転生者は、企む
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あのちょっとした喧嘩から数ヶ月。
アルが訓練を受けている間に私にもやることが出来た。
関所のクラウスさんの部屋にて、宙に浮く魔法石を凝視する。
「ダメね、材料が全く揃わないわ。」
その石から聞こえるのは王都にいる、我が友ランちゃんの声である。
「……やっぱり。」
「セイレーンの涙に体力の花、化け鼠のヒゲ、ゴルゴンの肝でしょう?全部特別保護されている貴重素材じゃない。そもそもどうやって手に入れたのよ。」
使い切ってしまったハイグレードポーションを量産するべく、クラウスさんから魔法石を借りて王都にいるランちゃんに相談に乗ってもらっているのである。
「妖精って凄いんだなぁ…。」
「あーなるほど、そういうことね。」
もはや私の呟きから言いたいことを察してくれる境地に達したランちゃんは、深くため息を吐いて言葉を続けた。
「似たような成分を持つ素材を見つけるしかないわね。」
「え、そんなものあるの?」
「ポーションの質が落ちる可能性があるからあまりやりたくはないんだけど…というよりアレらの素材じゃないと作れないなら量産なんて最初から不可能よ。」
「確かに。」
身体を大きく伸ばして窓を開けると、外でアルを含めた兵士さんたちが特訓をしている姿が目に入る。
その掛け声が聞こえたのか、声色を変えたランちゃんが呟いた。
「それで?レイの幼馴染っぽい彼の調子はどうなのよ。」
「…アルのこと?すごく頑張ってるよ。この間兵士20人抜きを無傷でやり遂げたし。」
【アルが無茶をして怪我を多発するようなら、関わらないようにする。】
その言葉がなかなかに効いたようで、アルはあの日以来訓練をしているのにも関わらず大きな怪我をすることはなくなった。
擦り傷が出来た際に私に焦ったように経緯を説明する姿は、さながら浮気がバレた男性のようでちょっと面白かったほど。
「と、とんでもないわね。」
「私も頑張らないとね…。」
汗を拭うアルはキラキラと輝いて見えて、実に絵になる格好良さだ。
あれが若さかとしみじみと見つめているとこちらの視線に気がついたのか、訝しげに目を細める。
ノリで軽く手を振ってみると、身体を動かしたことで火照った頬をさらに赤くしてすぐさま視線を逸らされた。
「あらら。」
「え、なに?」
「試しに手を振ってみたらそっぽ向かれちゃったよ。……うわぁキレてる。顔真っ赤だもん。」
「………そういうこと。まぁワタシからは何も言えないわね。」
「あとで謝っておこう。」
「ダメっすネェさん!!謝るのはダメっすよ!!そんなことしたらまた旦那のメンタルがボロボロになるっす!!」
小さな私の呟きに過剰に反応したのはランちゃんではなく、私の代わりに魔法石を発動させてくれている白玉だ。
荒ぶるように魔法石が宙を飛び回ることから、だいぶ興奮していることが伺える。
「ちょちょ、白玉。それクラウスさんから借りてるんだから壊さないでね?」
「むしろこれを壊した方が、この変なヤツとねぇさんがお喋りできなくなるからちょうどいいっす!!心配のタネが一つ減るっす!」
「ワタシ的には魔物と2人っきりという方が心配だわ。」
「オレがネェさんを攻撃することなんてないっすよ!!こんな弱っちいニンゲン相手にするのは時間の無駄っす!」
失礼な発言をする白玉を尻目に今一度アルに視線を向けると、そっぽを向いているアルの代わりに汗を拭ったリチャードさんがこちらに手を振っていることに気がついた。
嬉しくなり窓から身を乗り出して大きく振り返すと、私をチラリと視界に入れたアルが盛大に顔をしかめてリチャードさんに飛び蹴りを食らわせた。
「う、うん?」
「なになに?何が起こってるの?」
「なんかアルが急にリチャードさんに飛び蹴りを……あーあ、またうずくまってるよリチャードさん。アレ絶対痛いやつだ。」
「リチャードさんがうずくまってるの!?なにそれどういうこと見たいわ!」
「あれはあの兄さんが悪いっすよ。旦那よりも先にネェさんに手を振ったりするから。」
「あー、そういうこと。」
「どういうこと!?」
そんな私の問いかけに答えるように、訓練の終了の合図の笛が鳴り響いた。
「今日はここまでね。とりあえずポーションについては今後も話し合っていきましょう。ワタシも女盗賊一派に掛け合ってみるわ。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その日の帰り道。
アルと横に並びながらゆっくりと歩く。
白玉はアルのおじいさんの手伝いがあるとかで先に帰っているので、久しぶりの2人きりだ。
「今日もお疲れ様。怪我は?」
「してねーよ。ナメんな。」
「よしよしいい子だ。訓練中に手を振ったりしてごめんね。邪魔だったよね。」
「べ、別にその…オレは…だぁぁあああああ!!」
言葉を区切り頭を掻きむしったアルは、途端に足早に歩き出す。
アルはあの小さな事件から、自分の気持ちを伝えようと努力してくれている。
恐らく怒っていないことを伝えたいのだろう。
大丈夫、理解したよ。
(全く可愛い奴め。)
放っておけばそのうち落ち着くのも最近分かってきたので、静かに空を見上げて雲の数を数える。
あの怒涛の王都旅行が遠い昔に感じるように、なんとも平穏な日々を過ごしている。
ポーションが作れないとか、困ったこととかたくさんあるけれど実に平和。
そんなこんなで気がつけば、私はもうすぐ6歳になろうとしていた。
「また歳食うなー……」
「ババくせぇこと言ってんじゃねぇよ。まだ一桁じゃねぇか。」
「お、戻ってきた。おかえりー。」
「うるせぇ!!!」
また私のペースに合わせるように歩き出すアルに自然と笑みがこぼれる。
「えーだって遊べるの今のうちだよ?大人なんて社畜になる運命なんだから。アルは早く大人になりたいの?」
前世のことを思い出して身震いしながら問いかけると、思った以上に真剣な表情で思案して口を開く。
「……お前が傍にいるならどっちでもいい。」
「う、うん?」
ああ、そう。これだ。
最近一番困っていること。
幼馴染が、心臓に悪い。
「そ、そうだね!!私もアルがいればどっちでもいいや!!あはは!!いい天気だなーー!?」
「?おいどうした。」
私の様子に違和感を覚えたアルが少しこちらに近寄ってくる。
自然と赤くなってしまう頬を叩き、少し避けるように足早に歩を進める。
たまにアルに変なスイッチが入るアレ。
子供ながらも特に深い意味はない言葉だと思いつつ、あんなキラキラとした瞳で見つめられたらなんだか変な気持ちになってしまう。
アルは私以外の友達とあんまり遊んだりしないから、距離感が分かっていないんだ!
そう!他意はない!
しっかりしろレイ・モブロード!!
そういうセリフはエミリーちゃんに言ってやればいいんだと伝えてやれ!!
そこでふと思いつく。
少しずつとはいえ、アルは自分に素直になり始めている。
これは……本当にエミリーちゃんに想いを伝えられるチャンスでは?
「……おいモブ、明後日の夜…」
後ろから聞こえてくる声を無視して、腕を組んで考える。
そうだ、あのお祭りの時に2人っきりのデートプランを用意すると(心の中で)約束したではないか。
ここで一肌脱がずしてどうする。
「……って聞いてんのかクソモブが!!」
「はい!レイ・モブロード、やります!」
「やっぱり全然聞いてねぇなお前!!……あ"?なんだその顔。ロクでもねぇこと考えてんじゃねぇだろうな!?」
いえいえ、そんなことはありません。
妖しい笑みを浮かべ、私は決意を固めた。