転生者がいない、その裏側
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「え、本当なの?クラウス兄さん。」
手元にある魔法石から久方に聞く声が聞こえる。
無造作に口の中に菓子を放り込みながら、相手に返事をする。
「お前が今働いている場所は王都病院だったよな。なら近いうちにレイ・モブロードとその両親がそちらに顔を出すはずだ。」
「と言われても…そんなに重要人物なの?」
「娘のレイ・モブロードは最重要人物だ。エミリー様のご友人でもある。………彼女の動向には特に目を向けていてほしい。なにかあれば国が滅ぶくらいの大事件になると思ってくれて構わない。」
「えー………どういうこと?兄さんの手伝いはしたいけど、すごく会いたくない。」
「そういうな。お前とはきっと仲良くなれる。」
「兄さんがつきっきりのあの生まれ変わり女の友人なんて、関わりたくもないわよ。」
渋った声でなかなか了承の返事をしない相手に苦笑しながら茶を飲むと、部屋のドアがノックされる音がした。
「クラウスいるか……っ取り込み中か?」
「ああ気にするな、リチャード。少し連絡していただけだ。」
「え?リチャードさん?そこにいるの?キャー!かわってかわって!」
手元に出していた魔法石をリチャードに向かって投げる。
彼は片手でそれをキャッチして、少し戸惑ったように言葉を発する。
「ひ、久しいな。どうだ?元気にやってるか?」
「元気よ元気!もう兄さんもリチャードさんも王都にいないからワタシ寂しくって!もう5、6年会えてないのよ?どう?兄さんに変な女とか出来てない?大丈夫?」
「君のお兄さんは真面目だからな、こっちが心配になるほど仕事しかしてないさ。君はその、相変わらずクラウスにベッタリだな。」
「当たり前でしょう?兄さんが世界一カッコいいし、大好き!」
「そう言ってくれる割に、モブロード嬢の動向報告は手伝ってくれないのか。」
私の声を聞いて、ありえないとばかりにふんっと鼻で笑う。
「誰が好き好んで女の動向なんて調べるのよ。ワタシの顔を見てキャーキャー言ってきてうざったいったらないわ!ワタシはカッコいいじゃなくて、可愛いって言われたいの!しかもワタシの本性が分かった瞬間失望したとか言い出すし、勝手に期待してんじゃないわよって感じよ!」
ヒートアップしたように叫ぶせいで魔法石が悲鳴を上げている。
石を持っているリチャードは耳元から鳴り響く音に顔をしかめている。
……配慮が足りなかったか。
「すまない。やなことを思い出させたな。」
息を吐くような音が聞こえると、場を和ませるように明るい声で言葉を続けた。
「……ごめんなさい!兄さんのせいじゃないわ。大丈夫!そのモブロードとかいう女の子を見つけたら上手くやる!」
「…すまない。」
「兄さんったら謝ってばっかりね。そろそろ行かなくちゃ。この測定室もずっと占領できるわけじゃないし。じゃあね!」
ブツッと音が途切れるとしばしの沈黙。
(疲れた…)
「意外だったよ。まさか連絡をとっているとは。」
リチャードが苦笑いで近づいてきて、私の横に腰掛ける。
「協力してくれる人間が他に思いつかなかったんだ。…なぜか私は王都の騎士団には嫌われているからな。」
「あ、ああ。なるほどな。」
眉間を抑え深くため息を吐くと、先程から人の気配がする扉に向かって声をかける。
「それで?さっきからそこにいるのは誰だ。」
「す、すみません!」
焦ったように扉を開けて私に敬礼する男は、今日村の巡回を任せていた兵士の1人だ。
「何かあったのか?」
「じ、実は…あの少年とエミリー様が騒ぎを起こしておりまして…。」
「騒ぎ?」
「鬼ごっこと言えばそれまでなのですが、少年がエミリー様に爆撃魔法を使っており…止めようとした兵士数名に負傷者が。」
「容赦ないな。」
「情けないことではありますが我々では収めることができず、そのままエミリー様のご自宅の方へ。」
「……わかった。私が向かおう。」
申し訳ありません。と頭を下げる兵士の肩を数回叩き、腰の剣を再度確認してドアノブに手をかける。
「リチャード、あとは頼むぞ。」
「おう。少年はかなり気が立ってるからな、死ぬなよ。」
その返事に一度頷くと、気合いを入れるように大きな音を立てて扉を閉めた。
「隊長、ずっと働き詰めですよね…。せっかくの妹さんとの会話をお邪魔してしまったようで、自分が不甲斐ないです。」
「いや、もしかしたらいい気分転換になるかもしれないぞ。あんまり気にするな。」
クラウスが置いていった菓子を兵士に渡して、自分も深く腰をかける。
そしてお茶を飲みながら、ふと気がついたことを指摘した。
「ちなみに…クラウスには妹はいないぞ。」
「え?で、でもさっき兄さんって言われてませんでしたか?」
「ああ。確かにアイツは兄だがいるのは妹じゃない。
……………弟だ。」
「ええええええ!?!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「はーいお疲れさま!番犬くん!」
大きな門がそびえ立つ洋館の前に、腹立つ顔でこちらを見る女に舌打ちをする。
「テメェいい加減にしろよ…!散々逃げ回りやがって!!!」
「ここが目的地、エミリーの家でーす!」
「答えになってねぇよクソアマが!!いいからさっさとなにを企んでるのか言いやがれ!!」
話を全く聞かないエセ聖女を思いっきり睨みつけるが、まるで効果はない。
オレを完全に無視して意気揚々と門を開けると、さっきまで人の気配などしなかったのに髭がやたら長いジジイがこちらを見ていた。
「ただいまお爺様!連れてきたよ!」
「お帰りエミリー。そしてようこそ、番犬くんや。」
弾丸のように突撃していくイノシシ女を軽々と受け止め、頭を撫でている姿を見て本能的に察する。
あの痩せた身体で決してよろけない体幹。
隠しきれない微量の魔力の流れ。
その魔力につられるように妖精がジジイの周りをくるくると飛び回るが、慣れたようにあしらっている。
モブのせいで普通のような感覚だったが、そもそも妖精は気に入った人間にしか近寄らない。
そして妖精が気に入った奴は、英雄だったり大賢者だったりと大抵何かあるものだ。
つまり、コイツも例外ではないはず。
「はっはっは。そんなに警戒する必要はないぞ?ワシは、ただの老いぼれじゃよ。」
「ふざけてんのか?それで誤魔化せると思ってんならオレを舐めすぎだ。」
「おー怖いのぉ。まぁ詳しい話は中でどうじゃ?エミリーの友人であるレイちゃんとやらの話を聞かせておくれ。」
思わずこめかみがピクっと痙攣する。
アイツに会ったこともねぇくせに、随分と馴れ馴れしいじゃねぇか。
「勝手にアイツの名前を呼ぶんじゃねぇよクソジジイ。その髭全部刈り取るぞ。」
「はっはっは。それは勘弁しておくれ。」
「ね?面白いでしょお爺様!」
ムカつく野郎がもう1人増えたことでさらに腹が立ってきた。
だがこの男の正体も気になるし、今更引き返すのも癪に触る。
それにコイツはモブの件で一肌脱ぐと言っていたようだ。
一体なにを考えているのか。
アイツに変なふっかけをするつもりなら…。
(その前に、全力で叩き潰す。)
例えそれが膨大な魔力を中途半端に隠す、調子に乗った正体不明のクソジジイだとしても。
「さぁ、これ以上ここにいると招かれざる客も到着してしまう。…どうする?アルフレッドくん。」
約一年前に牙を剥いてきた蛇の時よりも、数倍気合いを入れて門をくぐった。