そろそろ修行パートは流行らない
目が覚めると、僕はベッドの上に拘束されていました。見回してみると、辺りには無機質に悍ましい解剖器具が散在しており、ここは森の奥で見つけたUFOの中なのだと妙な確信を持ちました。
本当は毎日更新したかったのですが、腕も拘束されてスマホにも触れなかったので出来ませんでした。
現在、宇宙人と命だけは助けて貰えるよう交渉中です。
いっけなぁーい!遅刻遅刻ぅ~!!
私、大学二年生の男子!クラウンっていうPNでピエロキャラの短剣使いを目指してるの!!今日も師匠との訓練があるはずだったんだけど、弟とゲームして百連敗してたら遅れちゃった!!
ほ~んとっ!私ってばドジっ娘なんだから~!!
・・・はい。そんなこんなでゲーム内一週間目か。
昨日一日分訓練すっぽかしちゃったし、師匠怒ってるだろーなー。行きたくないなぁ、今日もすっぽかしちゃおっかなぁ、一回サボったんだし二回目も同じようなもんだよな?、なんて考えながらゲームにログインする。
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目を開くとそこは、見慣れた人工芝であった。
急いでキョロキョロと周りを見回す。
キョロキョロ。
ほっ。まだ奴は来てないっぽいな。
いつもの経験から考えるに、あと一時間ぐらいはしないと師匠は来ないな。
「はぁ、それまで暇だしゴロゴロしてるかー。」
人工芝の上を仰向けになって寝転がってみる。
左へゴロゴロ、右へゴロゴロ。
うーん。微妙。
よく青春漫画とかで草原の上に寝っ転がって青い空を見てるとかいう、いかにも青春っぽいシーンがあるけどさ、これ実際にやってみると結構な不快感。
本物な芝生じゃなくて人工芝なのもあってか服越しに草がチクチクと刺さってかなり気持ち悪い。
特に頭な。鼠人族になったことで生えてきたネズ耳に草の先がこちょこちょなってくすぐったくて仕方がない。
ん?あれ、背中を地面に寝転がっている感触で気付いたんだが、俺、しっぽ生えてないか?
初期装備である、麻のズボンの後ろ側から手を突っ込んでみる。
・・・ある。
短くて小さいながらも数センチほどの鼠しつぽが生えてる。
鼠のしっぽって体に対してもっと長いイメージがあったんだけど、こんなもんなのか?
そんな新たな気付きも得ながら、数分間ゴロゴロしていたのだが、すぐに飽きた。
「あー、飽きた!」
元々俺って物事が長続きする性格じゃねーし、用事もなく目的のない散歩とかも苦手なタイプだった。
「どうしよっかな~。スキル『演劇』を使ったピエロっぽい哄笑の練習でもしよっかなー。」
『ガチャッ』
ビクウウウゥゥゥ!!!!
急に訓練室の扉が開く音がして、驚きのあまり百メートルぐらい飛び上がった。
え、誰?
まだ師匠が来る時間じゃねーよな?
寝転がって意味不明な独り言してるの見られた?
恐る恐る振り返って、扉のところを見てみると、そこには師匠と、その手前に見知らぬ女性が居た。
師匠は、その女性に無理やりここまで連れてこられたようで、普段の元気さからは考えられないほど萎れて疲れた顔をしている。というか、憔悴しきって倒れちゃってないか?手前にいる女性に寄りかかって『・・・うーーん』とか言いながら魘されてるんだが。
ーーーーーつまるところ、この女は誰だ?
いかにも魔法使いって感じな見た目の無表情な女性で、少しキツそうにも見えるが整った顔立ちに、髪色は金。身長は百六十前後だろうか。細長い体に対して、身長より長い木製の煌びやかな杖を持ち、純白を基調とした布地に金色の刺繍が施されたローブを着ている。よく見たらそのローブのデザインは師匠が着ている純白の全身鎧と酷似した点が見受けられる。
子供の頃から知らない人には話しかけてはいけないと言われて育ち、それを守ってきた優良児な俺だが、勇気を出してその女性に話しかけてみる。
常時発動している、スキル『演劇』をさらに強く使うことを意識して、いかにも人畜無害そうな笑顔を作る。
「師匠!今日は早かったんですね。疲れた顔をしていますけど何かあったんですか?」
扉の近くにいる二人に近付きながら、手を振って声を出す。
「おや、そこにいる見知らぬ顔をした美しい女性は師匠の同僚の方ですか?師匠も隅に置けないですね。そんな美人さんが居たんなら僕にも紹介してくれればよかったのに。
改めまして、どーも初めまして!僕はそこにいる師匠の弟子をしてます。クラウンと申します!」
自分でも、無難にアホっぽい元気な挨拶というものができたと思う。
しかし、金髪魔法使いは、そんな俺の事を見てほんの一瞬、嫌悪の表情を浮かばせた。
え?なんでそんな目で見るん?
そんな嫌そうな顔も刹那で消え去り、まるで自分が見たものは見間違いであったかのように、前の澄んだ無表情に切り替わっていた。
その無表情のまま、顔によくあった事務的な声で金髪魔法使いは口を開く。
「おや、私は以前あなたと顔を合わせた事があるのですが。どうやら記憶に残らなかったようですね。では、改めまして。
王国騎士団副団長、セラと申します。以後お見知りおきを。
ご明察の通り、私はラッツ団長の部下兼補佐を担当しております。」
セラ、という名前には聞き覚えがある。
俺が冒険者登録するため、初めてギルドに入った時に出会った金髪魔法使いな美人さんだ。
「ええ、ええ。セラさんのことはよく覚えてますよ。数日前のことですし、短い時間ながらも一度顔を合わせて言葉を交わしたことのある仲ですからね。」
「おや、でしたら挨拶する必要はありませんでしたかね。それなら知らないフリなどせずに・・・」
金髪魔法使いの言葉に無理やり被せて、俺は彼女を笑顔で糾弾する。
「ですので!僕は『あなたはどこのどちら様ですか?』と問いかけているのですよ。
・・・あぁ、よく見れば少しだけあなたはセラさんと似ていますね。もしかして、ご親戚の方でしたか?」
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俺が放った言葉の効果は絶大だった。
正体不明な金髪魔法使いは、表面上は何も変わらない。
形ばかりは平静を装ってはいるが、しかしてその目には隠しきれていない警戒心をありありと浮かべて、俺の一挙一動を見逃さぬよう睨めつけている。
馬鹿め。こういう時に取り繕いたいんなら無理に無表情を貫き通すんじゃなくて、馬鹿なことを言ってる相手に困惑の顔を作らなきゃいけねーんだよ。
「・・・仰ってる意味がよく分かりません。私はセラです。」
「え?仰っている意味がわからないのはこちらのセリフなんですけど?思いっきり別人な方が知人の存在を語っている状況に混乱を禁じ得ないんですよね。」
ニコニコと、笑顔を貼り付けている俺と、表面上は無表情な偽物。
「そもそも、セラさんは師匠の分の仕事をするから一月はこちらに来れないって仰っていたじゃぁないですか。」
「それは違います。私は『1ヶ月は団長の仕事を誤魔化す』と言っただけでここに来れないとは一言も言っておりません。」
その言葉を聞いて、俺は警戒レベルを数段階上げた。
はじめて、こいつの目を見る。
ーーーーーこいつは、俺とセラさんとの会話を一言一句違わず知っている。
ただの偽物なら、適当にカマかけて矛盾を指摘してやろうと思っていたのに。
こいつはどこまでかは分からないが、それでもかなりの情報を持っていて、その上でセラさんに化けてここまで来ている。
仮称『ニセラ(偽物のセラさん)』からいつでも逃げられるように踵を少し浮かす。そして、持っているだけだった俺のメインウェポン、細短剣『鍼』を装備する。
師匠は、依然意識を失ったままこちらの会話に反応する様子はない。もしかしたら、師匠が倒れていているのも、このニセラが関係しているんじゃないか?
だとしたら、状況は最悪に近い。
師匠は、『人類最強』と呼ばれているし、この人のバカげた強さや非常識さを俺は散々目にしてきた。
ーーーーーニセラは、その師匠の意識を奪い、ここまで運ぶことが出来る力を持つ存在である可能性があるわけだ。
「大体、何を持って私がセラではないと仰っているのでしょうか?」
「そりゃあ、だから、雰囲気ですよ。目線、仕草、表情。細かく言語化は出来ませんけど、何となく雰囲気が違うじゃないですか。僕って子供の時から他人の気配を読むのが得意なんですよねー。」
俺が気づいた二人の一番大きな違いは団長に対する態度だ。
本物のセラさんは、師匠に対して恋愛感情のようなものを持っていた。
しかし、このニセラは逆に師匠のことを嫌っている。
なんか、『隙アラバ殺シテヤル』って感じの執念じみた憎悪と殺意までもを感じる。
この違いは、一時の感情によるものとかじゃなくて、その人の気質によるものだ。
しかし、確かにそれを示す証拠はない。
俺が確信を持っているだけじゃ周りに示すことは出来ない。
このままでは水掛け論だ。一向に埒があかない。
偽物だと疑っている俺と、本物だと主張するニセラ。双方に意見を裏付ける材料は無い。
もうお互いが会話や交渉では引けないところまで来ている。もし俺が不自然に相手に近づいたら相手は即座に抑えに来るだろうし、俺ももしニセラが変に動いたら攻撃を仕掛けるだろう。
ーーーーー言葉で解決しないなら、やることは一つ。
俺はニセラに向かって口を開いた。
「このままでは、埒が開きませんね。お互い、こんな膠着状態がずっと続くのは嫌でしょう?」
「それなら、あなたが譲ってくださってもよろしいんですよ?」
「それは無理な相談ですかね。だから、提案があります。ゲームをしましょう。僕と、あなたで。」
突然な俺の宣言に、ニセラは怪訝そうに眉をひそめる。
「・・・ゲーム?」
「ええ。実は、僕が持っているこの装備は特殊効果を持ってましてね。『付いている針の先で攻撃された者を即死させる』という効果があるんですよ。
なのでここはひとつ、これを使ったゲームをやって勝った方の言い分を信じるというのはどうでしょう?」
そう言って、俺は装備していた『鍼』の左の篭手だけを外して上に掲げる。
『即死効果がある』というのを聞いて、一層目付きを鋭くさせるニセラ。
俺が頭の上に掲げている篭手に最大の注意を払っている。
「・・・ゲーム程度で済ませるというのは賛成ですが、即死というのはまた剣呑ですね。一体どんなルールだと言うのですか?」
ーーーーー食いついた。
「いえ、やっぱりやめましょう。そんなことよりもっと簡単な方法を思いつきました。・・・あなたの後ろにいる僕の師匠がようやく目が覚めたようなので彼にお聴きしてみましょう。まさか、騎士団団長と副団長のコンビなら見間違えようが無いでしょう?」
その言葉と同時に、ニセラはバッと後ろを振り返る。
肩に乗っかったまんまの、師匠の頭を見て、その瞼が開いているか確認をする。
もちろん今の俺の言葉は嘘だ。師匠は相変わらず眠ったまんまだ。くそめ。起きろよ。
ニセラもそれは、頭では分かっていただろう。
しかし、振り向かずにはいられない。
人は考えたことだけで動いているわけじゃないからだ。理性だけで行動を決めているものは、それを俺は人間とは呼べない。
ーーーーーもしかしたら、でも、本当に?
そんな疑念が発生して、それは完璧には拭いきれない。
それだけで、その隙だけで俺の作戦は完了している。
師匠がもしも本当に目覚めていたら、状況は彼女にとって致命的なものに変わる。
だから、ニセラは振り向かずにはいられない。
「・・・!目覚めてなど・・・」
「よっ!」
ニセラが嘘に気付いて、驚愕と少しの苛立ちを映した顔でこちらを振り返ると同時に、俺は細短剣『鍼』を投げ付ける。
お馴染みの左の篭手だ。
(本来、装着して使う事を想定して造られたものなのに、左の篭手だけ投擲としてしか使ってないな。いつもごめんな。次からは大事に使うから許して。)
俺はスポーツは苦手だが投擲だけは得意だ。
流石に遠くを狙って投げる能力は無いが、数メートル離れた程度のこの距離ではまず外さない。
偽物の顔に目掛けて、思いっきり篭手をぶん投げてやる。
ーーーーー言葉が通じないなら、暴力に頼るまで。
「・・・くっ。」
ニセラは、振り向いて直ぐに飛来物に気が付き、ギリギリ上半身を傾けてそれを避ける。
投擲だけは得意だと思っていたのだが、案外そうじゃないのかもしれない。前にも師匠に弱体化した上であっさり渾身の投擲を避けられたし。
まぁ、いい。今回の目的はニセラに篭手を当てることでも、ましてや殺すことでもないのだから。
さっき『鍼』の即死効果のことをわざわざ説明してやったのは、あくまで見せ札。
避けられることまで織り込み済みだ。
ニセラなら、俺が見込んだ通りの実力のある奴なら、『即死効果』なんて付いた物騒な物は警戒せざるを得ないと思っていた。
ーーー何故なら、彼女は優秀だから。
彼女は、もしかしたら師匠が目を覚ましているかもという可能性を排除し得ない。
ーーー何故なら、それを考えられるほど頭がいいから。
彼女は、俺の嘘が判明した時点で俺の不意打ちで背後から攻撃してくることを警戒せざるを得ない。
ーーーそれほど経験豊富だから。
俺の攻撃手段の筆頭候補はさっき説明されたばかりの武器だから、万が一にもそれに当たることを避けざるを得ない。
ーーーそれが出来るほど強いから。
だから、弱者なんかを警戒してくれる。
ありがとう、その優秀さ故に死ね。
ニセラは、すでに『鍼』が当たらない位置まで移動し終えている。
でもいいのか?
「避けてもいいんですか?」
ーーーお前の後ろに誰がいるか忘れたか?
ーーー王国騎士団団長。
ーーー『人類最強』
殺意の伴って飛んでくる武具は、意識を失ってても分かるとは思わなかったのか?
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気持ちよさそうに眠ったまま、ニセラの肩を失った師匠は、ゆっくりとその強大な全身が傾いでいく。
『鍼』は当たるはずだったニセラに避けられて、そのまま後ろにいた師匠の鼻先目掛けて放物線を描きながら飛んでいく。
ニセラは、自分の安全にを確保したことで安堵してから、俺の声でようやくそのことに気づいたらしく、慌てて『鍼』を止めに行く。
しかし、時すでに遅し。
絶対に当たらない距離まで離れた、ということはもう止められない所まで遠ざかったという事だ。
師匠の頭がどんどん地面に近づいてくる。
細短剣『鍼』が勢いを失い、落ちながらも師匠に近づいていく。
師匠が、倒れていく。
『鍼』が、飛んでいく。
ニセラが、手を伸ばす。
『ダンッ!!!』
震脚。
ーーーもう当たる。
それぐらいまで近づいた時に、今まで意識を失っていた師匠が、大きく前に一歩踏み出して、足裏で地面を打ち鳴らす。
右手を前に出して、飛んできていた『鍼』をガシッと掴む。
ニセラが焦った顔をする。
これで俺の勝ちだ。
「さあ、師匠。この偽物をぶちのめすのです!」
師匠が目を開き、言葉を発する。
「俺のおおおぉぉぉおおおぉおお!!睡眠をぉぉぉ!!!邪魔したのはあああぁぁぁぁぁあ!!!!お前かああああ!!!!!!」
ストックなんて概念はありません。
毎日更新している他の作者は頭が素晴らしいと思うので、それと比べて僕を責めないでください。