未来の聖女は、番犬を焚き付ける
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走って10分、目当ての一軒家にたどり着く。
汗でへばりついた自身の緑色の髪を持ち上げて首元を乾かしながら数回ノックした。
「すみませーん!!こんにちはー!」
応答がないことを不思議に思い、試しに扉を押してみると鍵が開いていることに気づいた。
わぁ、不用心だね!
「お邪魔しまーす!」
中からは言い争う声が聞こえてくるが、構わず上がり込みその怒声の方向へ足を向けてみると。
「旦那!!本当に何やってんすか!?オレはネェさんに会いに行きたいんすよ!!」
「そうじゃアルフレッド!いい加減にせんか!」
ある扉を一枚挟んで激しく抗議しているおじいさんと色白くんがいた。
「ねぇどうしたの?」
「あれ!?何勝手に上がり込んでるんすかアンタ!!常識を疑うっすよ!」
「えー?だって開いてたんだもん。それでどうしたの?なにかあったの?」
「聞いておくれお嬢ちゃん。レイちゃんが具合悪いって聞いたもんだから、ワシらも一緒にお見舞いに行くことになったんじゃが……アルのバカタレが突然自室に篭ってしまったんじゃ!」
「おい!別に篭ってねぇよクソジジイ!脚色すんじゃねぇ!!とりあえず今は放っておけって言ってんだろ!」
一生懸命色白くんが扉を開けようとドアノブをガチャガチャと回しているが、部屋の中から開けられないように魔法をかけているのかもしれない。
どこからどうみても籠城中だった。
「なんでそうなったのか考えてみたら?エミリーも手伝ってあげる!」
「アンタに手伝ってもらう必要はないっす!!……あのとき急に焦ったように家に帰ってきて……」
「あはは!話してくれるんだ!」
その時の光景を思い浮かべるように色白くんは眉を寄せた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あのダニーと殺り合ったのによくご無事で!!流石旦那っす!お帰りなさいっす!」
「王都に向かった時は何故だと思ったが、人を守るために頬に傷までつけて……お前さんも男になったのぉ…。母親が聞いたら泣いて喜ぶじゃろう!今日はお祝いじゃ!」
「うるせぇ黙れ!!」
オレと爺ちゃんの熱い歓迎を一蹴した旦那は苛立ちげに台所へ行き、お茶をコップにも入れずに一気飲みをする。
その様子になにかを感じ取ったのか、爺ちゃんは旦那の頭を撫でて落ち着かせるように声をかけた。
「どうしたんじゃ?」
「……別に。あのクソモブが村に帰ってきたと同時に倒れやがったから…ちょっとビックリしただけだ。」
「えぇ!?ネェさん倒れたんすか!?大丈夫なんすか!?」
「騒々しいなテメェは!」
凄い勢いで睨みつけられたので口元に手をあてて黙ると、爺ちゃんが優しい声で続けた。
「落ち着くんじゃアルフレッド。なにが気に入らない?」
「…アイツが倒れたの、2回目なんだよ。オレは近くにいるのになんにも出来なかった。魔法には自信があるし、看病だってどっかのクソジジイのせいで慣れてんのに。頭が真っ白になって、ただ見てることしか出来なかった。いけ好かねぇエクボ野郎はアイツにいろいろしてやってたのに……。」
旦那がなにに悩んでいるのか、魔物のオレにはさっぱりわからない。
旦那の苦しそうな声を聞いても、さっぱりだ。
でもやっぱり爺ちゃんには伝わったみたいで、苦笑しながら旦那のツンツンした赤髪を撫でる。
「アル。確かにお前さんはワシの面倒を見てくれていたが、まだまだ幼い子供。出来ることは限られておる。エクボ野郎が誰なのかは知らぬが、大事なのは気持ちなんじゃよ。アルフレッド、気持ちを行動に移せばいいのじゃ。今、お前さんに出来ることはなんだと思う?」
数秒考えた旦那は、少し不安そうに爺ちゃんを見上げて小さな声で呟く。
「……見舞いぐらいしか思いつかねぇ。」
「それでいい。いやそれが大切なのじゃ。さぁ!そんな暗い顔をしておると、レイちゃんが困ってしまうぞい!明るくワシら3人でお見舞いに行こうかの!」
「………おう。」
こういう時にニンゲンの心が分からないのは不便である。
だが旦那がやっと表情を和らげたので、オレは少し安心した。
「ネェさんに会えるっすか!?やったっす!!準備するっす!」
「ッチ、早くしろよ。」
旦那から許可をもらい気分が上がった時、爺ちゃんが横で旦那に声をかけた。
「ああそうじゃアル、あの花を持って行ったらどうかのぉ?」
「………あの花?」
突然石のように全身がビシッと固まった旦那はゆっくりと爺ちゃんに顔を向け、頬を引きつらせながら再度問いかける。
「そうじゃ!ほれ、ワシが不治の病に侵されていた時にレイちゃんが渡してくれた緑色の綺麗な花じゃよ。」
「?その花がどうかしたんすか?」
「それが凄い効果でな!アレが近くにあると体調が良くなるんじゃ!きっと癒しの効果があるんじゃろう!!」
「へぇーお見舞いにはピッタリじゃないっすか!ねぇ旦那!……旦那?」
ダラダラと汗を流し明らかに様子が激変した旦那に思わず首を傾げるが、ネェさんに会いたかったオレは構わず続けた。
「それ何処にあるんすか?」
「アルが持ってるはずじゃよ。」
「お、じゃあお邪魔するっすよ!」
そう言って旦那の部屋のドアノブに手をかけたその一瞬で、自分でもよく分からないうちに身体が吹っ飛ばされた。
開いていた窓から庭へと放り出され、頭を強打する。
「なにするんすか!……って…」
文句を言おうと顔を上げると、部屋の扉を全身で隠す真っ赤な顔の旦那の姿が目に入った。
「なにしてんすか?」
「あ"!?べ、別になんもしてねぇよ!」
「人を投げ飛ばしといてその言い訳は見苦しいっすよ!?」
「なにを隠そうとしてるんじゃ?…まさか枯らしてしまったのか?」
「はぁ!?んなわけねぇだろ!全然元気だっつの!」
「なら尚更なにを焦っているんじゃ!」
「いや元気すぎて……ち、違うもんになってるっつうか…」
「「違うもの?」」
思わず爺ちゃんと顔を見合わせていると、それもまた地雷だったのか全身を震わせながら旦那は叫んだ。
「いいから数十分そこで待ってろ!!」
そうして電光石火のごとく扉を開け閉めして、内側から固く鍵をかけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それで数十分どころか数日越しでご覧の通りっすよ!!本当になにやってるんすか旦那ぁあ!」
大げさに頭を抱えて項垂れる色白くんを尻目に、エミリーは顎に手を当てて考える。
番犬くんの様子が変わるきっかけとなった花。
緑色、癒しの効果、花。
ピーンと思いつたのは一つの植物。
「ねぇその花ってアイビスの花じゃない?」
「おおそうじゃよ!よく分かったのぉ!」
「やっぱり!じゃあエミリー、なんで番犬くんが出てこないか分かったかも!」
エミリーの言葉に驚いたように見つめてくる2人に少し得意げに微笑むと、扉の前に歩き数回ノックする。
「番犬くーん!」
「帰れエセ聖女。」
警戒したように反発してくる番犬くんにニヤリと笑い、咳払いをして切り出す。
「ねぇねぇ気にしなくていいよ?」
「あ"!?なにがだよ!」
「番犬くんがモブちゃんのこと大好きなの、みーんな知ってるもん!!今更アイビスの花が真っ赤だからって誰も気にしないよ?」
空気が冷えるとはまさにこのこと。
わーい、汗が冷えて気持ちいい!
エミリーが放った一撃は、少年だけでなく周りにいた2人にも確実に強烈な衝撃を与えた。
すると全く開かなかった扉がゆっくりと音を立てて開き、中から目の下に凄まじいクマをつけた少年が指を鳴らしながら姿を現す。
「わー!凄いクマ!!面白い!」
「そうかよかったな。オレは眠気覚ましにお前をぶっ殺す。」
「アンタなんてことを言うんすか!!そりゃ旦那がネェさん命の大好きっ子ってことはみんな周知の事実っすけど!!こういうのは改めて言う必要はないっす!!」
「よしクソ蛇!テメェもそこに並べ!!」
「えぇ!?なんでっすか!?」
色白くんに怒りの矛先が向いたところで、チラリと部屋を覗く。
すると机の上に綺麗な真紅のアイビスの花が誇らしげに咲き誇っているのが見える。
恐らくあの色合いを緑色に戻そうと精神統一でもしていたのだろう。
目の下のクマがその証拠だ。
(ふふ、数日間寝ずに精神を統一しても抑えられない恋心なんて最高!!)
ニヤつく頬を押さえながら、色白くんに向かって魔法を放とうとしている番犬くんに声をかける。
「もう色は変わらないんだからさ、このままモブちゃんにあげちゃえば?」
「は、はぁ!?ふ、ふ、ふざけてんのかクソアマが!!こんなもん持っていけるか!」
「えー?しないのー?」
「だ、大体タイミングってもんがあんだろ!!」
ふーん?結構演出とか気にする系なんだ?
真紅のアイビスに負けないぐらい顔を赤くしてぐるぐる目を回す少年に、ニヤつきが止まらない。
寝不足のせいで本音が出てきているのが面白く、ついついからかってしまうのだ。
「そっかそっか!まぁこれを渡す機会は番犬くんにお任せするとして!早く行こうよ!クラウスばっかりモブちゃんを占領してズルイし!」
「…………あ"?」
先ほどよりもさらに温度が下がり、思わず二の腕のあたりを両手で摩る。
数歩大股で近づいてきた番犬くんは、エミリーを睨みつけながら低い声を発した。
「どう言う意味だ。」
ああ、本当にからかい甲斐がある。
「そのままの意味だよ?今、モブちゃんとクラウスは2人っきりでラブラブなの!!」
ぷっつん。
エミリーの言葉を聞いて血管が切れるような音がした後、赤髪の少年は一瞬にして姿を消した。