転生者は、全力投球する
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数回瞬きをして目をこする。
ゆっくりとお腹に回された手を叩いて身体を離すよう伝え、アルに非常によく似た男の子と対面するように座る。
そして控えめに右手を上げて質問した。
「つかぬ事をお伺いしますが…アルですか?」
「おー。」
「あの赤髪が印象的のアルくん?」
「そうだって言ってんだろうが。」
「…………本当に?」
「しつけーよ!!なに疑ってんだクソが!燃やすぞ!!」
「うわぁああ!本物のアルだぁああ!」
「今どの要素でオレだと判断しやがったか言ってみろクソモブが!!」
「私の癒しが今ここに!!」
「うおっ!!」
感極まってアルに飛びかかり強烈なハグをかます。
勢いに負けたアルは全身を床に打ち付けてしまったようで小さく唸っている。
「あ、ごめん。」
「闘牛かテメェは…。」
「だって会えて嬉しかったから…ごめんね。頭大丈夫?」
「ぐっ…!そ、そうかよ!!しょうがねぇ奴だなクソが!」
「え!?顔赤っ!もしかして出血してない!?大丈夫!?………というかおでこの絆創膏どうしたの!?」
「うるせぇほっとけ!!」
顔を真っ赤にして胸を押さえしまったアルに勢いよく倒し過ぎたかと焦っていると、後ろから凍りついたような声が聞こえてきた。
「やれやれ、まさか赤髪のご登場とは。しかもあろことか妖精のゲートを使って。ガンマが聞いたら失神するよ。キミは本当にボクを飽きさせないね。」
やばい忘れてた。
一瞬で身体が硬くなるとアルも私の異変に気がついたのか、すぐに起き上がって私を背中に隠す。
「知るか。一番近いのが妖精のゲートだったんだよ。そもそも誰だお前。」
「うっそぉ、ボクのことをロクに知らないのに腕を切り落としたの?酷いなぁ。ボク、身体は生身の人間と一緒なんだよ?痛くて涙が出そうだよ。」
腕を切り落とした!?
思わずアルの背中から身を乗り出して確認しようとするが、見越したように強制的に座らせられるせいでダニーの姿を見ることが出来ない。
「テメェがコイツの首根っこ掴んでるのが悪りぃ。汚ねぇ手で触っただけで理由は充分だろ。」
「わーお!容赦ないね!でもその考え方は好感が持てるよ。躊躇いなく他人を切り伏せられるのはいいことだ。」
「うるせぇぞ。喋る暇があんなら消えろ。」
「そういう問題じゃないと思うんですか!?腕大丈夫なの!?ダニーは変な人だから喧嘩売ったら大変だって!」
「………ダニーだぁ?」
私の言葉を聞いてひどいなぁとケラケラ笑うダニーをますます鋭く睨みつけるアル。
彼の後ろにいても分かるほど、アルから殺気をビシバシと感じる。
「白玉が言ってたのはお前か。」
「あれ?ボクのことを知ってる奴もいるんだ。そうだよ、ボクが魔王軍幹部ダニエル。よろしくね赤髪くん。あ、ちなみに腕は治せるから心配しないでね。」
「誰がテメェみてぇなイカレ野郎とよろしくするか。………爆ぜろ。」
その言葉とともに強烈な爆発音が鳴り響く。
思わず耳を塞いで身体を縮めると耳元でアルが囁く。
「いけ好かねぇ仕掛けは全部壊してやるから、今のうちに外に出ろ。」
「え?」
「先に行ってろ。分かったな。」
それなんか死亡フラグっぽくて嫌だ!
私の叫びを気にせずアルはダニーに向かって手をかざし、何度も爆発を起こさせている。
再度叫ぼうと息を吸い込んだその時、身体が勝手に立ち上がり背中が力強く押されて強制的に歩かされた。
『レイちゃん今のうちダヨ!』
「でもアルが!」
『はやくハヤク!』
アルが魔法を炸裂させているせいで建物の限界も近いのか、グラグラと振動する地面をよろめきながら歩いていく。
しばらく行くと出口と思われる穴がぽっかりと空いているのが目に入った。
『ヨシ!あそこダネ!』
『アルの魔力も限界に近いカラ早くしないト!』
「は!?待って!どういうこと!?」
聞き捨てならない言葉に、両足に力を入れて踏ん張りながら再度聞き返す。
すると先に進もうとしない私に痺れを切らしたのか、妖精たちは何とも正直に答えてくれた。
『アルは妖精ゲートを使った長旅のせいデ、魔力がほとんどなくなっちゃったノ!』
『相手はダニーだし、レイちゃんを逃すくらいの時間稼ぎしか出来ナイ!だからハヤク!』
「っそんなの聞いて行けるか!!」
『『ワァ!!』』
瞬時に屈み込み、妖精たちの声が私を通り過ぎるのを聞き届けすぐに踵を返す。
『ダメだよレイちゃん外に出なキャ!』
『アルの時間稼ぎが無駄になっちゃうヨ!』
そんなの知らん。
私はそんなこと頼んでない。
さっきの鬼ごっこで体力は限界を迎えていたはずなのに、比べものにはならないスピードで駆け抜ける。
息絶え絶えに先ほどまでいた部屋に辿り着くと、アルが片膝をついて荒い呼吸を繰り返している姿が目に映った。
そしてその前に立つ、左腕を無くしたダニーの姿も。
「……うん、強いねキミ。その歳で大したものだよ。」
「はぁ……はぁ……やっぱりイカレ野郎だなお前…」
「まぁ、こう見えて魔王軍幹部だからね。でも感激しちゃったよ。妖精のゲートを通ってここまで来て、油断していたとはいえボクの左腕まで切り落とす。しかもその残りの魔力量で圧倒的力の差を感じているはずなのに、ボクの足止めを買って出るなんて勇ましいね。まるであの忌々しい勇者みたいじゃないか。褒めてあげる。」
台詞の内容とは裏腹に無表情でアルに手をかざしたダニーは、とてつもなく低い声で呟いた。
「……だから尚更、キミはここで仕留めておいた方が良さそうだ。不安物質は徹底的に取り除く主義なんだよね。ああ、安心して………一瞬で終わらせてあげるからさ!!」
ダニーの手に力が込められる様子がスローモーションで流れて行く。
そしてダニーの髪の毛が逆立つように靡くと同時に激しい頭痛に襲われる。
脳裏に浮かんでくるのは真っ黒の画面に一際目立つ、
『Game Over』の文字だ。
「させるかぁあああ!!」
ポシェットから無意識になにかを取り出してダニーに向かって放り投げる。
大丈夫、あのモーションの時は1ターンは私たちが動けるのだ。
こんなヘナヘナな球でも、一撃必殺技を繰り出そうとしている今のダニーには避けられない。
それは経験で、知っていた。
私が何かを投げたことに気がついたダニーは、顔をこちらに向けるがもう遅い。
予想通り私が投げたなにかはダニーに直撃して激しく割れる。
中から飛び出したのは青色に輝くキラキラとした液体。
ダニーがモロに浴びたことを確認して、頭の中で譲渡先をアルに変更する。
「力を貸してくれぇええ!」
頼むぜ、私の推し。
かつて記憶の中の私が叫んでいた同じ台詞を叫ぶと、液体はダニーの魔力に反応するように激しい閃光を放って大爆発を引き起こした。