ログアウトがあるってのを思い出した
ごめん、寝てた。
なんだかんだでゲーム内の時間にして五日経った。
五日って言っても現実世界じゃ、まだ半日ぐらいしか経ってないんだけどな。
だから大学から帰ってきて半日、つまり一晩中飲まず食わずの徹夜でゲームをやっていたことになる。夏休み始まったからって本当にこれでいいのか?俺。
そんなこんなで俺は今、ようやくログアウトして家のリビングでカロリーバーと栄養ゼリーを貪っている。なんでそんなにログアウトしなかったのかって?・・・存在を忘れてたんだよ。
そもそも、俺ってばギルドの訓練室から出られなかったんだよ。師匠、俺をずっと閉じ込めてんの。
ゲーム初日の訓練が終わった後、俺は訓練という名の拷問を受けて、文字通り死ぬほど傷ついた体と心を休めるために、芝生に寝っ転がっていた。
そしたら、そんな俺を置いて、師匠があっさり訓練室から先に出てっちゃったせいで、そのままオートロックが掛かってしまった。
出入りするための鍵の持っていない俺は冒険者ギルドの訓練室に一晩閉じ込められることになってしまったという訳だ。
あまりにも鮮やかな逃走防止の監禁に、最初はショックを受けて理解出来ずにいたが、ようやくのこと事態を把握して『どうすっかなー』って考えていたら、あっという間に夜を越えていて、気づけば朝になっていた。
多分次の日の朝になったのだろう(窓もない特殊空間にいた俺には時間がわからなかった)。そしたらまた師匠が訓練室に入ってきて、『おーう、今日も訓練始めっぞー。』とか言ってきやがった。
俺を一晩中こんな何も娯楽のない殺風景なところに閉じ込めておいて、謝りもせずにそんな呑気な声を掛けてきた時はぶっ殺してやろうかとも思って、こう言ってやったよ。
『はいっ!!』
ってね。
元気よく返事してやったよ。
昨日の辛い訓練によりすっかり痛みとともにトラウマが脳に刻み込まれた俺は何を言い返すこともできずに唯々諾々と従うしか無かった。
それからはもう、毎日『ステップ』の特訓だ。
俺はレベルアップで得たポイントを全てHPにもMPにも振らずにSPにだけ振ってたから、SPだけが突出して異常な程に溜まっていた。LV5にして、なんと溜まったSPが550。『ステップ』は一回ごとにSPを1ずつ消費していくスキルだから、一日に脚部爆裂地獄が五百五十回。それでSPを全て吐き出すと一応その日の拷問は終わって、また回復するまで身動きも取れないまま芝生に一晩放置される。
鍵閉められて、放置されんのも一回だけなら、偶然かなぁって思えたけど五連続で監禁されたら無理だわ。
あいつ、逃亡防止のためにワザと鍵かけて出てってるわ。
それを五日間。
このゲーム世界でスキルを使うとSPを消費する。そして、プレイヤーもNPCも、SPが0になったら、状態異常『貧血』に罹って目眩や疲労により一歩も動けなくなる。
かく言う俺も毎日SP切れを起こして行動不能に陥り半気絶みたいな形でぶっ倒れていたのだが、その状態異常による疲労よりも、それ以上に訓練がキツすぎて状態異常の虚脱感を無視して動けるようになってしまった。
・・・嬉しくなさすぎるマイナス成長だぜ。そのせいでSP切れ起こした後も、師匠にランニング百周しろとか言われたし。・・・師匠のあんないい笑顔初めて見た。もう何もしたくない。
心も体もズタボロになって『もう、死んじゃおっかな〜♪』なんて考えながら、うふふふと笑っていた時に、ようやくこれがゲームだったことを思い出して一旦ログアウトすることにしたのだった。
いやー、危なかった。質感がリアルすぎてあれが現実世界だと思ってた。逃げ場なくこのままずっと同じ日が続いてたらガチで自死を選ぶとこだったぜ。
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そんなこんなで、ログアウトして、スマホ片手にこのゲームの公式掲示板を巡回していたのだけど、結構色々情報を得れたな。
まず、DEXだ。
DEXとは、ステータス値の一つで、器用さに関係しているらしいのだが、ゲームが開始してから今まで、全くDEXの効果が発表されていない。
手先が器用になったり、生産職のスキルが成功しやすくなったりする訳でもないらしい。
俺は、経験値が多く手に入ったり、技能を入手しやすくなったりするかも、って思ってAGIと同じぐらいに振ってたけど、それが正しいか分からなくなってきた。まぁ、一応これからアップデートとかが来てDEXを使う機会が来ると信じて振り続けてみるか。・・・来るよな?
後でまた師匠に聞いてみるのもいいかもしれない。
次に、称号『阿呆』の効果だ。この称号、ほんとにつっかえねぇ。
『『阿呆』
この世界と共に歩むことを決意した者
チュートリアルの魔物に、一度も攻撃せず、逃走したもの。
INT成長阻害10倍
魔物、NPC好感度上昇大
スキル『逃走』を入手
この先、NPCと魔物を殺さない限り、他のプレイヤーから、NPCと認識される
NPCと同じシステムを付与される
一度死んだら、アバター削除 』
チュートリアル戦闘で敵モブであるスライムからRP『不殺』に則り闘争でなく逃走を選んだら勝手に付与されちゃった称号だ。
効果はこんな感じの称号なのだが、こいつがとにかく使えない。
『INT成長阻害10倍』
一つ目のバッドステータスだ。効果は悪いが、まぁこいつは見逃してやろう。元々俺は魔法スキルを覚える気もINTを伸ばす気もないから何か困ることはない。
『魔物、NPC好感度上昇大』
これは普通にグッド。魔物に好かれてどうすんだって話だが、NPCから好かれて損はない。師匠と出会って訓練イベントが始まったのもこの称号の効果かもしれないし。・・・いや、今の地獄度を鑑みれば決していいとは言えないのか・・・?まぁ、うん、忘れよう。
『スキル『逃走』を入手』
これが一番ありがたいかもしれない。"逃げる"っていう動作をとる時限定だがパッシブでAGI+10ってなるのは俺のプレイスタイルにも合ってる気がするしな。
RP()ロールプレイ
で『不殺
コロサズ
』を決め込んでる俺にとって避けたい戦いを避ける為の手段はいくらあっても困らない。スキル『逃走』はパッシブスキルだからいくら使ってもSPを全く消費しないしな。
『この先、NPCと魔物を殺さない限り、他のプレイヤーから、NPCと認識される』
これは、うーん。・・・はっきり言って微妙。元々殺す気もないが、プレイヤーからNPCと認識されるメリットが今のところ思いつかん。
ピエロロールプレイしてる旅人
プレイヤー
って認識から、正体不明でミステリアスな道化師
ピエロ
って認識されるぐらいか?・・・結構アリかも。
『NPCと同じシステムを付与される』
これが二つ目のバッステ。いや、バッステ予備軍だ。NPCと同じシステムってのが曖昧すぎる。今までそれっぽい効果を感じたのは、オカマな店主の武器商店での一幕が最初だろうか。
あそこでステータスを確認した時、HPが『9.8/10』と表示された。ゲームの最小ダメージである1よりも小さいダメージを負っていたのである。普通のプレイヤーなら切り捨てになるようなダメージもしっかりカウントされることはデメリットかもしれない。HPバーがドットで変化するタイプから、リニアに変化するタイプになったって考えればわかりやすいか。
で、後は痛覚設定か。ゲーム内での痛覚は事故防止の為、最大値でも現実世界の十分の一に固定されている。これはβ版の時にはもうそうだったし、掲示板で質問してみたら、今もそれで変わらないらしい。
しかし、俺が訓練で『ステップ』の発動に失敗した時の怪我の痛みは確かにリアルのものだった。なんの軽減もなされていない激痛が流れていた。他のプレイヤーは死に戻りするほどの怪我を負ってもちょっと違和感があるぐらいなのに、足を怪我した程度でこんな死ぬ程の痛みを感じるだろうか?これが『NPCと同じシステム』ってやつなら俺はこの称号を今すぐにでも切り捨てたい。『NPCもこの世界で普通に痛み感じてんだからお前も感じりゃいーじゃーん(笑)』ってか!?
だが、だがこれでもまだマシな方だ。最後の一文
『一度死んだら、アバター削除』
はい、バッステーー!!!
クソofクソ。バッステofバッステ。
死に戻り前提のRPGで死んだらアカウント削除って話になんねぇよ!!
行動が著しく制限されるわ!!
「・・・はあああぁぁ。」
思わず深いため息が漏れる。
それに俺がまだ一度も他の旅人と接触出来てないのは、俺がまだチュートリアルを終えていない判定になっているかららしい。
つまり、俺がピエロロールプレイして他のプレイヤーと交流するにはあの地獄のようなクエストを何とかしてクリアしなければいけないということだ。
またこれから、師匠と会って地獄のような一日を過ごすのか。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
「どしたの、兄さん。そんなため息なんかついて。」
その時、ある男が一階の自室から出てきて声を掛けてきた。
嫌味なほど背の高く、手足は長いくせに小顔で美形な、男なら誰しも嫉妬せずにはいられない男。イケメン万能超人こと、俺の弟だ。我が家に二人しかいない兄弟の下のやつ。出来る方出来ない方で言うと出来る方。賢者と愚者で例えればの賢者の方。俺がこの世で最も嫌いな奴。ちなみに出来ない方で愚者の方が俺だ。
偶然通りかかったらしい。青いパジャマを着てる寝ぼけなまこな所を見ると、寝癖を直しに洗面所へ向かっているんだろうな。・・・ちっ、こいつ寝癖のくせになんか決まって見えるんだよなぁ。ムカつく。○ねばいいのに。
今はもう普通に朝の八時だからもう少しで母親も目を覚まして降りてくるかもしれない。父親はもっと早くに仕事に向かっている。会社員に夏休みなどないのだ。大変だなぁ。
「あぁ、愚弟か。兄ちゃんちょっと嫌なことがあってな・・・。」
「えっ、珍しい。兄さんが悩み事なんて。」
いや、俺だって普通に悩み事位するだろ。
むしろいっつもお前という存在をどう消すか悩んでるよ。
「だって兄さん、友達なんかいないから人間関係のこじれで悩むことなんてないし、最低限しか外に出ないから事故か事件に巻き込まれる事もないし、勉強もスポーツもなーんにも頑張ってないんだから、ストレスの溜まりようがないでしょ?」
このクソガキがっ・・・!!
「喧嘩売ってんのか。俺がその友達いなくて何も頑張ってない自分に悩んでたらどうすんだよ。」
「うわあ、かわいそう。」
「世界一棒読みなかわいそうをありがとう。もうどっか行けよ。」
具体的には『うわあ』が『ぁ』じゃなくて『あ』な所に棒読み感を感じる。
「兄さんの悩みなんてどうでもいいけどさ、家のど真ん中占領してこれ見よがしにため息なんてつくのやめなよ。なんか、『今悩んでます』アピールしてるウザい女みたいだよ。」
ぐっはあ、傷ついた。
呆れ顔で自分よりも優秀な弟から指摘されるのに死ぬ程傷ついた。正論すぎて言い返せないのが更に嫌だ。
完璧なんてものは、存在しているだけでも腹立たしい。
俺達みたいな凡人どもに付け入らせる隙がないってのが腹が立つ。
俺たち凡の者は、他人の不幸を見て自分はまだマシなんだって安心したい生き物なのに、駆けずり回って粗を探しても見当たらない完全な存在っってのは、普通のに人類にとっては自分の立っている場所が崩されるような不安を齎すものだ。
だから俺は、この弟が嫌いだ。
「はぁ、それもそうだな。部屋に戻るわ。」
負け犬である俺は、スゴスゴとカロリーバーの袋とゼリーのパウチを片手にリビングから席を立とうとする。
完璧な奴とこれ以上会話したくない。
すると、弟がするりと俺の向かい側の席に座る。テーブルに肘をついて顎を手に置きながらニコニコ話しかけてくる。
「まぁまぁ、拗ねないでよ。何に悩んでるの?僕が聞いてあげるよ。話してみ?」
「気持ち悪ぃな。なんでお前に話さなくちゃなんねぇんだよ。」
「話せば楽になることってあるよ?僕って結構聞き上手なんだぜ。クラスメイトからもよく恋愛相談とか勝手に話されるし。
それに、兄さんが珍しく悩み事なんてしてるから何があったのか気になるんだよ。」
「野次馬根性かよ。」
「そうともいうね。」
嫌な奴だ。こういう事を素直に言ってる奴なのに、整った顔で愛想良くしていれば周りから好かれるってんだから腹立たしい。
「まぁ、いいか。話すよ。俺より何倍も頭脳明晰なお前に話したほうが一人で悩んでるより生産的かもしれないしな。」
凡人は、総じて意思が弱く流されやすい。
自分より存在が上位の者を感じ取ると、逆らいたく無くなるのである。
俺が了承すると、露骨に嬉しそうな顔をして、弟はそのニコニコ顔を更にニコニコさせる。神々しいともいえる眩いオーラが見えてきて、その事に余計に腹が立った。
「よっ!!そうこなくっちゃ。任せてよ。兄さん程度のちっぽけな悩みなんて相談受付百戦錬磨なこの僕が一瞬で吹き飛ばしてやるぜ。」
嬉しそうな顔して、パチパチと手を叩いてやがる。あと、兄さん程度って言うな。程度って。ちっぽけもやめろ。兄なのにお前よりも背が低いの気にしてんだよ。
しかしだ、相談するにしても今の俺の現状をこいつにどうやって話せばいいんだ?
ゲームのNPCに拷問を受けてて憂鬱だって言って説明になるか?
うーむ、どこから話せばいいのやら。
よし。簡潔に伝えよう。
「えーっとな、ゲームをするのが面倒になったんだ。」
「は?」
さっきまでのニコニコとした顔が一瞬で凍りつき、極寒の眼差しでこちらを見てくる。声怖ぇよ。リビングが南極になったかと思ったわ。
いや待て。今のは俺でも言葉の選択を間違ったのが分かった。
確かにこれじゃ意味不明だ。からかってると思われても仕方がない。
「兄さんさ、僕は真剣に悩みを聴いてあげようと思ってたんだぜ?らしくもなく恋愛でも始めたかと思って期待してたら、『ゲームが面倒になった』?ふざけてんの?」
「違ぇーよ。確かに言い方が悪かったよ。事態はもっと複雑なんだって。聞いてくれよマイヤングブラザー」
両手を上げて、抵抗する意思がない事を示す。
弟が怒るってのも随分珍しい事だ。こいつが本気で怒ったら、俺程度の存在は一瞬で消し飛ばされそうでとても怖い。すぐにでも怒りを鎮めてほしい。
弟は、じとーーっとしばらくこっちを見つめて、情けない顔をしている俺を認めると、小さく溜息をつきながら仕方ないと言った表情を作る。
「はぁ、聞いてやるよマイオールドブラザー。」
よかった、そんなに怒ってなかったみたいだ。
「あんまり怒ってなかったみたいだって思ったでしょ?言っとくけど、まだ僕は怒ってるからね。一応続きも聞いてあげようって思っただけだから。最後まで聞いてもしつまんない話だったらその時が兄さんの最期だよ。」
訂正。結構怒ってるっぽい。
なるべく楽しいオチを用意しなきゃ俺は弟に殺されるらしい。弟を犯罪者にしないためにも兄として一皮むいて抱腹絶倒の大爆笑ネタを披露せねば。
「えー、話を聞いてくれておおきにな!隣の家のおっさんが散歩中に白い犬を見つけたらしゅうて『あれはチャウチャウちゃうか?』『いやちゃうちゃう、チャウチャウちゃうんちゃうか?』ゆうて悩んどったそうやねん。」
「おい。」
「はい。」
「そういう小話で茶化してお茶を濁そうとしないで。簡潔に話して。」
これ以上ふざけると本気で怒りそうだな。
話を聞いてくれる弟にも失礼だしそろそろ潮時か。
「ゲームをやるとな、拷問を受けるんだ。」
「待って、いきなりわかんない。ゲームって兄さんの部屋にあるでっかい奴だよね?僕が兄さんの部屋に運んだやつ。」
「ああ。その認識で正しい。」
「拷問を受けるって誰に?悪質プレイヤーがいるならGMに通報して・・・」
「いや、他のプレイヤーじゃねぇんだ。NPCだよ。」
「NPC?!」
ー。
ーーー。
ーーーーー。
俺はゲームを始めてから今までの事を事細かに話してみた。
ーーーーー。
ーーー。
ー。
「ーーーーー。っつー事なんだよなぁ。」
ここまで詳しく説明すれば、こいつにだって漏れもなく俺の悩みが伝わるだろう。
全ての説明を聞き終えた弟は、やれやれと言った顔で俺を見ている。いや、ちょっと蔑んでる感ないか?
「ふーん。そのゲームやめれば?」
「ばっさり!!」
「だってそうでしょ。なんで趣味か息抜きのゲームで痛みに苦しまなきゃなんないのさ。」
いや、確かにそうだけどさ。
「でも、このゲームすげぇんだよ。完全没入型なんて世界初だぜ?世界初。俺本当に現実かと思ったし。あれが何か実在する別世界で俺たちはアバターになってその異世界に入り込んでるって言われても信じるもんな。」
「そのゲームが今有名になってるのは、僕だって知ってるよ。ゲームしたいってのも納得出来た。なら、アカウント作り直せば?」
「それができないんだよなぁ。このゲーム、サブアカ禁止なんだよ。脳波とかをゲーム機本体に保存して二つ以上のキャラクターを作れないようになってるらしい。それに・・・」
「それに?」
「これ買うのにめっちゃお金掛かったんだよ。」
この最新機器を買うために、俺が小学生の頃から今まで意味もなく貯めてた小遣いを全て使い果たした。
ゲームやめるのはいいけど、莫大な費用が掛かったあれを諦めるのは口惜しい。
「そんな理由かよ。」
愚かな弟は、俺の言い分を理解せず、冷たい顔のまま切り捨てる。
「そんなって言うんじゃねぇ!!月千円しかないお小遣いを小一の時からコツコツ貯めてたんだぞ!!お前が友達と遊びに行くためにジャブジャブお金を使ってた間ずっとなぁ!!!」
「あれは必要な交際費だよ。しかもそれは兄さんに友達がいなかっただけでしょ。それを人のせいにして自分は泣く泣く友達と遊びに行くのを諦めてたみたいな言い方をするのはよしてよ。」
ぐはっ。痛いところを突かれたアゲイン。
弟に痛いところを突かれちまったよ。
これだから兄より優れた弟などいらんのだ。
「そんな事はどうでもいい!とにかく俺はまだこのゲームをやめる気はないって事だ。」
相談に乗ってもらっている側が相談相手に逆ギレするという一番やっちゃいけない感じの態度を取ってしまった。
「『まだはもうなり。もうはまだなり。』だよ。兄さん。」
「なんだよ、それ。また誰かの名言か?」
弟は、よく誰かの何かの名言を用いたがる。
しかし、無知蒙昧たる俺はそれが誰の何の言葉なのか知らないので、
『それ、誰が言った言葉なんだ?』
と聞いてみるのだが、そう聞くと弟はいつも
『誰が言ったかは大切じゃないよ。』
と正論めいたことを返してくる。
俺と弟の恒例行事みたいなもので、この問答を行うことで俺の知識が増えたことは無い。
「『まだ楽しめる』なんて思いながらやるゲームなんて楽しいわけないよ。そんなゲームやめて僕と一緒にス〇ブラやろうぜ?」
「絶っっ対やだね。なんで一回も勝てない勝負なんてものを俺がやらないといけないんだよ。なんでも出来る完璧超人なお前となんにもできない半端凡人な俺がゲームしたって白熱した試合なんてできるわけねーじゃん。誰がハンデ200%からでも逆転勝ちするようなやつとバトルしてなんかやるかよ。第一、俺はお前が大っ嫌いなんだ。お前とゲームで遊ぶぐらいなら、ゾウリムシと遊ぶ方がマシ。いや、拷問じみた特訓を受ける方がまだマシだね!!」
「やろうぜ!」
「やるか!!」
スマ〇ブラした。
今日も一回も勝てなかった。
寝てたならしょうがない。