転生者は、直感に従う
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ランちゃんと手を繋いでただひたすら目的地を目指している。
レンガに囲まれたこの道は旧ギルド本拠地に続く唯一の道だそうだが、なんだか異世界へと続く迷路のようで不安になる。
(あ、そもそもここが異世界だったわ。)
キョロキョロと辺りを忙しくなく見回す私の頭を鷲掴みにしたランちゃんは、とてつもなく怖い顔で睨みつける。
「大人しくしなさい。埋めるわよ。」
「すみませんでした。」
条件反射で背筋を伸ばして謝罪すると、ランちゃんは深く深くため息を吐いた。
「何度来てもここは嫌な場所ね。空気が淀んでいて最悪だわ。」
「ずっとこんな感じなの?」
「そうね、このジメジメとした感じ……でも。」
立ち止まったランちゃんはゆっくりと辺りを見ると、微かな違和感を口にした。
「いつもより……静かね。」
静か、とは?
私の疑問を察したのか、眉をこれでもかと寄せた彼は言葉を続けた。
「普段なら盗賊やらなんやらが蔓延ってるのに、人っ子一人いやしない。」
「治安悪っ。」
「だからそう言ってるでしょ?正直、ここまで戦闘せずに来れているのは奇跡に近いわ。一体どういうことなのかしら。」
首を傾げながらも歩き始めたランちゃんに手を引かれ、私も後を続く。
「まぁ深く考えてもしょうがないわ。不幸中の幸いと考えておきましょう。」
ランちゃんの言葉に同意して頷くと同時に、ある光景が脳裏に浮かぶ。
真っ白な服を着た1人の幼い男の子が、ぼんやりと口を開けて水たまりを歩いている。
水たまりで跳ねるたびに男の子の真っ白な服は赤く染まっていく。
その姿は狂気じみていて…なんとも近寄りがたい。
近くある錆びれたブランコがひとりでに動き、耳障りな音を立ててゆっくりと揺れている様子を見て思い出した。
ここは私が一番嫌いなステージだ。
男の子は生気が全く感じられない瞳で、じっと私を見つめてくる。
そして微妙に頭を右に傾けながら、この台詞を小さく呟くのである。
「キライ。」
思わずランちゃんの手を強く引っ張ると驚いたようにこちらを凝視する。
「っなに!?」
「え、あ、いや…なんか……」
「なんなのその顔……まさかトイレ?」
「違う。」
咄嗟に否定したものの、この感覚をランちゃんに説明できるほどの語彙力は持ちあわせていない。
「なんか…ホラー映画見たような…」
「?なんなのそれ?」
「あーうん。なんでもない。先を急ごう。」
ホラー映画が通じないなら、もうなんて言えばいいか分からない。
とりあえず注意しておけばそれでいい。
ランちゃんを急かしながら人知れず警戒心を強めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あら?」
しばらくそのまま突き進むと、突然足を止めるランちゃん。
「どうしたの?」
「……あんなものあったかしら?」
彼が不思議そうに見たその先に視線を向け、即座に目をそらす。
(なんであるんですかねー錆びれたブランコ。)
蘇った記憶で見た瓜二つのブランコが、やけに広い広場にポツンと存在している。
思わずあの男の子がいないか辺りを見回すが、特に人がいる気配も感じない。
「なんだか気味が悪いわね。」
はやく先に行こう。
そう声をかけようとしたその時、金属が錆びたようなブランコを漕ぐ音が響き渡る。
そして耳元から幼い声が聞こえた。
「アソボ。」
「ジャパニーズホラーやめろぉおお!!」
思わずランちゃんを突き飛ばし、私から距離をとらせる。
たかが5歳児の全力では大人をよろめかせるぐらいだが、それでも充分だろう。
突然の私の行動に驚いたのか、すぐにこちらを見たランちゃんの表情が固まった。
そしてゆっくりと私の右肩のあたりを指差す。
もういい、なにも言うな。
ハンパねぇぐらい右肩が重いのは分かってるんだ。
戸惑うようにこちらを見るランちゃんの前に片手を突き出して、動かないように指示を出す。
そして私は声がした方向へゆっくりと振り返ると。
「アソボ。」
私の肩に手を置き、虚ろな目でじっと見つめてくる男の子がいた。
こちらもあの記憶と瓜二つである。
真っ白な服に、黒い髪、少しこけた頬。
少しだけ違うのは…あの記憶ほど目が死んでいないという点ぐらいか。
私にピタッとくっついてまばたきもせずにじっと見つめてくる子にどう対応すれば良いのか分からず、とにかくフリーズする。
「アソボ。」
男の子が私の肩を少し強めに掴んだ時、突然ピィーっと甲高い笛の音が響き渡る。
思わず私もランちゃんも耳を塞ぐと、男の子は初めてその顔を歪めた。
「レイ!危ない!!」
強くランちゃんに引き寄せられ抱きしめられると、後方から何かの金属がぶつかる音がする。
そして同時に聞こえる、まだ幼さが残る女の子の声。
「覚悟!」
一体誰だろう。
ランちゃんの拘束を緩め後ろを振り向くと、ピンク色の髪の小学生くらいの女の子が自分と同じ大きさの刀を振り回している。
男の子は無表情で全て避け続け、じっと彼女を見つめていた。
「はぁ………はぁ……なんで!!どうして!!どうして!!」
息切れで女の子が猛攻を止めると、男の子は頭を少し右へ傾けてゆっくりと近づいて行く。
その動きはやはり記憶でみた一連の動きと全く一緒だ。
男の子は怯えている女の子の目の前に立つと、手を高らかに振り上げる。
おそらく小さく口を開けて、あの言葉を呟くのだろう。
あ、やばい。あの女の子、死ぬ。
その後の展開が予想できてしまった私は、彼が声を発するタイミングで、直感的に大きな声で叫んだ。
「ブランコ!!」
男の子を含め、その場にいた全員の動きが止まる。
時間が止まるとはこういうことを言うのかもしれない。
私も当の本人でなければ固まっていただろう。
実際、なんでこんなことを言ってるのか理解していないからだ。
それでも男の子は女の子から私へと視線を移した。
「ブランコ押してあげる!!どう!?」
呆けてしまったランちゃんから離れ、不気味なブランコを指差して誘う。
すると男の子は小さく頷き、私の方へ歩み寄って呟いた。
「アソボ。」