技術≠技能(1)
本当は毎日投稿したいけど、書けば書くほどペットのヤギが紙を食べていってしまったため、できませんでした。
『名前:クラウン lv.5
職業:魔術師 lv.1
種族:鼠人族 lv.1
HP 10/10
MP 10/10
ST 100/100 (残りポイント:450ポイント)
RP『不殺』
STR 1
VIT 0
AGI 7
INT 0
DEX 8
MMD 0
LUC 0(残りポイント:35ポイント)
【技能】
『短剣術lv.1』『短剣術lv.1』『短剣術lv.1』『短剣術lv.1』『殴りlv.1』『殴りlv.1』『蹴りlv.1』『蹴りlv.1』『ステップlv.1』『演劇lv.2』『逃走lv.1』
【称号】
『愚か者』『馬鹿者』『愚者』『阿呆』 』
師匠との戦闘を経てレベルが上がったというアナウンスが流れた。
HP(体力)、MP(魔力)、SP(技能力)の値の内どれかを選んで上昇させることができるポイント、生命ポイントが1レベル上がるごとに90ポイント付与される。
STR(膂力)、VIT (防御)、AGI(敏捷)、INT(知力)、DEX(器用)、MMD(精神)、LUC(幸運)のどれかを選んで上昇させることができるポイント、能力ポイントが1レベル上がるごとに7ポイント付与される。
今回自分は5レベル上がったから生命ポイントは450、能力ポイントは35ポイント付与された。
さーーて、どれに振り分けよっかなーー。
と言いつつも、どこに振り分けるかは最初から決まっていた。
防御力のない自分は今更ちょっとHPを増やしても焼け石に水だし、魔法系技能を一つも取得していないからMPなんて最低限で構わない。
なら、俺が振り分けるべきは、技能を使用するごとに減少していくSP一択だ。
ステータスも今更VITとか上げて微妙なステータスになるより最後までAGIとDEXを極めてやる。なんてったってゲームだしな。
いろんなものに手を出して、何も誰かよりうまくできたことのなかった俺だ。器用貧乏なステータスを作るよりも、何か一点突破したものをやらないとダメなんだ。
ポイントを1つ振り分ける度に、自分のステータス値が1ずつ上がっていく。そんな当たり前のことが、さっきの自分の勝利を思い出させてくれる。
脳裏に浮かぶ光景は、先程の師匠からの試練の内容。
確かに師匠は、ステータス値を自分と同じまで下げて、スキルにも制限をかけるなんてものすごい手加減をしてくれていたとはいえ、人類最強なんて男に一撃を入れてやったのだ。
圧倒的格上にマウント取るの、楽すいいいぃぃいいぃ!!!!
気がつけば、自分の頬が痛いぐらいに釣り上がっている
両手で顔をペタペタと触ってみる。鏡を見てなくてもわかるぐらい口は三日月の形に歪んでいた。動物が歯を剥き出しにするのは、笑顔ではなく威嚇か恭順を示すためらしい。今の自分の顔を鏡で見たらきっと笑っているようには見えない獰猛な表情が見れることだろう。
PKをやれば、これからずっとこの喜びが続く。そんな確信がある。
震える手を何とか押さえつけて、ポイントの振り分けを終える。
『名前:クラウン lv.5
職業:魔術師 lv.1
種族:鼠人族 lv.1
HP 10/10
MP 10/10
ST 550/550
RP『不殺』
STR 1
VIT 0
AGI 43
INT 1
DEX 42
MMD 0
LUC 0
【技能】
『短剣術lv.1』『短剣術lv.1』『短剣術lv.1』『短剣術lv.1』『殴りlv.1(2)』『殴りlv.1』『蹴りlv.1(1)』『蹴りlv.1』『ステップlv.1(9)』『演劇lv.2(1)』『逃走lv.1(1)』
【称号】
『愚か者』『馬鹿者』『愚者』『阿呆』 』
上がる自分の口角を止められないことを自覚しながら、自分を見つめている師匠に声をかけようとする。
師匠は、芝生の上に胡座をかき、仏頂面でこちらを向いていた。
手加減をして行う試練だったというのを分かっていたとしても、やはり弟子に負けてしまったことは悔しいらしい。
さっきから師匠自身は、『絶対に負けていない』と主張しているが、俺は都合の悪い情報はシャットアウトする。
いかにも体育会系な感じで声の大きい師匠が、一言も喋らずむっすーとした顔をしているのが面白いし、そうさせたのが自分であるという事実も何とも心くすぐる。
どうも皆さん、人類最強に勝った男。クラウンです。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「それはそうと、師匠。あなたさっきズルしましたよね?」
「はぁ?何言ってやがんだ、おめぇ。ネズッ鼻のくせに。この俺が、ズルだとぉ?」
座り込んでいる師匠に近づいて、そう問いかけた俺に、師匠は訳が分からないといった声を出す。ていうか鼠人族は関係ないだろ。
そんな演技で俺を誤魔化せると思うなよ?
「またまたぁ、とぼけちゃって。さっきの試練での話ですよ。」
やれやれ、と手を掲げて首を横に振る。
「それがどうかしたかよ。」
「はぁ、どこまでもシラを切るつもりなんですか。師匠。確認しますが、さっきの試練では師匠は弟子である僕とステータス値もスキルも同じにするっていうルールがあったんですよね?」
「あぁ。よく気が付いたな。」
「明らかに手加減した動きでしたからね。」
馬鹿にされてるようにしか感じんかったが。
「でもですよ師匠、一試合目の時と、最後師匠が負けた時、明らかに自分にはできないスピードで動いていましたよね?」
試練開始直後、数メートルはあった距離を師匠に一瞬で詰められ、顎を殴り飛ばされた時だ。
そして、俺が師匠の胸の上に乗っかって、拳を振り抜く直前にもバックステップで十数メートルは距離を離された。
どちらも、一回の移動で、だ。
自分はAGIとDEXに極振りしているとはいえ、まだその時はAGIは7しかなかったんだから、自分と同じステータス値にしていたという師匠には明らかに不可能な挙動だった。
「師匠が持っていたなんらかのスキルを使ったのか、素のAGI値なのかはわかりませんけど。
それがルール違反だと言っているんです。
弟子の顎をぶん殴った罰として、その方法を教えてください。」
しかし、師匠は全く表情を変えない。イカサマを指摘された動揺や焦りといったものは一向に現れず、むしろ馬鹿な質問をする弟子に対する余裕のさえ感じさせらる。
なに、?、、、自分の目に演技している痕跡が一切映らないだと?
「馬鹿め。何を言い出すかと思えばよぉ。あれは何もルール違反なんかじゃねぇ!!お前の持っているスキルで、そのスキルレベルのまんまでお前でもできることをやっただけだぜ。」
スキルが同じなだけじゃなくて、スキルレベルまでも同じにしてただって?
俺が予想していたのは、スキル『鍼術』みたいに、自分が今持っているスキルをレベルを上げたうえで複数個組み合わせたら使えるようになる技能を師匠は元から持っていて、それをうっかり使ってたってものだった。
『鍼術』は、短剣術と細剣術と暗器術を覚えてようやく使えるようになる、複合上位技能だ。
そんないつか使えるようになるスキルを先におしえてくれてるんだとおもってた。
あんな動き、『蹴り』とか『スキップ』をLV10ぐらいにしないと無理なんじゃないか?
あのパンチを受けた時、師匠の動きが早すぎてほとんど目に負えていなかったが、師匠はあの時真っ直ぐに俺に向かって来ていたわけじゃなかったと思う。
流石に真っ直ぐ向かってきているだけだったらどんなに早くても姿が掻き消えるようには見えなかっただろう。
そうだったらいいなぁ。
おそらくかなりジグザグな挙動で、防御も回避もされないように相手の意識を撹乱する様に進んでいた。
自分のスキル一覧の中にそんな不可能を可能にするスキルはあったか?
「『演劇』か。」
一瞬の意識の閃き。
特に根拠があるわけではないが、なんとなく不可能を可能にするスキルと考えた時に、自分のスキルの中で一番使っていて、スキルレベルも高いあのスキルを思いついた。
『演劇』は、自分のコミュ症を表に出さずに他人と会話できるだけでなく、自分の目標であるピエロロールプレイの要である。・・・まだそれっぽいことなんもできてないけど。
あのスキルなら、スキップをどうにか進化した動きにさせることができるのでは?
『演劇』の時代きたなこれ。
自分の呟きを聞き取った師匠が、口を開く。
「はぁ?『演劇』だぁ??そんなクソみてぇなスキルが戦闘の役に立つわけねぇだろぉがよぉ!!」
「てめぇ!!『演劇』さんの悪口をいうんじゃねえ!!!おたんこなすが!!!!」
怒鳴りつけてしまった。
自分の師匠を怒鳴りつけてしまった。
!マークを倍ぐらいにして自分の師匠を怒鳴りつけてしまった。
今まで頑張って敬語をつけて無害な鼠人族の少年を演じていたのに。
しかし、今のは聞き捨てならない発言だ。
スキル『演劇』は自分の言いたい意見が言いたい時に言えるという素晴らしいことを何の気兼ねもなく行える最高のスキルだ。他人の顔色気にしてばっかで何かを言い出すことのできない自分を変えてくれたスキルだ。
自分が普通に人と会話できているということがどれだけ奇跡的なことなのか、師匠は分かっていない。
きっと師匠は、人と馴染めない怖さとか、全ての努力が失敗に終わるような恐ろしい予感なんて無縁な人生を送ってきた勝ち組の人間なんだろうなぁ。
勝手に相手のことを決めつけて嫉妬してしまう自分の醜さに嫌気が差す。しかし、その思考を自分で止めることができない。
普段の現実世界での俺だったらこれぐらいの怒りは容易に抑え込んで周りに合わせてヘラヘラ愛想笑いしているはずなのに。
『演劇』スキルを使って、久しぶりに自分の思うままに言いたいことを話せていたからかもしれない。今は自分の感情をコントロールできない。
「急にどうした。お前ェ?」
戸惑い気味に師匠が首を傾げて俺を見下ろす。
いつもと違う自分に自分が一番混乱していたが流石に落ち着きを取り戻す。
スキル『演劇』をもう一度強く使用することを念じて、自分の心の中に渦巻く興奮を押さえつけ、無理矢理冷静さを取り戻す。
「・・・すみません。口が過ぎました。」
「お、おう。」
頭を下げて師匠に謝りながら、師匠の方に足を進める。
けれどもなんだか気恥ずかしくなって、ついでに地面に落ちていた自分の右手の籠手を拾うフリをして師匠から遠ざかる。
試練の時に師匠に向かって投げた『鍼』だ。
最後に思いの外遠くに蹴飛ばしていたらしく、自分から見て師匠の反対側十メートルほど離れたところに落ちていた。
■■■■■■■■■■■■■
「『ステップ』だ。」
その後、拍子抜けなほどにあっけなく師匠の口から明かされた、あの超スピードの秘訣。
いや、待ってって。
「『ステップ』って、あのスキルですか?『ステップ』と他のスキルとを混ぜて使うとかじゃなくて、そのスキルだけであの神足ができるんですか?スキルレベル1のまま?」
スキル『ステップ』は、足場を蹴った時に進むスピードがちょっと速くなるだけのスキルで、ほんとにひと蹴りスキップするぐらいの距離しか一回に進めないし、移動できる方向は真っ直ぐしかない。
あんなに連続で使用できるスキルでも、ジグザグに何度も進行方向を変えながら長距離移動できるスキルでもないのだ。
「ああ。そうだ。
それとお前には、これから一ヶ月の訓練でこの神足と『威圧』を覚えてもらう。戦闘の極意だな。」