少年は、迎えに行く
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時すでに遅し。
膝から崩れ落ちるように倒れ込み、両手を地面につける。
全力で走ったことで額から流れ落ちる汗、そして体にまとわりついてくる妖精など何もかも鬱陶しい。
「……お、おお…大丈夫かい?」
「いっそどこかに埋めてくれ…」
目の前でオレ宛の手紙を差し出しながら困惑するジジイ。
意味わかんねぇって顔だな。
オレもどうしてこうなったのかわかんねぇよ。
どこぞの蛇の行動のせいで一気にピンチに追い込まれたオレは、あのジジイがまだ手紙を渡しに行っていないという百万分の一の確率にかけて全力で走った。
たどり着いたと同時に洋館の門から出てきたジジイにもしやとは思ったが。
「おお、アルフレッドくん。ちょうど君に渡しに行こうとしていたんじゃよ。ほれ、お待ちかねの手紙だ。」
にこやかな笑顔で死刑宣告である。
なんだよクソが。
帰ってくんの早すぎだろうが。
不可抗力とはいえモブに届いてしまったあの手紙の返事となると、なかなか受け取ることが出来ない。
あんな女々しさ抜群の手紙なんて渡されたらドン引きするに決まってる。
オレなら間違いなく燃やす。
「うーむ…この数時間で君になにが起こったのかさっぱりじゃ。じゃが…」
なかなか受け取ろうとしないオレを見て言葉を区切ったジジイは、しかめっ面をしているオレに向かって言葉を続ける。
「君が彼女のことを想って書いたのと同じように、彼女も君のことを想って書いたんじゃ。あの子の想いを受け取ってあげなさい。」
「うるせぇ…分かってんだよ。」
汚れた両手を払って土を落とし、無言でジジイから手紙を受け取る。
その様子に満足げに頷き、長いひげを梳かしながらオレを見る。
「せっかくだから読んでみたらどうだい?」
その言葉に導かれるように手紙へと視線を落とす。
こういうのはあれだ、思いきって見て楽になるのが一番いい。
そんな思いとは裏腹にビビりながら封を切り始めたそのとき、何かが巻きついて身体が高く高く上へと持ち上げられる。
「うお!?」
「旦那!!!やっと見つけたっス!!」
後ろを振り返ると白い大蛇がオレをじっと見つめていた。なんだお前か。
手元に持っていた手紙の無事を確認したあと、キツく相手を睨みつける。
「テメェ……いきなり持ち上げんじゃねぇよ!気合入れて読もうとしてるのに邪魔すんじゃねぇ!」
「手紙を読むだけなのに気合入れてたんスカ?エー…どんだけ緊張してるんスカ?」
「あ"!?誰のせいだと思ってんだ誰の!!…つうかなんで大蛇の姿に戻ってんだクソが!他の奴に見られたらどうすんだ!人型に戻れ!そして降ろせ!」
「アダッ!蹴らないで欲しいっス!ごめんなさいっス!」
悲鳴をあげるわりにはオレを降ろそうとはしない。
しびれを切らして足蹴りまで繰り出して離れようとするが一向に拘束が緩まる様子はない。
「ああうぜぇ!いい加減にしろ!この尻尾切り落とすぞ!」
「旦那!落ち着いて話を聞いて欲しいっス!」
「あ"!?オレはいつでも落ち着いてるわ!!さっさと言え!」
「ネェさんの話っス!」
「………モブの?」
随分と情けない声を出している自覚はあったが、だらしなく口を開けたままシラタマを凝視する。
なぜ今このタイミングでモブの名前が出てくるのか。
とりあえず先を促すため暴れるのをやめると、蛇は赤みがかった瞳をふるふると震わせて言葉を続ける。
「あの兄さんがネェさんの安全保障のタメ、人を雇っていたみたいっス。定期的に報告をしていたらしいんすケド」
「なんだそれ。オレは聞いてねぇぞ。」
「と、とりあえず最後まで聞いて欲しいっス。それで今日の報告でダニーっていう男を知らないかって。」
(ダニー?誰だソイツ。)
思わず眉間に皺が寄り、自然と目つきが鋭くなる。
そんなオレの様子に気づいているのかいないのか、口を大きく開けてはっきりと告げた。
「相手は魔王軍幹部、ダニエル。旦那たちからすれバ……人類を裏切って魔物側についたイカレ魔術野郎っスヨ!」
「魔王軍……幹部……」
オレの言葉に大きく頷きながらさらに続けた。
「ダニーは裏で暗躍する陰険な奴っス!人間でアイツの名前を知ってるのはまず考えにくいっス。しかもあの兄さんにメッセージを残すくらいっすカラ………もしかしたらネェさんが狙われ」
「もういい分かった。降ろせ。」
思っていた以上に低い声が出る。
戸惑った様子を見せたクソ蛇だったが、オレの言葉に従ってゆっくりと下へ降ろす。
妖精の方へ視線を向けると期待したように羽を震わせてこちらを見ている。
今更ながら妖精たちがオレを執拗に追いかけていた理由がわかった。
握った拳が小刻みに震えるが、恐ろしいほど頭が冴えている。
「ダ、旦那?」
黙っているオレを心配するようにすり寄ってくる蛇に向けて笑みを浮かべる。
「ヒィッ!」
「なに悲鳴をあげてんだ。失礼じゃねぇか。」
「だって旦那……めっちゃ怒っテ……。」
プルプルと怯えたように震えるクソ蛇にもう一度笑いかけ、近くに生えていた木を爆発させる。
「別に……怒っちゃいねぇよ?」
「今までで最もバレバレの嘘っス!」
「オレに喧嘩売るなんていい度胸じゃねぇかって思っただけだ。上等だゴラァ、コテンパンにしてやる。」
「あ、相手は魔王軍幹部っスヨ!?いくら旦那でも無茶っス!」
「おいジジイ。テメェどうやってこの短時間で帰ってきやがった。」
焦ったようにオレをなだめてくる蛇を無視して、さっきから黙ってこちらのやりとりを見つめていたジジイに声をかける。
「いくらキミでも非常に危険じゃよ。」
「うるせぇ。いいから言え。」
「旦那!落ち着くっス!オレや先輩とは格が違うっス!!だったらあの兄さんにも声をかけてグェッ!」
オレの顔を覗き込んできた蛇の舌を掴み強く引っ張り言葉を区切らせる。
「アイツはエセ聖女を護る騎士だ。護衛対象を置いて王都に行くわけねぇだろ。……それに、幼馴染を護るのはオレの仕事だ。」
「旦那……。」
オレの言葉に勢いを失くした蛇を一瞥して再度ジジイに視線を向けると、嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべている。
「その覚悟があるなら心配ないのぉ。」
「うるせぇ早く言え。」
「…妖精の導きに従えば良い。」
そういうことか。
ならばここにはもう用はない。
手に持っていた手紙はズボンの後ろポケットに入れて歩き出す。
「ここで待ってろ。」
「エェエエエエ!?」
「お前は通れねぇよ。」
妖精たちが大きく羽を羽ばたかせて円形状に飛び回ると、妖精の粉が金色に輝き空間にモヤがかかる。
穴のような暗闇が空間に出現すると、オレを引きずりこもうとするように強風が吹き荒れた。
「妖精のゲート!?」
「テメェの仕事は……そうだな。オレがいない間、ジジイに適当な言い訳をすることだ。頼んだぞ。」
オレの前を旋回しながらゲートに向かう妖精に続いて、足を踏み入れた。