと芽衣さんの方を見ると、結菜さんは無表情だけど、芽衣さんは悲しそうな表情で、その姿からは微かに怒りを感じる。
その時、芽衣さんが力強くヘラを置き、女性の所に行こうとした。
そんな芽衣さんを見た結菜さんが、芽衣さんの前に出て、代わりに女性の所に向かって歩き始めた。
店内でのトラブルなのに、剛さんは静かにフランクフルトを焼いている。
もしかしたら気づいていないのかと思い、僕は剛さんに小さな声で話しかけた。
「剛さん、止めた方がいいですよ」
すると、剛さんは冷静に答えた。
「大丈夫だ」
な、何が大丈夫なんだ!?
剛さん、まさかビビってる!?
その時、結菜さんは女性へ話しかけた。
「そんなに不味かったですか?」
「不味すぎ、これなら馬糞食った方がマシなレベル」
「あら、貴方は日頃から馬糞を食べているから、こんなお下品な態度になるのですね。ふふっ、納得できました。それに、私は一緒に焼きそばを作った芽衣さんのことが嫌いです」
結菜さん、絶対それ言うタイミング違うよ!!
芽衣さんも睨んじゃってるじゃん!!
「ですが、今は一緒に同じものを作る仲間だと思っています。不味いの一言で芽衣さんを悲しませないでください」
「はぁ?」
結菜さんを睨んでいた芽衣さんは、少し驚いたような表情になったあと、焼いている焼きそばに視線を逸らした。
「それにその髪の毛ですが、私も芽衣さんも、そんな汚い髪ではありません。どちらかといえば、あなたの髪色にそっくりですね」
さすが女性は怒って立ち上がった。
「客に向かってそんな態度とっていいのかよ!」
結菜さんはニッコリ微笑んで、首を傾げながら言った。
「貴方は、お客様ではありません」
女性は結菜さんの不気味な笑みを見て、何も言えなくなり、逃げるように店を出て行った。
その瞬間、海の家でご飯を食べていたお客さんが、拍手しながら焼きそばを褒めだしたのだ。
「姉ちゃん達が作った焼きそば! 最高に美味いぞ!」
「持ち帰り用にもう一つ!」
「姉ちゃん! 焼きそばおかわり!」
「めちゃ美味いよ!」
「私も焼きそば買う!」
「俺も一つ!」
結菜は少し嬉しそうな表情をしてお辞儀した後、焼きそば作りに戻った。
心配で結菜さんさんのところに行こうとしたが、芽衣さんと結菜さんは焼きそばを作りながらなにかを話していて、思わず足を止めた。
「さっきの熱かったよね、本当にごめん」
「いいですよ」
「でも、私も結菜のこと嫌いだから」
「知ってます」
それから、焼きそばは売れに売れ、閉店時間になると、剛さんは、皆んなにジュースのラムネをくれた。
「お疲れさん! 結菜、お前のお陰で今日の売り上げは最高だったぞ!」
「ありがとうございます」
「みんな、明日も頼むぞ! それより‥‥‥莉子はどこ行ったんだ?」
みんなで莉子先生を探しに行くと、莉子先生は、ずっと1人で貝殻を拾っていた。
「私‥‥‥汚いんだ‥‥‥汚れてるんだ」
まだ根に持っていた。
そして、預かっていた荷物を受け取り、合宿中に泊まる旅館に向かった。
※
旅館の中にはどこかの中学生が沢山いて、莉子先生が、その中学校の先生に挨拶しはじめた。
「どうも、谷舎坂高校の教師です。明日の肝試し、よろしくお願いします!」
「はい! 是非楽しんでください!」
今、肝試しって言った?
僕、ホラーとか無理なんだけど‥‥‥
先生に詳しく聞いてみよう。
「先生、肝試しってどういうことですか?」
「この中学校も合宿に来てるんだけど、明日の夜に肝試しするらしいの! だから私達も一緒にいいですか? ってお願いしといたのよ!」
本当に余計なことをしてくれた。
「あっ、あと輝久くん、貴方の為だけに一つ部屋を取るのは、学校から貰った予算的に大変だったから、合宿中はみんな仲良く寝てね! でも! 不純なことは許しませんよ!」
「先生! 先生も同じ部屋ですよね!? そうですよね!?」
「私は大人だから、自腹でいい部屋を予約しときましたー!」
はい、この先生バカです。
不純なこと起こりまくりな予感しかしませんが!?
みんなの方を見ると、案の定目を輝かせて僕を見ていた。
「そんなキラキラした目で僕を見ないでくださいよ‥‥‥」
それから、諦めてみんなで泊まる部屋に入ると、部屋はそこそこ広くて、窓からは海が見える、いい感じの部屋だった。
柚木さんが汗を拭きながら疲れた表情で、一番先に荷物を降ろした。
「今日は汗かきすぎたー。とりあえず温泉入りに行こうよー」
すると美波さんは、温泉と聞いて嬉しそうに飛び跳ねた。
「行く行くー!」
僕と結菜さんを残して、みんなは温泉に行ってしまった
「結菜さんは行かなくてよかったの?」
僕がそう聞くと、結菜さんは僕を壁に押し付けて、僕が逃げないようにしてきた。
「それで、女性の背中に日焼け止めを塗っていたのは、無理矢理だったのですか? それとも、輝久くんが進んでやったことですか?」
なんて答えよう。
それより、胸が当たって集中できない!
とにかく機嫌を損ねたら不味い、嘘をつくしか‥‥‥ない!
「無理矢理でした」
「そうですよね、分かってました。今から日焼け止めを塗ってもしょうがないので、お風呂で私の背中を洗ってください♡」
「な、なんでそうなるの!?」
「他の女にできて、私にできないこととかありませんよね?♡」
「い、一緒にお風呂に入るってこと?」
「当然です♡」
「せ、せめて水着を着ましょう!」
「わかりました♡」
僕達は温泉ではなく、各部屋にある普通のお風呂に入ることになった。
僕が先に湯船に浸かっていると、お風呂のドア越しに結菜さんの声がした。
「輝久くん、入っていいですか?」
うわー、ドキドキしてきた。
でもお互い水着だし、プールなら普通のことだ。
ここはプール、ここはプール‥‥‥いや待て!
もしも僕の僕が反応してしまったら!?
こんな狭いお風呂じゃ、すぐバレてしまう!
「輝久くん?」
「ダメです!!」
「わかりました♡ 入りますね♡」
あれ?
結菜さんって、ワタシニホンゴワカリーマセーンの人だっけ?
お風呂のドアが開き、少し恥ずかしそうに顔を赤らめた、白い水着を着た結菜さんが入ってきた。
白い水着は、すごい似合っていて、それはもう、エロさとか微塵も感じない可愛さと美しさがあった。いや、やっぱりちょっとエロい。
だいぶエロい。
「ど、どうですか? 水着」
「すごい似合ってます! 可愛いです!」
「ありがとうございます。それじゃ、背中流してください!」
ドキドキしながら、結菜さんの後ろに腰を降ろすと、結菜さんの背中が綺麗すぎて、ドキドキが止まらなくなってしまった。
結菜さんの前には大きな鏡があり、鏡を見ると胸に視線がいってしまう。
なるべく鏡を見ないようにしなきゃな。
「そ、それじゃ、洗いますね」
「お願いします♡」
結菜さんの背中を優しく洗っていると、お風呂のドア越しに真菜さんの声が聞こえてきた。
「輝久くん、お風呂中ですか?」
僕は焦って、結菜さんに後ろから抱きつくように体を密着させて、結菜さんの口を手で塞いでしまった。
(輝久くん!?いきなりすぎます!こんなの、さすがの私でもニヤけてしまいますよ!?)
「ま、真菜さん!? 温泉に行ったんじゃないんですか!?」
「輝久くん1人で寂しいかなって思って、戻ってきちゃいました♡ お背中流しますね♡」
「真菜さん! ちょっとまっ‥‥‥」
真菜さんは扉を開けてしまい、僕が結菜さんに抱きついているのを見られてしまった。
「なんですか、これ」
「ここ、こ、これは!」
僕は慌てて、手を激しく動かしてしまい、結菜さんの上の水着の紐に指が引っかかり、紐を解いてしまった。
やば!
鏡を見ると、そこには‥‥‥プリンとプリン。
そう、プリンプリンがプリンプリンしていた。
「ごめんなさーい!!!!」
結菜さんは、冷静になにも言わずに紐を結び直した。
「結菜ちゃん、輝久くんとなにしてるの?」
「混浴です」
「先生が言ってたよね、不純なことはダメだって」
「私達は婚約者ですから、正常なことです」
すると真菜さんはいきなり僕の腕に抱きついてきた。
「それじゃ私も! 輝久くんと婚約します!」
なに言ってるの!?
そして胸!!
今そんなことされたら、いろいろとヤバイですよー!
真菜さんの胸が大きすぎて、服越しでも僕の腕が綺麗に挟まってしまった。
そしてそれを見た結菜さんは立ち上がり、恐ろしい表情で僕達を見下ろした。
「婚約者は一人で充分です。今すぐここから出て行きなさい」
「輝久くんだって私の方がいいよね?」
なんて言えばいいの!?
こういう時、なんて言えばいいの!?
「私の方がいいに決まってるじゃないですか。真菜さんは、輝久くんとキスしたことあります? 私はありますよ、身体中に♡ もちろんアレにも♡」
やっぱりしたんだ!
起こしてからしてくださいよ!
いやいや、そうじゃない、なんとか丸く収める方法は‥‥‥。
「私だって! 輝久くんとキスぐらいできます!ね? 輝久くん?」
真菜さんが目を瞑り、僕の唇に近づいてくる。
結菜さんが止めようと手を伸ばした瞬間、僕は自ら真菜さんの体を押して、キスを避けた。
「なんで‥‥‥輝久くん、どうして? あー、そっか! 結菜ちゃんに毒されてるんだ! 私が隅々まで綺麗にしてあげるね♡ 大丈夫、絶対痛いことはしないから♡ 結菜ちゃんみたいに、輝久くんを苦しめたりしないよ? だから大人しくして」
真菜さんは力尽くで僕を抑えて、無理矢理に僕の唇を奪った。
その瞬間、怒りに狂った結菜さんが、真菜さんの首を掴んで押して、そのまま地面に押し付けてしまった。
そして、真菜さんに跨りながら躊躇することなく首を絞め始めた。
「結菜さん!! やめて!!」
結菜さんは僕の言葉が聞こえないぐらい怒っているようだ。
手を離そうとしても、力が強くて離せない。
「真菜さん、あなたが悪いんですよ? 私の大切な人を奪おうとするから‥‥‥」
「結菜さん!! 退学になっちゃいますよ!! 僕と一緒にいられなくなりますよ!!」
その言葉で、結菜さんは手を離した。
真菜さんは咳き込みながら起き上がり、苦しそうにしながら笑った。
「もう遅いよ、今のこと全部先生に言うから」
「真菜さんお願いです! 結菜さんを退学にしないでください」
真菜さんは僕を見下ろして、見て優しく微笑んだ。
「もう心配しないで? 全部輝久くんの為なんですよ?」
そう言って、真菜さんは部屋を出て行った。
僕と結菜さんはお風呂から上がり、布団を敷いて、皆んなの帰りを待つことしかできなかった。
※
真菜さん以外の全員が温泉から帰ってきたが、そこには何故か、莉子先生もいた。
「真菜さんがね、なんか怖いことがあったって言っててね、別の部屋を取ることになったから、詳しい話は学校に帰ったら聞くね」
待って?
それ、僕の部屋も取れたってことだよね?え?
その後、絶対何か起こると思っていたが、みんな別々の布団で、ちゃんと眠りについた。




