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転生者は、限界を迎える

84000PV、14000ユニーク超えありがとうございます!


楽しんでいただけたら嬉しいです^_^


今後ともよろしければ、ブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!


「あ"あ"あ"あ"ア"ア"!!」


耳を塞ぎたくなるような悲鳴がこだまする。

だいぶ効果はあったようだ。

全く動かなくなったアルに近づいて、このまま逃げようと思案する。


「アル!今のうちに……!」


ガシッと右肩に衝撃。

恐る恐る振り返れば、完全にキレた様子のダニーが笑顔で佇んでいた。


「なーんでわざわざ戻ってきたのかと思ったら……はは……やってくれたね……」


一気に歳をとってしまったようなしゃがれ声で、私を問い詰める。


へいへい嘘でしょう?

もう動けるの?

ちょっとタフすぎじゃないお兄さん?


肩にかかった手を払い落として後ずさりすると、追いかけるようにゆっくりとこちらに歩いてくる。


「魔力を吸い取りつつ体力を削るポーションなんて初めて聞いたよ………。キミが作った特製品かな?全くとんでもない代物を隠し持っていたね。」


だんだんと近づいてくるダニーに恐怖を感じるが、地面に座り込むことしかできない。

冷や汗だけが焦るように流れ落ちていく。


「お陰様でボクの身体はボロボロになっちゃったけど、これでよく分かったよ。これだけの技術があればメディの呪いを解けるのも納得だ。」


ボロボロになった袖で口元を隠し、私をキツく睨みつける。


「さぁてと、ボクの魔力を返してくれないかなー?……このままだと色々困るんだ。」


彼の瞳が朧げに赤く光るのを見て、直感した。


あ、これ……死ぬんじゃ…


「目、閉じろ馬鹿!!」


「はいっすみません!!」


部屋中に響き渡るほどの怒声に返事を返して目を固く閉じる。

ボワッと熱気が発生して呼吸が苦しい。

同時に聞こえる断末魔に近い悲鳴に身体が小刻みに震えた。


「はは……痛いよ赤髪くん。」


「そうかよ。随分ふざけた真似をしてくれるじゃねぇかこのクソ魔術師が。……コイツに手ェ出そうとしてんじゃねぇよ。」


聞こえてきた声は私の癒しの幼馴染の声のはず……だ。

だが目を閉じているこの状況で聞こえたあの声は、なにも感じさせない低い声でとてつもなく恐ろしかった。


アルなのに、アルじゃない。


目を開けてしまったらここにアルが居ないことを確証付けてしまう気がして開けられない。


「ぜってぇに許さねぇ。お前はここで、オレが息の根を止めてやる。」


あ、無理。誰この人怖い。


ついに限界を迎えた。

何かってそれは………涙腺の。


「アルゥウウウウ!!!」


「………あ?」


「ウオオオオオオオオオオ!!!」


「え?はぁ!?なんつー泣き方してんだお前!」


獣のように泣いている私にドン引きしている姿が容易に想像できる。

目は固く閉じているのに、とめどなく涙と…あと鼻水が溢れ出てきて止まらない。

そして拭う気もさらさらない。

顔面大洪水となった私はひたすら、大切な幼馴染を探していた。

こんな酷い顔で泣き叫ぶ、どうしようもない私の手を握ってくれる優しい幼馴染を。


「お、おいどうした!?どっか怪我したのかよ!?」


そして聞きなれたアルの声が聞こえて私の頬に手が触れる感覚がすると、すぐにその手を両手で逃さないように掴んだ。


「アル?」


「お、おう。どうした?」


「優しいアルくんですか……?」


「は?んなもん知らねぇ」


「優しくないの嫌だぁああ!!ウォオオオオオオン!!!」


「だぁあああああ!!?間違った!勘違いしてた!!スッゲェ優しかったわオレ!!」


なんとか私を泣き止ませようと私の頭を撫でてくる人物を確認しようと、恐る恐る目を開ける。

涙でグジュグジュになった世界の中で、綺麗な赤は心配そうにこちらを見ていた。

その姿は間違いなく、私の幼馴染である。


「アル……」


「ど、どうした?」


焦ったように言葉を紡ぐアルの手に顔を押し付けながら小さく想いを吐いた。


「もういいよ……帰ろうよ……」


「……は?」


「ダニーだってきっと反省してるよ……もう疲れたし怖いの嫌だ……意味わからん……」


「……コイツに色々バレて、しかも殺されそうになったんだぞ。放っておくつもりかよ。」


「でも生きてるし……」


「それは結果論だろ!!」


怒声を浴びせられてさらに涙が出る。

その私の様子を見て苦しげに眉をひそめたアルは気持ちを落ち着かせるように深呼吸をして、頬に当てている手に力を込める。


「だから先行っとけって言っただろうが。なに戻ってきてんだよ。」


「だってアルが見事な死亡フラグ建てて…グスッ。」


「相変わらず意味分かんねぇこと言ってんなお前。」


「これでアルがし、し、死んじゃったら、もう一緒にいられないし!そんなの嫌だし!ううう…!だからMPポーショングレネードを使ってでも一緒に逃げようと思ったのに、アルがいつものアルじゃなくて怖いし!!グェエェエエエエ!!」


「………………。」


カエルが潰れたような声で泣き叫ぶ私に苦笑する。

そして深く深くため息吐くと手を離してゆっくりとダニーに近づき、手をかざした。


「あと数分後には今日の出来事は綺麗さっぱり忘れてる。…逃げたきゃどこへでも行け。」


「これ、しばらくなんにも出来なくなるヤツだね。まだ若いのにとんでもない魔法使えるんだ。厄介だなー。」


ダニーの姿はだんだんと消えて見えなくなり、声だけが反響して聞こえるようになった。


「ボクの魔力を使って攻撃されるとか笑えないよホント。」


「テメェのクソ魔力を利子つけて返してやっただけだ。むしろ感謝しろ。」


「えー嘘でしょ?ボクが言うのもなんだけど、キミもなかなかいい性格してるよね。」


「うるせぇぞ!まだ文句あんのかテメェ…!」


「あるよ、文句。なーんでトドメ刺さないのさ。」


私に近寄ってボザホザになっている頭を数回撫でたアルは小さく呟く。


「オレはこの馬鹿を泣き止ませるので忙しい。」


「あーはいはい、ご馳走さま。なるほどね、収集の魔女が言っていた番犬って……」


「うるせぇぞ!!いいから消えろ!次コイツにちょっかい出したら今度こそ殺すからな!!」


「あー嫌だ嫌だ。命大事に……ね。」


ダニーの声が段々と遠のいて、ついには聞こえなくなる。

頭を苛立ちげに掻き毟るアルの袖を引っ張りこちらに顔を向けさせる。


「なんだ?」


「アル、ありがとう。」


「……おー。」


「あと手紙もありがとう。」


「………あ"。い、いや、あ、あ、あれは…」


焦ったように急にダラダラと汗をかきはじめたアルに首を傾げながらも、私は言葉を続ける。


「すっごく嬉しかった。」


「…………。」


「それで……グスッ、まだ届いてないと思うけど…私も書いた内容……実行してもいいかな……。」


「……は、え?ちょ、ちょっと待て。い、今読む……。」


「もう届いてるんだ……ん?今読むの?」


なにが起こっているのか分からないと言った表情で動揺しまくりのアルは、ポケットから何かを取り出し広げる。


本人を目の前にして読むのは手紙の意味ないと思うんだけど…。


それでも顔を拭って鼻をすすりながらアルが読み終わるのを待つ。


長い文章を書いた覚えはないのに、アルは数分間フリーズしていた。

外からは足音と人の話し声が聞こえてきて、おそらく騎士団の皆様方が到着しているのだろう。

私の涙も落ち着いてきて、眠気が優ってきている。

あー無理ならいいや、もう早く帰りたい。


「あの……アル、そろそろ」


そう思った私はアルに声をかけると、催促されたと思ったのかびくりと身体をビクつかせる。

そして無言で綺麗に手紙をたたんでポケットに入れ、突然自身の両頬を凄まじい勢いで叩いた。


「え!?だ、大丈夫!?というか顔赤っ!叩きすぎじゃない!?」


「うるせぇ!!」


イチゴも顔負けぐらいに赤くなってしまった彼は、勢いよく両手を広げながら顔を背ける。

意味が分からずその場でアルを観察していると、痺れを切らしたアルが顔を背けたまま叫んだ。


「っ!!て、手紙の内容!やりてぇんだろ!?」


「え!?本当に!?いいの!?あとで怒らない!?」


「早くしろクソが!!」


「やったー!!それじゃあ遠慮なく!」


全力でアルに飛びつくと今度はよろけることなく私を受け止める。

そして手紙で宣言した通り………アルの頭をワシワシと撫でまくった。

やはり想像した通り、アルの髪はサラサラで心地よい。


「ううう!この感じ堪らん!生きててよかった!!」


「そーかよ!!」


幸せに浸っていると突然アルが軽く抱きしめてきて、小さく呟いた。


「…………まぁ、その、無事でよかった。」


「っ!!イケメンかよチクショー!」


「ぐっ!!首を絞めんなって何回言えば!!」











ギュウギュウと抱きしめる私と甘んじて受け入れるアルの様子を見る妖精たちはニヤニヤと笑う。


『ネー、レイちゃんなんて手紙に書いてたノ?』


『知らナーイ!あとで教えてもらおうヨ!』


『ネー!こっちのおじさんももう大丈夫ダヨ!完璧カンペキ!!』


自分たちの通り道を命懸けで作ってくれた先生(おじさん)の無事を確認した妖精たちは、羽をパタパタ広げ飛び立つ。


『そろそろ騎士団の人たちを中に入れようカ!』


『ソウダネ!じゃあ、ご褒美タイムオシマイ!』


果たしてどちらのご褒美タイムだったのか。


ずっと外で待機させられていた騎士団の人たちが突撃し、焦って少女を突き飛ばす少年の様子を見て笑いながら。

妖精たちは外へ飛び出した。

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