転生者は、潜入する
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さてどうしたものか。
部屋の中で胡座をかき、ほとんど満月のお月様を見上げてため息を吐く。
『嵐を呼ぶ!エミリーちゃん・アルのイチャコラ大作戦』(作戦名は今考えた)を決行しようとは決めたはいいものの。
(前世でも彼氏なんていなかった私が、エミリーちゃんとアルを唸らせることができるデートプランなんて組めるはずがないですよねー。)
「リア充なんて言葉は縁がなかったものなぁ……」
『レイちゃんレイちゃん!』
「なんですかい?」
『見てミテー!変なカオーー!!!』
「見えてない見えてない。」
『フェッフェッフェ!!すごいでショー!』
妖精たちは夜渡りの時期が近づいて来たせいでテンションが振り切れてるし、アドバイスを受けることは難しそうだ。
その後も私に話しかけてくる妖精たちをなだめながら、誰に協力を仰ぐべきか考えていた。
まず白玉は除外。
というのも彼はエミリーちゃんを嫌う傾向にあるからだ。
エミリーちゃんが聖女の生まれ変わりということもあって、魔物的に反発心が芽生えてしまうのかもしれない。
それに例え協力してくれるとしても、私には白玉が何処にいるか分からないのでそもそも論外である。
次にクラウスさんも除外。
普段は頼れるナイスガイだが、今回に至っては話が変わってくるのだ。
あの人は余計なことを口走る傾向がある。
無駄に行動力あるから先が読めず、味方のはずが最大の敵になりそうで怖い。
わざわざ爆弾を懐に抱え込む必要はないだろう。
(……となると頼れるのは?)
『レイちゃん見てミテー!筋肉カッチカチ!』
『フゥフゥ!!イカすゼー!』
「はいはい、いい子にしてて……ん?まてよ?」
筋肉という言葉で一つの可能性を見出す。
いるじゃないか。
たった1人、常識がある人が。
親身になって、話を聞いてくれそうな人が。
思わず親指を突き立て、姿の見えない妖精たちに感謝の意を示す。
「ナイスだ我が友!!これで平和は保たれた!」
『イェーイ!!ミーたち勇者ダー!』
「そうと決まれば明日のために早く寝ないと!」
『フゥフゥ!!ダメー!寝ちゃダメー!もっと構ってほしいノー!!』
『今日は寝かせないんダカラー!』
「どっから覚えてくるのそんなセリフ。」
私を邪魔しようと枕や掛け布団を掻っ攫い、空中に浮かせてしまう困った妖精たち。
致し方ない。
私はあの魔法の言葉を使うことにした。
「……からの?」
『『オヤスミー!レイちゃんー!』』
チョロい。
妖精たちは自分たちが持ち上げた布団を綺麗に敷き直し、いい夢が見れるように妖精の粉まで吹きかけてくれたようだ。
私はキラキラと輝く布団に身体を滑り込ませ、妖精たちの羽音をバックミュージックにしながらそのまま瞳を閉じた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
結局布団が気持ちよすぎて起きれず、翌日の正午。
私の背後には既に目的地が見えており、あとは乗り込むだけである。
今日は白玉の様子を報告する日ではないため、アルとの待ち合わせも会う予定もない。
普通であれば見られる心配もないのだが、おそらく今日もアルは単身で関所に修行しに来ているのだ。
(多分事前にこの計画を知ったら……恥ずかしがってまた閉じこもってしまうだろう。)
素直になって来たとはいえ、まだまだ小指の甘皮程度。
念には念を重ねておかねばならない。
数回気合いを入れるように頬を叩いた私は、この日一番の不安要素に声をかけた。
「さて特別班。先程伝えた注意事項を述べてください。」
『アヒャヒャ!!レイちゃんにくっつきすぎナイ!』
『フゥフゥ!無闇にイタズラシナイ!』
『ドゥドゥンドゥ!可能な限りフザケナイ!』
「……そしてなによりも?」
『『『アルに見つからナイように行動シマス!!』』』
「よろしい。ゆめゆめ忘れないように精進せよ。」
『『お任せアレー!』』
「よし、いい返事だ。ではさっそく」
『『突撃ダァーー!』』
「うるさいうるさい。」
なぜか着いてきた妖精たちをなだめながら、素早く関所へ忍び込む。
今は自分自身以外、全員敵だ。
警戒レベルをMAXまで引き上げ、特に赤色に注意しながら目当ての人物を探す。
「なんだかスパイになった気分でいいね。」
『レイちゃん単純ダァー!』
「単純言うな。」
荷物置き場に隠れて視線を巡らすと、シャワーを浴びて来たのかタオルで顔を拭いながら歩くダンディなおじさまの姿を見つけた。
あれが今回のターゲットである。
「ターゲット確認…リチャードさん。」
『リチャード!アヒャヒャ!!よーし!なら捕まえヨー!』
「特別隊はそのまま待機せよ。」
『エー…?』
不服そうな妖精たちの声を尻目に、あたり周辺を再度確認する。
こういうのは大抵、現在一番側にいて欲しくない人物と一緒にいるものだ。
私の長年の経験、もとい前世の経験が警鐘を鳴らしている。
そして案の定。
(ほーらやっぱり。)
リチャードさんの後ろを歩き、同じくタオルで顔を拭く我が幼馴染の姿があった。
いつもツンツンしている赤髪は濡れているせいで勢いをなくし、一見真っ直ぐになったようにも見える。
(なんか雰囲気がマイルドで可愛い。)
『アー!アルだァ!フェッフェッフェ!髪の毛ペッタンコー!ツルペタアルフレッドー!』
「グフッ!ぺったんこって…そ、それ本人の前で言ったら怒られるね絶対……プフッ。」
『ア、レイちゃん』
堪えきれなかった笑いをなんとか押さえ込むため手で口元を覆い、アルがリチャードさんから離れるまでやり過ごすことにした。
『レイちゃんレイちゃん。』
「クククッ…あーお腹痛い。もうどこか行ったかな?ぺったんこアル。略してぺつアル。グフッ!!」
「あ"?」
『レイちゃん前。』
「前?いやちょっと今は無理無理。もう一回ぺつアル見たら絶対吹いちゃうからさー、もうちょい後で……ん?」
なんかこの感じ、前にもあったような。
なんとなくさっきより冷えているような体感、前から感じる圧力、存在感。
そして怒りによる空気の振動。
恐る恐る視線を前に向ければ、そこには青筋を浮かべながらもにこりと微笑む整った顔。
「よぉ…随分とご機嫌じゃねぇか。」
「そ、ソンナコトナイヨー?」
「いやいや誤魔化すなよ?新種の珍獣でも見つけたんだろ?ぺつアルなんて初めて聞いたぜ?お手柄じゃねぇか。」
「あ、いや、それ…は…」
側から見ればまるで褒められているかのように肩に手を置かれるが、実際には絶対に逃さないという死刑宣告を受けたような感覚だった。
「一体どんな生物なのか……オレにじっくり教えてくれ。クソモブちゃんよぉ?」
そう耳元で呟いてきた彼の後ろで、手を合わせているリチャードさんが見えたのは気のせいだと思いたい。