少年は、胸騒ぎを覚える
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「旦那ぁ……待ってほしいっすよぉ…」
歩きながら少し後ろを見やると、ダラダラと歩く見慣れた姿があった。
軟体動物のようにクネクネと歩く様子がまるで蛇のようで気持ち悪い。
……ああコイツ蛇か。
とにかくオレ自身も今日は早く終わらせて帰りたかったため、立ち止まらずに声をかける。
「文句言う気力があんならさっさと歩け。」
「無理っす。もう今日は早起きして眠いんすよ…あの兄さんの所に行くのは明日でもいいんじゃないんすか?」
「あ"!?どうしてもってうるせぇから連れて行ってやったのに何言ってんだ!しかもテメェはさっき昼寝してただろうが!甘えたこと言ってんじゃねぇぞクソ蛇が!」
「昼寝って言ったって数時間すよ?無理っす眠いっす……。」
「その数時間のせいでこんな夕焼けの時間に、あのクソッタレの顔を拝みに行かなきゃならなくなったんだろうが!!」
「それはさっき謝ったじゃないっすか…。」
目をこすながら大欠伸する腑抜けた魔物の言葉に再度大きくため息を吐いた。
結局気を失ったあの後、半泣きのジジイに安静にしているよう促されてほぼ一日中横になっていた。
家事も掃除もなにも出来ないその時間はやることもないため、ただひたすらアイツへの手紙内容を考えるしかない。
しかし考えると脳みそが熱くなり、頭から血が出てくるためろくに進まず。
夜通し考えて今朝方、ようやく書き終えてエセ聖女のジジイに渡せたのである。
「ふぁぁ……1枚満たないくらいの手紙に徹夜してたくせに、旦那はなんでそんな元気なんすか。」
「うるせぇ!誰も元気なんて言ってねぇよ!オレだって眠いわクソが!!」
だから早く済ませて横になりたいのだ。
つられるように込み上げてきた欠伸を噛み殺しながら、朝の光景を思い返す。
「確かに、預かったよ。」
胡散臭い笑みを浮かべたジジイは、古びた上着の内ポケットにオレから預かった手紙を入れる。
「そこに入れたの忘れんなよジジイ。」
「はっはっは。流石にここに入れたら忘れんよ。」
「前科があんだよ!!」
「はて?そうじゃったかのぉ?まぁ大丈夫じゃよ。じゃあのエミリー、準備してくるよ。」
「はいはーい!いってらっしゃーい!」
よたよたと歩いて洋館に戻る後ろ姿を見つめていると、ふと横から視線を感じる。
目を向けるとニヤニヤと不気味な笑みを浮かべるクソアマの顔が目に入り、思わず眉をひそめた。
「なんだよ。」
「ふふ、ちゃーんと頑張って書いたんだね!えらいえらい!」
オレの頭を撫でようとしてくる手をはたき落として睨みつける。
すると何かを思い出したのか、一度わざとらしく手を叩くと言葉を続けた。
「あ、そうだ!エミリー知ってるよ?番犬くんさ、机に頭ぶつけて出血したんでしょう?もう治った?」
「……あ"?」
「血が出るほど頑張って書いた手紙、喜んでくれるといいね!」
「はぁ!?こ、この出血は事故だ事故!……おいちょっと待て。なんでテメェがそのこと知ってんだよ。」
「そこの色白くんがね?旦那が手紙書いてたら突然頭打ちつけて出血したから責任取れ!ってエミリーに文句言いにきたの!」
「へぇ?色白くんねぇ?」
その言葉に思わず近くの木に隠れていたシラタマの方に目線をやると、下手な口笛を吹きながらオレから視線を逸らした。
決めた。コイツ、後でしばく。
「そ、それよりその手紙はいつ頃ネェさんに届くんすか!?」
自分に分が悪いと感じたクソ蛇が問いかけると、少し考えながら答える。
「んー多分数時間後には届いてるんじゃないかな?」
「はぁ!?んなわけねぇだろ!ここから王都まで馬車で数日はかかるんだぞ!?」
「?馬車で行けばの話でしょ?」
何言ってんだこの女。
ついに頭がおかしくなったか。
思わず哀れみの視線を送ると心外そうに頬を膨らませ、オレに言い放った。
「だってエミリーのお爺様には馬車は必要ないもの!!」
なんか思い出したらムカついてきた。
気を紛らわせるため、後ろをついてきているクソ蛇の頭を思いっきり叩く。
「痛いっすよ!何するんすか!」
「あのクソアマの言葉を思い返したら腹が立った。」
「とんだ八つ当たりじゃないっすか…。まぁ目が覚めたっすけど。」
「良かったじゃねぇか。」
あのジジイに馬車は必要ないとは、どういう意味なのだろうか。
只者ではないと感じてはいるものの、仕組みが全く分からず苛立ちが募る一方だ。
思わず舌打ちをするとオレが何を考えているのか察したのか、隣に駆け寄ってきたクソ蛇は珍しく真剣な表情で言葉を発する。
「旦那ならもう気づいてると思うっすけど、あのお爺様とやら……とんでもない化け物っすよ。」
「なんか感じるのか。」
「この間のあの緑っ子に文句を言いに行った時に、とんでもない殺気を当てられたっす。一応オレは上級魔物っすけど、危うく心臓が止まりかけるくらいの威力っす。下級魔物ならアレだけであの世行きっすね。」
「…お前上級魔物だったのか。」
「そこに反応しないでほしかったっす。なーんか妖精と同じような雰囲気で、オレは好きにはなれないっすね。相容れない存在って感じっす。」
その時の感覚を思い出したのか、身震いする蛇の姿を横目で見ながら考える。
魔物の本能的に相容れないと感じるのであれば、アイツにとっては無害のはずだ。
特に害をなさないなら排除する必要もない。
ないのだが。
「確かにオレもあのジジイは好かねぇな。どうせ腹ん中真っ黒だろアイツ。」
「お、やっぱり旦那もそう思うっすか!?流石っす!」
シラタマと同じような感情をあのジジイに抱いてしまうのは、何故だろうか。
ただその疑問の答えを見つけてしまうと戻れなくなる気がして、とりあえずはクソ真面目な騎士の元へと歩みを進めた。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
少し長くなりましたので話を分けることになりました。
視点がコロコロ変わるのも残りわずかですが…次回も居残り組視点にてお送りします!笑