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転生者は、一歩近づく

誰もが優雅に過ごす昼下がり。

のどかな雰囲気の中に1人、大量に冷や汗をかく少女。

彼女にとって、絶対に負けられない戦いがここにある。平穏な生活を送るためには、家族以外に妖精が見えないということを知られるわけにはいかない。もしこれで劣等生いじめのようなものがあれば……人生詰む。


(この村での生活に影響を及ぼす前に、なんとか誤魔化さなければ。)


「いやいや見えてるって。もうでっかい魔法陣みたいなの見えてる。ナニコレコワイナー。アブナイナー。」


(…うわぁ…明らかに疑ってるよ。)


極限に目を細め、私を見つめる少年。

心臓に悪いので出来る限り自然に目をそらす。冷や汗がタラタラと漫画みたいに流れてくるが、気にしない。


「へぇ?じゃあさっさとオレに魔法かけてやがる妖精を捕まえろよ。このままじゃ動けねぇ。」


「ああうん。妖精…ね…待ってね。」


とりあえず少年の目の前で手を動かす。

…………………居ない。


念のため少年の後ろに回りひたすら手を動かす。

…………………居ない。

というか声も聞こえない。


「………協力しろよ妖精!!」


「やっぱり見えてねぇじゃねぇか!!」



盛大にバレた。









◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「………で?なにしにここまで来やがった。冷やかしなら帰れ。」


拘束魔法が解けたようで肩をグルグルと回しながら、私を睨みつける。


「君の家を目指して来たわけじゃないんだけど、落し物を探しに…」


私の言葉を聞いた少年はさらに目が鋭くなる。こわっ、なんでそんな怒るの……って、


(あれ、ここ来たの初めてなのにポーションがここにあるわけないよね?)


あぁ……。もうだめだ。

冷やかしと言われてもおかしくない。

もはや言葉を紡ぐ力もなく軽く項垂れる。なぜ先ほど思い至らなかったのだ自分。そのせいで寿命プラス捜索時間が減らされた…。もう家に帰らなきゃじゃんよ。

そんな様子の私を見て、敵意剥き出しで睨んでくる少年。なんとでも言いたまえ。どんな言葉でも甘んじて受け入れよう。そして早く終わらせる。そんな意気込みで少年を見つめ返すと、彼は舌打ちをしてポケットに手を突っ込み、その拳を私に突き出す。


「……気づいてたんならそう言えや。」


そう言って開いた手のひらには。


「……ああ!!ポーション!!」


変わらず汚いドブ水のような色合いをした、あのポーションの瓶があった。思わず彼の手からポーションをひったくる。


「こいつを取り返しに来たんだろ?相当な魔力が込められてるからさぞかしお高いポーション」


抑えられない激情のまま、私は少年の手を握り詰め寄る。驚きで言葉を切った少年に構わず、一方的な熱い握手を交わす。


「……君は命の恩人だわ。」


「……は?」


キョトンとした顔には初めて眉間にシワがなかった。それくらい意味がわからなかったのだろう。少しでも感謝の気持ちが伝わればと一定のリズムで握手を続ける。


「いやぁ、聞いてよ。内臓えぐられるぐらいのハンデを負わされながらも石病に効くポーション作ったはいいけどさ、これを無くしたんですよ。それで全く見当たらなくて!」


「いやそれは……って話聞け!!手離せ!!」


私が言葉を続けたことで自分の状況を理解したのか、途端に頬が赤くなる少年。え、あの私は君を怒らせたいわけではないんですが。ならばと握手をやめ、両手で彼の手を包み込む。感謝の気持ちを表すにはやはり両手で敬意を示さなくては。


「な、なん…!」


「それにさ、悪の組織みたいな悪い奴にこれが渡ってたらと思うと胃が痛くて。もう昨日の夜なんて何回トイレに行ったことか。」


「ババアかお前は!!…ッチ。どうでもいいからこの手を!!」


「だから君みたいに良い人に見つけてもらえて本当に良かったよ。」


ピタッ。

全ての動きを止め、本当に意味がわからないという風に私を見つめる。

不安そうに揺れる金色の瞳を見て、まだ幼い子なんだなと改めて感じる。

さっきまでの突き刺すような視線はどこにもない。


(ああ、野良猫みたいな人だな)


あるのは戸惑い。ならば刺激しないようにゆっくり近づいてあげればいいだけだ。


「お前、何言ってんだ…良い人なわけねぇだろ。オレが。……あの瓶だってお前が落として…それを返さないでずっと持ってたんだぞ。」


「へぇそうなんだ。………私どこで落としてた?」


「…………お前が……ぶちまけた時。」


「うわぁ………ってあの状況で拾ってくれてたんだ。君結構悲惨だったけど。」


「うるせぇよ…っつうかお前のせいじゃねぇか」


「へへ、そうそう私が悪いね。ごめんね。」


「……笑ってんなよ。オレのこと怖いくせに。」


出会って初めて彼は私から視線を逸らした。あまり言いたくない話題なのだろう。


(しかもバレてたか。)


確かに突き刺さるような視線は恐怖でしかなかったが、もう今は大きい猫にしか見えない。人馴れしていないから警戒心の塊。だから言葉遣いも荒くなるのだろう。


(人生2回目な私がリードしてあげなきゃ。この子は本当にまだ幼い男の子なんだから。)


それに今の時点でかなりの顔面偏差値。

つまりは将来かなり有望なイケメン。

……イケメンがお隣さんなんて、そうそうあるもんじゃない。ラッキーじゃないか。

今のうちにお姉さんポジションを確保しておこう。そして、正直に、向かい合って。

ゆっくりゆっくり彼に人馴れをしてもらおう。


「うん、その目つきはどうにかしたほうがいいよ。刺されるかと思った。他の子がその視線に当てられたら号泣だね。」


「……は?目つき?赤髪(これ)じゃねぇのか?」


「え……逆になんで赤髪?」


「……お前知らねぇのか?赤髪(これ)の意味。体内の魔力が強すぎて魔物に狙われやすい。だから…」


「あー…なんか聞いたことあるかも。」


「茶化すなよ。オレといたらお前なんてすぐ死ぬぞ。」


「いや私どこに住んでてもすぐ死にそうなんだけど……。うーん……じゃあ近くで死にそうになってたらまたおんぶして安全なとこまで運んでよ。君足早いじゃん。私も楽だし。」


「…………」


「そのかわりお隣さんになったよしみで、お友達作りの練習台になってあげるよ。お姉さんに任せなさい。」


「はっ……オレ以外知り合いなんて居ないくせに。」


呆れたように笑った顔は年相応の表情で、


「お互い様でしょう。」


その表情に人生2回目の転生者はドヤ顔で答えた。


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