転生者の選択と、その結末③
いつもありがとうございます^_^
書き溜めていた分を放出します!!
楽しんでいただけると嬉しいです!
今後ともよろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております^_^
駆け抜ける赤。
病院内の人がアルを見るたびに悲鳴をあげて逃げていく。
村の人よりも反応が露骨だ。
こんな仕打ちをほとんど毎日受けていたと思うと、心が痛むばかりである。
しかしアルはそんな周りの反応など気にせず、ただ真っ直ぐ前を見て走り続ける。
そしてまた病院内に散らばった騎士団の人に見つかれば、問答無用で戦闘開始。
「いたぞ!!悪魔の」
「どけクソが!!可燃ゴミにしてやらぁ!」
「怯むな!!赤髪とはいえただの」
「道の真ん中で仁王立ちすんじゃねぇ!!通行人の邪魔になるだろうが!!」
「なかなかやりおる!力自慢の、このヴォールデ」
「テメェの名前なんぞ聞いねぇわ!!潔く散れ!!」
「………………。」
確かにこれは人生を賭けた鬼ごっこである。
そりゃ捕まったら大変だし、全力で逃げるのが得策なんだけれど。
(アルが遭遇する騎士団の人を片っ端からぶっ飛ばしていくから、なんか可哀想!!)
アルに手を引かれながら走るが、さっきほどの緊迫感はあまり感じない。
私の幼馴染、強すぎじゃない?
「ね、ねぇアル?せめて台詞は全部言わせてあげたら?相手も仕事で頑張って追いかけて来てるんだし。」
「あ"!?んな暇ねぇよ!!お前が馬車がある場所忘れてっからこんなに走り回るはめになってんだろうが!!なんで忘れてんだよ!どんだけ脳細胞死滅して」
「悪魔の子だ!捕まえ」
「悪魔悪魔うるせぇ!!人が喋ってんだろうが!!邪魔すんな雑魚兵ごときが死にさらせぇええ!!」
「ヒィィイ!!」
驚異の理不尽さを見た。
可燃ゴミとなった兵士皆様に心の中で合掌しながら、頑張って記憶を掘り起こす。
アルがめっちゃキレてるのも、私がランちゃんが用意してくれた馬車の場所を忘れたからである。
(なんか自分、本当に雑魚すぎてワロタ。)
「ッチ、無駄にデケェ病院にしやがって………面倒くせぇ。全部ぶっ飛ばすか……。」
「それやったら完全アウト。」
「じゃあ早く思い出せよ!!」
「ごめん。」
早く思い出さなきゃと焦れば焦るほど頭は真っ白になっていく。
なんだっけ?なんて言ってたっけ?
あー、ダメだ。ランちゃんの素晴らしい顔しか思い出せない。
『ネーレイちゃんなにしてるノ?』
「待って。今馬車の場所を思い出してるの。もうすぐ、きっともうすぐ思い出せるから。」
『反対方向ダヨ?』
「………え、分かるの!?」
「分かんねぇよ!!」
「いやアルじゃなくて!」
『知ってるヨ!コッチコッチー!』
なんと心強い。
一気に気分爆上がりした私はアルに声をかける。
「私の代わりに妖精さんたちが覚えてた!妖精さんたちに着いて行こう!」
「クソモブより遥かに使えるな。」
「激しく同意!!」
「テメェはもう少し反省しろ!!」
ぐるりと180度回転して来た道を戻る。
また数人の騎士団を(アルが)蹴散らしていくと、一際青い長い髪のイケメンがチラリと視界に入る。
(あの人、さっき指示出してた人。)
そしてそのイケメンも、私を捉えた。
脳内で感覚的に思い出す。
あの人が、テオ・モルドーラ。
「ああ、そこにいましたか。」
読唇術なんてそんな大層なものを習得した覚えはないが、今確かにそう言ったように見えた
瞬間男性の姿が消えたかと思うと、途端に剣先が目前に迫って来る。
「ナメんな!」
即座に反応したアルは容赦なく爆発魔法を発動させ、牽制する。
さっきからずっと走っていた足を止めて、互いに間合いを図った。
「いきなり女から狙うなんてとんだ騎士道じゃねぇか。」
「挨拶がわりに剣を交えようと思っただけですよ。尊きエミリー様のご友人と言うからにはそれなりの実力がおありかと考えていたのですが………」
紺色の瞳を薄め私を見つめた男性は、軽く小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
「いやいや失礼。まさか本当にただの一般人とは。危うく殺してしまうところでした。止めて頂き感謝します、悪魔の子よ。」
『ソーダ!レイちゃんは普通の人間ダ!』
『何にもできないんダゾー!!』
妖精さんたちはきっとフォローをしてくれているんだろうけど、なんだろう。視界が歪む。
「それにしてもこの王都に穢らわしい赤髪が残っていたとは。」
「好きでいるわけじゃねぇ。今から出て行くから安心しろ。」
「出て行ってもらえるのは有難いですが、そこの少女は置いて行って頂かないと困ります。」
「わ、私ですか……。」
「ええ、貴方ですよ。レイ・モブロード嬢。」
怒りを込めた眼差しで私を見つめる男性は、小さく呟く。
「クラウス騎士団長は一体何を考えていらっしゃるのか。全く使えない少女など側に置いたところで、あの御方になんの恩恵ももたらさない。……これだから若造は浅はかで嫌いなのですよ。」
「オレもあのクソ真面目はいけ好かねぇが、お前の上司だろ。悪口は良くねぇな。友達失くすぞ。」
「そうですね、ただ幸いにもそのようなものを必要としたことはありませんので。」
一度煌めくように瞳が揺れると、重苦しい風が吹き抜けた。
「っ、テメェ…!」
『『ウワァ!イヤな風ダ!!』』
「赤髪は魔法使いとして確かに優秀です。ですが、そこを封じてしまえばただの子供。私の敵ではない。」
これ、魔力封じのデバフ!?
「ッチ、厄介な魔法を…。」
「私は王都騎士団副団長テオ・モルドーラですから。…さぁ悪魔の子よ、剣術に自信はおありかな?」
ジリジリと詰め寄られ、気づけば周りにも騎士たちが続々と集まって来ている。
アルはチラリと周りを見回し、掃除のおばさんが逃げる時に捨てていったのか床に落ちていた箒を手に取り構える。
「え!?嘘でしょ!?箒で!?」
「うるせぇ!!これしかねぇんだからしょうがねぇだろうが!!いいからそこから動くんじゃねぇぞ!」
「おやおや勇敢ですね。」
「ナメんなって言ってんだろ…ゴミを掃除するには箒が一番ってことを見せてやらぁ!」
「それは楽しみです。……かかれ。」
テオさんの号令で一斉に襲いかかってくる。
身を固くすると頭が思いっきり上から押しつぶされ、床にひれ伏す。
そしてすぐに頭上を通過するアルの箒。
「ぶっ飛べカスどもが!!!」
円形状に騎士団の皆様方が吹っ飛んでいくのを見て唖然とする。
これ……まさか回転斬り?
「そこ動くな。」
「は、はい。」
剣術など御構い無しで箒をぶん回し、どんどん数を減らしていく。
残りの騎士たちも想定外だったのか、多少の恐怖をにじませ後ろへ後ずさる。
「なんということでしょう。悪魔の子のくせに妖精の加護を身に纏っているのですか。」
「羨ましいか?やらねーよ。」
「…忌々しい、やはりお前もここで始末してやる。」
テオさんが踏み込むと同時にアルは横にそれるが、交わしきれず頬から赤い血が流れ落ちる。
振り下ろされる刀に箒で受け止めるがやはりそこは大人と子供、力比べでは到底かなわず吹っ飛ばされた。
「よく逃げずに受け止めました。あそこで避けてくれていれば首をはねられたのに…いい感をしていますね。ああ本当に惜しい、赤髪でなければ有能な騎士になれたことでしょう。」
「……ッチ、騎士なんてこっちから願い下げだっつの。」
や、やばいアルの顔が!尊いアルの頬に切り傷が!!
慌てて私もなにか援護できるものはないかとポシェットを漁るが、ハイグレードポーションはすでに使い終わってしまったし何もない。
しかしふとあの女の子から貰った巾着を思い出し再度中からネックレスを取り出す。
よく見れば小さく穴が空いていて、直感的に息を吹き込む穴だと分かった。
身体が勝手に動くまま、おもむろに白い宝石部分を口に咥えて思いっきり息を吹き込む。
ピィーーーーーーッ!!!
何処かで聞いたことのある甲高い笛の音色。
弾かれたようにこちらを見たテオさんの表情から、ありありと驚きが読み取れた。
(なんか起これ!)
「貴方それをどこで!」
私に笛を吹かせるのをやめさせようと手を伸ばしてくるが、アルがすかさず彼の後頭部に強力な一撃を食らわせる。
「ぐっ……なんという馬鹿力。」
「やってらんねぇ!行くぞモブ!」
「う、うん!」
間合いを取っていた騎士たちに箒をぶん投げ、頭を押さえこちらを睨みつけるテオさんの横を通り過ぎる。
しばらくまた走ると『物置倉庫』と書かれた扉が目前に迫ってきた。
そこでようやくランちゃんの言葉を思い出す。
「思い出した!その倉庫の横の裏口だ!」
「間違えてたら本気で一発殴るからな!ッオラァ!!」
裏口扉を蹴破り階段を数段降りると、
「遅い!!」
般若のような顔をしたランちゃんが出迎えた。