転生者は、怒る
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今回は連続して王都視点でお送りします。
アルの出番はしばしお待ちを!
「……。」
「ねーなんで黙るの?ボクを無視するわけ?」
「ちょっと待って、今考えてるから。」
ペチペチと頬を叩かれているがそれどころではない。
この世界に生まれてきてから、最も脳を酷使している自覚がある。
さてこの状況はどういうことなのか。
ワンダさんという女性と知り合いかと言われれば、もちろん答えはイエスだ。
嘘をつく必要性も感じない。
だが彼女を収集の魔女と呼ぶことに警戒心を抱くのは、至極当然のことだと思う。
収集の魔女はご存知の通り、超有名人だ。
もちろんよろしくない意味の方で。
大犯罪者リストに名前が載るくらいだし、一般的に考えて…その魔女と会ったことがあるというとなかなか面倒なことになりそうである。
どうしたものかと首を傾げると、痺れを切らした少年は再度私に顔を近づけた。
「もうその態度からほとんど確信してるけど、言い方を変えてあげる。キミは、収集の魔女の愛弟子でしょ?」
はいアウトー。
もうそれ認めちゃったら、犯罪者の一味として告発されても仕方がない案件。
その言葉を否定しようと口を開けるが、ふと思う。
彼女の指導があって両親もアルのおじさんも救えたようなものだ。
保身のために彼女との関わりを否定することが、果たしてできるのか。
「ねー、どうなの。」
あ、なんか寂しい。
なるほど、私は結構ワンダさんが好きらしい。
(もういいや、正直に生きよう)
正直者が得をする世界であることを信じて(決して考えるのが面倒になったわけではない)、少年の瞳から逸らさずに言葉を紡いだ。
「正確に言うと、元・弟子かな。しかも全然優秀じゃない方の。全然会えてないから破門されたんじゃないかな。」
「へぇ?……まぁ、嘘をついているわけじゃなさそうだね。そこは評価してあげるよ。じゃあ」
「へいへいちょっと、そっちだけが質問するのはずるいんじゃない?」
私の言葉に驚きと疑心を含めた視線を向ける少年。
「友好関係を築く意味でも交互に質問していこうよ。私の両親が帰ってくるまでの遊びみたいな感じで。」
「は?なんでキミと友好関係を築かないといけないの?ボクを前にしてるのに命知らずだね。」
「キミのこと知らないから命知らずとか言われても正直ピンとこない。じゃあ私の番ね。」
不服そうに眉を寄せる少年を放っておき、優先順位を考える。
なんでワンダさんのことを聞いてくるのかも気になるし……あれ?そもそもこの少年って何者?
散々もったいぶってドヤ顔で問いかける。
「キミの名前は?」
「えー嘘でしょ?散々考えてそんなこと?」
「ちょっとドキドキしたでしょ。理由としては名前分からないと不便だと気づいたからです。」
「ふーん……。」
納得いかないように目を細めた少年が、口を開こうとすると途端に目つきが鋭くなる。
あたりをしきりに見回し、彼を纏う雰囲気が先ほどまでとは桁違いに物騒だ。
やばい漏らしそう。
え?そんなに?個人情報教えたくない感じ?
態度が急変した様子にガタガタと怯えていると、私の様子に気がついた少年がため息を吐いた。
「人類の底辺に位置するキミにこんな警戒するわけないでしょ?自惚れすぎだよ。」
「容赦ないな本当に!!それなら尚更やめてよ!怖くて漏らしそう!!」
「あーはいはい。」
私の必死の訴えにおざなりに答えながら、ある一点を見つめる。
そして一度手を叩くと私に向かってこう言い放った。
「邪魔者が来たから一度解散。まだ聞きたいことがあるから、深夜の12時に旧ギルド本拠地に集合ね。」
「いや無理無理。深夜とか寝てるし…それに私たちはそろそろ村に帰らないと。」
「ああ、それなら大丈夫。キミのご両親はボクが捕まえたから。」
なんともないように言い放つその言葉に、全身の筋肉が強張る。
額から冷や汗が流れ落ちるが、拭うことすら出来ない。
「今なんて……」
「逃げてもいいけど、その場合キミの両親を魔物の餌にするから。あ、あとその外にいるヤツは連れてこないこと。必ず1人で来なよ。じゃあ深夜の12時、旧ギルド本拠地だから忘れないで。」
それってつまり、人質ってこと?
呆然とする私に背を向けて歩き出す少年は、思い出したように振り返りニヤつく口元を袖で隠す。
その様子とあの雷が鳴り響く部屋の中、ソファに座っていた少年の姿が完全に一致する。
「ボクは魔王軍幹部のダニエル。特別にダニーって呼んでいいよ。」
パチンと指を鳴らす音が聞こえると、少年……いやダニーは忽然と姿を消した。
どうしたらいいのか分からず放心したまま立ち尽くす私を、すれ違う人全員が横目で訝しげに見る。
5歳児の小さな身体全体が心臓になったかのようにドクドクと波打つ。
そうだ、2人は!?
突然動き出した少女を見た数人が悲鳴をあげるが、知ったことではない。
目の前にある扉を思いっきり開ける。
「待たせてごめんねレイちゃん。」
「さぁお家に帰ろう!僕の天使!!」
そうにこやかに笑ってくれるであろう両親の姿は、そこにはなかった。
私を静かに見つめるヒューズ先生が1人、ただ椅子に座っているだけ。
拳を握りしめてヒューズ先生に問いかける。
「お父さんとお母さんは?」
「………アイツから聞いただろう。2人ともここにはもういない。」
「どこにいるの。」
「旧ギルド本拠地だ。大丈夫、死んでない。」
「やってくれたね先生。」
両親からの信頼を裏切りやがってこのクソ野郎。その無駄に黒い肌を脱色してやろうか。
どこぞの赤髪幼馴染から習得した暴言を心のうちで吐き出す。
そしてそれと同時に王都に来た初日に感じた警告の意味を、私は今更ながらに思い出した。
ああ、クソ野郎は私もか。
私の様子を見てサングラスを外した先生は、なんの感情も感じさせない虚の目をしていた。
「愛する家族を人質にするのはアイツの常套手段なんだ。だから分かる。お嬢ちゃんがダニエルの言うことを聞けば、エドワードたちには手を出さない。」
「それ、信じると思ってるんですか。」
「キミも分かっているはずだよ。アイツの狙いはキミだけだ。」
この人と話をしていてもなにも変わらない。
先生に背を向け外に出ようとすると、私を呼び止め数日前にランちゃんから奪い取ったMPポーショングレネードを私に渡す。
「すまない。」
彼の虚ろな目に、悲しみと絶望が混じりあいながら顔を出す。
そんな表情をされると、これ以上なにも言えないじゃないか。
「……迎えに行ってきます。帰って来たときにその言葉を私の両親に言ってください。」
そのままポーションをポシェットに入れて、今度こそ背を向けた。