転生者は、想いを受け取る
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ここ数日で随分見慣れたランちゃんの研究室を無心で叩く。
その音を聞いたランちゃんがお茶を飲みながら扉を開け、私に向けてお茶を思いっきり吹きかけた。
「ちょっと!どうしたのよレイ!その顔はなに!?」
両親が連れ去られたことによる精神的ショックにて、おかげさまで脳みそはショート寸前。
前世も含めて約30年、こんなことは一度もなかった私にとって耐えられるはずもなく。
「気持ち悪い……」
「ちょっ、ちょっと!!」
立っていることが難しくなるほどのめまいに襲われる。
先ほどまでは弱みを見せまいと気丈に振る舞ってみせるようにしていたが、もう限界だった。
震えだす全身を抱え込むようにしゃがむ私を、ランちゃんは急いで抱き抱えて研究室の中へと入る。
「一体なにがあったのよ?今日は検査結果が分かるんじゃなかったの?そんなに悪かったの?」
「うう……ランちゃん……」
「あぁ辛いのね。ごめんなさい。無理して返事しなくていいわ。ほら、少し横になりなさい。」
背中を一定のリズムで撫で、そして部屋の奥にある休憩スペースの布団にゆっくりと降ろされた。
「どう?水とか飲めそう?」
もはや言葉を発することもできず、ゆっくりと首を横に振る。
心配そうに私の額に手を当てたランちゃんは一度顔をしかめ、おもむろに立ち上がる。
「やだ、熱があるじゃない!身体冷やすものを持ってくるわ!」
その言葉からランちゃんまで居なくなってしまうかもしれないという恐怖が勝り、思わず白衣の裾にしがみつく。
無言で見つめてくる少女に何を思ったのか、私の震える手を取りゆっくりと布団に寝かせて呟いた。
「大丈夫よ。レイの親友の妖精たちが守ってくれるわ。あ、そうよ!この部屋に妖精を放しておくから、待ってる間はそれを見て癒されてなさい。」
そう言って数日前に見たカゴを机の上に置き、ランちゃんは研究室へと戻っていった。
静かな室内。
当然妖精の姿は見えない。
脳内には先ほどの光景が何度も繰り返されており、正直それどころではなかった。
心身ともに限界を迎え、鉛のように重くなった四肢は脱力して動けない。
『レイちゃん……』
心配そうに声をかけてくれるこの子達にも、笑顔を見せる余裕なんてなかった。
もう何も考えず、深い眠りにつけたらどんなにいいことか。
そんな一心で瞼を強く閉じていると、耳元から妖精とは違った音色が聞こえてくる。
「こんにちは。レイちゃん。」
その声に導かれるようにゆっくりと目を開けてみると、ぼんやりとした視界の中に1人の青年が私の顔を覗き込むようにしゃがみ込んでいた。
よく目を凝らしてみると次第にクリアになる視界。
その青年はキラキラと妖精の粉をまぶしたように光る金髪に、黄金のように輝く金色の瞳を持つイケメンである。
はてさてこんな人物と知り合いだったかとぼんやりと思っていると、私を安心させるように柔らかく微笑んだ。
「レイちゃんと会うのははじめましてだね。僕はしがない郵便屋さんだよ。…なんでレイちゃんのことを知っているのかという質問には答えられないんだ。ごめんね。」
私の考えていることが分かっているかのように話し続ける郵便屋さん。
未だぼんやりとする私の額に、郵便屋さんが二つの封筒を乗っけてきた。
「レイちゃんの帰りを待つ2人の幼いご友人からのラブレターさ。読むかい?」
私の帰りを待つご友人?
その言葉に、少し興味が湧いた。
その2つの封筒を額に押し付けながらゆっくりと身体を起こすと、「モブちゃんへ♡」と書いてある可愛らしい文字に目を引かれる。
目の前に郵便屋さんがいることを忘れおもむろにその封筒を開けると、なんとびっくり。
エミリーちゃんからのお手紙だった。
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モブちゃんへ♡
モブちゃん、元気?
エミリーは元気だよ!
村を離れて1週間だけど、王都はどう?楽しんでる?美味しい食べ物とか見つけた?
こっちはモブちゃんがいないから、なんにも楽しいことが起こらなくてつまらない!
大きな街もステキかもしれないけど、絶対帰ってきてね!!
でもエミリーが大きくなってから王都に行くことになったら、モブちゃんに連れて行ってもらうつもりだからね!隅々まで観光しといて!それがモブちゃんのお仕事!
お土産話待ってるよー!じゃあね!
エミリー
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(ふふ、エミリーちゃん可愛いなぁ。)
きっとあの可愛らしい笑顔を見せながら、この手紙を書いてくれたのだろう。
私を思って書いてくれるなんて、なんて幸せ者なのか。
さっきまで完全にブルーだった気分が幾分か軽くなり、少し頬が緩む。
その様子を見た郵便屋さんはおもむろに白紙の紙を取り出し、ペンとともに私に差し出した。
「返事でも書くかい?気が紛れるんじゃないかな。」
差し出された紙を受け取ると、気持ちの赴くままにスラスラと書き連ねる。
気づけば3枚のお手紙となってしまった。
かなりの長文だけど読んでくれるかな。
「はい、じゃあ預かるね。」
郵便屋さんの言葉に頷き、彼の手のひらにエミリーちゃん宛てのお手紙を置く。
郵便屋さんはにこりと微笑み、少し古びている上着のポケットに入れると私にもう1つの手紙を読むように促した。
言われるがままもう1つの封筒に視線を向ける。
やけにしわくちゃで宛名も書いていない。
本当に私宛てなのかと心配になるが、封を切って中の手紙を取り出す。
その文面を見て、私は思わず声を漏らした。
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おいクソモブ、暇だからって毎日昼過ぎまで寝てねぇだろうな?
診断は真面目に受けろ。
そのために行ってんだから。
それとどうしても病院以外のところに行かなきゃならねぇ時は、大通りだけ使え。
狭い裏通りとか通ったら本気で張り倒すからな。
約束、覚えてるだろ?
アルフレッド
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「アル………」
あのアルが手紙を書いてくれるなんて。
短い文面ながらもいかにも彼らしい内容に微笑むと、何故か2枚目があることに気づく。
1枚目に名前まで書いて完結してあるのに、その後になにが続くのだろうか。
特に深くは考えず何気なしに2枚目を確認すると、ところどころ付いている赤いシミは置いておくにしてもその文面に思わず目を見開いた。
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会いたい
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ポロポロと自分の瞳から大粒の涙が流れ落ちる。
なんだよ、私の幼馴染可愛すぎだろう。
帰ったら絶対頭を撫でくりまわしてやる。
私は彼と約束したのだ。
寄り道せず出来るだけ早く帰ると、そう約束した。
魔王軍幹部のダニーだかバニーだかが邪魔してこようが知ったことではない。
本心で書いてくれた想いに、答えなければ。
その思いを胸に郵便屋さんに目を向けると、ニコニコとした笑顔で問いかけてくる。
「返事を書くかい?」
またもや差し出された用紙を手に取り、涙も拭わず簡潔に気持ちを吐き出して郵便屋さんに渡す。
「これを、渡してください。」
私の思いを感じたのか、郵便屋さんは大きく頷き恭しく一礼する。
その姿はまるで騎士のように気高く儚く、美しい。
眩しいものを見ているかのような錯覚に、一度目を瞑る。
そして再び目を開ければ、そこにはもう誰もいなかった。