少年は、胸騒ぎを覚える➁
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話しかけてくるクソ蛇にぶっきらぼうに言葉を返したながら歩き続ける。
ふとある異変を感じたのは、関所に着いてからだった。
「あ、旦那。妖精が服にくっついてるっすよ?」
「あ"?ッチ…またかよ。」
指を差された箇所に視線を向けると、オレの服を引っ張る妖精の姿。
先程からちょくちょくと邪魔してくるのが腹ただしい。
払い除ければ飛んでいなくなるが、その後すぐに舞い戻ってくる。
なぜかは知らないが、数が倍になって。
「だぁああああ!!しつけぇ!!なんだよこれ!!鬱陶しい!」
「……なんか痒そうっすね。きも…。」
オレに集る妖精を見て心底嫌そうに顔を歪めるクソ蛇。
なんだその顔、殴るぞ。
「おい!!この間の液つけろ!」
「お、溶解液っすね?了解っす!」
大きく息を吸って吐き出すと、その勢いで奴の口から霧吹き状に冷たい水滴が噴射される。
なんとも言えない気分になるが、これをつければ妖精が集まってくることはなくなるのだから我慢するしかない。
想像通り、妖精達はパタパタと遠くに飛び立った。
「ふふん!効果は絶大っすね!」
「ったくなんなんだよ今日は…」
もう絶対早く帰って寝る。
顔に残った水滴を滴らせながら歩くスピードを速め、クラウスの部屋を目指す。
ようやく到着といったタイミングで顔面に何かが凄まじいスピードでぶつかってきた。
「い"っ!」
思わず声が漏れてしまうほどの激痛。
というより顎が外れるかと思うほどの衝撃が襲ってきた。
頬を抑え飛んできた方向へ視線を向けると、頬を膨らませた妖精の大群がオレを睨みつけている。
奴らの両手には水晶のように光る透明の玉が握られており、オレに向けて発射していたようだ。
知っている、あの玉は魔力の塊だ。
しかもこの間お香を焚きに行った時に構えていたものとは比べ物にならないくらい、魔力純度の高いもの。
つまりあのモブが喰らってたものより………おそらく数倍痛い。
「あ!!旦那に向かってなにするんすか!ネェさんがアンタらを気に入ってるからって調子に乗ってるんじゃないっすか!?1匹残らず食ってやるっす!!」
クソ蛇が顔だけ変化を解いて威嚇をするが、妖精達は逃げる様子もなくオレを見つめ続けている。
なにか伝えたいことでもあるのか?
あまりのその必死さに違和感を覚えると、騒動に気がついたクラウスが扉から顔を出した。
いつもはあまり表情を変えないこの男が、複雑そうに顔を歪めて言葉を絞り出す。
「……喧嘩か?」
「ちげーよ!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「今日は来るのが遅かったな。なにかあったのか?」
「今日の朝に旦那の手紙を渡しに行ったんすよ。だから来るのが遅くなったっす。」
「そうか。無事に書けてよかったなアルフレッド。」
「うるせぇ!!話しかけんな!」
未だに少し痛む頬に氷を当てながら、チラリと外を見る。
窓には妖精がたくさん張り付いていて全員オレを見ている。
軽く寒気がするからやめてほしいが、こんなにしつこいのは初めてのことだった。
そしてその様子を見ていると、なんだかとても胸騒ぎを覚えてならない。
「ま、見ての通りオレは今日も仲良く暮らしてるっすよ。平和主義っすからね。」
「そのようだな。」
呑気に会話していた2人だったが、なにかを思い出したクラウスはポケットから魔法石を取り出してシラタマへと投げつける。
「その中のメッセージを聞いてほしいんだが。」
「は?どうやるんすか?」
「……知らないのか?」
「ッチ…うるせぇな。おいモブ……あ…。」
横でガヤガヤと煩い2人と妖精の意図が分からずイラついたオレは、思わずモブの姿を探してしまった。
結構地味に落ち込むし心が痛い。
しかもあろうことか、こいつらの前で漏らしたのがまずかった。
さらに聞こえてないかもしれないという希望的観測は打ち砕かれる。
ああ、なんとも腹ただしい顔でこちらを見ている。
「そうっすよね、寂しいっすよね。気持ちは痛いほど分かるっす。泣かないでほしいっすよ旦那。はいハンカチどうぞっす。」
「いらねぇよクソが!!別に寂しくなんてねぇ!!」
「いやそれは無理があるぞ。思わず口から出てしまったという雰囲気が拭えない。それはつまり無意識で探してしまうほどモブロード嬢を求め」
「ほらテメェの好きな菓子だ!良かったじゃねぇか!たっぷり食え!!」
真顔でとんでもない爆弾を投下しようとした馬鹿の口の中に、机の上にあった菓子を無理やり詰め込む。
……そういえばこの菓子、アイツも好きだよな。
余計なことを思い出して心が抉られていると、今度は別の方から爆弾が投げ込まれたのである。
「旦那は思わず会いたいって手紙に書いちゃうぐらい、ネェさんに会いたいんすよねー。」
「………おい待て。どういうことだシラタマ。」
「……あ。」
顔を引きつらせながら後ずさりする蛇を追い詰める。
何かを隠しているシラタマを白状させようと指を鳴らしながら、同時にあの時の光景を思い浮かべた。
血迷って書いたアレはオレが丸めてゴミ箱に捨てた。大丈夫、この馬鹿が読んだはずは……はずは?
ピタリと動きを止めてバレないように深呼吸をする。
ドキドキと心臓が嫌な音を立てているが、落ち着けオレ。
あくまで冷静に物事を考えなければ。
順序をちゃんと思い出すんだ。
アレを書いて、手を伸ばして、それで……それで……捨てる前に血が出てぶっ倒れた。
つ、つまりは……そ…のまま……つ、机の上に………。
恥ずかしさと怒りと、よく分からない感情で顔が焼けるように熱くなった。
「読みやがったなぁああああああああああ!!!」
「ヒィイイイイイイイ!!」
「ああ!書類が!」
部屋の中で暴風が巻き起こり、多くの書類が宙を舞う。
命の危険を感じたのか小さな蛇の姿に戻り、逃げようとするクソ野郎を捕まえて頬を引きつらせながら笑みを浮かべる。
「いい度胸じゃねぇか?あ"?なに勝手に読んでんだよクソが。」
「い、いやソノ…旦那がどんな文を書いたのカ、気になってつい見ちゃったっス…。ごめんなさいっス。」
「へぇそうかよ?で?それでオレを脅そうとでも考えてたのか?どうせ隠し持ってんだろ?」
ピキピキとこめかみに血管を浮かべながら問い詰めると、小さな声で奴は見事にオレの心臓を握りつぶした。
「ソレガ…ぜひネェさんにも読んでもらいたいと思っテ…封筒に入れちゃったっス。」
「……………は?え?い、入れ?え?」
「入れちゃったっス……。」
呆然とするオレに無神経なあの野郎が真顔でトドメを刺した。
「それはそれは、熱烈なラブレターだな。」
「……っ!!待て待て待て待て!!!」
「グボラッ!」
捕まえていた蛇を床に投げ捨て、急いで部屋から飛び出す。
あわせて妖精もオレについて来るのが見えたが、正直それどころではない。
「行くなジジイィイイイイ!!!」
オレの悲鳴が、村中に木霊した。
「アタタ……痛いっス。」
「自業自得だろう。気持ちは分かるが、人の手紙を覗くのはいけないことだ。覚えておけ。」
「絶対ネェさん喜んでると思うっスけどネ…」
ユルユルと身体を動かしているとクラウスが先ほどの魔法石をシラタマの前に持って来る。
「これは、モブロード嬢の動向を見守ってくれている者からの通信なんだが…何か知っているか?」
面倒臭そうに目を細めた魔物は内容を聞いた瞬間、白い大蛇となって少年の後を追って部屋から飛び出した。
せっかく集めた書類がまた宙を舞うが、構わず再度メッセージを流す。
「ダニーという男についてなにか知ってることがあれば教えてちょうだい。」
ガタガタと震える聖剣を掴み、これから来る嵐の予感に気合を入れた。