転生者は、対峙する
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外はすでに真っ暗。
廃墟の中を照らすのは月明かりのみ。
ゆっくりと歩く男の子の後をビビりながらついて行くと、ある大きな部屋の前にたどり着いた。
大きな音でノックすると、錆びた音を立てながら扉がひとりでに開く。
ああ、なんでだ。ここも知ってる。
目に入ってきたのはボロボロのソファ。
そしてその上に体育座りしてこちらを見る、少年の姿。
楽しそうに口元を袖で隠して立ち上がる少年は、今朝病院で見た時よりも異様なオーラを放っていた。
「わお、時間ピッタリだね。ようこそ、旧ギルド本拠地へ。」
外から日にちが変わったことを告げるベルの音が聞こえる。
アルと一緒に聞いたときとは違って、なんと不気味に響くことか。
私を逃さないようにするように、大きな音を立てて扉は閉められた。
「はーいご苦労様、ビリー。」
ビリーと声をかけられたのはこの幼い男の子。
ビリーという名前だったのか。
頭を乱暴に撫でられて首がガックンガックンなっているが、心配している余裕はない。
「お父さんとお母さんは?」
「ん?ご両親は隣の部屋だよ。見に行く?」
行くに決まっている。
怠そうに立ち上がって歩く猫背を追いかけると、埃被った部屋の真ん中で横になっている両親の姿が目に入った。
「お父さん!!お母さん!!」
足早に駆け寄り、帽子を脱ぎ捨て服が汚れるのも構わず膝をつく。
よかった。2人とも気持ちよさそうに眠っているようだ。
安堵から思わず泣きそうになるのを堪えていると、後ろからダニーが声をかけてくる。
「はいはい、感動の再会だね。ちゃんと1人で来たからボクも約束は守るよ。さ、ビリー、コレを宿まで運んであげて。」
「へ!?ちょ、ちょっと!?」
「だってもう必要ないし。殺さないようにしておくの結構大変なんだよねー。気疲れするっていうか……」
「そんな気疲れ聞いたことないですが!?」
ダニーは私の服を掴んで上に持ち上げて、両親から引き剥がされる。
ダニーの言葉に頷いたビリーはおもむろに指笛を吹く。
するとなんと、両親の身体が浮かび上がったではないか。
「浮いた!?」
「何言ってんの?あ、そっか。キミ魔物が見えないんだっけ。」
納得したように言葉を発したダニーは、両親が浮いているところに向かって私を放り投げた。
「そーれ。」
「ぶっ!!」
なにかもじゃもじゃしたような毛が顔面に張り付く。
これ………なんかいる。
「今キミがぶつかったところ、魔物のお尻だから。」
………もう少し優しくしてくれてもいいんじゃないかな。
自慢気な声を聞きながら、漫画の一場面のようにズルズルと下に落ちていく。
そして私が伸びている間にビリーと両親は姿を消してしまった。
再度母猫が子猫を口にくわえるように持ち上げられた私の顔を覗き込む少年は、どこか浮かれているように笑みを見せる。
その笑顔を見て、ヒヤリと嫌な汗が背中を流れた。
「帰っていいですか。」
「バカなの?これからが本題でしょ。」
ですよね。
先ほどのソファの部屋まで戻ってくると彼はまた地面に私を落とし、自分はフカフカ(といってもボロボロ)のソファへと座る。
服についた埃を払いながら立ち上がりながら、もう一度目の前の少年を見つめる。
魔王軍幹部、ダニー。
確かに貫禄は充分。なにを考えてるかも分からない、つかみどころのない雰囲気もどこか人間離れしていておっかない。
「私の両親、あんなにすぐ解放しちゃってよかったの?」
「1人で来たのが分かった時点でもう用済み。万に一つボクがキミにやられる可能性なんてないからね。」
「じゃあなんで…」
「んー…保険かな。あのお爺さんが出しゃばるような真似をしないようにね。ボクは自分の勝ちが確定している勝負しかしない主義だから。」
「そうですか……。」
目線を下に向け、憂いた雰囲気を醸し出す。
だが私の脳内は絶賛大変なことになっていた。
(………お爺さんなんていたっけ?)
必死に記憶を思い起こすが、一向にお爺さんなんていた印象はない。
いや待てよ?車椅子にのったおじさんとはすれ違ったか?
でもそんなおじさんがついて来てくれても、正直言って全然嬉しくないんだけど。
「いやバレバレだから。どうせキミみたいな雑魚には見えてなかったんだろうから諦めなよ。」
「み、見えてないって!?」
「あーもううるさいな。その話はもういい。いい加減本題に入るよ。」
自身の頭を乱暴に掻いたダニーは、私の目の前で足を組んで鋭く睨みつけた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
床に正座させられた私と、ソファから見下ろすダニー。
唐突に人差し指を立てた少年は、質問を開始する。
「ズバリ、収集の魔女とはどうやって出会ったの?」
「…知り合いに紹介してもらったの。」
「ふーんなるほど?じゃあキミは聖剣使いとも交流があるってこと?」
「ファッ!?なんで分かったの!?」
「どっかの誰かさんと同じくらい分かりやすいねほんと!キミ前世は蛇だったんじゃないの?……まぁ、あーんな田舎村で収集の魔女と交流がある奴なんてほかにいないでしょ。」
はい墓穴掘った。
私が一つ質問に答えるだけで2倍暴かれるような感覚に恐怖心を覚える。
正直もう許してほしい。帰りたい。
でもまだまだ始まったばかりのため、私も負けじと相手の情報を握ろうと震える声で問いかける。
「ダニーはどうしてワンダさんのことを知ってるの?」
「んー?なんだったかな?かなり昔から存在は知っていたんだけどね、最近たまたま会う機会があってさ。」
「………ワンダさん、元気?」
「うん?ボクに楯突くぐらいには元気だったよ。」
その姿、いとも簡単に想像できる。
思わず引きつった表情を浮かべる私を挑発するように、ヨレヨレの袖口を向けて問いかける。
「そんなに心配?」
「だって一年以上会ってないし。」
「あらら可哀想。収集の魔女はボクが殺しちゃったから、もう一生会えないね。」
「……嘘でしょ。」
私の言葉にビックリしたような表情を浮かべたダニーは、身を乗り出して私に詰め寄る。
「なんで嘘って言い切れるのさ。」
「もし本当に殺してたらこんな風に言わないでしょう?私のメンタルを崩壊させるいい手段なんだから、ここぞという時に生首とか何かしらの証拠を持って突きつけるはず。今のは私の反応を見ようとした完全なる悪ふざけとみた。」
「へぇ?結構ボクのこと分かってるね。」
「そういう顔してるじゃん。」
「あーあ、せっかくのジョーダンなのに反応が鈍くて残念。」
ケタケタと楽しそうに笑う少年にバレないよう、静かに息を吐く。
どんなブラックジョークだよ。やめてくれ。
彼は飄々としていておちゃらけているように見えるが、絶対テスト勉強めっちゃしてるくせに勉強してないって嘘つくタイプだ。
とにかく、今の反応からしてワンダさんは無事だろう。
それが分かっただけでも大分心が落ち着いた。
「さて、和んだところでもう一つ質問。」
「和んでないっての。」
「なーんで、魔女を紹介してもらうことになったの?」
せっかく落ち着いたのにまたドクリと心臓が嫌な音を立てる。
気づけばダニーは私の真横にしゃがみこみ、私の頭をペチペチと叩いている。
「だってそうでしょ?キミ…一応か弱い幼子に分類されるわけでさ。正義の味方である聖剣使いが大犯罪者を紹介するなんて普通考えられないんだよね。」
「激しく同意。」
「え?」
「……いやその…ゴルゴンの肝がどうしてもすぐに必要だったから…かな?」
「へぇ…ゴルゴンの肝。それはそれはまた不思議なものをお求めだったんだね。」
静かに興奮したように私に詰め寄る。
これはなにか…非常によろしくない。
アルに言われなくても、この人にポーションのことを伝えたら私の人生が終わる気がする。
「じゃあゴルゴンの肝は、なんのために必要だったの?」
頭をフル回転させて話題を変えられないか考えるが、私の残念な脳細胞ではなにも浮かんでこない。
「キミは………
どうやって呪いを解いたの?」
ああ、もう、勘弁してくれ。