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転生者は、一歩後退する?

「そういえば、ちゃんと自己紹介してなかったよね。」


「あ?」


なんとなく彼との接し方が分かったところで、未だ名乗っていなかったことを思い出した。相手はどうでもいい雰囲気を醸し出しているが、挨拶は基本中の基本。とりあえず挨拶をちゃんとしておけば、どんな相手でも印象は悪くはならないのだ。


「改めまして、私はレイ。レイ・モブロード。君は?」


「………アルフレッド・フォスフォール。」


「あ、あるふぇ?ふぉす?」


「………」


「…………よろしくアル。」


「諦めんてんじゃねぇよクソが!」


「ふぉとかふぇとか苦手なんだよね。勘弁して。」


っち。


大人顔負けの舌打ちを披露し私を睨みつける。この1日で何回舌打ちしてるんだと思わず尋ねそうになったところで、思わぬ飛び入りが。


「なんじゃ……なんじゃ!!アル!!ワシを差し置いて可愛い子とイチャイチャしおって!!!」


慌てた様子で飛び出してきたおじいさんに2人同時に飛び上がる。鼻息荒くぶっ壊したドアノブを持ったままこちらへ歩いてくるおじいさんは、軽くホラーだった。


「は、はぁ!?い、イチャイチャなんてしてねぇよクソが!!いっぺん死んでこいクソジジイ!」


「なにいうとるんじゃ!お嬢さんに仲良さげに手を繋いでもらっといてよく言うわ!そこ変われぃ!」


「うるせぇって……て?…テ……手?」


いつもの流れで噛み付いたアルだったが、ふと我に帰ったようで自分の手を見つめる。そして私の顔と手を交互に見て、現在の状況を思い出したようだ。まるでマグマが噴火するかのように首から赤くなり、機関車のように蒸気が出ている。


(あれ……もしかして照れてる?)


もしかして……純情男子?

女の子と手を繋ぐということに明らかに慣れていないであろう反応に、思わずニヤリと口角が上がる。なるほど、4歳といえど恥ずかしいのか。そうなのか。まるで近所の年下の男の子をからかっているかのような気持ちになる。


(なんだなんだ、意外に可愛いところが)


「死にさらせぇ!このクソがぁああ!」


「やっぱりそうですよね!」


照れてるわけなかった。

怒りが頂点に達したのか私の手を思いっきり振り払う。そのあまりにも激しい動きに思わずよろめき、その反動で彼の手を包み込むようにした手は見事空中へと放り出された。


パリン。


「あ?」


「え?」


「なんじゃ?なんか割れたのぉ。」


確かにガラスが割れるような音が響いたが、ここはアルの家の前。そしてたかが私がよろめいたくらいで割れるものなんて1つもないはず。だが…


(な、なんか壊しちゃってたら弁償かも)


そう思い、音のした方に目線をやる。

アルもつられて私と同じ方向へ目線を向かわせた。





















「………ねぇ、なんかアレ、すごく見覚えあるんだけどなにかな。」


全身がすうっと冷えていくのがわかる。

ああそうだ、思い出した。

アルの手を両手で握るとき、ポケットにしまうのが面倒で手で持ったまま彼の手を包んだんだ。つまりあれは、そういうことで。


「あ、あれは…」


「誰じゃあんなところにガラス瓶など置いたのは。」


アルはどうやら気づいたようで、少し気まずそうに私に視線を向けているのが分かる。

うん、気にしないでいいよって伝えなきゃいけない。……いけないんだけど。




「やっちまったぁああああ!」




突如降って湧いた絶望に、私はガラス瓶の近くで膝をつき絶叫した。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




日付と場所が変わって翌日の私の部屋。

ど真ん中に芋虫のように毛布にくるまった物体がある。無論、私だ。


「ねぇレイちゃん?そんなにくるまってたら貴方のかわいいお顔が見えないわ。」


「やっぱりあの1人探検の時なにかあったんだね!?大丈夫!ダディがいくらでも受け止めてみせる!」


「エドワードったら…」


(ああ、心配させてる…)


すみません。復帰にしばし、お時間をください。


あの時、あの絶叫でおじいさんは私の物だと察したのか、アルの頭を掴み頭を下げながら何度も謝罪をしてくれた。


「だ、大丈夫です……ほんと……気にしないでください。あはは………」


あれは私が面倒くさがってポケットに仕舞わなかったのが悪い。だが妖精の力を借りて作った挙句、完璧に無駄にしてしまったことに少なからずショックを受けた頭は、全く働いていなかった。

その状態で挨拶ほどほどに家へ帰り、引きこもっているというわけである。


(流石にもう一度、肝取ってきてーなんて言えないし。)


妖精の声も聞きたくなくて、さらに毛布にくるまり彼らが私に触れられないようにする。

一度無事に手元に戻ってきたからこそ、ショックは大きいのだ。


「レイちゃん。レイちゃん。」


もはやただの芋虫となった私を撫でて、母親は言葉を続ける。


「実はね、お隣さんの息子さん。レイちゃんに会いにきてるのよ。」


(え…)


思わずガバッと身を起こし、母親の顔を見る。ふふふ、と優しく笑う母はまるで聖母のように続けた。


「何があったのか分からないけど、せっかくできたお友達に相談してみたらどう?」


「………別に困ってないもん」


「あらそう?ふふふ」


でもそうか。

わざわざ会いに来てくれたのか。

気にさせちゃって悪かったな。


息子って誰!?どこの馬の骨だ!なんて叫んでる父親の真横を素通りし、なかなか出てこない私に苛立ちながら待っているであろう少年を思い浮かべながら、私は部屋のドアを開けた。

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