収集の魔女は、秘境へと旅立つ
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またこの夢。
雲ひとつない青空の下、一本の大木のふもと。
アイビスの花をふんだんに使った花の冠を楽しそうに眺める少女が目に入る。
肌は雪のように白く、見るもの全てを魅了する美しさ。
そしてなによりも、特徴的な長く緑色に輝く髪を忘れたことはない。
「あー!ワンダ!!」
ワタシの視線に気がついたのか、嬉しそうに頬を綻ばせた少女は大きく手招きをする。
無視をすると拗ねられて面倒なことになるのは経験上よく分かっていたので、致し方なくそばに寄った。
「もうまた髪の毛ボサボサじゃない!私が三つ編みしてあげるから座って?」
「面倒だから勘弁しておくれ。」
「いいから早くー!」
言われるがまま腰をかけると、少女の髪とは全く違うただの黒い髪が優しく結われていく。
この時間はそんなに嫌いではなかった。
「ねぇねぇ、ワンダって家の中でずっとあんなことしてるの?すごい臭いだったよ?」
「魔物から臓器を取り出してる途中で乱入してくるから悪いのさ。来ると分かっていればもっと強烈なものを用意してやったのにねぇ。」
「ひどーい!!もう絶対ワンダの家なんて行かないんだから!!あんな臭いところ誘われても行くもんか!」
「ゲートを使って不法侵入してくるヤツなんて誘わないさ。」
そしてある程度時間が経つと髪を結ぶことに満足したのか、自慢げに花の冠を見せてきた。
「どう?アイビスの花で作ったんだー!」
「で?作ってどうするんだい?」
「もう分かってるくせに!あの人に渡すの!」
「アイビスの花を使ってそんな勿体無いことをするなんて、相変わらずだねぇ。こんなの貰っても使い道なんてありゃしない。」
「そんなことないもん!!私があの人を愛してるってことを伝えるにはこれが一番でしょう?きっと喜んでくれるわ!」
「……あの男のどこがいいんだか。」
「全部全部!あの金色の瞳と髪色、正義感溢れる立ち姿それに私を優しく受け止めてくれる包容力に」
「分かった分かった。ワタシが悪かったよ。耳が痛くなるから騒がないでおくれ。」
柔らかな風が吹いてアイビスの花びらが舞い上がる。
ああ、なんてもったいない。
そして先ほどとは打って変わって小さな声で彼女は呟いた。
「ここは平和なのに、外の世界では魔王が侵略を始めているんだよね。」
「そうだねぇ、ワタシの同胞も魔女狩りでかなり殺された。まぁでもここにいれば安心だろう。いけ好かないけどあの男は勇者だからね、アンタを守るための結界にアイツらは近づくことすらできやしないよ。」
「そっか。…うん。そうだね。」
そう言っても悲しげに空を見上げる姿に声をかけようとして、いつもこの夢は終わる。
ああ本当に、もったいない。
「ワンダか?」
「……フェッフェッフェ。アンタがそう呼ぶのも懐かしいねぇ、クラウス。待ちくたびれたよ。」
短くい夢を見ていたワンダは重たい瞼をあげて、自身の瞳に成長した青年の姿を写す。
聖剣を震えるほど握りしめがら私と対峙する彼は、一体なにを思っているのだろうか。
「おかしいねぇ、あんなにチビだったのに今ではあの男の聖剣を扱えるまでになってるんだから。時の流れは早いもんだ。」
「…ああそうだな。聖剣に触れて左腕を無くしたあの姿、今でも昨日のことのように思い出せるがまさかまた目にする日がやって来るとはな。」
「フェッフェッフェ!あの小僧ですら一瞬言葉を失っていたよ。まぁ腕がなかったら絶句するのも当然か。」
「腕どころか目も当てられない姿だぞ。」
動くたびに滴り落ちる赤い液体。
右脚はおかしな方向へ曲がり、左腕はクラウスに言われたように喪失している。
そろそろ息を吸い込むのも億劫になってきたが、ここで止めるわけにはいかない。
「あの小僧をゲート内に入れたところまでは保っていられたんだがねぇ…流石に長時間は維持できないのさ。まぁアンタだし別にいいだろう?」
「意味が分からない。」
そんなワンダの決意を察したのか、ゆっくりと首を振ったクラウスは激情を押さえ込むように低い声で唸る。
「本体はどこにある。」
「そんなことを詮索する暇があるなら今後のことを考えな。…アイツらが動き出すよ。」
「………ああ知っている。モブロード嬢が遭遇したと聞いた時は耳を疑ったさ。まさか魔王軍幹部が直々に動き出すとは。」
「そもそもあの2人が命からがら封印したのは魔王本体だけだからね、他のヤツがいつ尻尾を出すかヒヤヒヤしていたんだよ。レイの行動でヤツらが刺激されるとは思っていたが…読みが当たったわけだ!フェッフェッフェ!この歳にしてあんな化け物に追われるはめになるとは思わなかったけどねぇ!」
笑い声をあげるたびに身体が悲鳴をあげる。
それでも笑わずにはいられなかった。
血液が冷えて来るのを感じながらも、一歩クラウスへ歩を進める。
「ワタシの家はダンジョンにすることにしたよ。恐らくアルフレッドがすべての収集物を手にするだろうから安心しな。」
「そうか。」
「アレもいい具合に育っているじゃないか。はじめに会った時はどんな厄介小僧かと思ったけどねぇ。まぁお前さんとはまた違った面倒なヤツなことには変わりないが!」
「悪かったな。」
「フェッフェッフェ!悪いねぇ!まぁババアの小言だと思って聞いておくれ!」
身体を浮かせてクラウスへ詰め寄り、血まみれの手で青年の頬に触る。
「いいかい。死んでもその聖剣を魔王に与えるんじゃないよ。それはワタシの親友の想い人の剣、穢すことは許されない。」
「あぁ。」
「はぁぁ、シャキッとしないかい!アルフレッドはこの後ワタシがどうなるか感づいて、果敢にワタシのゲートの中に入っていったよ!あんなガキに負けるようじゃ駄目だからねぇ!」
「…………あぁ。」
いよいよ身体の調子も悪くなって来た頃合いに、ワンダは身体を宙に浮かす。
「餞別だ。」
クラウスは波長を合わせるように魔力をワンダに流し込み、見かけを以前のワンダの姿に戻す手伝いをする。
「おや、気がきくじゃないか!」
「幼い子供にその姿を見せるのはまずいからな。」
諦めたように呟くクラウスに苦笑しながら、自身の家に向かって身体を動かす。
「じゃあねぇ色男。なかなか楽しかったよ。」
「………感謝を。」
クラウスの力強い瞳に、収集の魔女は今度こそ安心して彼の前から姿を消した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「役目は終わった…かねぇ。」
半分の魂が戻ってきたことを感じとり、ほとんど鉛と化した重たい身体をなんとか起こす。
ダニエルに捕まった後、気まぐれからか命を取られぬままこの魔王城跡に牢獄されて早数ヶ月。
アルフレッドがダニエルを撃退したお陰で拘束が緩み幻影魔法を使うことが出来たが、身体の修復をするには時間が足りなかったようだ。
あたり周辺の魔力反応が強くなったことから、もうダニエルは復活したのだろう。
それでももう充分だ。
自分にできることは何もない。
「さてとじゃああとは秘境に行かないといけないねぇ…」
「あっははは!!どこにも行けやしないわよバーカ!!」
牢の扉を蹴破る音とともに、聞き覚えのある甲高い少女の声が響き渡る。
できれば二度と会いたくなかった人物に、最期に顔を合わせることになろうとは。
「ダニーのヤツ、捕まえてたなら勿体ぶらずアタシに寄越せばいいのよ!!お陰様でこの瞬間まで随分時間がかかったじゃない!!」
ピンク色の髪は怒りからか既に蛇に変形しており、ジワジワと楽しむように瀕死のワンダの身体を石化させていく。
なんとか視線を向ければ数百年前と寸分変わらぬ少女の姿。
一体何人の同胞がこのメス蛇の前で死んでいったことか。
「……メディシアナ。」
「はぁ?図が高いわよ雑魚。畏敬の念を込めて、メディシアナ様とお呼びなさい?」
会いたくはなかったが彼女が相手なら、間違いなく秘境へ辿り着く事ができるだろう。
「全く、数奇な人生だったよ。」
「あっそう?ご愁傷サマ。
そしてさようなら。」
猛毒の牙を光らせながら、メディシアナは狙いを定めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
ついに来てしまったこの回。
ハッピーエンド至上主義ですが、物語上避けては通れない道なので……。
拙い伏線もボチボチ回収できるように整頓中です。
文章能力あがってくれーーー!!