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転生者と少年の、仲直り


いつもありがとうございます!


今回は少し長めにしてみました。

(切れ目が分からなかったなんて言えない)


今後もよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


非常に見覚えのある部屋で、穏やかな村の景色を写している四角い箱を眺めていた。

まるで写真のようにリアルなその光景は、息を飲むように美しい。


「よーし、魔女の遺産クエストを進めないと!」


そう意気込んで私の横に座り込む女性の顔には靄がかかっていて見えないが、これまた非常に見覚えがある背格好である。


(ここは何処だろう。この人は誰だろう。)


そのまま女性を凝視していると、途端に先ほどの箱から荘厳な雰囲気の音楽が流れ出した。

驚き視線を向けると、壁には蔦が絡まっている古びた家が大々的に映し出されている。

その家は何度か行ったことのある場所だ。


「超貴重アイテムが取れるけど、ダンジョンがエグいんだよねー…。気合い入れないと。」


そして大きく伸びをした女性は、私の方へ顔を向けておもむろに問いかける。


「ここに住んでいた魔女が、なんで一切登場しないか知ってる?」


もちろん知っている。

それは………
































「………あれ?」


気がつけばソファの上で横になって眠っていたようだ。

実に奇妙な夢を見た気がするけど、何も思い出せない。

というかさっきまで、宙に浮いていたような。


「…起きたか。」


「あ、うん。起きた……ってえぇ!?」


少し複雑そうな顔で私に近づいてくるのは、私の幼馴染だ。

喧嘩していたのを思い出してどうしようかと悩んだのは一瞬。

飛び込んで来たアルの姿に思わずソファからなだれ落ちた。


「はぁ!?何やってんだお前!」


「こっちのセリフだよ!ど、ど、どうしたのその怪我!?」


「あ"?」


唇は切れ、頬に痣。

服には出血した後が残っているほどボロボロの姿だった。


「こんなボロボロになって!何がどうなってそうなったの!?」


「おい落ち着け…」


「と、とりあえず血を拭かないと!」


アルの制止に構わず、持っていたハンカチを水道で濡らし口元に当てる。

痛そうに顔を歪めるアルを見ているだけで辛くて、眉をひそめる。


「痛いと思うけど我慢してね。」


「…やめろ、汚れるだろ。」


視線をずらして私の手を掴み、離そうとするアルに心が痛む。

私は精神誠意を込めてアルに頭を下げる。


「お願い、アル。」


「は?」


「大きなお世話かもしれないけど、身体を大事にして。もう何をやってるとか理由を聞いたりしないし、邪魔しないようにするから。お願いだから無茶をしないで。」


顔を上げると目を見開いてこちらを見るアルの表情が飛び込んでくる。

本当に伝えたかったことを緊張しながら言葉で紡ぐ。


「ただのお隣さんだけど心配なんだよ。アルが大切だから、一緒に居たいから心配なんだよ。」


目を見て伝えたはいいものの、何の反応もないアルの様子にどんどんと視線が下がる。


私に応援されても邪魔なだけか……


「オレだって」


驚きで再度アルの表情を見ると、顔を真っ赤にして震えている姿が目に入る。


「アル、」


「オレだってな!」


「……へ?」


私の言葉を打ち消すように叫んだアルは、震えながらも私の目をしっかりと見つめた。


「お前があのダニーとかいうやつに捕まってる姿を見たとき、心臓が止まるかと思った。もし間に合ってなかったらと考えるだけで、情けねぇほど身体が震える。」


「アル…」


「しかもオレが赤髪のせいで騎士団からも目をつけられて尚更危ねぇし。」


「そ、そんなことないと思うけど。」


「それでもオレはお前と離れるなんてもうごめんだ。だからオレが誰よりも強くなれば…。」


言葉をなんとか吐き出すその姿に、私の心臓が握りつぶされそうなほど締め付けられる。

熱く熱く燃える瞳を一直線にぶつけてくるアルに、否応無しに鼓動が早くなった。


「あの男と戦って分かった。今のままだと魔力を封印されたら、オレは何も出来なくなる。その程度じゃあお前を護れない。護りきれない。」


封を切ったように正直になったアルは、なかなか威力のある発言を繰り返す。

だんだんと頬が熱くなってくるのを感じてそろそろ止めようと手を伸ばすと、その手を取られて引き寄せられた。

額と額がぶつかりそうなくらい近い距離で、さらにアルは続ける。


「オレは、どんなことになっても、お前と…」


まるで盛大な告白を受けているかのような状況に頭が真っ白になっていると、部屋中にあの人の声がこだました。


「フェッフェッフェ!!ハッピーかい小僧!」


一瞬で我に返った様子のアルは私の手を離し、真っ赤を超えた赤黒い顔で一点を睨みつける。


「ふざけんなよテメェ!クラウスのとこに行ってたんじゃねぇのかよ!」


「とっくに帰ってきてるのに気がつかないとは、アンタもまだまだだねぇ!続きはアイビスの花でも持ってきてやりな!」


「出来るわけねぇだろクソが!!」


突然の出来事に放心状態だったが、今の声はワンダさんである。

今だに姿が見えない彼女を探しながら、ドンドコとフルコンボで早く脈打つ心臓を抑え声をかける。


「ワ、ワンダさん?」


「フェッフェッフェッ!喧嘩したとか言ってたわりに熱々じゃないか!!とにかくそれよりも、だ。」


そうワンダさんが言葉を発すると同時に、沢山の魔法道具たちが姿を現した。


「ちゃーんと制限時間内にワタシのゲートを攻略したようだねぇ小僧!!上出来上出来!ほら、持って行きな!!」


その中にはアルのおじいさんが具合悪くなったことを教えてくれた、覗きグッズの手鏡まで入っていた。


「ッチ、しけてんな。ロクなもんがねぇ。」


「え、でもこの手鏡優れものだよ?遠く離れてても知ってる人の様子が分かるんだよ。」


「あ"?なんでそんなこと知ってんだよ。」


「ワンダさんが前に教えてくれた。あと使ってた。」


「……まさかジジイの具合が急変したときお前ら!!」


「それにしても見ない間に強くなっていたもんだ!あのダニエルを追い払っただけあるねぇ!」


「話変えんな!!しかもなんでそれも知ってんだよ!!」


「その手鏡で一発さね!」


「やっぱり見てんじゃねぇかクソババア!」


話に完璧に置いていかれている私は、呆然と口を開けて様子を見守る。

気まずそうに咳払いしたワンダさんは、話題を変えようとしたのか明るくとんでもない爆弾を投下した。


「まぁとにかく、これで処分に困らなくて済む!もうここには戻ってこれないだろうからねぇ!」


「え!?またどこかに行くんですか!?」


「フェッフェッフェ!!()()に行くことになってねぇ!アンタもワタシぐらいになったら探してみればいい!」


「そ、そんな……」


ワンダさんの突然の遠出宣言に愕然としていると、一瞬脳内に何かの映像がチラついた。


よく思い出そうと眉を寄せると、アルが複雑そうな表情でワンダさんの収集物に手をかざす。

すると一瞬で沢山積み上がっていた魔法道具が姿を消した。


「とりあえず貰えるもんは貰っとく。」


「ワ、ワンダさん!いいんですか?収集の魔女として集めた物をあげちゃって!」


「だから魔物を解き放ったワタシのゲートを攻略したらって言っただろう?やっぱりワタシの物を扱うならそれなりの実力がないとねぇ!」


「ま、魔物!?なんて危ないことを…だからこんなボロボロなんだ。」


「うるせぇ!!」


「フェッフェッフェ!まぁワタシの遺産だと思って大事にするんだよ!」


「収集の魔女の…遺産…?」


ザザザッと夢の光景がフラッシュバックする。

怒涛の情報量にガンガンと鳴り響く脳内に思わず唸ると、アルが異変に気付いて私の背中をさすってくれた。

それと同時に引いて行く頭痛に嫌な感覚を覚える。


「おい大丈夫か?」


「う、うん。」


「さぁね?腹でも下したんじゃないかい?」


「いや頭が…もう治ったんですけど…。」


「じゃあ気にする必要はないだろう?さぁもう時間だ!ワタシはもう行くよ!」


「…………ワンダさん、帰って来ますよね?」


拭えない不安感を抱えながら特徴的な笑い声を聞いていると、耳元でワンダさんが呟いた。


「そうだ、仲直りした時の儀式ってものがあるから教えてやるさ。それはね…」


「っえぇ?本当ですかそれ?」


「いいからやってみることだねぇ!フェッフェッフェ!」


ワンダさんから聞いた内容に目を見開くと、目敏く気付いたアルが追い払うような仕草をする。


「おい!なに話してんだ!ふざけんのも大概にしろよクソ魔女が!」


「じゃあねレイ、精々その小僧をこき使って女を磨きな。」


「どういう意味だクソババア!」


「喧嘩もいいが、アンタも大概素直になりなよ。アルフレッド。」


「邪魔したくせにうるせぇよ!……じゃあな。」


特徴的な笑い声がだんだんと小さくなり、最後にはワンダさんの気配もなくなった。


「なんでワンダさんが見えなかったんだろう。」


「幻影魔法だ。遠く離れた本体から魂の一部だけ寄越したんだよ。」


「あーだからか。ランちゃんもクラウスさんもやってたよね。流行ってるの?」


「知るか。」


気づけばアルとも普段通りに会話が出来ていた。

ワンダさんが帰って来てごちゃごちゃしたけど、なんだかんだ助かったかもしれない。


「アル。」


「あ?」


「私、アルとはずっと仲良しでいたい。でもそのせいで無茶をしたり、進んで怪我をするようなことをするなら出来るだけ関わらないようにするからそのつもりで。」


「はぁ!?なんだそれふざけんな!」


怒ったようにこちらを見るアルに向かって微笑む。


「私のことも心配してくれてありがとう。嬉しかった。今後はアルに負担をかけないように無茶は絶対しないって約束する。」


「っ。」


「…お互い様ということで仲直り、でいいかな?」


「…はぁ、いいんじゃねぇの。」


私をしばらく見つめたアルはぎこちなく視線を逸らし、小さく呟く姿に思わず吹き出した。

そして先ほどワンダさんに教えてもらった仲直りの印を思い出す。

少し恥ずかしいが、まぁ子供同士だし特に問題ないだろう。


「じゃあ早速。」


「あ?なにが…っ!?」


ワンダさんに教えてもらった通り、アルの右頬に軽くキスをする。

この世界において、互いの頬にキスをするのが()()()()()だそうだ。


「は、お、おま、…え?」


茹で蛸のように赤くなったアルは右頬を押さえて凄いスピードで後ずさる。

そんなに逃げられると若干傷つく。


「ちょっと、アルもしてくれないと仲直りにならないじゃん。」


「だ、誰がそんなっ!」


「してくれないの?」


「っ!!テメェ覚えとけよ……!」


覚悟を決めたように大げさに深呼吸をして近づいて来たアルは、真っ赤な顔を近づけた。

そしてほんの一瞬だけ私の頬に口付ける。


「はい、これで完璧!」


「…オレ以外には絶対にするなよ。」


「え?そんな滅多に喧嘩はしないよ。」


「いいから!!約束しろ!絶対だかんな!」


確かにワンダさんが言う通り、これは仲直りの印なのかもしれない。

喧嘩で感じた心が冷えて行くような感覚は、いつのまにかポカポカと暖かい幸せなものへと変わっていた。


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