転生者と少年の、小さな事件
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あの体調不良から数日。
お待たせしました皆さま。
「レイ・モブロード、完全復活!!」
「突然どうしたんすか?」
「ご覧なさい白玉、この青い空の下では叫ばずにはいられないでしょう。」
「あー…この空だけ見ていればそうっすね。いい天気っす。あ、あの雲ネズミっぽいすね!!美味しそうっす!」
「あー、うん。ヘビだもんね白玉。」
白玉と(おそらく)横に並びながら、ただひたすらに空を仰ぐ。
王都と比べてやはり村は最高だ。
ゆったりとした時間が流れていて、闘いのたの字も見当たらない。
平和とはまさにこのこと…
「ゴラァ!!死ねクソが!!」
「「うわぁああ!!」」
………うん、私の周辺だけだった。
剣を振り下ろした際の風圧で髪の毛が乱されるが、もう慣れたものだ。
飛んできた岩石や崩壊した建物の残骸などに関しては白玉が吹き飛ばしてくれているらしく、私にはなにも被害はないのだが。
「と、とんでもねぇ……まだ特訓し始めて数日だぞ……?」
「強すぎる………無敵かあの少年…!」
「無駄口叩いてる暇があんなら打ち込んでこいや!!鳩尾に食らわしてやろうか!!」
「「い、いやぁああああああ!!」」
女子のような悲鳴をあげる兵士さんたちを軽々と蹴散らすアルの姿は、ついこの間一緒にお昼寝した可愛い少年とは思えない。
「特訓する意味あるのかあれは……」
「確かにびっくりしたっすね。あれだけ嫌ってる兄さんに剣の稽古を頼み込むなんて。」
「そうそれ。」
あのお昼寝以降、アルは白玉の報告に来る日以外にも関所を訪れ黙々と剣の修行をしているのである。
「初めてクラウスさんに会った時は全力で修行を拒んでたのに……。そんなにテオさんに一太刀浴びせたかったのかな…。」
「そのテオとかいうニンゲンは知らないっすけど、旦那が気合を入れてるってことはちょっと違うんじゃないっすか?」
「え?違うってどういうこと?思い当たることあるの?知ってるの?」
「もう手を取るように分かるっす。」
少しからかうような声色で呟いた白玉の言葉に、ますます首を傾げた。
少しの沈黙のあと、辛うじて思いついたのは。
「………エミリーちゃんを護る騎士が2人もいて焦った…とか?」
「っはぁ!?なに言ってるんすか!!そんなわけないっす!」
「じゃ、じゃあ!エミリーちゃんとずっと2人で幸せに生きていくために、魔法だけじゃなく剣術も極めようとしてるとか!うわなにそれ可愛すぎ!」
「違うっす!!ああもう!身体がムズムズするっす!!」
苛立ったように声を張り上げる白玉に思わずむっとする。
「だって思いつかないよこれ以上!というかなんで白玉には分かって私には分からないの!?私の方がアルとの付き合い長いのに!!幼馴染の名が廃る!!」
「お?おおお!?分からなくて悔しいっすかネェさん!じゃあ、とりあえずあの緑頭から離れるっす!!話はそこからっす!」
「エミリーちゃんから離れる…?」
「そうっす!旦那にとってもっと身近な」
「おいクソ蛇!なんか余計なこと口走ってねぇだろうな!!!」
「あああ!!バレた!!これから盛り上がるところだったのに邪魔しないでほしいっすよ旦那!!」
「盛り上がるって……やっぱりなにか吹き込むつもりだったなクソが!!つうかソイツに詰め寄りすぎだ!!今すぐ離れろ!ぶっ殺すぞ!!」
「ヒィ!もう殺る気満々じゃないっすか!」
足早に近づいてきたアルは木刀を投げつけると、すぐ真横から白玉の悲鳴が聞こえた。
本当に結構近かったんだ。
展開の速さに唖然としていると、アルに思いっきり頬を抓られる。
「あたたたた!?」
「テメェも警戒心を持てってあれだけ言ってんだろうがこのクソモブ!!なに間合い詰められてんだ!」
「白玉は家族みたいなものだし」
「はぁ!?あんなことがあったのになんでそんなガバガバなんだよ!自分以外全員敵だと思っとけ!!」
「そ、そんなわけ……ってそれよりも!!」
「……あ?」
私が突然大きな声を出したことでアルの勢いが少し収まる。
その好機を見逃さず私は彼を問い詰めた。
「なんであんなに嫌がってた剣の稽古を始めることにしたの?」
「………どうでもいいだろ。」
「気になるよ。毎日毎日稽古続きで全然休んでないし。しかも頬の傷だって最近治ったばっかりなんだから、もっとゆっくり身体を休めたほうが」
「うるせぇ!!!」
若干気まずそうに顔を逸らしたアルの反応に、思わず訝しげに目を細めてアルを見つめる。
「稽古をするのは健康的でいいと思うけど、何にそんなに焦ってるの?」
「は、はぁ!?別にそういうんじゃねぇ!」
焦ったようにオロオロしだすアルが可哀想になってきて、大人気なかったかと反省する。
人には踏み込んで欲しくないことだってあるし、私はアルと喧嘩をしたいわけではない。
言いたくないなら深くは聞くまい。
ただ、ゆっくり休んでもらいたいだけなのだ。
気を取り直してアルに優しく声をかけようとすると、後ろから爆弾が投げ込まれた。
「まぁ、ネェさんにだけは死んでも言えないっすよねー。」
「私にだけ……?死んでも?」
「そうっすよ。」
「っ!!てめぇシラタマッ……!」
私の後ろを鋭く睨みつけるアルの様子を見て確信した。
(否定しないんだ…。)
なるほど、私にだけ言いたくないというのは本当らしい。
しかも『死ぬほど』という単語がつくほどに。
仲間外れにされた疎外感とその他諸々の感情が混ざりあって、思わず真顔になる。
「ふーんそうなんだ。」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあどうしてなの?」
「………。」
口を割る気はないその様子に、心が一気に冷えていった。
「そう、分かった。今日は帰る。」
「…は?おい!」
「アルのバーカ。」
「っ。」
アルの驚いた表情がちらりと見えたが、構わず家へと走り出す。
大人気ないのは分かっていたが、どうにも止まらない。
話す話さないの判断は個々それぞれ。
ただのお隣さんに話す必要はないと判断した彼は、何一つ間違ってない。
謝らなければと思っているのに一度も後ろを振り返れなかった。
彼にとって私は、理由を話せる人ではなかったというその事実に。
どうやら私は、深く傷ついたようである。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
いくら仲が良くても喧嘩しないなんてそんなわけないですよねー。
ただ!ここを乗り越えればもっと絆は確かなものになるはず!!
この小さな事件を見守っていただけると嬉しいです。