お爺様には、会いたくない?
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どんどんと進んで早くアルとレイちゃんを再開させたい今日この頃。
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ふと窓の外に目をやると、灰色の髪の青年がこちらに向かって歩いてきているのが見える。
彼は確か、エミリーの護衛の騎士殿だ。
楽しそうにお菓子を頬張るエミリーの肩をたたき窓の外を指差すと、面倒くさそうに顔をしかめた。
「なんでクラウスが?」
「騎士殿からなにか話があるんじゃろう。会いに行ってあげなさい。」
「えー……仕方ないなぁ……」
渋々といった様子で外に出ようと準備するエミリーに苦笑する。
その私の顔を見たエミリーは、思いついたようにある提案をした。
「ねぇ!せっかくだからクラウスに家にあがってもらおうよ!そしたらお爺様もお話しできるよ?」
「ワシも?」
「だってクラウスに会ったことないでしょう?」
「うーん……」
ヒゲを梳かしながらどう誤魔化そうか思考する。
しかし聡いエミリーは、私の様子から会う気がないことを察したようだ。
「なんで会わないの?」
「正確には会わないんじゃなくて会えないんじゃよ。それに騎士殿はここには入れないんじゃないかな。」
「??どういうこと?」
ちょうどいいタイミングで自宅の門がノックされる。
エミリーの背中を押して出るように仕向けると、彼女は不服そうな顔で振り向いた。
「意味分からないよお爺様!!」
「はっはっは。いずれ分かる時がくるさ。いってらっしゃいエミリー。」
「もうお爺様はそればっかり!!」
怒って頬を膨らませる可愛いエミリーの頭を撫でて、静かに彼女を見送る。
騎士殿とともに微かに感じる懐かしい気配に痛む胸を押さえながら、エミリーが食べたお菓子類を片付けるべく立ち上がった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なにしにきたのクラウス。」
エミリー様が頬を膨らませた状態で門を開ける。
その表情から察するに、お菓子時間だったのかもしれない。
タイミングが悪かったと反省しながらも、本題に入るため言葉を続ける。
「申し訳ありません。先程、アルフレッド少年が1人でエミリー様のご自宅のほうから歩いてくる姿を目撃したものですから。」
部下から報告を受けエミリー様と少年を探していると、険しい表情で頭を掻き毟りながらこちらへ歩いてくる少年とすれ違った。
いつもなら声をかければ。
「うるせぇ!!話しかけんなクソ真面目が!死ね!!」
というような元気な返しをしてくれるのだが、今回は無言で通り過ぎた。
恐らくあの感じだと私が居たことすら気づいていないだろう。
警戒心が強い彼にしては、大変珍しいことだった。
私の意図する内容を悟ったのか、エミリー様はいたずらっ子のように笑って言葉を続ける。
「ああ!番犬くんね!うん、さっき来たよ!モブちゃんにお手紙書くから誘ったの!」
「彼が?モブロード嬢に文を?」
「そう!明後日の朝に番犬くんから回収したら、お爺様が王都に届けに行ってくれるんだ!」
「そうでしたか……その割には随分と険しい顔でしたが…」
「ふふん!思いつかないんだって!笑っちゃうよねー!…あ、そうだ!!クラウスも書く?多分お手紙の用紙まだあるから!ね?家の中に入る?」
お優しいエミリー様は家を指差して私に問いかけてくる。
実に魅力的なお誘いだが、緩やかに首を振る。
「いえ、私は結構です。」
「えーー!ねぇなんで!?お爺様もそう言ってたけど!」
「お爺様もですか……。なんでと言われますと……そうですね…」
腰に下げた聖剣に触れて、そびえ立つ洋館を見上げる。
エミリー様が暮らすこの洋館には、彼女がお爺様と慕う人物も暮らしている。
残念ながら一度もお会いしたことはない。
恐らく、これからもないだろう。
カタカタと小さく震える相棒に目を細め、苦笑を浮かべた。
「コイツが悲しむところは見たくはありませんので。」
「?聖剣くんが?なんで?」
「よくは分かりません。ですが、ここに来ると毎回泣いているように小刻みに震えるんですよ。」
「えー!?どうしてなの聖剣くん!お爺様に会いたくないの?」
怒ったように腰に手を当てて、聖剣エクスカリバーに問いかけるエミリー様。
一切反応しない聖剣につまらなそうに頬を膨らませる。
すると私の後ろからある人物……いやある魔物の声が聞こえてきた。
「そのお爺様とやらに会いたくない気持ちには賛同するっすよ。」
「あ、色白くんだ。」
「さっきぶりっすね。あとオレはイロジロじゃなくってシラタマっす。」
エミリー様を威嚇するように鋭く睨みつける白玉から隠すように、2人の間に割り込む。
「1人なのか?主人はどうした。」
「その件について文句言いにきたっす!アンタ達が旦那を悩ませたせいで、頭から出血して寝込んでるんすよ!!あの旦那が!」
イライラしたように地団駄を踏み、エミリー様に向けて指差す。
彼の発言に、私は驚きを隠せなかった。
「彼が出血だと?」
「うっそー!?なんでー!?」
「よく分からないっすけど気づいたら机に頭ぶつけてたっす!責任とって欲しいっすよ!」
睨みつけるように洋館を眺め、大きな舌打ちをかます。そのまま視線をエミリー様の方へ向けると、苛立ちを隠そうとせず腕を組んだままエミリー様へと問いかける。
「で?回収した手紙はそのお爺様とやらが届けるとか言ってたっすね。」
「あ、盗み聞きしてたんだ。うんそうだよ!大丈夫!お爺様は嘘ついたことないから安心して!」
「そういうこと言ってるんじゃないっすよ!」
もう一度エミリー様に指を指す。
「今回は旦那も血を流すほど一生懸命考えてるんで邪魔はしないっす。そのお爺様とやらがネェさんに届けに行くのもオレ達は行けないんで、まぁ認めてやるっす。ただ!」
一度大きく息を吸い込むと、魔物らしいギラギラとした瞳で警告を促した。
「今後、旦那とネェさんに茶々を入れるようであれば容赦しないっすよ。オレはオレのやり方で、命を懸けて、あの人たちをお守りするっす。たとえ首だけになってもアンタを噛み殺すことなんて簡単っすからね。よく覚えておくことっす。」
不穏な雰囲気に聖剣に手を掛けるが、鋭い視線を洋館から感じて息を殺す。
白玉は白玉で、冷や汗を流しながらその視線と対峙しているようだった。
「おーおー……アンタも旦那とはまた違った化け物っすね。……一生会わないことを祈ってるっす。」
そう言い放つと踵を返し、姿を消した。