〇〇は、一歩迫る
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場所は変わって死の森にある古城、その入り口。
メイド服を着た女性が扉を開けると、ピンク色の髪を綺麗に縦に巻いた少女が意気揚々と外へ出る。
しかし笑顔だったのはその一瞬。
すぐに黒い太陽からの日差しに苛立ったのか、整えられていた髪型はすぐに蛇に姿を変え威嚇するように天を見上げた。
「あっっっつ!!なんなのよ!!」
「本日は快晴ですから…メディシアナ様、これをお差しください。」
鼻息荒くメイドから差し出されたものをひったくった少女は、彼女全体をすっぽりと覆い隠すほどの黒い傘を差した。
「あー!うざったいわね!なんで晴れてんのよ!!殺すわよ!!」
「もし日差しが気になるということであれば、夜まで待たれた方が良いのでは?」
「はぁ?このメディシアナ様に口答えするなんて偉くなったものねアルファ。なに?固められたいわけ?」
「……失礼いたしました。お気をつけていってらっしゃいませ。」
これ以上の意見は無意味と察したアルファは粛々と頭を下げ、一歩後ろへ下がる。
その様子に満足したのか傘をクルクルと回したメディシアナは、鼻歌交じりにゆっくりと歩き出した。
森に棲まう魔物たちは自身の隠れ家からひっそりと彼女の動向を伺う。
彼らが隠れているのは、メディシアナが城から出ることになった理由が皆目見当がつかないからだ。
喧嘩を売ってきた王国を滅ぼすため、刃向かった魔女を皆殺しにするため、魔王サマが封印されたため。
そのどれもが怒りからくる暴走だったが、鼻歌を歌うほどご機嫌な今回はどうやら違うらしい。
一通り死の森を散策して適度に迷子になったところで、ある一箇所に魔物が集まり何かしているのが目に入る。
その中心では人間の子供が魔物を蹴散らしているようだが、なにぶん相手の数が多すぎて捌ききれていない。
(あれね。)
メディシアナは瞳をゆっくり閉じて、開眼するとその周辺一帯は全て石像へと姿を変えていった。
無論、先ほどまで生きていた魔物たちは悲痛な表情を浮かべたままその人生を終えたのだ。
しかし全く興味がないメディシアナは邪魔だと言わんばかりに真っ二つに破壊して、無表情でこちらを見るオモチャとその先に横たわる物体を視界に入れた。
ボロボロの布切れのようになったその姿に思わず笑いがこみ上げたメディシアナは、我慢することなく爆笑する。
「あっはっは!!なによその姿!!最高じゃない!!」
「…………うわぁ、今一番会いたくないヤツ。」
「はぁ!?このメディシアナ様がわざわざ助けに来てあげたっていうのに!!まずはお礼を言ったらどうなのよ!!……それにしてもこの森にいるザコにも手が出ないほど弱ってるなんて……ぷくくっ!ガンマが見たら失神するんじゃない!?あっはっはっ!!バカダニー!自分のオモチャに護られるなよなよダニー!!」
「……はぁ、悔しいけどなにも言えないや。もう寝かせてよ。」
気まずそうに顔を逸らすダニーの姿は、怪我だらけ血だらけで息も絶え絶えである。
その様子を見たメディシアナは軽く目を細めて退屈そうに口を尖らせる。
(なによ、ちょっと死にかけちゃって。つまんない。)
仕方なしに自身の髪を数本千切って魔力を込めると、数回うねった髪は大きな蛇へと姿を変えた。
メディシアナから産まれた蛇は面倒臭そうにダニーを口に加えて運び出す。
「えぇ嘘でしょ?唾液汚い。」
「はぁ!?アタシの眷属の唾液のどこが汚いっていうのよ!!」
「それは……全体的……に…」
欠伸をしながら眠たそうに返事をするダニーに苛立つメディシアナだったが、そのまま眠ってしまったダニーを起こさないようゆっくりと歩き続ける。
いくら魔王軍幹部とはいえ、ダニーの身体は普通の人間より少し頑丈な程度。
強さがモノを言う魔物世界で、元人間な彼が弱って帰って来れば狙われるのは目に見えて分かっていた。
だからこうして仕方なく、脆弱なダニーの魔力反応を感知したメディシアナが迎えに出たのだ。
ダニーを仕留めようと近づいてきたザコを視線で牽制しながら、メディシアナは後ろからゆっくり付いて来るオモチャへと声をかける。
「アンタ、なにがあったか知ってるわけ?」
「……レイ。」
「はぁ?」
「レイ。」
「意味わかんないわよ!!ムカつく!」
その後も『レイ』とうわ言のように続けるオモチャを尻目に、彼女の短時間の散歩は終わりを迎えた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
メディシアナがダニーを城へ連れ帰ると、事の重大さを感じたアルファはすぐにガンマへ連絡を取った。
そして頭をいつも以上にボサボサにしたまま速攻で戻ってきたガンマは、ほとんど破壊されているソファに横になるダニーを見て狼狽える。
「おいおいマジかよ…大丈夫かお前。熱あるんじゃね?風邪薬いる?」
「ガンマ様、ダニエル様は風邪ではありません。魔力をほとんど失い身体が悲鳴を上げているのです。とりあえず身体を冷やして熱を下げましょう。ベータ、手伝いなさい。」
「あいあいさー!!」
「お、俺は?」
「ガンマ様は邪魔ですので翼をしまってあちらでお待ちください。」
「まさかの戦力外通告。」
焦ったように大きな翼をばたつかせることしかできないガンマをメディシアナは冷めた目で見つめる。
自分の眷属に邪魔扱いされたガンマは落ち込みながらメディシアナのとなりに座り込んだ。
「ダニーがあんなボロボロになるなんて…なにがあったんだ。」
「さぁ?でもこれで生意気な態度を改めればいいわ!アタシをもっと敬えばいいのよ!」
「……まぁダニエルも今回はメディシアナに感謝してるさ。なんだかんだ心配で迎えに行ってくれたんだろう?メディシアナは実は優しいお姉ちゃんだもんな。」
「はぁ!?雑巾みたいにボロボロなダニーなんて早々見れるものじゃないから暇つぶしに見に行っただけよ!虫唾が走るからやめてくれる?固めるわよ!!」
「本当にブレないなお前。」
テキパキとダニーの体内の魔力操作を行って治療を施すアルファたちの姿を見ながら、ガンマは小さく呟いた。
「あのダニエルの傷から匂う魔力は、アイツ自身の魔力だよな?どうやったらあんな傷を受けるんだ?」
「…あ!自爆したんじゃないの!?あっはは!!バカダニー!!」
「いや暴走したメディシアナじゃあるまいし、ダニエルがそんなバカな真似をするとは思えねぇんだよな。」
「ちょっとそれどういう意味よ!!」
考え込むガンマを全力で睨みつけていると、ふと彼女の脳裏にあることが浮かび上がってきた。
「そういえばダニーのオモチャが『レイ』って言ってたわ。」
「……レイ?なんだそれ。」
「ガンマが知らない事をアタシが知るわけないでしょ!」
半ば逆ギレするようにガンマに足蹴りを食らわして、壁にめり込ませる。
「れい、レイ、レイねぇ…。」
壁にめり込んだまま思考を巡らせたガンマは深く息を吐き、降参するように肩をあげた。
「わっかんねぇな。地名か?はたまた人名か?…まぁダニエルの意識が戻ったら詳しく聞けるだろう。俺もしばらくはここにいるから」
「はぁ!?寝るところが狭くなるじゃない!!ふざけないで!どっか行きなさいよ!」
そう言った彼女はおもむろに床に置いてあった枕を引き裂く。
「またそれ俺のだから!お前が引き裂いたの何個目だと思ってんの!?」
その様子を遠目に見つめる子供が1人。
自分のために設置されているブランコに乗りながら小さく呟く。
「アソボ……レイ。」
なにも感じさせない虚ろな瞳で、ただひたすらブランコを押してくれた少女の名前を口にした。